ディスプレイ (コンピュータ)
ディスプレイ(英: display) はモニタ (monitor) ともいい、コンピュータなどの機器から出力される静止画または動画の映像信号を表示する機器である。
Contents
概要
コンピュータの出力機器の一つであり、画像を表示する方法には以下のようなものがある。
- ブラウン管 (CRT)
- 液晶ディスプレイ (LCD)
- プラズマディスプレイ (PDP)
- 有機ELディスプレイ (OLED)
- マイクロLEDディスプレイ マイクロLEDディスプレイ Micro LED(mLED)
- ビデオプロジェクタ
このうち、ビデオプロジェクタはブラウン管または液晶の表示をレンズで拡大表示するものが多いがデジタルミラーデバイス (DMD) を使ったものもある。
デスクトップパソコン向けの単体のディスプレイ装置は、かつては、ほとんどがブラウン管を使用した、パソコン専用のディスプレイだったため、CRTという用語がディスプレイ装置全体を指すほどであった。また、パソコンのグラフィック出力はテレビ(アナログブラウン管)よりも高解像度になり、専用のディスプレイはテレビよりも高価であった。
しかし1990年代後半から液晶を用いた単体のディスプレイ装置が登場し、2007年頃までにパソコン専用のCRTの新規生産出荷はほとんど行われなくなった。2009年現在では単体のディスプレイ装置の主流は液晶となっている。また、テレビ(デジタル化、液晶、PDP等)も高解像度となり、パソコンと接続して画像表示が可能になっていった。
パソコン専用の単体のディスプレイ装置(ブラウン管・液晶とも)については、パーソナルコンピュータ (PC) 本体とともに、「資源の有効な利用の促進に関する法律」の適用を受けることになり、メーカーによる回収・リサイクルが制度化された。詳しくはパーソナルコンピュータ#PCとリサイクルを参照のこと。
ビデオ信号はビデオ表示回路(ビデオカードなど)で生成発生され、少なくとも一つ以上の表示規格を満たす。規格には画面サイズ(表示領域の大きさ、表示画素数では無いことに注意)、発色数、水平および垂直方向の走査周波数、信号インターフェースの電気的特性などがあり、これらのいくつかは互いに関係しあう。
技術畑の人たちには「ディスプレイ」という言葉のほうが「モニタ」よりも好まれることがある。これは「機械語レベルのデバッグ」や「スレッド同期機能」をあらわす「モニタ」と混同しやすいためである。コンピュータディスプレイは、他に「ビデオ表示端末」(VDT) とも呼ばれる。
歴史と入力インタフェース
初期のCRTを用いたVDTはグラフィクス表示機能を持たず、前身の電動機械との類似性から「ガラスのテレタイプ端末」などと呼ばれた。
モノクロ(モノクローム)・ディスプレイは、単色のON/OFFだけが表示でき、グレイスケール・ディスプレイは単色の階調を表現できる。CRT時代はモノクロディスプレイというと実際にはグレイスケールディスプレイであったが、初期のLCD (Liquid crystal display) /PDP (Plasma Display Panel) ディスプレイはカラー表示ができなかったため、単色のみで階調表示もできないものが珍しくなかった。色信号を付加する必要が無いため、画像信号の伝送には、通常のNTSC等のビデオ信号と、単一のRCA端子、または、BNCコネクタが使用されていた。また、ブラウン管では表示色は蛍光材で決まり、グリーン、アンバー(オレンジ)、白があった。
初期のカラーモニタのインタフェースにはデジタル式とアナログ式があった。デジタル式の場合、三原色のRGB(赤・緑・青)それぞれをON/OFFできるだけであり、表示可能な色は8色(黒・青・赤・マゼンタ・緑・シアン・黄・白)である。デジタル式でもRGBI (RGB-Intensity) 方式では、8色の各々の輝度を全輝度と半輝度とに制御することができ、8色の明暗で合計16色が表示できた。初期のIBM PCのCGAカードのインターフェースはこの方式であり、今日のディスプレイ標準でも16色というとこの組み合わせが用いられる。デジタルモニタはTTLモニタと呼ばれることがあった。これはRGB各色を表すのにTTLレベルの電気的インターフェースを用いたことによる。9ピンのD-Subコネクタ (DE-9)、または8ピンか6ピンのDINコネクタと8ピン角型デジタル端子で接続される。
