デリバティブ
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金融理論におけるデリバティブ(英: derivative)とは、より基本的な資産や商品などから派生した資産あるいは契約である[1]。金融派生商品(英: financial derivative products)とも言われる。
Contents
概要
デリバティブとは、基礎となる金融商品(原資産)の変数値(市場価値あるいは指標)によって、相対的にその価値が定められるような金融商品をいう[2]。本来のデリバティブ取引は、債券や証券(株式や船荷証券、不動産担保証券など)、実物商品や諸権利などの取扱いをおこなう当業者が、実物の将来にわたる価格変動を回避(ヘッジ)するためにおこなう契約の一種である。原資産の一定割合を証拠金として供託することで、一定幅の価格変動リスクを、他の当業者や当業者以外の市場参加者に譲渡する保険(リスクヘッジ)契約の一種である。市場で取引される債券・商品には「標準品」「指数」があり、個別商品の先渡契約(forward)は一般にデリバティブに含まない。
ここ半世紀、USドルなどがユーロカレンシーとして流出し相場を上げる一方である。したがって為替ヘッジコストは一向に下がる気配がない。これまで多くの大事件に絡んできたデリバティブだが、需要は健在である。尚、デリバティブの利用目的には「リスクヘッジ」の他、「スペキュレーション(投機)」「アービトラージ(裁定取引)」がある。差金決済取引や空売りで利用するのである。
店頭市場と会計戦争
デリバティブ市場には二種類ある。証券取引所などの公開市場を介さない相対での取引(店頭デリバティブ)と、市場を介する取引(市場(上場)デリバティブ)である。取引規模としては市場デリバティブより店頭デリバティブの方が圧倒的に大きい[3]。店頭デリバティブ市場は1980年代初頭にユーロカレンシー・ユーロ債市場で発生した。発行体のバランスシートには載らないオフバランス取引が、デリバティブについては堂々と行われていた。
1984年、財務会計基準審議会が緊急問題専門委員会(EITF)を設置して、オフバランス金融に関する問題を集中討議した。委員会は金融商品ごとの事後対応に限界を感じて、審議会に包括的な会計基準をつくることを要請した。1986年5月、審議会は委員会の要請を討議の項目に加えた。さしあたりディスクロージャーさせて実態を認識し、各デリバティブを負債/資本項目のいずれとするべきかを考えることにしたが、悠長な姿勢は機関投資家をグローバルに増長させた。ようやく1990年3月と1991年12月にそれぞれ基準書を公表して[4]、審議会はディスクロージャーの充実を図った。これらの基準はリスクの顕在化しないデリバティブをディスクロージャーの対象外とする甘いものであった。この点、1994年10月の対応で打ち切りとなった[5]。
ビッグバン目前の1985年12月、英国勅許会計士協会が「オフバランス金融と粉飾決算」という真面目な会計基準を公表した[6]。実質的な経済効果を重要とするウェールズの会計基準であったが、しかし法律専門家が反発して論争がおこった。機関投資家の時間稼ぎであった。会計委員会の示す妥協案は[7]、支持されながらも会社法改正作業で施行されなかった。会計委員会が蒸し返すと[8]、後継の会計基準審議会(Accounting Standards Board)が早急に基準化することができないといって、また時間がすぎた。1993-4年に分厚いのが出たけれども[9]、やはり遅かったし、内容も結果から推察された。
特別目的事業体
レバレッジ効果を有するデリバティブは、会計基準の緩さを良いことに、たびたび投機の対象となり多額の損失を生じた。シティコープが栄える一方で、カリフォルニア州・オレンジ郡などの運用セクションがデリバティブによる資産運用を失敗したことにより、その地方行政の存続に大きな影響を与えた。イギリスでは特別目的事業体を駆るクーツ商会(現RBS)出身のディーラーがデリバティブ投機でベアリングス銀行を倒産させた。これらを反省して、多くの会社は、このようなデリバティブへの投資に対して、リスクをモニタリングする仕組みを導入した。銀行業のデリバティブ投資へは、BIS規制や金融検査マニュアル等が自主的な危険管理を促した。
