ポリュネイケース
ポリュネイケース(古希: Πολυνείκης, Polyneikēs, ラテン語: Polynices)は、ギリシア神話に登場する人物である。長母音を省略してポリュネイケスとも表記する。テーバイ攻めの七将の一人。
テーバイ王オイディプースとイオカステーの息子。母親については、ヒュペルパースの娘エウリュガネイアであるとする説もある。兄弟姉妹にエテオクレース、アンティゴネー、イスメーネーがある。ポリュネイケースはアドラストスの娘アルゲイアーと結婚し、息子にテルサンドロスがある。
ポリュネイケースの名は「多くの争いを引き起こす者」という意味であり、アイスキュロスのギリシア悲劇『テーバイ攻めの七将』では、エテオクレース(「真の名誉を持つ者」)の英雄性との対比から厭うべき存在として描かれている。
神話
オイディプースの呪い
オイディプースが出自を知ってテーバイを追放されたとき、ポリュネイケースとエテオクレースの兄弟は父親を庇おうとしなかった。オイディプースは二人に「互いに剣によってわが物を奪い合うがよい」と呪いをかけた[1]。
エテオクレースとポリュネイケースはテーバイの王権について協議し、二人が一年ごとに交互に治めることを取り決めた。まずポリュネイケースが初めに治め、翌年エテオクレースに王権を渡したとも、一説にはエテオクレースが初めに治めたとする。いずれにせよ、エテオクレースは1年が経っても王権を渡そうとせず、ポリュネイケースはテーバイを追われた。ポリュネイケースはハルモニアーの首飾りと結婚衣装を携えてアルゴスに逃れた。
アルゴス勢の召集
ポリュネイケースが夜中の王宮で、やはりカリュドーンから逃れて来たテューデウスと争っていたところ、アルゴス王アドラーストスが二人を見て引き分けた。アドラーストスは、「娘を獅子と猪に娶らせよ」というデルポイの神託を思い出し、二人を娘の婿とした[2]。ポリュネイケースはアルゲイアーを、テューデウスはデーイピュレーを妻とした。アドラストスは二人を祖国に戻すことを約束し、まずポリュネイケースをテーバイに戻すため、アルゴス人に招集をかけた。
予言の力のあったアムピアラーオスは、テーバイ攻めではアドラーストス以外は死すべき運命にあることを予見して戦いに反対し、他の者の参戦も阻止しようとした。ポリュネイケースがイーピスに相談すると、イーピスは、アムピアラーオスの妻エリピューレーにハルモニアーの首飾りを贈ればうまくいくと答えた[3]。アムピアラーオスはかつてアドラーストスと不和になったことがあり、二人に争いが生じたときにはアドラーストスの妹でもあるエリピューレーの裁断に従うことを誓約していた。アムピアラーオスは妻に贈り物を受け取らないようあらかじめ伝えていたが、エリピューレーはこれを破って首飾りを受け取り、夫にテーバイ遠征を説得した。やむなくアムピアラーオスは参戦した。
テーバイ攻め
遠征の途中で立ち寄ったネメアーの競技ではポリュネイケースは相撲で優勝した。
ソポクレース作『コロノスのオイディプス』では、両軍のうち、オイディプースが味方に付いた方が勝利を得るという予言がなされ[4]、ポリュネイケースはオイディプースを保護しようとコロノスまで追ってきた。一方、テーバイからはクレオーンが追ってきていた。しかし、二人ともオイディプースに拒絶されたうえ、ポリュネイケースはまたも呪われた。
テーバイ攻めの戦いでは、ポリュネイケースはヒュプシスタイ門を攻めた[5]。両軍の決議の結果、ポリュネイケースはエテオクレースと一騎討ちし、相討ちとなって死んだ。彼の亡骸は叔父クレオーンにより弔いを禁じられたが、妹アンティゴネーがそれを破り、投獄された彼女は自ら命を絶った。
系図
脚注
- ↑ 別の説では、オイディプースがクレオーンまたは二人の息子にテーバイの牢内に押し込められたとき、オイディプースは自ら王侯扱いの食事を断ったにもかかわらず、二人の息子が豪華な食事と飲み物を供したため、これを嘲弄と受け取って二人を呪ったという。また、息子たち二人が生け贄の肉のよい部分でなく、まずい足の部分をオイディプースに送ってよこしたので、無礼を怒って再び二人を呪ったもいう。このようなことから、オイディプースが城を追い出されるとき、二人は目に涙一つ浮かべずにいたのである。
- ↑ ポリュネイケースの盾にはテーバイの獅子の紋章が、テューデウスの盾にはカリュドーンの猪がそれぞれ描かれていたという。
- ↑ 贈り物の助言はテューデウスによるともいう。
- ↑ テイレシアースの予言をテーバイへの使者に立ったテューデウスがアルゴス勢に伝えたという。
- ↑ アイスキュロスでは名称のない第7の門、エウリピデースではクレナイアイ門を攻めている。
参考書籍
- 『ギリシア悲劇 I アイスキュロス』(高津春繁ほか訳、ちくま文庫) (ISBN 4-480-02011-X)
- 『ギリシア悲劇 II ソポクレス』(高津春繁ほか訳、ちくま文庫) (ISBN 4-480-02012-8)
- 『ギリシア悲劇 IV エウリピデス(下)』(岡道男ほか訳、ちくま文庫) (ISBN 4-480-02014-4)
- アポロドーロス『ギリシア神話』(高津春繁訳、岩波文庫)
- ロバート・グレーヴス『ギリシア神話』(上・下、高杉一郎訳、紀伊國屋書店)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話』(「神々の時代」・「英雄の時代」、高橋英夫訳、中央公論社)
- R・L・グリーン『ギリシア神話 テーバイ物語』(眞方陽子訳、ちくま文庫) (ISBN 4-480-02592-8)
参考ホーム・ページ
- ギリシャ・テーバイ紀行 現代テーバイの七つの門を訪ねる旅。