モータリゼーション
モータリゼーション (motorization) とは英語で「動力化」「自動車化」を意味する言葉で、すなわち自動車が社会と大衆に広く普及し、生活必需品化する現 象である。狭義では、自家用乗用車の普及という意味で言われることが多い。
国立国語研究所では、その「外来語」言い換え提案の中で「車社会化」という代替表現を提示している。
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概要
モータリゼーションは、国家・地域の枠において経済力・工業力が一定の水準に到達すると、急速な進展を見せることが多い。モータリゼーションの進展とGDPとの間には正の相関があり、国民の年収のおよそ1/3で自動車を購入できる水準になるとモータリゼーションが進む[1]。また所得格差を示すジニ係数が小さい程、普及率が高まるとされる[2]。
先進国では20世紀にモータリゼーションが進んだ。モータリゼーション成立の背景には共通点もあるもののアメリカ合衆国と日本など各国で成立の背景は異なっている[3]。
モータリゼーションによって自動車利用が増加し利用形態が発展・多様化することによって、都市の発展や基盤整備には大きな変革の圧力が発生する。例えば道路交通網はモータリゼーションの発生により急速な進歩が求められ、都市部は急激に拡大、周辺の衛星都市や都市間を結ぶ道路網の発達も加速させる。
また、大衆車の発達と普及は、モータリゼーション推進の上で重要な原動力となり、多大な影響を及ぼす。近年の例としては、東ドイツにおいて、ベルリンの壁崩壊前は一般大衆向けの乗用車(トラバント)が極めて入手し難い物であったため、西側経済圏で戦後の経済発展を遂げた当時の西ドイツほど交通網が大衆の自動車利用に対応していなかったところへ、東西ドイツ統合後は自動車利用が一気に拡大したことにより都市の道路整備の拡充が追いつかずに大規模な渋滞が発生するようになり、市民生活にも支障をきたしているとされている。
モータリゼーションは、都市部や過密地だけでなく、地方や過疎地の生活にも大きな変化をもたらす。高規格道路の整備が進めばより大型の輸送車両が使用可能になり、流通コスト・所要時間が大幅に変動することで、産業やそれを支える物流の形態にも大きな変化を発生させる他、人口の流入・流出も加速させ、さらには自動車産業の発達に伴う景気の上昇といった経済上の変化の発生要因ともなる。
この様な先進国の事例の他にも、現在でも多くの国でモータリゼーションが進行中である。しかし、特にモータリゼーション初期段階の国においては交通安全に寄与する社会的なインフラが、ハードウェア面(道路設備など)においてもソフトウェア面(交通マナーの普及など)においても不足していることが多く、人口当たりの交通事故の発生率が急激に上昇する傾向がある(日本でも一時期「交通戦争」が大きな社会問題となった)。また、モータリゼーション初期の国においては排出ガス対策も往々にして不十分であり、大気汚染など、都市部を中心に深刻な環境問題を引き起こすことがある。
また、自国に大規模な自動車製造メーカーがある場合には、概してモータリゼーションの進展と共に主要自動車メーカーの経営陣や自動車業界団体が財界・政界で大きな発言力を持つようになり、自動車業界の動向が国家の経済・運輸・国土整備などの成長戦略にも影響を及ぼすようになることもある。
モータリゼーションの成立
アメリカ合衆国
大量生産時代の幕開けの象徴とされるフォード社のT型(フォード・モデルT)の生産は1908年に開始された[4]。1927年の生産中止までに約1500万台が販売され、当時の馬車の数と入れ替わるほどの革命的商品であった[4]。