アナログ式の場合、RGB各色が連続的に表現されるため、原理的にはすべての色が表示可能であるが、コンピュータの表示回路が生成可能な色数に制約される。最新のディスプレイ装置では24/32ビットカラー表示に対応する。24ビットの場合はRGBそれぞれが8ビット、すなわち256階調の組み合わせで1677万色。32ビットの場合は8ビットが余りとなるが、これは表示には関与しない。国内規格としては15ピンのD-sub (DA-15)、PC/ATにおいてはVGA端子(15ピンミニD-sub、DE-15)が一般に用いられる。または、家庭用テレビ受像機と互換性のある21ピンコネクタが使用される。表示領域が広く、同期周波数が高い場合(いわゆる高解像度)は、同期信号と色信号を別々のBNCコネクタで接続する場合もある。また、新しいデジタルインターフェースであるDVI規格においては、32ビットフルカラー表示に対応した信号伝送が可能である。デジタルコンテンツ保護の規格HDCPを備えるものもある。
2007年頃からデジタル家電やパソコン・ビデオカードにHDMI端子が普及したことに伴い、液晶ディスプレイでもこれを備えるものが増えてきた。HDMI規格自体にライセンス料が発生するが、DVIと互換性があり設計コストが低いことから、2009年現在では低価格帯のディスプレイにも搭載されるようになっている。
2007年にはUSB接続の液晶ディスプレイが登場した。液晶ディスプレイ側にグラフィックスコントローラを搭載し、別途ディスプレイケーブルを接続する必要がない。またUSBポートから電源を供給できる製品もある[1]。 2009年現在ではサブディスプレイとして利用できる小型サイズの製品が一部で普及しつつある。
新しい世代のインターフェイス規格としてDisplayPortがあるが、コストや互換性などの問題もあり、2017年現在、ディスプレイでは一部の高級機種で搭載されるに留まっている。しかしビデオカードについては、2017年現在、低価格でもDisplayPortの出力に対応する製品が増えている。
解像度など
解像度
最近のCRT表示器は非常に柔軟性に富んでおり、おおむね640×480(通称VGA解像度)から1920×1080 (Full-HD) で32ビットカラーまでの範囲で、様々な表示周波数に対応が可能である。特殊な用途では、さらに情報量の多い2048×1536 (QXGA) や3940×2160 (4K) にも対応できるものもある。
画素数が固定されている液晶ディスプレイの場合は、パネル自体と異なる解像度を表示するために拡大または縮小処理する必要が生じ、文字がぼやけて見づらくなる現象が発生する。液晶パネル自体と同じ解像度を用いるのが望ましい。
リフレッシュレート
CRTモニタで使用できるリフレッシュレートの上限は解像度を上げるほど低くなる。リフレッシュレートが低いとちらつきが増え見づらくなる。液晶ディスプレイのリフレッシュレートはWindows等では便宜上60Hzと表示されることが多いが、原理上は気にする必要はない。
アスペクト比
ブラウン管ディスプレイは専ら4:3が主流だった。液晶ディスプレイは普及期には4:3や5:4(1280×1024ドットのパネル)が中心だったものの、2000年代半ばから16:10のワイド画面が特に家庭向けで多くを占めるようになった。さらに2008 - 2009年にはデジタルハイビジョン放送・薄型テレビと同じアスペクト比である16:9の製品が主流になりつつある。
サブピクセルアンチエイリアス技術
LCD等、ディスプレイ技術によっては、原理的に色のレジストレーションずれ(RGB各色の輝点の中心が完全にはそろわないこと)がある。このため、色によって、輝点の中心が異なる事になる。2001年頃から、ソフトウェア設計者が鮮明なテキストイメージを表示するためにこのレジストレーションずれをうまく利用しはじめた。その例としてマイクロソフトのClearTypeやアドビシステムズのCoolTypeがある。macOSでもQuartzにより同等の機能が実装されている。
人間の目が、輝点の位置の認知については鋭敏だが、色については鈍感であることを利用し、文字表示についてのみ実際の画面解像度以上の解像度を擬似的に利用することが可能である。以前から、同様の技法として、ジャギーの周囲に、周辺色との混色を配置するアンチエイリアシングが存在したが、この手法を、1ピクセル以下の領域で行うのがクリアタイプである。ただし日本語文字フォントではこの機能は働かない場合がある。
