ヘスペリデス

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ヘスペリデス古希: Ἑσπερίδες, Hesperides)は、ギリシア神話に登場する美しいニンフたちである。「黄昏の娘たち」という意味。ヘスペリデスは複数形で、単数形はヘスペリス古希: Ἑσπερίς, Hesperis)。

解説

ヘーシオドスの『神統記』では夜の女神・ニュクスが1人で生んだ娘たちとされるが[1]、一般的にはアトラースの娘として知られ、プレイアデスヒュアデスプレーイオネーとの娘たちとされるのに対し[2]、ヘスペリデスはヘスペロスの娘であるヘスペリスとの間に生まれた娘たちであり、母の異なる姉妹関係になる[3]

ヘスペリデスは世界の西の果てにある「ヘスペリデスの園」に住んでいる[注釈 1]。その近くでは、父アトラースが天空を背負って立っている。「ヘスペリデスの園」にはヘーラーの果樹園があり、ヘスペリデスは果樹園に植えられた黄金のリンゴの木を世話して、明るい声で歌を歌っている。リンゴの木は、ゼウスとヘーラーの結婚の祝いとしてガイアが贈ったものである[4][注釈 2]。しかし、ゼウスがこのリンゴを採っては恋の贈り物としてばらまいてしまうため、ゼウスの手が届かないように、アトラース山の頂にある果樹園にヘーラーが移し植えたとされる[4]

木の世話をしているヘスペリデスがリンゴを盗んでいるのを見つけたヘーラーは、百の頭を持つ(または)・ラードーンに木の周りをぐるぐる巻き付かせ、番をさせることにした。「ヘスペリデスの園」は、主にペルセウスのメドゥーサ退治の伝説、ヘーラクレース11番目の功業の物語の舞台となった。ヘーラクレースが持ち帰った黄金のリンゴは、エウリュステウスが彼に返したため、アテーナーがヘーラクレースから受け取って再び元の場所に戻したという。ヘーラーの持ち物を本来の場所以外のどこに置くことも違法とされたからである[5]

ヘスペリデスのリスト

彼女たちは、3人あるいは4人、それ以上の7人説ともいわれる。ウェルギリウスによる『アエネーイス』第4巻の注釈の中でセルウィウスは、ヘーシオドスによればヘスペリデスは夜の女神・ニュクスの娘たちであり、アイグレー(Aegle、輝き・明るい女)、エリュテイア(Erytheia、紅・赤い女)、牝牛の眼のヘスペレトゥーサ[注釈 3](ox-eyed Hesperethusa、夕焼け女)の3人姉妹で構成されている。アポロドーロスによればヘスペリデスは多くが日没に関係した名前を持ち、前述の3人姉妹の中のヘスペレトゥーサからヘスペリアー(Hesperia、夕方の女)へ名前を変更し、アレトゥーサ(Arethusa)を加えた4人の姉妹としている[6]。まったく異なる説として、リパラー(Lipara、柔らかい光)、クリューソテミス(Khrysothemis、黄金の秩序)、アステロペー(Asterope、閃光)、ヒュギエイア(Hygieia、健康)があり、さらにゴルゴーンがヘスペリデスの園に住んだとされることから、混同されてゴルゴーンのメドゥーサ[注釈 4]を加えるものもある。普段は3人の美しい姉妹を描いた場合が多い。

明らかになっているヘスペリデスたちの名前は下表参照。

ヘスペリデス el la 名前の意味
アイグレー Αιγλη Aegle 輝き・明るい女
エリュテイア
エリュテーイス
Ερυθεια
Ερυθεις
Erytheia
Erytheis
紅・赤い女
ヘスペレトゥーサ Ἑσπερεqουσα Hesperethusa 夕焼け女
ヘスペリアー
ヘスペリエー
ヘスペルーサ
ヘスティア
ヘスペレイア
Ἑσπερια
Ἑσπεριε
Ἑσπερυςα
Ἑστία
Ἑσπερεια
Hesperia
Hesperie
Hesperusa
Hestia
Hespereia
夕方の女
ヘスペラ
ヘスペレ
Ἑσπερα
Ἑσπερε
Hespera
Hespere
黄昏の女
アレトゥーサ Αρεθουσα Arethusa -
アイリカー Αιρίκα Aerica -
リパラー Λιπαρα Lipara 柔らかい光
クリューソテミス Χρυσοθεμις Khrysothemis 黄金の秩序
アステロペー Αστεροπη Asterope 閃光
ヒュギエイア Ὑγιεία Hygieia 健康

脚注

注釈

  1. 「ヘスペリデスの園」の場所については諸説あって一致しない。ヒュペリボイオス人の国のアトラース山、マウレターニアのアトラース山、大海オーケアノスのどこか、エチオピアのヘスペリアイに近い「西の角」と呼ばれる岬の近くにある二つの島などがそれである。
  2. ウェルギリウス作『アエネーイス』についてのセルウィウスの註によれば、黄金のリンゴはアプロディーテーのものだとする説もある。
  3. 「ヘスペラレトゥーサ」、「ヘスペラトゥーサ」や「ヘスペレストゥーサ」など多数の通り名を持つ。
  4. このため、ヘスペリデスをポルキュスケートーの娘とする場合もある。

出典

  1. ヘーシオドス、211〜216。
  2. ヒュギーヌス、192。
  3. シケリアのディオドロス、4巻27・2。
  4. 4.0 4.1 コットレル (1999)、129頁。
  5. アポロドーロス、2巻5・11。
  6. アポロドーロス、2巻5・11。

参考文献

原典資料

二次資料


関連項目