しかし特別目的事業体というのは、エンロン問題の一環でもあったが、パナマ文書で機関投資家の金づるとなっている実態が一層あきらかとなったものであり、モーゲージの証券化(MBS量産による信用創造)も担っていたので、これに関わる規制は大分手心を加えられた。世界金融危機は起こるべくして起こった。流動性の乏しいデリバティブ商品(相対型の保証契約やCDSなど)はマーケットメイカーから見放された。AIGは連邦準備制度が尻を拭いた。契約相手にかかわる信用リスク(カウンターパーティリスク)が適切に記述できないといった問題点は、1980年代から何も解決されていない。
デリバティブ取引の種類
先物取引
先物取引とは、将来の定められた期日(清算日)に、特定の標準化商品(穀物などの農産物・石油などの鉱物のうち標準的な指標となる特定銘柄)あるいは経済指標(為替レートや日経平均株価 = 日経225など)を、「定められた数量」、「定められた価格」で、「売り」「買い」を保証する取引の一種で、先物取引(futures)は、先渡し契約(forward)とは異なり、取引の対象とする原資産の価額(単価×数量)の一定%を担保(証拠金:価格変動による追証ないし強制決済あり)として支払うことで、一定範囲の価格変動リスクを保険(リスクヘッジ)しながら結ぶ契約であることに特徴がある。
取引の大部分は、ほとんどが清算日(限月/期日)までに同限月モノに対して反対売買を行い、買値より値上がりしている場合は差額を受け取り、値下がりしている場合は差額を支払う、ことで決済される差金決済が主流である。このため、その商品を最終的に入手したい実需家(当業者)が、調達市場としてこの取引市場を利用することは前提としていない。この点が先渡契約と異なる。一方で、価格形成の「読み」や期待が実需家(当業者)以外の広範な市場参加者から持ち寄られる特性があり、現在価格が安すぎると思う場合には買建て、高すぎると思う場合に先物商品が売建てられることで、期待や予測の反照として実物商品の価格が強く影響を受ける関係にあると考えた方がよい。実物を取り扱う市場参加者や当業者にとっては、対象となる実物価格と先物市場での売買価格との差を利用した裁定取引が可能であり、実物価格は先物価格と連動することが多い。
- 有価証券先物取引
- 標準品を対象とした先物取引で、差金決済が前提であるが実物による受渡も可能。
- 長期国債先物
- 超長期国債先物
- T-BOND 先物取引
- 有価証券指数等先物取引
- 複数銘柄から算定された数値(指数)を対象とした先物取引。差金決済のみ。
- 通貨(為替)先物取引
- 外国為替証拠金取引(FX)におけるリスクヘッジ商品として、3か月・6か月など限月を設定した取引。外国為替証拠金取引は「"将来"円高になるだろうから円買い」などの思惑・予測から売買されることが多いこともあって、先物取引であるとの誤解がしばしば見られるが、外国為替証拠金取引そのものは「直物為替先渡取引」に相当する先渡契約(forward)であり先物取引ではない(外国為替証拠金取引には限月の清算日がない)。外貨預金などをおこなう際に、現在の為替レートで為替固定するためFXの証拠金システムを利用することは可能であるが、半年先などの予想為替を現時点で確定させるためには、専門の先物取引市場や為替予約を利用する必要がある。
- シカゴ・マーカンタイル取引所為替先物
- 金融指標等先物契約
- 通貨の価格や株式・債券価格、利率など一定の金融指標について、約定の数値と将来の実際の数値との差に基づく金銭の授受を約束する契約である。
- 商品先物取引
- 穀物(コメ・大豆など)、砂糖、石油、貴金属(金・銀・白金)など
先渡取引と先物取引
先物取引と同じく、将来時点での取引を現在行うものだが、先物市場のようなクリアリングハウス(清算機構)をそなえた取引所を仲介した市場取引ではなく、相対取引で多くの場合反対売買も行われない。店頭で契約した商品を一週間後に受渡(納品)する、などといった定型的契約の場合は慣習的に現物取引と認識してよいとされるが、一過性で非定型的な取り引き、例えば4月1日に契約した10トンの米国産小麦を輸入して6月1日に指定倉庫で受け渡すような種類の輸入契約では、契約時点と受渡時点での時価の認識にずれが生じるため、会計上は先渡取引として認識する。