フォードT型はベルトコンベア式の大量生産によって安価な価格を実現し、当時のアメリカでの労働者の平均年収600ドルに対してフォードT型は850ドル(のちにさらに値下げ)で販売された[5]。また、フォードT型は農機具の修理技術があればユーザーが自身で修理できるような構造で設計された[5]。
ところがヘンリー・フォードの品質の確かな商品を安く販売するという考え方は1920年代になって行き詰った[5]。買い手の中心が買い替え客へとシフトしたため同じシンプルなスタイルのフォードT型は買い替え商品としての魅力に欠けていたためである[5]。
フォードに対抗してゼネラルモーターズ(GM)は重複する車種体系を整理するとともに、定期的なモデルチェンジによる買い替え需要の喚起を促した[6]。また、ヘンリー・フォードは自動車はお金を貯めて買うものと考えていたが、GMのアルフレッド・スローンは下取り販売や分割払いを積極的に導入し、1920年代後半にGMはフォードを抜いて世界一の自動車会社となった[6]。
1937年にはアメリカでの自動車生産台数は約400万台に達し、この頃にはアメリカでのモータリゼーションが完成したとされる[6]。
ヨーロッパ
ヨーロッパ各国でも、1930年代にはモータリゼーションが始まっていた。特にドイツのアウトバーンの整備は、ヨーロッパのモータリゼーションを一気に加速させた。
日本
日本では、1964年の東京オリンピックの直後からモータリゼーションが進んでいった。道路特定財源制度等を使った高速道路の拡張や鋪装道路の増加等の道路整備、一般大衆にも購入可能な価格の大衆車の出現、オイルショック後の自動車燃料となる石油低価格化などによって、自動車が利用しやすい環境になったことが原因であろう。
一方で鉄道の側においても、高度経済成長期後半以降は、特に国鉄において大事故が続発したこと、赤字経営のため度々運賃が値上げされる一方で、多くの既存路線の高速化が進まず、鋭い労使対立による現場の綱紀の乱れやストライキ・遵法闘争の乱発による運行の不安定化、鉄道車両・鉄道駅などにおけるサービスの軽視などによって、鉄道離れを加速させた。
自動車検査登録情報協会の資料[7]によると、2010年3月末の都道府県別の自家用乗用車1世帯あたり保有台数は、福井県が1位となり、以下富山県、群馬県、岐阜県と続いている。一方、最下位は東京都で大阪府、神奈川県と続く。
上位となった県に共通する主な要素としては、農山漁村や小規模都市など鉄道や路線バスといった公共交通機関が衰退してその利便性が低い地域が多いことが挙げられ、概してこの様な地域では、自宅や企業・事業所、小売店舗などで駐車場の付帯も進んでおり、通勤や買い物などの日常生活に自家用車が欠かせない[注釈 1]。また鉄道や路線バスはおろか、コミュニティバスですらすでに廃止された地域もあり[注釈 2]、地方における公共交通機関の衰退は著しいものがある。このような地域では、タクシー業者は存在するものの、大都市の都心部のそれと比較すると、規模が小さい、営業時間が短いという実情から日常の足として使用するには力不足である場合が多い。そのため、このような地域では、運転免許を返納した高齢者や免許を持っていない成人や未成人の場合でも上記のような実情から、身内や知人の車による送迎で通勤や買い物やレジャーを行うケースも多い。これらの地域の学校(特に大学などの高等教育機関)では、公共交通機関の利便性の低さによりその学生の円滑な登下校に支障をきたして学生生活に悪影響が及ぶと学校側が判断した場合、運転免許取得対象年齢となったそれらの学生に対して条件付きではあるが、自動車による通学を許可する場合もある。これらの地域の公共交通機関において貴重な収入源となる運転免許を取得できない年齢の学生ですらも、公共交通機関ではなく、身内や知人の車で登下校するケースも少なくない。このように過度に車社会化の進んだ地域では精力的な道路整備が進められたにもかかわらず、通勤・帰宅ラッシュ時や登下校時間帯は道路混雑が慢性的に発生している。