ディスプレイの解像度が低すぎてイタリック表示ができない場合でも、文字を移動させればイタリック表示になりうる。見かけ上ピクセルの何分の一かの移動は、その分の時間軸を遅延させることにより実現できる。
画面回転(ピボット)機能
液晶ディスプレイの一部には画面を90度回転し縦長の状態で使用できる製品がある。縦長な印刷物の制作などに適している。ただし回転させるとサブピクセルの配列の見え方が異なるため、細かい文字等の表示に違和感が生じたり、上記のようなサブピクセルレンダリング技術は適切に動作しない。
ピボット機能をもつ液晶ディスプレイはスタンドに回転機構が備わっているが、そうでないディスプレイでも別売のモニターアームなどを使って回転させることができる。
OS側を画面回転に対応させるために、かつては専用のユーティリティソフトウェアを使用する必要があったが、近年ではビデオカードのドライバやOS自体にその機能が含まれており特別なソフトウェアをインストールすることなく対応できる場合が多い。
CRTモニタでは、奥行きが大きいため縦長画面にして安定的に設置できる場合がある[2]。アーケードゲームを移植した縦スクロールシューティングゲーム等では縦長表示に対応しているものがあった。
キャプチャ
キャプチャとは、コンピュータからディスプレイに送られている信号を画像データとして記録する行為を云う。これを俗にスクリーンキャプチャと呼ぶ。キャプチャされた静止画はスクリーンショットと呼ぶ。以下に、主なオペレーティングシステムでのキャプチャ法を示す。
ただし、一部のソフトウェアが起動中の場合は、「コピー禁止」と言う画像が生成され、スクリーンショットが撮影できない場合もある。
- Microsoft Windows
- ディスプレイに映っている画像はキーボードの[PrintScreen]キーを押す事でクリップボードに保存する事が出来る。
- [Alt]キー +[PrintScreen]キーを押すとアクティブウィンドウだけクリップボードに保存される。
- Windows Vista(一部エディションを除く)・Windows 7にはSnipping Toolが含まれ、マウスのドラッグアンドドロップで画面の任意の一部分を切り取ってキャプチャできる。
- 上記の方法ではマウスカーソルが含まれない。マウスカーソルを含めたキャプチャなど機能を強化したキャプチャ専用アプリケーションが多数存在する。
- Macintosh
- [Command]キー + [shift]キー + [4(キーボード左上から)]キー + [caps lock(キーボード左下)]キーの4つのキーを同時に押す事で、「Macintosh HD」の中にディスプレイに映っている画像が保存される。
- macOSでは[Command]キー + [shift]キー +[3(キーボード左上から)]キーで画面全体、[3]キーのかわりに[4]キーを押すことによって選択部分の画像が保存される。
- X Window System
- % xwd -root > file
によってファイルに保存できる。
動画の静止画キャプチャ
通常の静止画キャプチャ操作では動画部分は取り込めないことがある。グラフィックスデバイスドライバのアクセラレーションがキャプチャインターフェイスを提供しないため、抜け落ちてベタ一色に取り込まれる。
この問題を解決するためにはオーバーレイを使用しないか、アクセラレーションを使わない再生を行なう必要がある。
Windows
Windows Media Playerでアクセラレーションを使わない再生を行なう場合は以下の操作を行う。ツール→オプション→パフォーマンス→ビデオのパフォーマンス→「ハードウェアアクセレータ」の値を「なし」にする。 もしくは、オーバーレイを使用しないビデオレンダラ(非オーバーレイVMRなど)を選択する。
Windows Vista以降では原則としてオーバーレイが使用されなくなったため、ほとんどの場合は特別な設定をすることなく通常の静止画キャプチャ操作で動画も取り込める。
X Window System (UNIX,FreeBSD,Linux,etc.)
