ヤマメ
ヤマメ(学名:Oncorhynchus masou、山女魚、山女)は、サケ目サケ科に属する魚であるサクラマスのうち、降海せずに、一生を河川で過ごす河川残留型(陸封型)の個体のこと[1]。北海道から九州までの川の上流などの冷水域に生息する。
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概要
ヤマメは、北海道、東北地方の一部では「ヤマベ」とも呼ばれる。また、九州の一部の地域(福岡県、熊本県、大分県など)ではヤマメとアマゴを総称して「エノハ」とも言う[2]。2年魚でも全長は20cm程にしかならないが、ダム湖などに下り再び遡上してくるものは40cmに達するものもいる。秋期に河川上流域のおもに本流の砂礫質の河川に産卵床を形成し1腹200粒ほどの産卵をする[3]ので、保護を目的として漁協や県などの自治体などが管理する河川では10月から4月頃までが禁漁期間となっている。新潟県での回帰率は、0.03%と推定されている[4]。
分布
天然での分布域は本州の関東以北の太平洋岸と日本海側全域、九州の一部に分布し、アマゴと分布が分かれていたが、近年盛んになった放流により分布が乱れている。体側には青色のパーマークが並び、全長40cm位まで成長する。神奈川県は、太平洋岸の天然ヤマメの南限とされている。静岡県はアマゴの分布域といわれ、一部の地域では、混在しているものと考えられている。ヤマメ域にアマゴ、アマゴ域にヤマメにが放流され、両者は容易に交配してしまい神奈川県や山梨県内ではヤマメとアマゴの中間的な魚も発見されており[5]、分布域は曖昧になりつつある。
宮崎県と熊本県にまたがる沢には、「昔からヤマメが生息していた」との、地元養魚業者の話もある。地元では、他県産放流種との混種を避けるため、地域住民が漁協の放流を許さず、今に至っている。確かにそこの源流域には、明らかに下流とは別種と思われるヤマメが存在する。
文献には厳密な境は出てきていないが、放流が始まる前までは神奈川県の相模川水系にはヤマメが生息しており、神奈川県平塚市に流れている花水川水系にはアマゴが生息していた。この位置がアマゴとヤマメの生息域を分けていたとされる。
特徴
体の側面に上下に長い「木の葉・小判状」の斑紋模様(パーマーク)があるのが特徴で、成長とともに次第に薄くなり、30-40cmクラスになると一般には、サクラマスのような銀色に近い魚体となるが、熊本県の沢においては大型ながら、紅みを残した魚体(通称・紅ヤマメ)が地元の釣り人に確認されている。また下北半島の大畑川にはスギノコと呼ばれる普通のヤマメと比較すると、体色が濃くて青緑色を帯びており、パーマークがやや小さいヤマメが生息している。通常ヤマメはイワナよりやや下流に生息するとされるがスギノコはイワナよりも上流に生息している[6]。生息上限温度は24℃で、24℃で餌を食べなくなり26℃で死亡する[7]。
繁殖期になると、体全体が黒っぽくなり、また薄い桃色から濃い紅色までの婚姻色が体側からヒレなどに不定形に表れる。降海型個体は産卵活動を行うと死亡するが、河川残留型個体は死亡せず翌年2回目の産卵を行う[8]。
イワナと同様現在一般に各地で見られるヤマメは、その多くが養魚繁殖魚を放流したものであり、これがその地域に本来生息していた個体と混血し、純粋な地域型個体が残っている河川はかなり少ないと考えられている。また、ヤマメの生息域にアマゴ、あるいはアマゴの生息域にヤマメが放流されたためにヤマメとアマゴが置き換わってしまったりヤマメとアマゴが交雑しアマゴとヤマメの中間的な魚が生まれ雑種が生息している地域があり問題となっている。
また、本来イワナとヤマメはイワナがヤマメより上流に、ヤマメがイワナより下流に棲むと生物学の棲み分けでも一例として紹介されているが、近年は堤等により生息場所や産卵場所が限れたり、イワナ域とヤマメ域関係なく両者を放流するなどが原因とみられるイワナとヤマメの交雑個体「カワサバ」がみられる。
カワシンジュガイの幼生がエラやヒレに付き移動する。
ヤマメの亜種
- サクラマス・ヤマメ
- 学名 O. masou masou 降海型:サクラマス、河川残留型(陸封型):ヤマメ
- サクラマスはヤマメの降海型で最大で全長 70 cm、10 kg になる。一方でサクラマスの河川残留型であるヤマメは 30 cm 程度まで。オホーツク海、日本海、日本北部と朝鮮半島東岸に分布。
- サツキマス・アマゴ
- 学名 Oncorhynchus masou ishikawae 降海型:サツキマス、河川残留型(陸封型):アマゴ