一方で東京など下位の都府県は、人口の多い都市部を中心に鉄道を中心とした公共交通機関やタクシーが高度に充実し利便性が高いこと、それらの都心部では自動車を維持・運用するコストが高く付くうえ、自家用車の利便性が著しく低い(契約・時間貸し共の駐車場料金の高額さ、利用先での駐車場難、渋滞および信号待ちに伴う自動車平均速度の低さなど)ことなどが理由として挙げられる。
2000年代以降は、長期不況や価値観の変化、都心回帰の流れなどを背景に、自家用車を保有しない傾向(車離れ)が大都市(特に首都圏や京阪神)において目立つようになった。自動車保有率の低下は東京の都心周辺に住む若者に顕著だが、多摩地域や阪神間など公共交通が比較的充実した大都市圏郊外部、あるいは都市部の中高年層にまでその傾向が及びはじめているが、高齢化社会に伴う諸問題(買い物難民、ブレーキとアクセルの踏み間違え事故など)やコンパクトシティーを指向する動きとも絡み、今後の動向が注目されている。
- 1世帯あたりの都道府県別自家用乗用車保有台数(2010年3月末)
- 上位5県
- 下位5都府県
(全国平均 : 1.080)
各地の実例
北海道地方
広大な面積を誇り、産炭地の衰退とそれに伴う北海道自体の人口減少と相まって鉄道路線の廃止がすすみ、(北海道の国鉄の大半が赤字路線となり次々と廃線に追いやられ、JR北海道に転換後も、函館本線の上砂川支線、深名線、旧池北線の経営を引き継いだ第三セクターのちほく高原鉄道、江差線が廃線となった。さらには2016年に留萌線のうち、留萌駅~増毛駅間が廃止された。将来的には留萌線全線廃線も検討されている。また、石勝線の新夕張駅~夕張駅間も2019年以降の廃線が決定している。その一方で高規格幹線道路の整備は着実に進み廃止が検討されている留萌線の深川駅-留萌駅間に並行して深川留萌自動車道が1998年から石北本線に並行する旭川紋別自動車道が2002年から順次開通していき、鉄道から自動車へのシフトが更に進んだ[8]。
他地域同様、郊外型ロードサイド店舗が増える一方、都市中心部の商店街が衰退し、郊外においても地区唯一のスーパーマーケットが閉店するなど、俗に言う「買い物難民」の高齢者世帯の増加が深刻化している。「出前商店街」などの移動販売、宅配、買い物代行、「デマンドバス」によるアクセス支援、市民協働による店舗誘致活動など、行政その他で各種取り組みが行われている[9]。
両毛デルタ地帯
関東北部における「両毛デルタ地帯」と呼ばれる地域は、日本でも早期からモータリゼーションが発達した経済圏を形成している。 この地域は関越道本庄児玉IC-高崎JCT区間・東北道佐野藤岡IC-加須IC区間・北関東道高崎JCT-太田桐生IC区間・国道17号・国道125号・国道50号といった道路群によってほぼデルタ形になるように囲まれており、その商圏は、群馬県南東部(うち太田、伊勢崎、館林と前橋・桐生南部の一部、高崎東部の一部)を中心に、栃木県安足地区(うち佐野・足利南部の一部)、埼玉県北部(通称埼北(さいほく)。うち羽生・行田・加須と深谷・本庄・熊谷の一部)に及んでいる。
館林市は1987年1月から市内の路線バスが全て廃止になり全国でも唯一の「バスなし市」になったのを始め(現在では広域公共路線バス が運行)、各地で廃止代替バスへの転換が相次いだ。
現在も群馬県民の交通手段は過度に自家用車に依存しており、例えば僅か100m先の場所に行くのも車を利用するのが26%、車を持っていない高齢者は他の人の車に同乗するのが主流、また高校生の通学には親に送迎してもらうのが約60%、という自家用車至上主義の為、群馬県の公共交通依存度はかなり低く3.5%でしかない[10]。これは、同県が愛知県や広島県と並んで自動車関連の製造が基幹産業となっていることも影響している。
東海地方
