ニシキゴイ
ニシキゴイ(錦鯉)は、 観賞魚用に改良したコイ(Cyprinus carpio) の品種の総称である[1]。色鮮やかな体色が錦にたとえられた。日本の新潟県で品種改良や養殖が進み、国内各地への移入や海外輸出が進んだ。「生きた宝石」「泳ぐ芸術品」とも呼ばれ、錦鯉の業界団体は日本の国魚と位置付けている[2]。
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概要
黒以外の鯉を色鯉(イロゴイ)、特に赤い鯉を緋鯉(ヒゴイ)、特に観賞魚として色彩や斑点など、体色を改良されたものを錦鯉(ニシキゴイ)という。特に錦鯉にはその模様によって多くの品種があり、紅白、大正三色、昭和三色、黄金、浅黄などがある。錦鯉は飼育用として人気が高く、斑点模様、色彩の鮮やかさ、大きさ、体型を価値基準として高額で取引されている。また、鱗が大きくて部分的にしかないドイツゴイも移入されている。これに対して、普通の黒色の鯉は真鯉(マゴイ)、烏鯉(カラスゴイ)または黒鯉(クロゴイ)、特に野生の鯉は野鯉とよばれる。なお、飼育型の鯉は尾びれの下半分が赤く染まっているものが多く見られる。
歴史
様々な色の鯉がいることは中国の西晋時代(4世紀)の書物に言及されている。意識して錦鯉を育てることは19世紀、日本の新潟県小千谷市と旧山古志村(現・長岡市)で始まったと一般的に考えられている[3]。水田で働く農民が、一部の鯉が他のものより明るい色をしているのに気づき、それを捕まえて育てたとされる(通常であれば他よりも明るい色は鳥やその他の捕食者に見つかりやすいため、その魚は生存しにくくなる)。小千谷市と山古志村で錦鯉の養殖が盛んになった背景に、1.冬期の非常食用として休耕田に鯉を養殖する習慣があり、2.山間部ゆえに隠田が多く存在し、比較的裕福であった、という2点が挙げられる。余裕のある農家の趣味として錦鯉の交配が進み、質の良い個体が売買されるようになった。それ以降も養殖は進み、20世紀までには数多くの模様が開発された。最も顕著なものは、赤と白の「紅白」と呼ばれるものである。1914年の東京博覧会に出品されるまでは、開発の程度が世に知られることはなかった。この東京博覧会から、錦鯉への関心は日本中で爆発的に広まった。さらに、錦鯉を飼う娯楽はプラスチック袋の発明以降は世界に広まり、飛行機や船の技術の進歩により、錦鯉の輸出は速く安全なものとなった。これらの要因により、錦鯉を低い損耗率で、世界中へ輸出できるようになった。現在は、多くのペットショップで広く売られており、専門のディーラーを通せば特に高い品質のものを買うこともできる。
愛好者が多いアメリカ合衆国で小売りを行う日本企業もある[4]。
なお、以後の新潟県では錦鯉の養殖が盛んになるが、2004年の新潟県中越地震により、旧山古志村をはじめ一時は壊滅的な被害を受けた。また、コイヘルペスウイルスにより、廃業になった業者もいる。
ニシキゴイの種類
ニシキゴイの変種は、その色、模様、鱗の有無で見分けることができる。まず主な色としては、白、黒、赤、青、緑、黄色、紫およびクリーム色がある。また、ニシキゴイには鱗に金属のような光沢があるものがあるが、こういったものは金鱗・銀鱗と呼ばれる。また、ほとんど全ての種に対して鱗のない変種がある。日本のブリーダーはそれらを「ドイツゴイ」と呼んでおり、日本産のニシキゴイとドイツ産のカガミゴイ(鏡鯉)を交配することで鱗のない変種を作り出している。それらドイツゴイには側面に大きな鱗を持つものもいるが、全く鱗のないものもいる。
また、バタフライコイ(1980年代に開発された、長くゆったりと垂れるひれが特徴的)は、実際にはアジアコイとの交配種であり、本物のニシキゴイとは見なされていない。
可能な変種は限りないが、ブリーダーは特定のカテゴリーで識別し命名している。ニシキゴイは約130種類とも言われ、最も知られたカテゴリーは御三家の「紅白」「大正三色」「昭和三色」である[5]。
代表的な品種
- 紅白
- 白い肌に赤い模様がある[10]。最もポピュラーな品種。
- 大正三色
- 白い肌に赤と黒の模様がある[11]。
- 昭和三色
- 黒い肌に赤と白の模様がある[12]。
- 浅黄
- 上面に薄青い鱗があり、下部に赤い鱗がある。
- 秋翠
- 浅黄と鏡鯉との交配により、生み出された品種。体色は浅葱色で部分的に鱗がついた浅黄の変種。初代秋山吉五郎が作出[13]。
- べっ甲
- 白、赤、黄色の肌に黒い模様がある[14]。
- 写り物
- 赤、白、または黄色の模様がある黒いもの[15]。
- 五色
- ほとんど黒で、赤、茶色、青のアクセントが入ったもの。
