トルコ軍
トルコ軍(トルコぐん、トルコ語: Türk Silahlı Kuvvetleri)は、ヨーロッパ大陸と小アジアにまたがるトルコ共和国の軍隊。兵員数は約65万人で、兵員規模に関しては北大西洋条約機構(NATO)加盟国で第2位に位置する。
最高指揮権は平時には大統領に属し、戦時には参謀総長(Genelkurmay Başkanı)に属すると憲法によって規定されている。
参謀総長の地位は事実上陸軍の指定席である。独自の核戦力は保持していないが、2005年まではアメリカ合衆国とニュークリア・シェアリングを行い、核抑止を行っていた。またキューバ危機の解決策として撤去されるまで、核弾頭を搭載したアメリカの準中距離弾道ミサイル(MRBM)「ジュピター」がソ連向け配備されていた。
国父アタテュルク以来の国是である世俗主義原則などの体制の守護者を任じ、1960年、1980年の2度の軍事クーデターと2016年にも軍事クーデター未遂を起こすなど、政治色の強い軍隊として知られ、現在でも高い政治的発言力を持つ。
実戦と国外派兵
第一次世界大戦でのオスマン帝国敗北後、ギリシャやアルメニア、フランスの侵攻・占領軍と戦い、現在のトルコ共和国の確立と領土確保の原動力となった(トルコ革命)。第二次世界大戦では、末期に日本に形式的な宣戦布告をしたのみで、中立を維持した。
戦後はソ連の脅威に対抗するため米欧と協調して朝鮮戦争に派兵したほか、NATOに参加して南からソ連・東欧諸国を牽制した。一方、同じNATO加盟国であるギリシャとの緊張は続き、キプロス紛争に介入。現在も北キプロスに駐留している。
トルコはアナトリア半島南東部にクルド人居住地域を含んでおり、独立を求めるクルディスタン労働者党(PKK)の武力闘争に対する鎮圧作戦を長年続けている。PKKなど反トルコ派のクルド人は国境をまたいで居住・活動しているほか、イラク内戦やシリア騒乱を機に勢力を拡張したイスラム国(ISIL)がトルコ本土でテロを起こすようになっている。このため親トルコ派勢力の支援も兼ねて、イラクとシリアへの派兵や越境空爆をしばしば行っており、両国政府から主権・領土の侵害として抗議を受けている[5][6]。
トルコは中近東有数の軍事力を有するうえ、経済発展により国民の自負心が高まっている。こうした背景により、中東・イスラム圏全体に影響力を及ぼそうとする「新オスマン主義」と呼びうる外交・安全保障政策をとりつつあると指摘されている。2016年には、オスマン帝国が一時支配下においていたペルシャ湾岸のカタールの軍事基地を利用する協定を結んだ[7]。
徴兵制度
トルコは良心的兵役拒否すら認めない完全な男性皆兵制をとっており、身体の障害などの理由がない限り、男性には15ヶ月間の兵役(大卒者は12ヶ月)が課され、それぞれ陸軍・海軍・空軍・沿岸警備隊に配属される。定期バスなどは道端で時々、軍のID検査があり、兵役を逃れている者がいれば、即刻そのまま任地に強制連行される(一旦、家にも帰れない)。18歳~40歳までの男性で、IDカード保持者(国籍保持者の男性)を対象に行われるが、学生の間は免除される。また、ジャンダルマは徴兵制をとっていない。一般には20歳までに兵役に応じ、最下級の兵士(er)としての訓練と任務に就くことになる。また、大学を卒業した者は、兵卒ではなく予備将校としての訓練を受ける。
兵役期間中の給与はきわめて安く、軍種・兵科・任地などにより異なるが、2004年現在おおむね2,000万トルコリラ(20新トルコリラ)程度である。これは、トルコの物価においてタバコ8箱程度であり、そのため一般には兵役は無償(bedava)とみなされている。これに対して職業軍人は「有給軍人(para askeri)」と呼ばれる。以前は代人料を払って兵役の期間を短くする制度があったが、貧富で差が出てきて問題になったため、今は廃止されている。
編成
トルコ軍は統合参謀本部(Genelkurmay Başkanlığı)を頂点に、陸軍・海軍・空軍によって編成されている。また戦時においては、内務省所属のジャンダルマ・沿岸警備隊がそれぞれ陸軍・海軍の指揮下に入ることとされている。
陸軍
- 第1軍司令部
- 第2軍司令部
- 第3軍司令部
- エーゲ軍司令部
- 第4軍団司令部(首都防衛)
- 訓練・ドクトリン司令部(軍級)
- 補給司令部(軍団級)
- キプロス駐留トルコ平和部隊司令部(軍団級)
- 航空司令部(旅団級)
さらにこれらの上級司令部の下、以下の師団・旅団等の戦闘部隊等が配置されている。
- 10個軍団
- 2個機械化歩兵師団
- 2個機械化歩兵師団司令部
- 1個歩兵師団
- 1個歩兵訓練師団
- 14個機械化歩兵旅団
- 14個機甲旅団
- 12個歩兵/国内治安旅団
- 5個特殊任務旅団
- 5個訓練旅団
装備品はできる限り国産化しており、現在K2をベースとした初の国産戦車となるアルタイを開発中。
現在、イスラエルで開発されたサブラMk.IIの改修パッケージによりM60をM60Tに改修し運用中。
海軍
アンカラの海軍司令部の下、以下の上級司令部が置かれている。
- 艦隊司令部(軍級)
- 北方海洋方面司令部(軍団級)
- 南方海洋方面司令部(軍団級)
- 海洋訓練・教育司令部(軍団級)
さらにこれらの上級司令部の下、以下の艦艇及び戦闘部隊等が配備されている。
過去に所属した艦艇も含めた詳細は、トルコ海軍艦艇一覧を参照。
空軍
- 戦闘攻撃機 F-16ファイティングファルコンC/D×224機 F-4ファントムⅡE×174機
- 輸送機 CN235-100M×43機 C-130E/H×18機 C-160T×16機 エアバス A400M×2機(最終的に8機)
- 早期警戒管制機 ボーイング737 AEW&C×4機
アンカラの空軍司令部の下、以下の上級司令部が置かれている。
- 第1戦術空軍司令部(軍団級)
- 第2戦術空軍司令部(軍団級)
- 航空補給司令部(軍団級)
- 航空教育司令部(軍団級)
さらにこれらの上級司令部の下、以下の戦闘部隊等が配置されている。
- 19個戦闘スコードロン
- 2個輸送スコードロン
- 5個教育スコードロン
- 6個警戒スコードロン
- 1個給油スコードロン
- 8個地対空ミサイルスコードロン
脚注
- ↑ 1.0 1.1 “TSK Official History Information”. Turkish Armed Forces. Turkish Armed Forces. . 2 January 2014閲覧.
- ↑ “Military of Turkey Statistics”. CIA - The World Factbook (2012年11月6日). . 2012年11月11日閲覧.
- ↑ “Türkiye'nin ihracatı arttı ithalatı azaldı”. TRT News. . 30 November 2015閲覧.
- ↑ Ramazan Ercan. “Türk savunma sanayi ihracatta hız kesmedi”. Anadolu Agency Newspaper. . 9 January 2015閲覧.
- ↑ “トルコ軍、イラクとシリアで越境空爆「テロ準備」主張”. 朝日新聞デジタル. (2017年4月25日)
- ↑ “イラク トルコと対立/モスル奪還作戦、参加を拒否”. 毎日新聞朝刊. (2016年10月25日)
- ↑ 「新オスマン主義」『読売新聞』朝刊2017年4月26日