日本最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車が本社および工場(愛知県各地)を構えるほか、本田技研(三重県鈴鹿市)やスズキ(静岡県西部)、三菱自工(愛知県岡崎市)が工場を立地するなど、下請けなどの関連企業が多数所在し、自動車産業が経済基盤となっている東海地方では、日本で最も早くからモータリゼーションが発達し、最も早くから郊外型ライフスタイルが浸透していった地域である。
そのため、かつては多数の鉄道路線が存在したが、現在では多くの路線が廃線となり、名古屋圏など需要が見込める地域のみに路線が集中している状況である。しかし、前述の背景から、東海地方を代表する大手私鉄の名古屋鉄道ですらその輸送密度は、名古屋圏よりも人口の少ない福岡都市圏の西日本鉄道に対して劣っている。
過疎地域だけではなく大都市内やその近郊でも鉄道の廃線や存続問題はたびたび話題になり、2005年には名鉄岐阜市内線が、2006年に桃花台モノレールが、それぞれ廃線になった。
こういった現状に対し、名古屋市は基幹バスの導入などを行い、公共交通の利用促進を図っている。
四国地方
四国は高速道路の整備が遅れ、1980年代末になっても香川県・高知県のごく一部の区間しか開通していなかったが1990年代に入ると高速道路の整備が急速に進み2000年3月には井川池田IC - 川之江東JCTが開通したことで四国の高速道路ネットワークは完成の域に達した(四国8の字ネットワーク)。さらに1998年に明石海峡大橋が開通したことで京阪神地区に直接道路で行けることになり、鉄道・航路のマイカー・高速バスシフトに拍車をかけた。高速道路網整備と反比例するようにJR四国の輸送人員は減少を続け2018年度は1988年度に比べて3割も減少した[11]。
沖縄県
沖縄県は戦前には沖縄県営鉄道などの軌道系交通機関があったが、沖縄戦により破壊され戦後も復活することはなく、2003年8月の沖縄都市モノレール開業まで軌道系交通機関がなかった。その為沖縄の交通は道路に一元化され、1970年代まではバス交通が発達したが、1978年の右側通行→左側通行への通路帯変更(所謂730)からは自家用車が急激に増加し、それと反比例してバス利用客が減り沖縄の主要交通の大半を自家用車またはレンタカーに依存する形となった為、現在那覇市の渋滞は全国でもワースト1にまでなっている[12]。また沖縄県には主要バス事業者が4社あったが、2000年代に沖縄バスを除いて倒産する事態にもなった。
沖縄県では渋滞を解消する為、モノレールを軸とした公共交通機関の再編、パークアンドライドの推進等を進めている。
モータリゼーションの影響
自動車によるモータリゼーションの進展によって、以下のような現象が発生している。
- 多発する交通事故
- 自動車の交通量の増加は事故の増加をもたらした。1990年代後半からは交通事故による死亡者数は減少傾向にあるが、自動車事故件数自体は増加している(詳しくは交通事故#統計の項を参照)。さらに2010年代になってから日本では高齢化を背景に運転中の高齢ドライバーの事故が問題となっている。警察や地方自治体は高齢ドライバーに免許返納を勧めているが、モータリゼーションの進行に伴って公共交通機関が崩壊してしまった地方では高齢者はハンドルを手放すことができず、悲惨な事故を防ぐためにも公共交通の整備が求められている[13]。
- 道路交通を原因とする環境汚染
- 大気汚染・騒音などが、特に幹線道路の周辺において深刻である。特に日本では、ディーゼルエンジンの排気ガスに対する規制が軽視されて来たこともあり、大型トラックが公害の大きな原因となっている。現状では、世界一厳しい排出ガス規制などで対応するなどしているが、通行量そのものの増大もあり、まだまだ改善されているとは言いがたい。たとえば、以前は光化学スモッグは大都市のみの公害と思われているが、今は関東平野全域にまで及んでいる。