Video OverlayデバイスをX11などにする。
MPlayerであれば"-vo x11"オプションを用いる。~/.mplayer/configに"zoom=yes"等の記述が無いとアスペクト設定ができないことに注意。
動画の動画キャプチャ
一般的には録画ソフトによって行なわれる。
ディスプレイの歴史
コンピュータにディスプレイが使用されたのは1960年代で、IBM、Univac、RCA等の米国メーカーが先行し、日本のコンピューターメーカーが追従した。欧米では『アルファベット』の表示のみで充分だが、日本では『仮名』を追加し、さらには『漢字』へと拡張していった。ほぼ、平行して図形、画像を表示するディスプレイが開発され、最終的には文字、図形、画像が統合されたマルチメディアを表示するディスプレイに発展した。PC (Personal Computer) の能力アップと普及によりディスプレイの役割が終わり、1990年代から次第にPCへその技術とともに引き継がれた。
文字ディスプレイ
富士通のディスプレイはコンピューター制御用(コンソール用)からスタートし、データ入力やコンピューターに蓄えられたデータの情報検索用(インクワイアリィ)へと用途が拡大し、需要が急増した。
コンソール用ディスプレイ
コンピューターはコマンドにより制御される。初期のコンピューターシステムではコマンドはパンチ・カードや紙テープを作成し、リーダでコンピュータに読み込む。コンソールパネル(操作卓)[3]に設置されたランプで表示されたマシーン語を解読し、スイッチ類を操作してコマンドを入力しコンピュータを制御する。これらの操作は煩雑で高レベルのスキルが必要、かつ時間も手間もかかるという欠点があった。この問題を解決するために応答が速く、操作性が良いコンソール用タイプライタが設置され、コマンドの入力やコンピュータ内のレジスタ情報を印字した。このタイプライタをディスプレイに置き換えて更に応答速度や操作性が向上した。
富士通の最初のディスプレイF6221Aは1968年に京都大学に納入された大型コンピュータFACOM230-60のコンソールに使用された。総製造台数は2台、1台は納入、他の1台は社内に設置しソフトウエアの開発やバックアップ用とした。ディスプレイは入出力制御装置を介してコンピュータに接続され、表示部、文字発生部、キーボード(以下KB)と表示画面に対応した文字コード・データを蓄積するメモリ(以下リフレッシュメモリという)を含む制御回路で構成されている。表示部はオレンジ色12インチCRTで1000文字(50字×20行)のアルファベットと仮名を表示する。CRT(ブラウン管)は電子ビーム(陰極線)を走査して文字の形を発光させるが、一瞬の間に消えてしまうのでリフレッシュメモリに蓄積した文字コード・データを1秒に25回以上読み出して文字発生部で文字の形に変換した信号をCRTに送り発光させて静止画像を得る。文字発生はフライングスポット管方式(後述)を使用した。KBはタイプライタ配列の文字鍵盤とファンクションキーで構成され、文字データとコマンドの入力に使用される。制御回路ではKBまたはコンピュータからの文字データをリフレッシュメモリに格納し、コマンドによりコンピュータ間の送受信制御やリフレッシュメモリ内の文字コードの追加・挿入・削除・訂正等の処理を行う。制御回路はトランジスタとダイオードの論理回路で構成した[4][5]。
1969年に開発したディスプレイF6221BはコンピュータF230シリーズのコンソールとして使用された。総製造台数は約50台。表示部はグリーン色12インチCRTで1000文字(50字×20行)のアルファベットと仮名文字を表示する。文字発生は3インチ・モノスコープ管(後述)を、リフレッシュメモリにはコアメモリを使用した[6]。