- サツキマスはサクラマスに似るが体長は40cm 程度でサクラマスより小さい。 河川残留型はアマゴ。神奈川県西部以西本州太平洋岸、四国、九州の一部以前はヤマメと分布が分かれていたが、近年盛んになった放流により分布が乱れ、混在や交雑しているところがある。神奈川県西部はアマゴの分布の東限といわれている。ヤマメとの違いは、側線の上下から背部にかけて朱点が散在することである。
- ビワマス
- 学名 Oncorhynchus masou rhodurus
- 琵琶湖固有種。栃木県中禅寺湖、神奈川県芦ノ湖、長野県木崎湖にも移植。河川残留型も報告されているが、ほとんどが琵琶湖に降りる。
- 幼魚はアマゴ、成魚はサツキマス、サクラマスによく似ており、以前はアマゴの降湖型だと考えられていたが、現在では別亜種とされている。亜種名は決定されていない。アマゴ、ヤマメに比べて眼が大きく、顔が優しく見える。体側の朱点は全長20cmになると消失する。9月-11月に産卵のため琵琶湖より流入河川に遡上する。約10万年の陸封期間により、海水耐性が失われている。
交雑種
- ホンマス
- 学名
- 中禅寺湖に放流されたビワマスかサツキマス(アマゴ)とサクラマス(ヤマメ)が自然交雑したものと考えられている。小型の魚はヤマメ・アマゴに似ており体側に朱点を持つものと朱点を持たないものがおり大型魚はサクラマスに似た固体とビワマスに似た個体がいることからサクラマスとビワマスの交配種の可能性が高い。中禅寺湖 や湯の湖に生息しているほか木崎湖にもキザキマスと呼ばれているホンマスに似た魚が生息している。
- カワサバ
- イワナとヤマメの繁殖力の無い一代交雑種[10]でイワメの俗称もある[11]。ヤマメの特徴であるパーマークがあるが、背中の斑点がイワナの特徴である流れる傾向がみられ斑紋が海の魚のサバのように見える事からカワサバと呼ばれるようになった。模様の出現状態は個体により異なる。繁殖能力は無いとする研究[12]と有るとする研究[13]がある。「ヤマメやイワナより寿命が長い」[14]「温度耐性試験の結果両親のイワナ・ヤマメよりも高温に強い」などの特徴を持つとする研究結果がある[12]。自然河川では産卵床形成位置の違い[15]や「生息適水温の違いと産卵時期の違い(イワナ 11-12月、ヤマメ - 9-10月)により産卵場所が分けられ交雑することは少ない」とされているが、ヤマメの生息域拡大や天候の影響や個体差で希に産卵時期が重なることがあり、交雑が生じている。また、河川増水により生息域が交差したり[16]、イワナ域にヤマメ、ヤマメ域にイワナを放流することにより交雑することもある[17]。なお、札幌市豊平川さけ科学館では人工的にヤマメ(サクラマス)とエゾイワナ(アメマス)を交配した魚を展示している[18][19]。
料理
食べ方は、小さなものは内臓を除いてそのまま唐揚げに、酢に浸して酢漬けで、大きな物は塩で身を締めてから塩焼き、その他、癖がない味なので大抵の料理にできるが、寄生虫がいることがあるので生では食べないほうが安全。但し、海から遡上する魚がいない水域で捕獲したならば、刺身も可能。
宮崎県三股町のしゃくなげの森では、養殖したヤマメの卵を特産品として販売している。販売する卵は、その色合いから「黄金イクラ」と名づけられている。
資源保護
水域によって異なるが、イワナなどと共に産卵期間の10月から翌年2月から4月頃までを中心に、資源保護を主目的とした禁漁期間が設定されている。また、漁法(捕獲方法)と共に、捕獲可能な体長の制限がなされている場合も有る[20][21]。
遊漁
河川の漁業権を持つ漁業協同組合の指定の元、入漁が認められている。
渓流釣り
- 河川でのヤマメ、アマゴ釣りは、難易度が高い渓流釣りである。対象魚であるイワナ、ニジマスなどに比べ大変警戒心が強い。釣る際にはヤマメに人の気配を感じさせないことが大切である。なお、竿は、振り疲れないように軽めのものが良い。
- エサを使った釣法は、目印をつけたミャク釣りである。糸は、非常に細いものにし、鉤もできれば小型にしたい。近年はゼロ釣法が流行している。エサは、春先の水棲昆虫の少ない時期はイクラやブドウ虫(ブドウスカシバやハチノスツヅリガ等の蛾の幼虫)が良い。河川の増水時は、ミミズが有効。普段はできる限りカワゲラ、カゲロウ、トビケラなどの河川に生息する川虫を使用すると良い。アタリは変化に富み、微妙な上、俊敏なので目印の動きをよく見て、素早くアワセる(鉤を魚の口に掛ける)必要がある。この難しさから川釣りの中でも評価の高い釣りである。尺上(30センチ以上)のヤマメは渓流釣師の憧れである。