- また、地球温暖化の要因と言われている二酸化炭素の排出源として、自動車の存在は無視できない。自動車は単位輸送量当たりの二酸化炭素排出量が鉄道や飛行機よりも格段に多い。工場での排出は規制のために改善が進んだが、自動車排気ガス対策は進んでいるとはいえず、個々の車の燃費は向上しているとはいえ利用の増加に到底追い付けるものではなく、二酸化炭素の排出量は増加を続けており、日本は批准した先進国中で唯一京都議定書の達成は絶望的な状況となった。
- スプロール現象
- 公共交通機関を使わずに移動することが容易になったため、住宅地がそれまでの市街地を離れて設けられるようになった。また、自家用車での来店を前提とした大型駐車場を有するロードサイドショップやイオンなどに代表される大型ショッピングセンターが、バイパス道路沿いに進出するようになっている。また同様にこれらの商業施設は国道沿いのほか、住宅街の幹線道路を中心に広がり、「郊外に行けばどこへ行っても同じ風景(三浦展はこれを全国均一の食品が提供されるファストフードをもじってファスト風土と呼んでいる)」という錯覚さえ覚える結果となってしまった。またこれらは逆に、中心市街地の空洞化、特に小型店鋪の衰退(いわゆるドーナツ化現象、シャッター通り)を促しているとされ、また交通弱者にとって、こういった地域で自立した生活を行うことは不可能に近い。
- 生活様式の変化
- さまざまな事柄が挙げられるが、個人の移動の自由を拡大したという点が大きい。
- 他人と乗り合わせる公共交通機関と違って、自家用車は「走る個室」として受け容れられたという点もある。
- 宅配便の発達
- それまで郵便小包や鉄道小荷物(チッキ)にたよるしかなかった個人の荷物の運送が、宅配便の登場により容易に行えるようになった。この発達には高速道路の拡大が大きく寄与している。通信販売にも大きく役立っている。
- 公共交通機関の衰退
- 特に地方では、鉄道のローカル線や路線バスがやはり、利用者の減少によって経営状況が悪化し、廃止される路線も続出している。のと鉄道穴水-蛸島の廃止が決定したとき、石川県知事は「道路整備の進展が皮肉なことにのと鉄道を廃止に追い込んだ[14]」とコメントしたが、過去の鉄道廃線の例を出すまでもなく、モータリゼーションの進展が公共交通機関を衰退させる要因になることは多い(ただし、大都市における定員を超える乗車を前提とした交通機関の通勤輸送に対する姿勢をそのまま地方に当てはめることはできないとの指摘もある。また、この問題については少子化と過疎化の問題についても考慮する必要がある)。
- 結果、公共交通機関の衰退によって下記の買い物難民の問題を含めた「交通弱者」の問題が拡大していたが、地域の公共交通の再生に向けた法整備が成され、見直しが進んでいる。
- 買い物難民の発生
- 上記理由が重なり合い、もはやクルマなしでは食料品・日用品の買い物すらできない地域が存在するようになった。該当項目を参照。
- 北海道では他地域同様、郊外型ロードサイド店舗が増える一方、都市中心部の商店街が衰退し、郊外においても地区唯一のスーパーマーケットが閉店するなど、俗に言う「買い物難民」の高齢者世帯の増加が深刻化している。「出前商店街」などの移動販売、宅配、買い物代行、「デマンドバス」によるアクセス支援、市民協働による店舗誘致活動など、行政その他で各種取り組みが行われている[15]。
- 自動車・道路偏重の行政