- 黄金
- 無地のもの。普通のものか金属光沢がある。色には赤、橙、プラチナ、黄、クリームなど。
- 孔雀
- 鱗が黒く、オレンジと白の体色を持ち、光沢があるもの。
- 変わり物
- その他のタイプのもの。
飼育
普通のコイは頑丈な魚で、錦鯉もその頑丈さを受け継いでいる。小さな器から大きな屋外の池まで、どんな場所でも飼える。ただし、コイは1メートル以上に育つことがあるため、コイの大きさに見合う水槽または池が必要になる。伝統的な屋内用アクアリウムは、丸いプラスチックの桶ほどには好ましくない。コイは冷たい水を好む魚であるため、夏に水が暖かくなる地方では池の水深を1メートル以上にするのが望ましい。冬に寒くなる地方では、全体が凍ってしまわないように水深は少なくとも1.5メートルにするのが望ましい。空気バブラーと桶形ヒーターを備えた広い場所に置くのもよい。
錦鯉の多くは明るい色をしているので、捕食者に対しては格好の標的となる。サギ、カワセミ、アライグマ、ネコ、キツネ、アナグマ、猛禽類などに池中の錦鯉を食べ尽くされてしまう場合があるため、屋外の池で飼育する際はサギが立てないだけの深さと、哺乳類の手が届かないような水面上のオーバーハング、および上空からの視線を遮るために上を覆う木陰を備えるといった設計が求められる。池の上面を網やワイヤーで囲う必要もあるかもしれない。ただし、山間に近い場合、稀に絶滅危惧種の水辺を好む野鳥がかかる事があり網は避けた方が良い。また池は、水を清潔に保つためのポンプと濾過システムを備えていなければならない。
コイは底で餌をとる魚であるが、沈む餌は食べ残しが水質を悪化させるおそれがあるため、単に栄養バランスが取れているだけではなく、水に浮くように作られている餌を与えると飼育の手間がかからないとされる。水に浮く餌を与える場合には彼らが餌を水面近くで餌を食べている間に、寄生虫や潰瘍がないかチェックすることもできる。コイは餌をくれる人を識別するので、餌の時間になると集まってくる。彼らは手から餌を食べるように教えることもできる。冬には消化器系の動きが遅くなりほとんど停止するので、餌はほとんど食べなくなり、底の水草をかじる程度になる。春になり水が温まるまでは食欲は戻らない。
日本では1990年代頃から観賞魚として熱帯魚が主流になってきているが、海外では錦鯉人気が上がってきている。インターネットの普及に従い、インターネット販売も広まっている。
産卵、孵化、稚魚の飼育などの方法は金魚と同じでよい。ある程度成長するまで金魚との識別が困難であるため、鯉と金魚を区別したい場合は、金魚と別の容器で飼育することが望ましい。
野外放流とそれに伴う問題
自然の河川や池やそれらにつながる用水路などに景観美化の目的などでニシキゴイが放流されることもあるが、ニシキゴイを含むコイは貪欲に在来の水棲生物を捕食する。このため、生態系を破壊する行為としての批判もあり[16]、駆除が求められる事もある。コイ#コイによる生態系の破壊問題も参照。
脚注
- ↑ “ニシキゴイ【ニシキゴイ(錦鯉) fancy carp】”. 世界大百科事典第2版 . 2017閲覧.
- ↑ 新潟で生まれた世界の観賞魚・錦鯉全日本錦鯉振興会新潟地区(2018年7月23日閲覧)。
- ↑ “錦鯉とその起源”. 全日本愛鱗会 (2015年7月15日). . 2016閲覧.
- ↑ 新潟鯉グローバル、米でニシキゴイ販売店を本格展開『日本経済新聞』電子版(2018年7月12日)2018年7月23日閲覧。
- ↑ File.86「錦鯉」NHK『美の壷』(2018年7月23日閲覧)。
- ↑ 錦鯉品種紹介
- ↑ 錦鯉の種類
- ↑ 品種と系統
- ↑ 錦鯉の品種
- ↑ “錦鯉の品種 - 紅白”. 全日本愛鱗会 (2015年7月15日). . 2016閲覧.
- ↑ “錦鯉の品種 - 大正三色”. 全日本愛鱗会 (2015年7月15日). . 2016閲覧.
- ↑ “錦鯉の品種 - 昭和三色”. 全日本愛鱗会 (2015年7月15日). . 2016閲覧.
- ↑ “錦鯉の品種 - 秋翠”. 全日本愛鱗会 (2015年7月15日). . 2016閲覧.
- ↑ “錦鯉の品種 - べっ甲”. 全日本愛鱗会 (2015年7月15日). . 2016閲覧.
- ↑ “錦鯉の品種 - 写りもの”. 全日本愛鱗会 (2015年7月15日). . 2016閲覧.
- ↑ 炎上するニシキゴイ放流イベント、優雅な姿の裏に潜む“利権”ブラックバスと肩を並べる「侵略的外来種」の恐るべき“被害”WEDGE Infinity(2017年6月30日)2018年7月23日閲覧。