テリーザ・メイ
テリーザ・メアリー・メイ(Theresa Mary May、1956年10月1日 - )は、イギリスの政治家。イギリス首相(第76代)、保守党党首(第27代)。名は「ティリーザ」と発音・表記されることもある。旧姓はブレイジャー(Brasier)。
庶民院議員、枢密顧問官、内務大臣などを歴任した。マーガレット・サッチャーに続く、イギリスで2人目の女性の保守党党首かつ首相。
Contents
経歴
生い立ち
イーストボーンに生まれる[1]。公共活動派だったイングランド国教会司祭の父に影響され、12歳の時に政治家を志した[2]。 グラマースクールと呼ばれる公立進学校を経て、オックスフォード大学のセント・ヒューズ・カレッジで地理学を学ぶ[3]。
庶民院議員
イングランド銀行でキャリアを始動させた後に、Association for Payment Clearing Services (APACS) で勤務する。
1997年から庶民院(下院)議員となり、2002年に保守党の幹事長に就任する[1]。2003年には枢密顧問官となった。
内務大臣
2010年の総選挙で保守党が勝利して政権に復帰すると、内務大臣に就任した[3]。
保守党は政権復帰の際に移民を10万人未満に抑えるとしていた。2010年当時、英国に流入する正味の移民は約25万人であった。メイが内務大臣であった時期に正味の移民の数は増減したが、2015年には約33万人にまで上昇し、そのうちの42パーセントがEUからの移民だった[4]。
EU離脱の是非を問う国民投票
メイは基本的には欧州懐疑派の政治家とみなされてきたが[5] 2016年6月23日に実施された英国のEU離脱の是非を問う国民投票ではEU残留に投票することを表明した。しかし残留のキャンペーン展開には消極的であった[6]。
2016年保守党党首選挙
EU離脱の是非を問う国民投票で離脱派が勝利したことを受け、デーヴィッド・キャメロンが首相辞任を表明し、後継者選びのための保守党党首選挙が行われることになった。メイは立候補の意向を示し、保守党党首に選出された場合には「保守党と英国のまとまりを強化する」と意気込みを語った[7]。自らは残留に投票したEU離脱問題については、国民投票の結果を受けてEU離脱を遂行させると言明した。EU離脱交渉では、人の移動の自由の制限とサービス・財の貿易の両方を可能な限り要求していく考えを示している。欧州連合条約(Treaty on European Union)第50条については、英国の交渉方針が合意に至るまでは行使せず、2016年度内の行使はないとみられている[7]。
また、メイは人権と基本的自由の保護のための条約(ECHR)を破棄することを提案していたが、首相になった場合はこの提案を撤回すると述べた。EU離脱後の英国を上手く機能させるとも主張した[8]。そして英国を団結させ、英国の未来のための強い新たな肯定的なビジョンをもつことが必要だとし、そのビジョンは「一握りの特権階級のためのものではなく英国国民全員のためのビジョンである」と論じた。マクロ経済の財政政策に関しては緊縮寄りであり、歳出削減と財政赤字削減を進めていく方針である。ただし、財務大臣ジョージ・オズボーンが言及していた緊縮財政政策のための懲罰的予算は編成しないと述べている[7]。さらに、2020年以前に解散総選挙を行うことはないとも言明した[8]。ただし、結局は翌2017年5月に議会解散を行っている。
保守党党首選挙は当初5人が立候補したものの、候補者が次々と辞退したことにより、2016年7月12日にメイが唯一の党首選挙候補者となった。このため、メイの保守党党首就任が確定した[9]。
イギリス首相
2016年7月13日、キャメロンの首相辞任を受けてバッキンガム宮殿へ参内し、エリザベス2世女王から首相就任の承認を受け、第76代イギリス首相に就任した[10]。マーガレット・サッチャーに続く女性で2人目の首相、かつ、21世紀で初めての女性のイギリス首相となる。首相就任後に首相官邸前で所信表明を行う[10][11]。
新政権成立にあたって、主にEU離脱問題を担当する閣僚ポストとして、欧州連合離脱大臣が新設され、デイヴィッド・マイケル・デイヴィスをそのポストに起用し、キャメロン政権で外務大臣を務めたフィリップ・ハモンドを財務大臣に充て、ハモンドの後任外務大臣にボリス・ジョンソン前ロンドン市長を起用するなどの主要閣僚を発表して、正式にメイ内閣(第1次)を発足させた[12]。
2017年6月8日に実施された総選挙の結果を受けて、第2次メイ内閣を発足させた。
2017年8月30日から9月1日にかけて来日し、安倍晋三内閣総理大臣と日英首脳会談を行い、皇居に参内し今上天皇へ謁見した。
政策