1970年に開発したディスプレイF6222Aは小型コンピュータF230-15に使用され、ローコストが要求された。表示部はグリーン色9インチCRTで80文字(16字×5行)のアルファベットと仮名文字を表示する。文字発生は『田』に『X』を重ね合わせた形を基本図形とし、必要な部分を表示して文字の形とした。リフレッシュメモリにはMOSメモリを使用した[7]。
1971年に開発したディスプレイF6221DはコンピュータF230-5シリーズの標準コンソールとして使用された。総製造台数は約400台。表示部にはマルチコーティング[8]したガラスパネルを表示面に貼り付けたグリーン色の15インチCRTを使用し、天井灯等の反射光軽減を計った。この技術は高級カメラのレンズで採用されていたもので、旭光学に依頼、大面積で均一にするために苦労して開発した。文字発生は2インチ・モノスコープ管(後述)を使用した。リフレッシュメモリにはMOSメモリを使用し、制御回路にはフリップフロップやゲートをモジュール化したICを使用して大幅な小型化を計った[9]。
1974年に開発したカラーディスプレイF6221KはコンピュータF230-8シリーズの標準コンソールとして使用された。表示部は高解像カラーCRT(後述)で、1000文字(50字×20行)のアルファベットと仮名文字を7色のカラーで表示する。内外各社のディスプレイはまだモノクロディスプレイの時代で、世界初のカラーディスプレイとなった。文字発生は半導体ROMを使用し、7×9ドットのマトリックスの必要な部分を表示して文字の形とした。リフレッシュメモリにはMOSメモリを使用した。
データ入力・インクワイアリィ(情報検索)用ディスプレイ
初期のコンピューターシステムでは、データやコマンドをパンチ・カードや紙テープを作成してリーダで読み込んで入力し、コンピュータで処理した結果の出力はラインプリンタ[10]で印字していた。訓練されたオペレータが大量の伝票を入力していたが、入力データの確認や修正が簡単で容易であることが、処理結果の出力についてはスピードと不要な用紙の削減が要望され、ディスプレイが使用されるようになった。
1973年に開発したディスプレイ・サブシステムF9520は電話回線および専用線経由でコンピュータに接続し、遠隔地からの入出力を可能にした。回線との通信を制御するコントローラ1台に対して最大32台のディスプレイやプリンタを接続した。表示部にはモノクロとカラーの2種があり、モノクロームは表示面をマット処理(磨りガラス状)したグリーン色17インチCRTを使用、天井灯等の反射光軽減を計り、1920文字(80字×24行)のアルファベットと仮名文字を、カラーは12インチで7色のカラーで表示する。文字発生は半導体ROMを使用し7×9ドット文字を採用した。リフレッシュメモリにはMOSメモリ[11]を使用し、マイクロプログラム方式を採用、簡易プロセッサーとシンプルなマシーン語で記述した簡易モニター(プログラム全体を管理するプログラム)を含むプログラムで構成する制御回路を独自に設計した。KBにはタイプライタ配列のキーの右側にテンキーや10数個のファンクションキーを配列してデータ入力の容易化を図った。テンキーの配列には電卓型と電話型があったが約30人に試行してもらって電卓型とした。総生産台数は8000台に達した[12]。
1970年代はIBMのコンピュータ360シリーズ、さらに後継の370シリーズが好評で全世界を席巻していた。多くの業務用アプリケーションプログラムはIBMコンピュータの仕様で設計されていたので、このプログラムを利用するために日本のコンピューターメーカー各社は協同してIBM仕様をカバーするコンピュータ・システム(IBM互換機)を開発した。コンピュータ本体だけではなく周辺機器の仕様を合わせることが必要でIBMのディスプレイ3270の公開された仕様をもとに、1976年にディスプレイ・サブシステムF9525を開発した。表示部モノクロは17インチ、カラーは16インチを使用、制御回路には市販のモトローラ社製8ビットMPU(マイクロプロセッサ)を使用した[13]。