本流、サクラマス釣り
- ヤマメ(アマゴ)は本流(河川上流域でも下流部に位置し、川幅が50m以上あるところ)でも釣ることができる。渓流域よりもエサが豊富なため、魚は大型に育ち、40cmを超えることもある。また降海型のサクラマスが溯上する河川では、シーズンなれば狙うことができる。サクラマスは60cmにもなるため、強力な引きに耐える専用の本流竿がシマノやダイワやがまかつなどのメーカーで開発・販売されている。本流竿では大型のヤマメやニジマスなども併せて狙うことが出来る。サクラマスは河川を遡上中はほとんどエサを口にしないため、「100日通って1回掛かるかどうか」と言われているほど難易度の高い釣りである。
参考画像(主な餌)
- Achroia grisella caterpillars kleine wasmot rupsen (1).jpg
ブドウ虫の代わりに使われているメイガ科のコハチノスツヅリガ(Lesser Wax Moth)の幼虫ワックスワーム (Waxworm)
- Plecoptera.jpg
カワゲラの幼虫
- Ecdyonurus tobiironis Kurotanigawakagerou larva.jpg
クロタニガワカゲロウの幼虫
- Ikorka.jpg
イクラ。
塩蔵品を釣り餌に使用する
ヤマメを題材にした作品
- 『ピンク、ぺっこん』 ISBN 978-4198612320
- 『ピンクのいる山』 ISBN 978-4198612177
- 『ピンクとスノーじいさん』 ISBN 978-4198612450
- 『ピンク!パール!』 ISBN 978-4198612603
地方公共団体の魚
下記自治体ではヤマメを自治体の魚として指定している。
脚注
- ↑ “魚介類の名称表示等について(別表1)”. 水産庁. 2013年7月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2013閲覧.
- ↑ エノハとは?
- ↑ 小支流におけるイワナ、ヤマメ当歳魚の生息数、移動分散および成長
- ↑ 研究発表会要旨 平成15年度 - 新潟県内水面水産試験場
- ↑ - 国内移入によるかく乱 -
- ↑ スギノコ - 下北半島ガイド
- ↑ 河畔植生による水温上昇抑制効果 (PDF) - 長野県水産試験場研究報告 第8号 平成16年度
- ↑ サクラマスのライフサイクルの調節機構の解明と教材化 (PDF) - 宮城教育大学
- ↑ 亜熱帯地方における台湾大甲渓に生息するタイワンマス (Oncorhynchus masou formosanum) の現況について (PDF)
- ↑ 内水面水産試験場見学コーナー! - 話題 - わたしはだあれ? 宮城県内水面水産試験場
- ↑ 上原武則、梓川・稲核ダム下流域で得たヤマメとイワナの雑種について 長野女子短期大学研究紀要 Vol.5, 1998-01-30
- ↑ 12.0 12.1 飼育魚図鑑 - 宮城県内水面水産試験場
- ↑ 加藤憲司:多摩川上流で採集されたサケ科魚類の自然雑種 魚類学雑誌 Vol.23 (1976-1977) No.4 P225-232
- ↑ ザ!鉄腕!DASH!! 2014年12月22日放送分 - 宮城県内水面水産試験場
- ↑ ヤマメ Salmo(Oncorhynchus)matson masou(BREVOORT)とイワナ Salveliaus leucomaenis(PALLAS)の比較生態学的研究 : I.由良川上谷における産卵床の形状と立地条件 日本生態学会誌 31(3), 269-284, 1981-09-30
- ↑ 種育学的にみた魚類の交雑 日本水産学会誌 Vol.32 (1966) No.8 P677-688
- ↑ この魚は何でしょう? - 宮城県内水面水産試験場
- ↑ 『カワサバ』の展示始めました
- ↑ 札幌サケ情報ブログ- 上から5枚目と6枚目の魚
- ↑ 長野県漁業調整規則
- ↑ 富山県内の内水面におけるイワナ・ヤマメ等の採捕禁止期間 富山県庁
関連項目
外部リンク
- 日本産サケ属幼稚魚の形態と検索 (PDF) - 福井市自然史博物館
- 日本産サケ属(Oncorhynchus)魚類の形態と分布 (PDF) - 福井市自然史博物館
- 平成12年度-試験研究結果(サクラマス資源造成技術の開発) (PDF) - 岩手県水産技術センター年報
- 大島 正滿:ヤマメ及びアマゴの分布境界線に就いて 地理学評論 Vol.6 (1930) No.7 P1186-1208_2