- 先述した通り、基本的には欧州懐疑主義者である。英国はEUの肥大化(トルコなどの加盟)に疑問を呈するべきであるという[13]。
- 内務大臣時代には英国をテロから保護して出入国管理を厳格にし、犯罪を効果的に対処するために警察を指揮する仕事に携わっていた[14]。
- 現代的奴隷労働の摘発
2015年にメイは内務大臣として「Modern Slavery Act 2015」を可決させた。これは欧州では最初の法制化であり違反者に厳しい罰則を課すものだった[15]。
人身売買の犯罪歴のある者を出入国させないための手段としても重要な法制化だった。これにより被害者の保護が強化されただけでなくビジネスにも透明性を高めるよう要求することになった。
首相になったメイはこれでもまだ不十分だとみている。2015年度は289件の現代的奴隷労働を摘発したが、さらに多くの奴隷労働を摘発し被害者を支援できると考えている。
地方警察も場所によって対応度に差があり、2015年4月から2016年3月の期間に43の地域のうち6の地域では一つも現代的奴隷労働を摘発しなかった。メイは全ての地域の警察が現代的奴隷摘発を優先的に扱うように当局に命じている[15] 。 英国だけでも少なくとも1万人が現代的奴隷労働の被害にあっており、全世界での被害者は4500万人以上となっている。ハイリスク国家では定期的に人身売買が行われ被害者は英国へ送られてくる。
これに対処するため、3300万ポンドを費やし5年間で「International Modern Slavery Fund」を設立するとした[15]。
- グラマースクール
1998年に当時の労働党政権下で首相トニー・ブレアは新規のグラマースクールを禁じた。2016年に首相となったメイは保守党政権下で新規のグラマースクールを設置することを検討している。保守党の議員らはメイの方針に同意し、「グラマースクールの拡大によって学校の選択の幅が広がることは素晴らしいことだ」と述べた[16]。
- 英国の国家安全保障上の脅威となるような海外からの投資
中国の国営会社が英国のサマセットの原子力発電への約180億ポンドの投資を計画しており、ヒンクリーポイントの新世代の原子力発電所建設も提起していたが、メイはその計画承認を遅らせる決定をした[17]。
ヴィンス・ケーブル元ビジネス・イノベーション・技能大臣によれば、メイは中国による英国のビジネスへの関与に安全保障上の懸念を抱いており、中国人ビジネスマンへのビザルールを緩和することには乗り気ではないのだという[18]。
メイとは対照的にジョージ・オズボーン元財務大臣は中国からの投資に積極的であり、中国の会社による高速鉄道プロジェクトを推進し、そして中国人ビジネスマンへのビザ発行には寛容的であった[17]。
内務大臣時代のメイは英国の安全保障上の脅威になるような海外からの投資を防止するために、より厳格な米国型のテストを導入したがっていた[17]。しかし、メイは中国の習近平国家主席と李克強国務院総理に両国協力を呼びかける極めて異例な直筆の手紙[19][20]を送付しているようにキャメロン前政権と同様にメイ曰く「英中の黄金時代」[21]を続けたいとして中国を重視しており、フィリップ・ハモンド財務大臣は中国とのFTAの締結を交渉入りさせている[22]。
結局、中国が出資するヒンクリーポイントの計画は「英国政府の許可なしに権益を売買できない」とする条件付きながらメイは承認した[23][24]。
人物
- 2012年に1型糖尿病と診断され、インスリン注射による治療を受けている。
- 夫は大学時代の同窓であるフィリップ・メイ。オックスフォード大学に留学していたベーナズィール・ブットの紹介で知り合った。
- 自分の意見を表に出さず、政治家同士で馴れ合うことを良しとしないため、「氷の女王 (the Ice Queen)」と呼ばれる[25]。
発言
脚注
- ↑ 1.0 1.1 1.2 Theresa May: Meet the woman who could be the next British Prime Minister ? The Daily Telegraph, 7 Jul 2016
- ↑ http://www.theguardian.com/politics/2014/jul/27/theresa-may-profile-beyond-the-public-image
- ↑ 3.0 3.1 Theresa May Biography Politics.co.uk
- ↑ Woman Who Presided Over Biggest Ever Migration Surge Wants To Be PMN. Hallett, Breitbart News Netwark, 30 Jun 2016