- 歩行者・自転車などの軽車輌、オートバイ、ミニカーを軽んじた政策がときに見られる。また、地方によっては、官公庁庁舎や図書館などの行政サービス施設、医療機関などの公共施設を、公共交通機関でのアクセスが不便でも、自家用車でのアクセスおよび駐車場の確保が容易な、鉄道駅やバスターミナルから離れた幹線道路沿いに移転、新設するなど、「あらかじめ車を所有している家庭を前提にした」街づくりを行っている場合もみられる。国土交通省や地方自治体の将来の交通計画を見ても道路建設を主としていたが、超高齢社会の進展により公共交通機関のさらなる活用を提案する地方自治体も増えてきた。
- 自動車の利用者の数は多く、また自動車メーカーなどの自動車関連企業から巨額の広告費を貰っているため、マスメディアも高速道路の建設批判には及び腰になる。特に地方紙は道路建設見直しを「地方軽視」と全面的に反対するところが多く、結果的に、未開通の高速道路は原則全線開通という土壌作りに加担したともいえる。また、特に新規の道路建設は「渋滞が嫌だから道路が欲しい」という感情論が先行することが多い。
- 自転車の立場は自動車から見れば交通弱者、歩行者から見れば交通強者であり、自治体ごとの政策は区々で、中途半端となりがちで、結果的に「どちらからも邪魔」となってしまう例が多い。自転車からしてみれば「歩行者も自動車も邪魔」となってしまっている。また、日本は先進諸国でもっとも、自転車通行帯等の自転車インフラ整備を怠ってきた国でもある。しかし、意識が成熟している自治体において、近年はクリーンでエコロジーな車両として自転車利用が推進されている。
- マイカーから途中で公共交通機関に乗り換えるためのパークアンドライドが整備されていない地域がある。
- 夜間の旅客輸送が鉄道輸送(夜行列車)の衰退と引き替えに自動車輸送(夜行高速バス)が躍進している。
- 道路整備は本当に地方活性化になるのか
- 道路族議員や地方自治体は道路整備を地方の景気活性化の切り札と見ており、道路特定財源の死守を訴えている。しかし、仮に高速道路が開通して大型のショッピングセンターが進出しても恩恵を受けるのは中央の大企業で地場産業が恩恵を受けることはほとんどない。また、その大型ショッピングセンター進出により買い物客がそこに流れ地方都市中心部の商店街はさらに寂れると言った弊害を起こしている。また、交通が便利になったことによってストロー効果の問題が顕著に現れるようになった。東北自動車道や関越自動車道の開通による東北・新潟地方や、神戸淡路鳴門自動車道の開通による四国地方の人口流出が代表的な例で、お盆や年末年始の時期のこれらの高速道路の渋滞も問題となっている。
- 交通渋滞
- 自動車の量が増えたことで、渋滞が頻発するようになった。その解消のために各地で道路の新設・改良が進められているが、かえって自動車の需要を増加させるという意見が見られる。車間距離を含めて大きな空間を必要とする自動車が、一人乗りの移動手段として利用されることが多く無駄が大きい。
- 国家、地方財政の悪化
- 道路は、有料道路以外は無料で通行(フリーライド)できるものの、アスファルトの補修や清掃等の維持費はかかる。この費用は国道なら国が、県道や市道は地方自治体の負担であるが、道路の総距離数は年々伸長しており、それに伴い維持費も膨張している。
- 新規の高速道路の建設方式の一環として「新直轄方式」が具体化されているが、無料開放されて収支が計上されない分だけ、自治体の負担が増える。
- このように、道路の維持管理に非常にコストがかかり、その結果財政の悪化にも繋がっている。
- 健康問題
- 自動車による急激なモータリゼーションは、遠い場所の移動を簡易にしたが、その結果運動不足、肥満を増加させてしまった。東京や大阪など、公共交通機関の発達している地域の住民は歩いて行ける箇所はタクシーを使わずに歩くが、地方都市など公共交通網が脆弱で車に依存した地域は近場でも自動車や、自動車を運転していない場合(高齢や妊娠中などの理由によって自動車の運転ができない場合など)は高額のタクシーを利用せざるを得ず、また身内・知人のマイカーで送迎してもらうことが多い(いわゆる「ドア・ツー・ドア」)。