一般の先渡納品契約や輸出企業の為替予約など、相対契約の場合は先渡し契約であってデリバティブではない。先渡契約を締結した受け手がその債権・債務を転売することは先渡し契約であるが、先物市場でヘッジ目的に売買をする場合は先物取引である。いずれにせよ先渡取引は最終的に全額での決済が必要であり、代金に対して現物がかならず受け渡される。いわゆるデリバティブの特徴を満たしていないため商品取引所法や旧証取法(金融商品取引法)でデリバティブ扱いしていない。
スワップ取引
スワップ取引とは、あらかじめ決められた条件に基づいて、将来の一定期間にわたり、キャッシュ・フローを交換する取引である。
- 金利スワップ
- 同一通貨のキャッシュ・フローを交換する取引で、固定金利と変動金利を交換する取引が代表的なものである。この取引における金利に係る元本は想定元本と呼ばれ、実際には交換されず、単に利払金額を算定するための名目的なものである。円の金利スワップは特に円円スワップと呼ばれる。また、変動金利同士を交換するスワップ取引はベーシス・スワップと呼ばれる。
- 通貨スワップ
- 円とドルなど、異なる通貨のキャッシュ・フローを交換する取引をいう。外貨建債権・債務の為替リスクのヘッジなどを目的として行われる。通常は、金利の交換のみならず、取引の開始及び終了時点で元本の交換も行われるが、元本の交換を伴わない通貨スワップを特にクーポン・スワップと呼ぶ。
- 為替スワップ
- 直物為替と、反対方向の先物為替とを組み合わせたスワップ取引をいう。
- クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)
- 定期的な一定金額の支払と引替えに、特定の企業に関して一定の信用事由として規定された事由の発生があったときに一定の方法による決済を行うことを約束するもの。信用リスクとリターンを第三者に移転させるものであり、保証に類似する。
- トータル・リターン・スワップ
- トータル・リターン・スワップ(Total return swap)は、定期的な一定金額の支払と引替えに、特定の債権に関するリスク(信用リスクに限らない。)とリターンを移転させるものである。ローン・パーティシペーションに類似する。例えば発行済み株式数1億株の銘柄で現在100円の株式を上限300円と想定して10年で10%買い集めるよう契約を結び、10年で30億を支払うことを約する契約。この場合被依頼者側は30億円より安く調達できれば全て利益になる(300円以下で調達できなければ全て損害となる)一方で、依頼者側は現在の市場価格より割高であっても10%の調達が保証されるメリットがある。
- エクイティースワップ
- 片方または両方のキャッシュ・フローが株価、あるいは株価指数に連動しているスワップ取引。
オプション取引
オプション取引とは、ある原資産について、あらかじめ決められた将来の一定の日または期間において、一定のレートまたは価格(行使レート、行使価格)で取引する権利を売買する取引である。原資産を買う権利についてのオプションをコール、売る権利についてのオプションをプットと呼ぶ。オプションの買い手が売り手に支払うオプションの取得対価はプレミアムと呼ばれる。対象となる取引によって種類が異なる。代表的なものは次のとおり。
- 通貨オプション
- キャップ
- フロア
- カラー
- スワプション
- デジタルオプション
デリバティブの数理
デリバティブのプライシング理論は、金融工学の主要なトピックである。有名な「ブラック-ショールズ方程式」は、ヨーロピアンオプションの評価式である。デリバティブのプライシング理論は、文科系出身者が多い銀行業界では、「難しい理論であり、一部のクオンツだけのもの」とされることが多く、金融業界では「デリバティブは35歳を過ぎたら習得できない」などと言われることが多い(実際、デリバティブの数理では、確率微分方程式が出てくることが多い)。しかし、近年ではファイナンス系の大学・大学院が増えていること、デリバティブに関する書籍・解説書が増えており、デリバティブの数理に対するハードルは徐々に下がっている。
なお、公社債についてもデリバティブ取引のプライシング方法が応用される。
デリバティブ取引に関連した問題行為
- 三井住友銀行が金利スワップ取引の販売において優越的地位の濫用を行ったとして2006年4月に金融庁から行政処分を受けた[10]。