- ↑ Boris Johnson urges Cabinet ministers who backed In campaign to 'think again'P. Dominiczak and S. Swinford, The Daily Telegraph, 26 Feb 2016
- ↑ Who wants to stay in the European Union?R. Sabur, The Daily Telegraph, 2 Mar 2016
- ↑ 7.0 7.1 7.2 Theresa May: 'I can unite our party and our country' The Daily Telegraph, 30 Jun 2016
- ↑ 8.0 8.1 Theresa May vows to 'forge a new role' for Britain outside European Union as second female prime minister in nation's history S. Swinford and C. Hope, The Daily Telegraph, 11 Jul 2016
- ↑ “テリーザ・メイ氏、13日に英首相に就任へ”. (2016年7月12日) . 2016-7-14閲覧.
- ↑ 10.0 10.1 “テリーザ・メイ氏、英首相に就任 「世界での新しい役割」を約束”. (2016年7月14日) . 2016-7-14閲覧.
- ↑ “メイ新英首相「あなたのためにできることを何でも」 所信表明”. (2016年7月14日) . 2016-7-27閲覧.
- ↑ “英新首相が就任、主要閣僚任命 仏独首脳に「交渉準備に時間必要」”. (2016年7月14日) . 2016-7-14閲覧.
- ↑ David Cameron accused of risking national security by helping fund Turkey's EU bidS. Swinford, The Daily Telegraph, 27 Apr 2016
- ↑ Theresa May Member of Parliament for Maidenhead Conservatives, Keep up to date with the campaign
- ↑ 15.0 15.1 15.2 Theresa May: We will lead the way in defeating modern slavery T. May, The Daily Telegraph, 30 Jul 2016
- ↑ Theresa May to end ban on new grammar schools B. Rile-Smith, The Daily Telegraph, 6 Aug 2016
- ↑ 17.0 17.1 17.2 Hinkley Point nuclear deal: Theresa May demanded national security checks on Chinese investors, says Vince Cable T. Ross, The Daily Telegraph, 30 Jul 2016
- ↑ “Osborne rejected safeguards over Chinese role in Hinkley Point, says ex-minister”. The Guardian. (2016年8月1日) . 2016閲覧.
- ↑ “英首相、中国との貿易促進や世界的な課題での協力望む”. ロイター. (2016年8月16日) . 2016閲覧.
- ↑ “英首相、「中国なだめ」で習近平主席に直筆の手紙”. 東亜日報. (2016年8月18日) . 2016閲覧.
- ↑ “「英中関係は黄金時代」メイ首相、金融強化はかる”. 朝日新聞. (2016年9月6日) . 2016閲覧.
- ↑ “UK explores multi-billion pound free trade deal with China”. BBC. (2016年7月24日) . 2016閲覧.
- ↑ “英政府、EDFの原発計画を承認-中国企業も出資の2.44兆円事業”. ブルームバーグ. (2016年9月15日) . 2016閲覧.
- ↑ “英政府、中国出資の原発新設計画を承認 条件付きで”. 朝日新聞. (2016年9月15日) . 2016閲覧.
- ↑ “テリーザ・メイ氏、どんな人? イギリスの新首相のあだ名は「氷の女王」”. ハフィントン・ポスト. (2016年7月13日) . 2016閲覧.
外部リンク
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