ハンケル変換

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ハンケル変換 (Hankel transform) とは、連続関数に対する積分変換 (en) である。関数 f(r) に対する次数 [math]\nu[/math] のハンケル変換は以下で定義される。

[math] F_\nu(k) = \int_0^\infty f(r)J_\nu(kr)\,r\,dr [/math]

ここで Jν は次数 ν (ν ≥ −1/2) のベッセル関数である。そして、基底関数の直交性から、逆ハンケル変換 Fν(k) は以下となることが分かる。

[math] f(r) =\int_0^\infty F_\nu(k)J_\nu(kr) k~dk [/math]

ハンケル変換はドイツの数学者ヘルマン・ハンケルにより提案され、フーリエ・ベッセル変換と呼ばれることもある。無限区間におけるフーリエ変換と有限区間のフーリエ級数の関係と同様の関係が、ハンケル変換とフーリエ・ベッセル変換の間にもあると言える。

定義域

関数 f(r) のハンケル変換が定義されるのは、f(r) が連続で区間 (0, ∞) で定義されているか、区分的に連続で (0, ∞) 内のどの小区間でも有限であり、かつ積分

[math] \int_0^\infty |f(r)|\,r^{1/2}\,dr [/math]

が有限であるときである。

しかしフーリエ変換と同様に、たとえば [math]f(r) = (1+r)^{-3/2}[/math] のような、上の積分が有限でないような関数にも拡張できるが、ここでは触れない。

基底関数の直交性

ベッセル関数を使うことで、重み因子 r に関して直交基底 (en) を作ることができる。

[math] \int_0^\infty J_\nu(kr)J_\nu(k'r)r~dr = \frac{\delta (k-k')}{k} [/math]

ここで kk' はどちらも 0 より大きい。

プランシュレルの定理とパーセバルの定理

関数 f(r) と g(r) のハンケル変換 Fν(k) と Gν(k) が定義できるとき、プランシュレルの定理 (en) により以下が成り立つ。

[math] \int_0^\infty f(r)g(r)r~dr = \int_0^\infty F_\nu(k)G_\nu(k) k~dk. [/math]

プランシュレルの定理の特別な場合がパーセバルの定理であり、以下で示される。

[math] \int_0^\infty |f(r)|^2r~dr = \int_0^\infty |F_\nu(k)|^2 k~dk. [/math]

これらのことは、基底の直交性から導かれる。

他の積分変換との関連

フーリエ変換との関連

零次のハンケル変換は、回転対称な関数の二次元フーリエ変換と同じである。

動径ベクトル r の二次元関数 f(r) のフーリエ変換は以下のようになる。

[math] F(\mathbf{k})=\frac{1}{2\pi}\iint f(\mathbf{r}) e^{-i\mathbf{k}\cdot\mathbf{r}}\,d\mathbf{r}. [/math]

ここで極座標系 (r, θ) を考え、ベクトル k が θ = 0 の軸上の値を取るとすると、上のフーリエ変換は以下のように書ける。

[math] F(\mathbf{k})=\frac{1}{2\pi}\int_{r=0}^\infty \int_{\theta=0}^{2\pi}f(r,\theta)e^{-ikr\cos(\theta)}\,r\,dr\,d\theta [/math]

ここで θ はベクトル kr の間にある角度である。関数 f が回転対称であれば、角度 θ に依存しなくなり、 f(r) と書ける。θ に関して積分すると、フーリエ変換は以下のようになる。

[math] F(\mathbf{k})=F(k)= \int_0^\infty f(r) J_0(kr) r\,dr [/math]

これが関数 f(r) の零次のハンケル変換である。

フーリエ変換、アーベル変換との関連

ハンケル変換は、FHA サイクル (en) と呼ばれる積分演算のうちの一つである。二次元変換では、A をアーベル変換 (en)、F をフーリエ変換、H を零次のハンケル変換のそれぞれ演算子とすると、投影断層定理 (en) の特別な場合として回転対称な関数については以下のようになる。

[math]FA=H.\,[/math]

つまりある関数にアーベル変換を1次元関数に適用し、その結果にフーリエ変換を適用することと、その関数にハンケル変換を適用することは、等価である。これは多次元に拡張できる。

変換表

[math]f(r)\,[/math] [math]F_0(k)\,[/math]
[math]1\,[/math] [math]\delta(k)/k\,[/math]
[math]1/r\,[/math] [math]1/k\,[/math]
[math]r\,[/math] [math]-1/k^3\,[/math]
[math]r^3\,[/math] [math]9/k^5\,[/math]
[math]r^{m}\,[/math] [math]\frac{2^{m+1}\Gamma(m/2+1)}{k^{m+2}\Gamma(-m/2)}\,[/math] for m odd

[math]0 ??? \,[/math] for m even

[math]\frac{1}{\sqrt{r^2+z^2}}\,[/math] [math]\frac{e^{-k|z|}}{k}=\sqrt{\frac{2|z|}{\pi k}}K_{-1/2}(k|z|)\,[/math]
[math]\frac{1}{r^2+z^2}\,[/math] [math]K_0(k|z|)\,[/math]
[math]e^{iar}/r\,[/math] [math] i/\sqrt{ a^2 - k^2} \quad (a\gt 0, k\lt a) \,[/math]
[math] \,[/math] [math] 1/\sqrt{ k^2 - a^2} \quad (a\gt 0, k\gt a) \,[/math]
[math]e^{-a^2r^2/2}\,[/math] [math]\frac{e^{-k^2/2a^2}}{a^2}[/math]
[math]-r^2 f(r)\,[/math] [math]\frac{d^2 F_0}{dk^2}+\frac{1}{k}\frac{d F_0}{dk}[/math]

[math]K_n(z)[/math]第2種変形ベッセル関数である。表中の [math]\frac{d^2 F_0}{dk^2}+\frac{1}{k}\frac{d F_0}{dk}[/math] は、球対称な関数 [math]F_0(k)[/math]極座標系 [math](k,\theta)[/math] におけるラプラス演算子 (en) を適用することを意味する。

参考文献

  • Gaskill, Jack D., "Linear Systems, Fourier Transforms, and Optics", John Wiley & Sons, New York, 1978. ISBN 0-471-29288-5
  • Polyanin, A. D. and Manzhirov, A. V., Handbook of Integral Equations, CRC Press, Boca Raton, 1998. ISBN 0-8493-2876-4
  • Smythe, William R. (1968). Static and Dynamic Electricity, 3rd ed., New York: McGraw-Hill, 179–223. 
  • GSL リファレンスマニュアル, 第32章 離散ハンケル変換