ディスプレイ・サブシステムF9525の後継機として、1979年に省電力、省スペース、ローコスト化と機能強化を計ったF9526を開発した。表示部にはモノクロとカラーCRTに加えてネオンオレンジ色15インチPDP(プラズマディスプレイ)を追加し、HDLC回線への接続や、自己診断、トレース、折り返しテスト等のRAS機能(可用性)を充実した。市場のニーズは大きく、年間10,000台を超える生産をした(PDPの総生産数は100台弱)[14]。
グラフィックディスプレイ
コンピュータからベクトル(線分)データ群を受けて図形やグラフを表示(ベクターイメージ)する。初期のグラフィックディスプレイはCRT画面に仮想格子点を設け、その格子の交点から別の交点へ電子ビームを走査してベクトルを表示した。その後、半導体メモリが低価格で供給されるようになり方式が変わってきた。各格子点に対応してメモリ(カラーや濃淡を表す場合は複数ビット)を割り当て、ベクトルデータを演算して表示する格子点のメモリに記憶させる。
1969年に開発したグラフィックディスプレイF6233は米国Westinghouse社[15]から輸入した22インチ円形で表示面がフラットなCRTを使用した。画面上に4,096×4,096の格子点を設けコンピュータからのデータにより、格子点から別の格子点への線分を表示して図形を表現する。線分データは仮想格子上の位置と縦方向と横方向の長さデータで構成され、リフレッシュ・メモリとして最大16K語のコアメモリを使用し、約8,000本の線分を表示することが出来た。ロケットの設計や軌道計算、列車ダイヤの編成、自動車の設計や科学計算の結果表示等に利用された。同時に開発したグラフィックディスプレイF6232はテレビ型の17インチCRTを使用、仮想格子点は1,024×1,024でリフレッシュメモリは4K語のコアメモリを使用、約2,000本の線分を表示した[16]。
先端科学技術分野から、次第に商業・生産等のビジネス分野に応用範囲が広がり、ローコストで簡易なグラフィックディスプレイが求められた。1973年に開発したグラフィックディスプレイF9530は線分表示用のメモリとしてスキャンコンバータ管[17](当初はThomsonCSF社製を、次にRCA社製を輸入し、最終的には富士通社内で生産した)を使用した。線分データをスキャンコンバータ管に記録し、ラスタースキャンで読み出してCRTに表示する。
1970年代にテクトロニクス (Tektronix) 社が開発したグラフィックディスプレイT4010[18]は高画質、ローコストで、CRT画面に光蓄積機能を持つ蛍光体を使用[19]し、リフレッシュ機能を省略した画期的な装置で世界中のユーザから評価され採用された。この価格、性能に対抗できる装置として、1980年にグラフィックディスプレイF9430を開発した。モノクロ型は14インチCRTで格子点は1,000×800、カラーは7色のカラーで格子点は500×400、各格子対応のリフレッシュ・メモリにICメモリを採用した。
1970年代後半からコンピュータを使用して設計作業の効率化を図るソフト (CAD : Computer Aided Design) が開発され広く使用され始めた。富士通は設計支援ソフトICADを開発し、当初はグラフィックディスプレイF9430を使用したが機能が低く、複雑な図形表示が困難等の問題があり、1986年に高性能・高機能のグラフィックディスプレイF6240を開発した。表示面に反射軽減処理をした20インチカラーCRTを使用、格子点は1,024×800、7色のカラー表示、図形表示に加えて文字ディスプレイF9526(前述)と日本語ディスプレイF6650(後述)の機能を持つ。
