ハリセンボン
ハリセンボン(針千本)は、フグ目・ハリセンボン科(Diodontidae)に分類される魚の総称。狭義にはその中の一種・学名 Diodon holocanthus を指す。体表に多数の棘があり、フグと同様体を膨らませてイガグリのような状態になることでよく知られている。
特徴
ハリセンボン科の魚は全世界の熱帯から温帯に広く分布し、6属20種類ほどが知られている。全長は15cmほどのものから70cmを超えるものまで種類によって異なる。
腹びれがないこと、顎の歯が癒合していること、皮膚が厚いこと、敵に襲われると水や空気を吸い込んで体を大きく膨らませること、肉食性であることなど、フグ科と共通した特徴を多く持っている。ただし、フグ科の歯は上下2つずつ、合計4つになっているのに対し、ハリセンボン科の歯は上下1つずつ、合計2つである。科のラテン語名 Diodontidae(2つの歯)もここに由来する。また、フグによく似るが毒はない。
この科の最もわかりやすい特徴は皮膚にたくさんの棘があることで、「針千本」という和名も "Porcupinefish"(Porcupine=ヤマアラシ)という英名もここに由来する。なお実際の棘の数は350本前後で、和名のように千本あるわけではない。棘は鱗が変化したもので、かなり鋭く発達する。この棘は普段は寝ているが、体を膨らませた際には直立し、敵から身を守ると同時に自分の体を大きく見せるのに役立つ。ただしイシガキフグなどは棘が短く、膨らんでも棘が立たない。
浅い海の岩礁、サンゴ礁、砂底に生息する。他のフグ目の魚と同様に胸びれ、尻びれ、背びれをパタパタと羽ばたかせながらゆっくりと泳ぐ。食性は肉食性で、貝類、甲殻類、ウニなど様々な底生生物(ベントス)を捕食する。丈夫な歯で貝殻や甲羅、ウニの殻なども噛み砕いて食べてしまう。
本来は熱帯性の魚だが暖流に乗って北上し、水温が低下する冬季に海岸部に大量に漂着することがある。これらの漂着個体は水温が低すぎるため繁殖できずに死んでしまう(死滅回遊)。
おもな種類
- ハリセンボン Diodon holocanthus (Linnaeus, 1758) (Long-spined porcupinefish)
- 全長40cmほど。体に小さな黒い斑点がたくさんあるが、ひれには斑点がないことでネズミフグと区別できる。体色は褐色系だがまだら模様などには変異がある。全世界の熱帯・温帯に分布し、日本では本州以南に分布する。
- ネズミフグ D. hystrix (Linnaeus, 1758) (Spot-fin porcupinefish)
- 全長70cmほど、最大で80cm以上に達する大型種。体にもひれにも小さな黒い斑点がたくさんある。大型個体はかなり細身になる。
- ヒトヅラハリセンボン D. liturosus (Shaw, 1804) (Black-blotched porcupinefish)
- イシガキフグ Chilomycterus reticulatus (Linnaeus, 1758) (Spotfin burrfish)
- 全長60cmほど。体にもひれにも小さな黒い斑点がたくさんある。棘は短く、体を膨らませてもハリセンボンほどではない。
画像
- Diodontidae 20081222 02.JPG
(同様)
- Diodontidae 20081222 03.JPG
(同様)
- Diodontidae 20081222 04.JPG
(同様)
利用
- 剥製
- 食用
- 大型のものは棘を皮ごと取り除き、鍋料理、味噌汁、唐揚げ、刺身など食用になる。沖縄ではハリセンボンのことを「アバサー」と呼び、「アバサー汁」は沖縄料理の一つにも挙げられる。台湾の澎湖諸島ではハリセンボンの刺身や、棘を抜いた皮の湯引きが名物である。ただし、多くのハリセンボンは棘が鋭く扱いに要注意である。
- フグの仲間だが、毒は持っていないので、皮や肝も食用になり、ふぐ調理師免許を所持していない者でも調理は可能である。
- また、例外的に卵には毒があるので、卵は食されない。
被害
ハリセンボンが大量発生して網にかかった場合、一斉に体を膨らませ、とげを立てるために漁獲した魚が傷つき、商品価値がなくなってしまうことがある。このため、ハリセンボンの大量発生は漁業被害にもつながっている[1]。
別名
- 「アバサー(沖縄方言)」
- 「ハリフグ」
- 「バラフグ」
- 「イラフグ」
- 「カゼフグ」 など
脚注
- ↑ “漁業に被害を与える生物”. 島根県水産技術センター. . 2013閲覧.