- 飲酒運転
- 飲酒運転の問題が社会に注目される以前の時代、バスも本数が少ない地域では、地域自体が「飲酒運転に寛容」になり、。東名高速飲酒運転事故を契機に社会の問題認識が高まり、法整備により飲酒運転は厳罰に処される程の重大な問題行為となったため、現在においてはここまでの極端なケースは数を減らしている。
モータリゼーションからの転換
排気ガスからの二酸化炭素排出や高齢化社会の進展による運転事故の多発など、車社会の問題点が近年多く浮上している。そこでモータリゼーションからの脱却への動きが起こっている。
- 公共交通機関の見直し
- 貨物輸送のモーダルシフト
- 都心部への自動車の乗り入れ制限
モータリゼーションそのものに強く反発する論者は、自動車総量規制によって自動車そのものの数を減らすべきであると主張している。
日本はモータリゼーションが進んでいるものの、東京、大阪の両大都市圏で公共交通の利用度が高いことなどから、2002年現在で先進国の中では自動車への依存度が最も低い水準となっている(旅客輸送人キロでみた鉄道のシェアは、日本が27.0%、イギリス6.4%、フランス5.6%、アメリカ0.6%などとなっている[16])。日本では、東京圏、大阪圏の都市鉄道、および新幹線に関しては、他の交通機関や他国の鉄道と比べて、非常に利便性が高い(路線網の密度、列車本数の多さ、スピードなどについて、いずれも優れている)といえる。一方で、地方部[注釈 3]では鉄道は不便で自動車なしには生活が困難な場合が多く、中小規模の都市で比較すると、ドイツ、スイスなどの方が公共交通が便利な場合が多い。
日本では気候変動対策(地球温暖化防止)、超高齢化社会への対応からクルマ社会からの脱却を図る動きが出ている。アメリカ合衆国のオバマ大統領や韓国の李明博大統領の唱える「グリーンニューディール政策」の理念と似る政策といえる。
EUにおいては、高速鉄道以外の鉄道も含めた高速化が積極的に推進され、EU全域をカバーする高速鉄道網の構想も立てられている。自動車依存度が非常に高いアメリカにおいても、高速鉄道を新設する計画が打ち出されている。日本では新幹線の高速化、新線延長がなされ、リニアによる中央新幹線の構想も具体化しつつある一方、在来線の最高速度については一部の例外を除いて130km/hに限定され[注釈 4]、最高速度のさらなる向上は困難な状況である。
また、欧米諸国では路面電車の進化型であるライトレール(LRT)が注目されており、多くの都市で復活・新設が行われている。日本でも、国土交通省がLRT(次世代型路面電車)導入を支援[17]している。ただし、日本でここ20年間でLRTが開業した都市は、2006年に富山ライトレール及び2009年に富山市内軌道線富山都心線が開業している富山市が唯一の例であるが、欧米では、この間に50を越える都市でLRTが整備された。LRTの新設構想や計画がある都市のうち、宇都宮市が導入に積極的に動いたことで、宇都宮ライトレールの新設に至っている。
メディアの報道
テレビ・全国紙などの大手メディアは自動車メーカーなどの自動車関連企業から巨額の広告費を貰っているため、モータリゼーションを肯定する報道になりがちである。2009年3月から2011年6月までETC搭載車に限った大幅な料金割引、いわゆる「千円高速」が実施され、更に社会実験として2010年6月~2011年6月まで高速道路無料化が一部路線で実施されたが、その時の特にテレビ報道はこの施策を肯定する報道一色で、渋滞多発や公共交通機関への影響を報じる事は殆どなかった[注釈 5][注釈 6]。また、徳島新聞は社説で「整備新幹線の建設は見合わせてはどうか」(2013年12月25日付)と主張する一方で、「新たに税金を注入しても千円高速を存続すべきだ。」(2011年6月15日付)、「更なる高速道路建設を望みたい」(2015年3月14日付)などと道路中心主義に偏った持論を展開していた。
