チャノキ
チャノキ(茶の木、学名:Camellia sinensis)は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹である。加工した葉(茶葉)から湯・水で抽出した茶が飲用される[1](「利用」の項参照)。チャの木あるいは茶樹とも記され、単にチャ(茶)と呼ぶこともある。原産地はインド、ベトナム、中国西南部とされるが詳細は不明。茶畑での栽培のほか、野生化した樹木を含め熱帯から暖帯のアジアに広く分布する[2]。
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特徴
チャノキには大きく分けて2つの変種がある。基準変種のチャノキ(Camellia sinensis var. sinensis)は中国南部に自生する灌木である。丈夫な枝、短い茎、細長い葉を持ち、藪や岩だらけの傾斜地などに自生し、0.9-5.5メートルに成長する。短い期間なら霜にも耐えられるため、インド北東部のダージリン地方、台湾やセイロン島中央の山地といった高所の栽培に向いている。
インドのアッサム地方に自生するアッサムチャ(Camellia sinensis var. assamica)は8-15メートルにも達する高木になる。大きな葉をつけるため茶葉の収量は多い[3]。
中国や日本の茶畑で栽培される基準変種は通常、1メートル前後に刈り込まれるが、野生状態では2メートルに達する例もある。幹はその株からもよく分枝して、枝が混み合うが、古くなるとさらにその基部からも芽を出す。樹皮は滑らかで幹の内部は堅い。若い枝では樹皮は褐色だが、古くなると灰色になる。
葉は枝に互生する。葉には短い葉柄があり、葉身は長さ5-7センチメートル、長楕円状披針形、先端は鈍いかわずかに尖り、縁には細かくて背の低い鋸歯が並ぶ。葉質は薄い革質、ややばりばりと硬くなる。表面は濃緑色で、やや艶がある。その表面は独特で、葉脈に沿ってくぼむ一方、その間の面は上面に丸く盛り上がり、全体にはっきり波打つ。
花は10-12月初旬頃に咲く。そのため「茶の花」は日本においては初冬(立冬〔11月8日頃〕から大雪の前日〔12月7日ろ〕)の季語とされている[4]。花は枝の途中の葉柄基部から1つずつつき、短い柄でぶら下がるように下を向く。花冠は白く、径2-2.5センチメートル、ツバキの花に似るが、花弁が抱え込むように丸っこく開く。
果実は花と同じくらいの大きさに膨らむ。普通は2-3室を含み、それぞれに1個ずつの種子を含む。果実の形はこれらの種子の数だけ外側に膨らみを持っている。日本の地図記号で茶畑を表す記号はこの果実を図案化したものである。
気候・土壌との関係
熱帯あるいは亜熱帯原産であるため寒さに弱い。暑くても乾燥した気候には弱く、旱魃(干害)で枯れ込むこともある。チャは他の多くの植物と違って酸性土壌を好む植物であり、酸性化が進んでいる土壌への耐性が比較的強い。また、本来は陽樹に区分されるが、日射量が少ない環境にさらされても生き延びることができるという、耐陰性に優れた特性を持っている。
分類
- チャノキ Camellia sinensis (L.) Kuntze
- トウチャ Camellia sinensis (L.) Kuntze f. macrophylla (Siebold ex Miq.) Kitam.
- ベニバナチャ Camellia sinensis (L.) Kuntze f. rosea (Makino) Kitam.
- アッサムチャ(ホソバチャ) Camellia sinensis (L.) Kuntze var. assamica (J.W.Mast.) Kitam.
日本での栽培
日本では鎌倉時代以降、喫茶の習慣や茶道が広まるとともに、各地に茶産地が形成された。茶畑での露地栽培が主流であるが、福寿園(京都府木津川市)は温室栽培により新茶を通年で収穫することを目指す研究を進めている[5]。
栽培植物の逸出と日本在来種説
日本では栽培される以外に、山林で見かけることも多い。古くから栽培されているため、逸出している例が多く、山里の人家周辺では、自然林にも多少は入り込んでいる例がある。また、人家が見られないのにチャノキがあった場合、かつてそこに茶を栽培する集落があった可能性がある。
九州や四国に、在来(一説には、史前帰化植物)の山茶(ヤマチャ)が自生しているという報告がある。また、日本自生の在来系統を一般的に日本種という言い方をする[6]説がある。
一方、「日本の自生茶とも言われて来たヤマチャについて、その実態を照葉樹林地域、焼畑地域、林業地域、稲作地域と概見した結果、歴史的にも植物学的にも、日本に自生茶樹は認められないという結論に至った」[7]という日本自生の在来種説に否定的な研究がある。また、「伊豆半島、九州の一部などから野生化の報告もあるが、真の野生ではない」[8]とされ、YList [9]では帰化植物とされている。
