ヒルベルトの定理90
数学、特に体論において、ヒルベルトの定理90 (Hilbert's Theorem 90) は、体の巡回拡大に関する重要な定理である。
ステートメント
K/k を n 次巡回拡大で、そのガロワ群を G とし、σ が G を生成するとする。このとき、β∈K に対して、ノルム NK/k(β) が 1 であることと、ある 0≠α∈K が存在して β=α/σα となることは同値である。
加法版
K/k を n 次巡回拡大で、そのガロワ群を G とし、σ が G を生成するとする。このとき、β∈K に対して、トレース TrK/k(β) が 0 であることと、ある α∈K が存在して β=α−σα となることは同値である。
群コホモロジーを用いた表現
K/k を有限次ガロワ拡大、G をそのガロワ群とする。このとき
- [math]H^1(G,K^*)=0[/math]
- [math]H^1(G,K)=0[/math]
が成り立つ。
例
K/k を2次拡大 [math] \mathbb{Q}(i) / \mathbb{Q} [/math]とする。ガロア群は位数2の巡回群であり、生成元 σ は複素共役である。
- [math] \sigma:\, \, c - di\mapsto c + di\ . [/math]
K の元 [math] x=a+bi[/math] はノルム [math] xx^{\sigma}=a^2 +b^2[/math] を持つ。 ノルムが1の元は [math]a^2+b^2=1[/math] の有理数解,もしくは単位円上の有理数点に対応する。 ヒルベルトの定理90によるとノルムが1の元 y は整数 c と d で次のように表すことができる。
[math] y=\frac{c+di}{c-di}=\frac{c^2-d^2}{c^2+d^2} + \frac{2cd}{c^2+d^2} i .[/math]
これは単位円上の有理数点のパラメーター付けを表している。 単位円[math] x^2+y^2=1 [/math]上の有理数点[math]\, (x,y)=(a/c,b/c) [/math]は[math]\, a^2+b^2=c^2 [/math]を満たすピタゴラス数[math]\,(a,b,c)[/math]を表す。
関連項目
参考文献
- Serge Lang (2002). Algebra, Rev. 3rd, Graduate Texts in Mathematics, Springer Verlag. ISBN 978-0-387-95385-4.
- 桂利行 『代数学III 体とガロア理論』 東京大学出版会〈大学数学の入門3〉、2005年。ISBN 978-4-13-062953-9。
- 雪江明彦 『代数学2 環と体とガロア理論』 日本評論社、2010年。ISBN 978-4-535-78660-8。