2005年の名鉄岐阜市内線廃止の際の報道に関しては路線に対する思い出など郷愁一色で行き過ぎたモータリゼーションに対しての見直し論や欧米を巡る路面電車の再生ひいては公共交通機関のありかたについては地元の中日新聞を含めて殆ど報じられなかった。この岐阜市内線の廃止については海外メディアでは「今どき、珍しい廃止」と皮肉混じりに報道されたが、この事実は日本のマスコミではスポンサーへの配慮から全く報じられなかった。
脚注
注釈
- ↑ これらの地域における鉄道やバスは、地域内輸送よりも対大都市圏輸送に重点が置かれているケースがほとんどであり、地域内輸送でも運転免許を持たない学生の通学利用に合わせてダイヤを設定している路線が多い。
- ↑ 一例として群馬県太田市が挙げられる。太田市はかつて市内に多数のコミュニティバス路線を有していたが、2010年3月31日で新田線・尾島線を除く路線が全廃された。太田市はスバルの発祥・本拠の地であり、いわゆるモーター・タウンの一つである。
- ↑ 特に道県庁所在地やその地方を代表する有力都市以外の地域
- ↑ 殆どの線路が狭軌(軌間が世界標準(標準軌)より狭い)であるため、高速運転を行うことが難しいことが主な理由。
- ↑ これは広告の影響を受けないNHKも同様で、例えば2011年2月18日放送分の「あさイチ」での高速道路利用者へのインタビューでは、ほとんどが「実施が継続されて嬉しいです」「渋滞は仕方がない」といった主に肯定的な回答を取り上げていた
- ↑ 大手マスコミでは2011年3月4日放送のテレビ朝日「報道ステーション」が、千円高速の影響で減収となった西鉄バスが大幅な路線廃止に踏み切り、交通弱者の足が奪われた事を報じたのが数少ない事例だが、その時の番組のコメンテーターは「この様な影響がある事は初めて知った」とコメントしていた
出典
- ↑ 「国民車構想」とモータリゼーションの胎動
- ↑ アジアのモータリゼーションと環境負荷
- ↑ 広田民郎『21世紀クルマのリサイクルのすべて』リサイクル文化社、2000年、12頁
- ↑ 4.0 4.1 広田民郎『21世紀クルマのリサイクルのすべて』リサイクル文化社、2000年、13頁
- ↑ 5.0 5.1 5.2 5.3 広田民郎『21世紀クルマのリサイクルのすべて』リサイクル文化社、2000年、14頁
- ↑ 6.0 6.1 6.2 広田民郎『21世紀クルマのリサイクルのすべて』リサイクル文化社、2000年、15頁
- ↑ マイカーの世帯普及台数 自動車検査登録情報協会
- ↑ JR三江線に続く「廃線危機」の路線はどこだ?東洋経済ONlINE 2018年4月16日 2018年5月13日閲覧
- ↑ 北海道内での買い物弱者対策及び流通対策の取組事例集 - 北海道経済部経営支援局中小企業課
- ↑ 群馬県、交通弱者の「足」確保へ PT調査で車依存浮き彫り – 産経ニュース2017年6月3日付記事 2017年7月15日閲覧
- ↑ JR四国、30年で輸送密度3割減 非鉄道事業の育成急務 – 日本経済新聞2018年5月8日付記事 2018年6月2日閲覧
- ↑ 那覇の渋滞全国最悪 車保有・レンタカー増 – 沖縄タイムスプラス2014年12月18日付記事 2017年7月15日閲覧
- ↑ 納得できる免許証の自主返納を – NHKニュースおはようにっぽん けさのクローズアップ2016年12月27日放送分 2018年6月2日閲覧
- ↑ 2004年2月4日付け北國新聞記事
- ↑ 北海道内での買い物弱者対策及び流通対策の取組事例集 - 北海道経済部経営支援局中小企業課
- ↑ 社会環境報告書2002、JR東日本
- ↑ 国土交通省道路局 LRT(次世代型路面電車)の導入支援