- 2004年から2010年9月にかけてみずほ・三菱東京UFJといったメガバンクが、リスクヘッジ機能を持つオプションの「買い」とリスクテイクとなるオプションの「売り」を組み合わた為替デリバティブを、「リスクヘッジ商品」と称して大々的に販売を行った。(6万件以上)。実際にはリスクヘッジ効果の何倍ものリスクを負うことになる、リスクヘッジとは正反対のリスクテイク商品であり、多数の企業が多額の為替差損を被ることとなったため、訴訟・ADRの申し立てが多発し社会問題となっている。(2010.12.4週刊ダイヤモンド 2011.7.5週刊エコノミスト他)
- 仕組債及びそれを組み込んだノックイン投信に関する被害状況は仕組債を参照
デリバティブの会計処理
現在の会計基準によれば、デリバティブ取引については、契約の締結時において、その発生を認識しなければならない。契約の決済すなわち、取引の終了時点に、契約から生じるリスクとリターンが契約当事者に帰属するためである。
また、毎期末においてデリバティブ取引において生じる正味の債権または債務は、時価をもって貸借対照表に計上され、評価差額は当期の損益として損益計算書に計上される。つまり、デリバティブ取引により生じた利益や損失は、ただちに損益計算書及び貸借対照表などの財務諸表に反映される。
ただし、ヘッジ会計における繰延ヘッジによる場合には、デリバティブ取引による評価差額は、貸借対照表の純資産の部における評価換算差額などに、「繰延ヘッジ損益」等の科目をもって計上されるが、損益計算書においては計上されない。例を挙げるならば、持ち合い株式などの「その他有価証券」に、デリバティブ取引によるヘッジ会計を適用していた場合、その他の有価証券が売却されるまで、損益計算書に損益が認識されることは無く、貸借対照表に評価差額が計上されることとなる。
脚注
- F・パートノイ『大破局』(徳間文庫)
- ↑ 大村敬一『ファイナンス論—入門から応用まで』有斐閣、2010年、195頁
- ↑ 企業財務制度研究会『金融派生商品の情報開示に向けての調査研究』財団法人企業財務制度研究会1994年p.56。また直接の引用はPDF[1]のp.4
- ↑ “デリバティブ市場|日本取引所グループ”. . 2015閲覧.
- ↑ Statement of Financial Accounting Standards 105, Disclosure of Information about Financial Instruments with Off-Balance-Sheet Risk and Financial Instruments with Concentrations of Credit Risk, March 1990, part 1; Statement of Financial Accounting Standards 107, Disclosures about Fair Value of Financial Instruments, December, 1991.
- ↑ Statement of Financial Accounting Standards 119, Disclosure about Derivative Financial Instruments and Fair Value of Financial Instruments, October 1994.
- ↑ Technical Release 603, Off-Balance Sheet Finance and Window Dressing, December 1985.
- ↑ Accounting Standards Committee, Exposure Draft 42, Special Purpose Transactions, March 1988.
- ↑ Exposure Draft 49, Reflecting the Substance of Transactions in assets and Liabilities, May 1990.
- ↑ Accounting Standards Board, FRED4, Reporting the Substance of Transactions, February 1993; FRS5, Reporting the Substance of Transactions, April 1994.
- ↑ 株式会社 三井住友銀行に対する行政処分について金融庁 報道発表資料 平成18年4月27日
関連項目
外部リンク