ディーゼル微粒子捕集フィルター

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ファイル:Diesel particulate filter 01.JPG
日産・M9Rエンジンに装着されるDPFのカットモデル

ディーゼル微粒子捕集フィルター[1](ディーゼルびりゅうしほしゅうフィルター、Diesel particulate filterDPF)は、ディーゼルエンジン排気ガス中の粒子状物質を漉し取り軽減させるフィルターである。トラックバストラクターなどのマフラーなどに装着する。

技術

ディーゼルエンジンの排出ガスを浄化する技術の代表的なものに選択触媒還元(Selective Catalytic Reduction、SCR)やディーゼル微粒子捕集フィルター(Diesel Particulate Filter、DPF)があり、このうち後者は排気ガス中の粒子状物質を捕集するための処理装置(フィルター)である[2]

日本では2003年八都県市首都圏1都3県と横浜市川崎市千葉市さいたま市)で実施された排気ガス規制が実施された際に、基準を満たさない車両に半ば強制的に装着が義務づけられたことから注目された。最近では鉄道車両気動車の一部にも装着されている。

機構

基本的には、粒子状物質をフィルタで捕捉するだけである。ただし、フィルタが目詰まりを起こして機能が低下するため、ヒーターなどで燃焼再生させるセルフクリーニング機能が付加されている場合もある。このような機構を Diesel Particulate active-reduction (DPR) と呼ぶ。

また、触媒を組み合わせることにより、酸化されやすい一酸化炭素炭化水素、粒子状物質を除去するものもある。この触媒方式では、フィルタの前段に強力な酸化触媒を置くことで、排出ガス中の窒素酸化物 (NOx) をより二酸化窒素 (NO2) の多い状態にし、二酸化窒素の強力な酸化性能で粒子状物質を燃焼させるというジョンソン・マッセイ社(イギリス)が開発したCRT(連続再生式フィルタ、Continuously Regenerating Trap)が初めて実用化の目処を示した[3]

フィルタの素材は、熱に強いセラミックが用いられてきたが、コストの軽減を図るためにステンレスを用いるものもある。

なお、エンジンオイルには耐摩耗剤酸化防止剤として亜鉛化合物や清浄剤・中和剤としてカルシウム化合物などの分(アッシュ)・リン・硫黄を含む金属系添加剤が多く配合されていたが、これらの成分は燃えずに排気とともに排出され、浄化装置に悪影響(早期の目詰まりや浄化性能の低下など)を与える。そのためDPF付き車両には粒子状物質浄化システムに対応すべく、従来のディーゼル用エンジンオイルよりもアッシュ成分を大幅に低減、リン硫黄分も抑えた規格オイルが使用される。DPFに対応したオイル規格としては日本ではJASO規格の軽量車用としてDL-1、重量車用としてDH-2が、アメリカではAPI規格のCJ-4、欧州ACEA規格では、乗用車、軽負荷商用車用のCカテゴリ全般と、高負荷商用車用のEカテゴリのE6、E9などがそれにあたる。エンジンによって要求規格は異なり、規格よっても灰分・リン・硫黄の規制値が異なるため同じDPF対応オイル規格であっても基本的に流用は出来ない。

2010年代以降、日本で製造・販売される大型トラック・バスについてはこのDPFと尿素SCRシステムとの併用による排気ガス浄化装置がほぼ標準装備となっている。

種類

DPFは再生方式により以下の種類に分類できる。

連続再生方式

CRTに代表される方式で、フィルタに捕集しながら再生を行う理想的な方式。CRTなどは、電気など外部からのエネルギーの補填を必要としないので自己再生方式とも呼ぶ。ウォールフロー型のため、PMの低減率は概ね9割を超え比較的高く、酸化触媒の作用によりCO、HCにも低減効果がある。

再生するためは、酸化触媒内の温度を二酸化窒素を生成するのに必要な250 - 300程度に上昇維持させる必要があり、この温度維持のために排気ガスの熱エネルギーやポスト噴射(燃焼工程後の追加噴射)もしくは排気管内噴射により燃料を触媒内で燃焼させることによって得た熱を利用する。再生に使う燃料噴射は多少の燃費の悪化を伴う。特にポスト噴射を行う場合は燃料の一部がシリンダー壁に付着してエンジンオイルを希釈するという問題がある。排気管に燃料点火弁を設け、この希釈問題を回避する技術もある。

なお、再生可能な温度に達しないまま走行を続けるとフィルタが詰まり、さらにこの状態で高速走行あるいは高負荷運転を行うと溜まった粒子状物質が急激に燃焼、その燃焼熱でフィルタの耐熱温度(約600℃程度)を超えてしまいフィルタが溶損する。したがって、稼働のためには、酸化触媒とフィルタの温度制御が重要である。

連続してエンジンに負荷をかければ使用中に再生が行われるが、アイドリングや短時間の運転を繰り返すと排気温が上がらないため再生が進まない。フィルターが詰まってくると警告灯が点灯するようになっている。一部にはすすの堆積量を表示できるものもある。車両の運行等の使用中に再生できない場合は手動で再生する。エンジン回転を上げて、排気温度を上昇させる方法で行う。再生には数分 - 数十分の時間を要する上、通常は走行等ができないため、燃料と時間のロスを伴う。

また、酸化触媒が、軽油内の硫黄分から触媒内で生成されるサルフェート(硫酸塩)の被毒に対して弱いため、S50などの低硫黄軽油の使用が推奨されている。

なお、既存エンジンにも装着可能な後付タイプとエンジン製造時に装着されエンジンシステムに統合された一体型の2種があるが、後付タイプでは温度維持を排気ガスの熱のみに頼っており、市街走行など排気温度が上がりにくい条件下では再生が効かないなど稼働条件が限定されるため、コモンレール式噴射システムを併用することで触媒とフィルタの温度制御を細かく行え稼働条件の制限が少ない一体型が主流となっている。

間欠再生方式

排気圧力をセンサー感知して、フィルタが目詰まりを起こす前に自動で新しいフィルタに切り替え、もう一方で捕集している間に電気ヒータによって高温でPMを燃焼させる方式である。エンジンの運転状態に左右されることなく再生を行える利点はあるもののフィルタを自動で切り替える装置が複雑かつ大型になることと、再生用ヒーターを稼働させるために大容量オルタネータや大容量バッテリが必要なことから搭載スペースに余裕のある大型車にしか装着できない欠点がある。なお、酸化触媒を装備しないため、CO、HC、NOxの低減効果はないが、軽油内の硫黄分の影響を受けないため硫黄分の多いS100以上の軽油も使用できる。

また、これに似た方式として、目詰まり警報を行うものの、フィルタの交換装置を持たず、警報時に運転者が外部電源式のヒータを機動させて再生を行う手動式もある。こちらのものは、自動型より装置自体が簡単かつ小型で追加の電気装置も不要なため後付けしやすい利点があるが、反面走行中は一切再生が出来ずPMが蓄積される一方になるため、一回の再生で走行できる距離が短く(100km前後)長距離走行ができない欠点がある。

添加剤再生方式

燃料中にセリア(酸化セリウム(IV)、CeO2)などの触媒を添加し、粒子状物質と触媒とをより接近させることで粒子状物質の酸化を促進することにより再生するやり方。装置自体は比較的単純でコストも安価だが、触媒を定期的に給油する必要がある。

脚注

外部リンク