モヤシ

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モヤシ (もやし、糵、萌やし) とは、主に穀類豆類の種子を人為的に発芽させた新芽。ただし単に発芽させたものでなく、暗所で発芽させ、徒長軟化させたものである。より広い範囲をこれに含める見方もある。

概説

呼称は「萌やす」 (発芽させる意) に由来する。発芽野菜(新芽野菜)を総称してスプラウト(: Sprout)という[1]

スプラウトは生育方法により、アブラナ科のかいわれ大根などのグループとマメ科のモヤシなどのグループとに分けられ、前者が種から根を伸ばすのに対し、後者は頭部に種子を付けた状態で伸びていく違いがある[1]。また、栽培方法も、かいわれ大根などは茎が伸びた後は光を当てて栽培するのに対し、モヤシは光を当てることなく暗室のみで栽培するのが一般的である[2]。豆類のモヤシはビーンズスプラウト(ビーンスプラウト、Bean sprout) ともいう。

種類

もやしの主要な原料は大豆緑豆、ブラックマッペなどである[3]ムラサキウマゴヤシ (アルファルファ) のもやし (糸もやし) やソバのもやし (そばもやし) もあり、サラダなどに使われている。中国ではエンドウをモヤシにした豆苗が栽培されており、欧米ではフェヌグリークやアルファルファなどの豆類ももやしも一般的である。

大豆もやし

大豆を原料として発芽させたものを大豆もやしという[3]韓国料理中華料理での炒め物に多用されるが、これらで使われるのは大豆による「大豆もやし」が一般的である[3]沖縄ではマーミナー (豆菜) と呼ばれ、チャンプルー (炒め物) によく使われる。青森県には大鰐温泉もやしという長さ30cm程度の大豆もやしが存在する。

緑豆もやし

緑豆を原料とするもやしを緑豆もやしという[3]。太めで食味は比較的淡泊でクセがない[3]

ブラックマッペもやし

ブラックマッペ (ケツルアズキ) の黒色の種子を発芽させたもやし[3]。クセがあるが甘みがあるのが特徴[3]

日本では原料のブラックマッペは、戦後にタイミャンマーからの輸入が始まり、中華料理の普及と共に1965年 (昭和40年) 頃からブラックマッペもやしの消費量が増加した。以後、1985年 (昭和60年) 頃になるとスーパーマーケットに定着し、ラーメンや鉄板焼き (ジンギスカン鍋) の需要から人気は急激に高まった。手軽に購入でき多様に調理が出来るブラックマッペもやしの普及にしたがい、生産コストの高い小豆もやしや大豆もやしは衰退した。それまでの「豆もやし」の代表であった「小豆もやし」は食味と食感が似る「緑豆もやし」に駆逐され、1990年以降、急激にとって代わられた[4]

豆もやしの栽培

原料の豆の種類はブラックマッペ、緑豆大豆の三種がある。豆を流水で10分ほど洗い、豆の量の3倍の水に一晩漬けておき、湯に15分ほど浸漬し真菌などを殺菌し、通気性のよい薄暗い部屋 (軟白栽培) で水を取り替えながら置くと7日 - 10日程度で発芽する。モヤシの根を太く育成するために、しばしばエチレンを添加するための工夫がされている[5]。 成長が早いうえ、通年で栽培できるため安価な値段で取引される。

歴史

日本

日本では、平安時代の『本草和名』で「毛也之」、江戸時代の『和漢三才図会』にて薬効があるものとして紹介されており[6]、食品というよりは薬として珍重されていた。1842年(天保13年)、富山藩ではモヤシ物は奢侈に導くものとして売りさばきが禁じられている。現在の食用を意識したモヤシ物は、1850年以降、長崎に漂着した異人が伝えた栽培方法が江戸に伝わり広まったものである[7]

日露戦争では特に203高地の戦いにおいて、日本軍は大豆からモヤシを作る技術を知っていたので兵士のビタミンを供給でき、モヤシを知らなかったロシア軍は壊血病になって負けた、という俗説がある[8]