ロッキード社開発のCADAMやダッソー社開発のCATIAなどの機能が高いCADシステムが日本の先進的な企業や研究所等で導入された。これらのCADシステムはIBMコンピュータ環境で開発されていたのでグラフィックディスプレイもIBM仕様が要求され、この仕様を満足するVector General社製グラフィックディスプレイVG8250を輸入して使用した。後、Vector General社へ技術者を長期派遣し、技術移管を受けて1988年にグラフィックディスプレイF6245を開発した。20インチカラーCRTを使用し、多色の線画や1600万色のソリッド[20]を表示した。
漢字ディスプレイ
電電公社(現 : NTT)からの開発依頼で試作機(特仕J2482号)を納入、続いて1972年に漢字ディスプレイF6570を開発した。いずれもグリーン色で標準型は17インチCRTに512文字(32字×16行)、ワイド型は横長20インチCRTに1,024文字(64字×16行)の漢字を表示した。ワイド型CRTはソニーガラスに依頼して電子銃を2個取り付けられる特殊構造のファンネル[21]を購入し富士通にて製品化した。文字円盤とビジコン(撮像管)を使用した文字発生装置からスキャンコンバータ管(前述)を使用した表示用メモリに書き込む。透明なプラスチック板に5,376文字(円周方向に364字、半径方向に14行)の漢字が印刷された文字円盤をモータで高速回転し、目的の漢字がビジコン正面に来たときに同期してフラッシュ発光し、ビジコンに記録して読み出す[22]。
1978年に開発した漢字ディスプレイF6580の標準型は672字(32字×21行)、ワイド型は1,344字(64字×21行)、漢字を32×32のドットで表示する。制御装置はコンピュータとの送受信や小型ディスクに収容した約7,000種の漢字のドットパターンを16台の漢字ディスプレイに供給する。また、1,024×1,024(ワイド型は2,048×1,024)ドットのリフレッシュ・メモリに線画を描く機能があり、新聞レイアウト等に使用された[23]。
マルチメディアディスプレイへの展開
1970年代までのコンピュータのシステムソフトウェアはアルファベットと仮名のみをサポートし、特殊業務別にアプリケーションソフトウェアでグラフィックスや漢字がサポートされていた。ディスプレイも一般事務処理用の文字ディスプレイ、科学・技術・製造・設計等のグラフィックディスプレイ、出版・新聞や住所氏名を扱う業務等の漢字ディスプレイと別々に開発されてきた。一般の業務の中にグラフィックスや漢字等のマルチメディアを取り込んで統一的、段階的にサポートしたのがJEF(Japanese processing Extended Feature : 日本語処理拡張機構)システムである。各種ディスプレイの仕様を統一しシステムソフトウェアでサポートした。第1ステップはアルファベット・仮名のシステムに漢字を加えてデータ処理を、第2ステップは日本語による文章処理、第3ステップでマルチメディア(図形・画像(イメージ)・音声)の情報処理をサポートした。
第1ステップは1979年に日本語ディスプレイF6650を開発した。モノクロ・カラーともに14インチCRT、JISで規定された漢字約6,400字種を1文字24×24ドットで表示し1920字(80字×24行)を表示した[24]。
第3ステップは1983年に日本語ディスプレイのエンハンス版F6653A、F6658A、F6673Aを開発した。F6653Aはグラフや簡単な図形を表示するグラフィックス機能を、F6658Aはワードプロセシング機能[25]を、F6673Aは画像(イメージ)を表示する機能を持っている。
ディスプレイ基本技術の推移
表示
21世紀に入ってからの表示はパネルが主流でLCD(Liquid Crystal Display : 液晶ディスプレイ)やPDP(Plasma Display Panel : プラズマディスプレイ)がテレビやパソコンに採用されている。ディスプレイが開発された1960年代はこれらの表示パネルは研究・試作が始まった段階で、CRT(Cathode Ray Tube : 陰極線管、またはブラウン管ともいわれる)の時代であった。
