ヤコビ恒等式
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数学におけるヤコビ恒等式(Jacobi identity)とは、二項演算に対して考えられる性質の一つ。名前はドイツの数学者カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビに由来する。
定義
集合 [math]S[/math] に二項演算 [math]*[/math] と可換かつ単位元 [math]0[/math] を持つ二項演算 [math]+[/math] が定義され、この[math](S,+,*)[/math] について、
- [math]a*(b*c) + c*(a*b) + b*(c*a) = 0\quad \forall{a,b,c}\in S.[/math]
が成立するとき、[math](S,+,*)[/math] はヤコビ恒等式を満たすという。
- [math]S[/math] が [math]+[/math] によって加法群の構造を持ち、ねじれ元を持たないとき、[math]S[/math] の元は [math]*[/math] に関して冪零である。実際上記の恒等式で a = b = c とおけばよい。
式の解釈
[math]S[/math] が [math]+[/math] によって加法群の構造を持つとしよう。このときヤコビ恒等式は
- [math]x*(b*c) = -c*(x*b) - b*(c*x)[/math]
という形で書くことができる。左辺を x に対する b * c の随伴作用と解釈すると、右辺はそれを b の作用と c の作用で逐次的に行って実現するものと解釈することができる。
例
- 三次元ベクトルにおける外積
三次元のベクトル空間における外積(クロス積)はヤコビ恒等式を満たす。
- [math]\mathbf a\times(\mathbf b\times \mathbf c) + \mathbf b\times(\mathbf c\times \mathbf a) + \mathbf c\times(\mathbf a\times \mathbf b) = \mathbf 0 [/math]
- リー環
リー環における積演算である括弧積はヤコビ恒等式を満たす。
- [math][[X,Y],Z]+[[Z,X],Y]+[[Y,Z],X]=0 \,[/math]
括弧積を随伴作用と考えれば、環上の微分におけるライプニッツ則として捉えることができる。すなわち、
- [math]\mathrm{ad}_X(Y)=[X,Y] \,[/math]
と表せば、上述のヤコビ恒等式は
- [math]\mathrm{ad}_Z([X,Y])=[\mathrm{ad}_Z(X),Y]+[X,\mathrm{ad}_Z(Y)] \,[/math]
であり、ライプニッツ則として解釈できる。
- ポアソン括弧
- [math]\{ \{ f, g \}, h \}+\{ \{ h, f \}, g \}+\{ \{ g, h \},f\}=0 \,[/math]
- 交換関係
- [math][[A,B],C]+[[B,C],A]+[[C,A],B]=0 \,[/math]