第二次大戦中、光のない環境で容易に栽培でき、ビタミンが豊富なことから潜水艦内でも栽培された。

食品としての特質

主要な栄養成分

豆もやし100g当り。

  • エネルギー:14 kcal
  • 水分:94.4 g
  • 蛋白質:1.7 g
  • 炭水化物 (糖質):2.6 g

このほか、2-sec-ブチル-3-メトキシピラジンが微量含まれ、モヤシの香りを表現する香料としても用いられる[9]

ブラックマッペリョクトウには、血糖値を抑制する効果のあるα-グルコシダーゼ阻害作用がある[10]

もやし生産者の窮状

もやしには、有機栽培されたり、健康に良いとされる大豆イソフラボンの含有量を増やしたりして付加価値や価格を高めた商品もあるが、一般にはスーパーマーケットなどで特売・安売りの対象にされやすい。平均的な小売価格は、ピークだった1992年の100グラム当たり20円程度から、2016年には同15円程度まで下落。一方で中国からの輸入が多い原料の緑豆の価格は上昇している。2009年に国内で230社以上あった生産者は、経営難から100社以上が廃業した[11]

2017年3月9日付けで、工業組合もやし生産者協会(東京)が、文書「もやし生産者の窮状について」を発出した。上がり続ける「生産コスト」に対して、上がらない「販売価格」(もやしの販売価格は約40年前(1977年平均価格「総務省家計調査」より)の価格よりも安い)。廃業が続く生産者の窮状を訴えた[12]

安全性

豆もやしは日光による殺菌作用のない暗所で栽培されるという性質上、大腸菌をはじめとする細菌が増殖しやすい食品であり、消費者が購入する時点で平均して1gあたり100万 - 1000万の細菌があるといわれている。サルモネラカンピロバクターなどの食中毒菌についても栽培前に種子の殺菌が行われるのが常であるものの、何らかの理由でひとたび種子に食中毒菌が付着していた場合、増殖しやすい食品であるといえる。2010年にはイギリスで発生したサルモネラ食中毒事件を受けて、英国食品基準庁が豆もやしを完全に加熱して調理するよう勧告を出している[1]

モヤシと経済関係

モヤシは日本では値段が比較的低値で安定しており、日本で他の野菜(葉野菜など)が高騰したときや不景気の際に他の野菜の代用としてのモヤシの消費量が増える傾向があるとされる[13][14][15]。しかしスーパーなどの量販店では客寄せとして豆腐のように安値販売がまかり通っており、生産者側から適正な価格での販売を求める声が強い。

慣用句

脚注

  1. 1.0 1.1 伊嶋まどか 『はじめよう!キッチン野菜』 学習研究社、2011年。
  2. 福田俊 『フクダ流家庭菜園術』 誠文堂新光社、2015年。
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 『新装版 もやしの得』 主婦の友社、2016年。
  4. 「原料高騰 モヤシに荒波」『朝日新聞』2010.2.26 (31)
  5. 渡辺篤二監修 『豆の事典 :その加工と利用』 幸書房、2000年 pp.94-95
  6. もやしの歴史 もやし生産者協会 2017年10月16日閲覧
  7. 富山市史編纂委員会編『富山市史 第一編』(p793)1960年4月 富山市史編纂委員会
  8. 「食べ物さん、ありがとう」川島四朗サトウサンペイ 朝日文庫 ASIN: B00CE6ZA1W
  9. 長谷川香料株式会社 『香料の科学』 講談社、2013年。ISBN 978-4-06-154379-9。
  10. 豆類ポリフェノールの抗酸化活性ならびにα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ阻害活性、齋藤優介ほか、日本食品科学工学会誌、Vol.54 (2007) No.12 P563-567
  11. 「安売りの定番モヤシに付加価値 高い栄養価/有機栽培/国産の大豆」『読売新聞』朝刊2018年3月22日(くらし面)。
  12. 文書「もやし生産者の窮状について」もやし生産者協会(2017年3月15日), 2017年3月21日閲覧。
  13. もやしと株価の意外な関係 もやしの消費額で読み解く日本の景気 - THE PAGE 2018年4月21日閲覧
  14. モヤシ消費26年ぶりの多さ 不況、野菜高騰で - 日本経済新聞 2018年4月21日閲覧
  15. もやしの統計 - もやし生産者協会 2018年4月22日閲覧

外部リンク