「北限の茶」
チャノキは元来寒さに弱いが、日本国内では喫茶の普及に伴い北日本でも栽培されるようになった。「北限の茶」を謳う産地としては、奥久慈茶(茨城県大子町)[10]、村上茶(新潟県村上市)[11]のほか、宮城県旧桃生町(現石巻市)の桃生茶[12]、気仙地方(岩手県南部の太平洋側)で栽培される気仙茶[13]がある。
生産量は少ないものの、保存・復活が試みられているさらに北の茶産地としては檜山茶(秋田県能代市)[14]や黒石茶(青森県黒石市)[15]。
北海道にも積丹半島の禅源寺(古平町)境内にチャノキがあり、これが植栽されている最北端とされる[16]。また茶専門店がニセコ地方で茶園づくりを試みている[17]。
利用
チャノキの葉は人間が口にする嗜好品として加工されている。チャノキの主に新芽にカフェイン、カテキン、アミノ酸(テアニン)等が豊富に含まれており、飲用として利用されている[18][19]。
また、種子からカメリア油を絞るのにも使われる。
茶品種
種苗法に基づいて登録されている日本の茶品種としては、下記のものが挙げられる(抜粋)。出典は脚注を参照[20][21]。
- 星野緑
- おくゆたか
- 司みどり
- たかねわせ
- さとう早生
- おくひかり
- めいりょく
- ふくみどり
- いなぐち
- 寺川早生
- みねかおり
- みなみかおり
- しゅんめい
- さえみどり
- 茶中間母本農1号
- ふうしゅん
- みなみさやか
- さわみずか
- べにふうき
- ほくめい
- みねゆたか
- 松寿
- 摩利子
- 三重緑萌1号
- あさのか
- 藤かおり
- 山の息吹
- 茶中間母本農2号
- さがらひかり
- さがらみどり
- 香駿
- さがらかおり
- さがらわせ
- さきみどり
- りょうふう
- みどりの星
- むさしかおり
- りょくふう
- 茶中間母本農3号
- 成里乃
- 奥の山
- はるみどり
- つゆひかり
- みえうえじま
- そうふう
- さいのみどり
- みやまかおり
- はるもえぎ
- きら香
- 鳳春
- 展みょう
- さやまかおり
- さやまみどり
- おくみどり
- やまとみどり
など。
脚注
- ↑ 茶樹と品種伊藤園(2018年3月12日閲覧)
- ↑ 片野田逸朗 『九州・野山の花 : 花トレッキング携帯図鑑 : 雨と大地と太陽の贈り物』 南方新社、2004年9月。ISBN 4-86124-023-9。
- ↑ ヴィクター・H・モア 『お茶の歴史』 忠平美幸訳、河出書房新社、2010。ISBN 978-4-309-22532-6。
- ↑ "茶の花(ちゃのはな)・初冬".(NPO法人季語と歳時記の会). 2015年12月8日閲覧
- ↑ 新茶の初摘み日本一早く 福寿園、温室で栽培日本経済新聞ニュースサイト(2018年1月5日)2018年3月12日閲覧
- ↑ 武田善行 『茶のサイエンス : 育種から栽培・加工・喫茶まで』 筑波書房、2004年4月。ISBN 4-8119-0258-0。
- ↑ 松下智『ヤマチャの研究 日本茶の起源・伝来を探る』「愛知大学綜合郷土研究所研究叢書(15)」岩田書院、2002年、ISBN 4-87294-244-2
- ↑ 佐竹義輔他編『日本の野生植物 木本Ⅰ』平凡社、1989年、p.140
- ↑ 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ↑ 奥久慈茶 日本最北限のお茶産地の情報サイト茨城県大子町(2018年3月12日閲覧)
- ↑ 北限の村上茶村上市観光協会(2018年3月12日閲覧)
- ↑ 北限の桃生茶宮城県観光連盟(2018年3月12日閲覧)
- ↑ 岩手)気仙茶の茶摘み 陸前高田『朝日新聞』2017年6月3日(2018年3月12日閲覧)
- ↑ 〝北限のお茶〟檜山茶を守り伝えるため山の斜面を茶畑にしたい。城跡、松並木がお茶づくりを引き立てます。FANAKITA(ファンあきた)2018年3月12日閲覧
- ↑ 黒石茶黒石観光協会(2011年7月6日)2018年3月12日閲覧
- ↑ 茶ガイド全国茶生産団体連合会・全国茶主産府県農協連連絡協議会(2018年3月12日閲覧)
- ↑ 「お茶産地」を創るルピシアだより(2016年11月号)2018年3月12日閲覧
- ↑ “カフェイン|お茶の成分と健康性|お茶百科”. 伊藤園. . 2012-9-4閲覧.
- ↑ http://ocha.tv/production/cultivation/basics/
- ↑ 農林水産省登録品種一覧表
- ↑ 中間母本
参考文献
関連項目
- 茶
- 茶園
- ロバート・フォーチュン
- 多田元吉
- 杉山彦三郎
- 中村順行
- チャノミドリヒメヨコバイ
- チャドクガ
- 茶木みやこ
- ティーツリー
- 入間市博物館:狭山茶の主産地として茶をメインテーマとする。1999年に特別展「北限への旅路―茶の自然と歴史を訪ねて―」を開催。