CRTはオシロスコープ等の測定器やレーダー等で古くから使用されていたが、テレビで使用されて急激に大量生産された。ディスプレイでは、テレビ用のCRTを改造、シャープな文字を表示するために解像度を上げ、目への刺激が少ないオレンジ色 (F6221A) やグリーン色(F6221B以降)の蛍光体[26]を使用した。(白黒テレビ用の蛍光体は白色)
NTSC方式カラーテレビのCRTはディスプレイに必要な1000字(50字×20行)の表示が出来るほどの解像度ではなかったが、NHKのハイビジョンの試作機を見学して実用化の見通しを得た。この試作機に使用されているCRTメーカーの三菱電機に依頼しディスプレイ用の高解像カラーCRTの供給を受けた。その後コストダウンタイプを松下電器から供給を受けた。カラーテレビの解像度は主にCRT表示面に近接してセットされているシャドウマスクのドット・ピッチに比例する。当時のテレビに採用されていたNTSC方式では2ドット/mmで、1974年開発のディスプレイF6221Kの表示部はハイビジョン用CRTと同じく3ドット/mm、さらに高解像が必要な漢字表示のCRTは東芝に開発を依頼し供給を受けた。1979年開発の漢字を表示する日本語ディスプレイF6650は4ドット/mmである。ハイビジョンの放送開始が1989年、その15年前の1974年にディスプレイのカラー化が実用化、高解像CRT大量生産の基礎となった。
テレビの画面表示は、CRTの垂直方向(縦)で1秒間に40 - 60回の鋸歯状波、水平方向(横)で1秒間に3 - 10万回の鋸歯状波で偏向して画面全体を一様にスキャンする(ラスタースキャンという)。1968年 - 1971年開発のディスプレイF6221A・B・Dでは、垂直方向は1画面に20行を表示するために20段の階段波と文字を表示する1行分の細かい正弦波を重畳させた波形を、水平方向は1秒に1,000回の鋸歯状波で偏向する変則ラスタースキャンを行った[27]。1970年開発の小型コンピュータ用ディスプレイF6222Aは『田』に『X』を重ね合わせた形の基本図形を表示するためにラスタースキャンの垂直、水平方向に文字用の偏向を加えた極めて特殊なスキャン(走査)を行った[28]。1974年開発のディスプレイF9520・F6221K以降はテレビと同様なラスタースキャンを採用した。
文字発生
1968年開発のディスプレイF6221Aはフライング・スポット管方式[29]の文字発生方法を使用した。フライング・スポット管は高解像のCRTでフィルム・スキャナ等に使用される。フライング・スポット管の表示面にアルファベットと仮名文字を記録したフィルムを密着してセットし、リフレッシュメモリから1文字ずつ読み出し、フライング・スポット管でフィルム中のその文字の部分を選択してスキャンする。フィルムを通り抜けた光を光電子増倍管で受け、電気信号に変換し、増幅して表示部にビデオ信号を送る[30]。
1969年開発のディスプレイF6221Bは3インチ・モノスコープ管[31]を使用し、1971年に開発したディスプレイF6221Dは2インチ・モノスコープ管を使用して小型化を計った。モノスコープは高解像のフライング・スポット管の技術を利用している。モノスコープもCRTであるが、アノードは蛍光体ではなく金属板があり、文字の形に穴の開いた金属板がアノードの金属板の前に平行に近接して設置されている。フライング・スポット管と同様に文字版を走査し、アノードから直接、電気信号を得て、表示部に送る[32][33][34]。
注釈
- ↑ ただし内蔵グラフィックスコントローラは簡易的なもので、3D性能などに難がある場合が多い。またUSB接続はデバイスドライバが必要で、使用できるOSが限られる。
- ↑ そのような使用方法は推奨されないため自己責任となる。
- ↑ en:Front_panel
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