ダンス
ダンス(蘭: dans、英: dance)は伴奏に合わせて演じられる一連の動作である[1]。ソロ、デュエットあるいは集団で演じられ、祭りや儀式の場においても行われる[2]。太古から神々への礼拝、国事の祝い、歴史の伝承、言葉を用いない権力への抵抗、戦闘前の行事といった役割から身体を動かして自己を表現し、感情的、精神的、肉体的に自らを称賛したり、労働の際に共同体の協力を得る手段としても、またあるものは長い年月を経て洗練された舞台芸術となっている[2]。
日本では、はじめdanceの訳語として、舞(狭義の「ダンス」)と踏(「ステップ」)を組み合わせた舞踏(ぶとう)が使われた。しかし、坪内逍遥の「新楽劇論」(1904年(明治37年))で舞踊(ぶよう)という言葉が使われるようになり、現代ではこちらの方が一般的である。舞踊は、坪内逍遥と福地桜痴による造語で、日本の伝統的なダンスである舞(まい)と踊り(おどり)を組み合わせたものである。
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概説
ダンスの歴史は人類の歴史と同様に古く、その発生について詳しいことは分かっていない。現代に残る世界各地のダンスや、古代遺跡・遺物などから、本能的な身体動作、求愛行為、呪術的行為などが初期のダンスではないかと考えられている。しかし確かな証拠はない。
ダンスの目的は、二つあり、鑑賞を主たる目的としたものと、それ以外のものに大きく分けられる。前者は演者とそれを鑑賞する者から成り立つ、舞台芸術としてのダンス全般を指す。後者は、娯楽・社交としてのダンスや、スポーツとしてのものなど、ダンスへの参加を主たる目的としたものや、宗教・呪術行為としてのダンスなどが含まれる。
ダンスを演じる者を「ダンサー」と言う。また、ダンスの一連の身体の動きを決めたものを「振り付け」と呼び、振り付けを創作または指導する者を「振付師」と言う。西洋発祥のダンスにおいては、振り付けをコレオグラフィ(またはコリオグラフィ)、振り付け師をコレオグラファー(またはコリオグラファー)と呼ぶこともある。
世界各地のダンス
アジア地域
インド
- バラタ・ナーティヤム(Bharata Natyam)
- カタック(Kathak)
アジア地域のダンスには、歴史的な出来事や物語などを、ダンスの形態で表現するものが目立つ。また、演劇と不可分なまま発生・発展してきたものが多い。例えば、推古天皇の時代に日本に移入されたと言われる伎楽は、楽人と舞人とで構成される仮面音楽劇であり、日本舞踊の源流の一つとされている。
アジア地域の代表的舞踊劇には、日本の能、歌舞伎、中国の京劇、インドのカタカリ、ジャワ島のワヤン・オラン、バリ島のレゴンなどがある。これらの舞踊劇で行われるダンスは、僅かな所作も洗練されており、象徴性が極めて高い。
このようなアジア地域のダンスの形態や所作の象徴性は、19世紀末以降の西欧のダンサーや演劇に少なからぬ影響を与えた。例えばドイツの劇作家・演出家であるベルトルト・ブレヒトには京劇や能の影響が見られ、フランスの劇作家・演出家であるアントナン・アルトーはバリ島の舞踊劇にヒントを得て自身の演劇理論を編み出した。
一方、民間のダンスには、宗教儀式や豊作を願う呪術的行為に起源を持つものが目立つ。例えば、日本の盆踊りはその名の通り祖先の霊を祀る行事である盆に人が集まった時に行われるものである。また、秋の収穫の時期にも同様の習慣がある。韓国・朝鮮の農楽舞や中国のヤンガー(秧歌)も収穫に関係したものと言われている。
収穫祭の踊り以外のものとして、仏教や巫俗に関係した踊りが上げられる。日本の念仏踊りや朝鮮半島の サルプリ・チュム(サルプリ舞)、僧舞(スンム)などがこれに当たる。
日本
明治時代には西洋列強の文化を受容したので西洋式のダンスも行われるようになり、鹿鳴館では舞踏会が開かれた。
オセアニア地域
- ハカ (ダンス) 英語名ウォークライ
ヨーロッパ地域
ヨーロッパでは中世以降、貴族社会において舞踏会が盛んに催され、社交ダンスが文化の一部として強く根付いている。1814年から1815年にかけてのウィーン会議では舞踏会にかけて「会議は踊る、されど進まず」と評された。
ヨーロッパ地域のダンスには以下のようなものがある。概して、足(パ:pas)の動きに特に意識を向けたものが多く、種類によっては手はだらりとぶらさげているものすらある。
アフリカ地域
中東地域
中米・南米地域
中米、南米のダンスには、その歴史をたどると、ヨーロッパ系移民が作りだしているものもあり、アフリカから連れてこられた人々(いわゆる黒人系の人々)が故郷から持ち込んだリズムをベースにつくられたダンスもある。広まるにつれ、また社会状況もかわるにつれ、白人・黒人の区別なく踊られるようになっており、世界に広まっているものも多い。
これらのダンスはいずれも民間で盛んで、結婚式はもとより、誕生会などのちょっとしたパーティーでも気軽になされる。いわゆるディスコでは、季節や老若男女を問わずにこれらのダンスを楽しむ。ただし、近年は特に若年層においてロック音楽にあわせたダンスも増えてきている。ロックがかかっている間は老夫婦がテーブルについて歓談しており、曲がタンゴにかわったらすっと立ち上がってダンスを始めるという光景を見かける。
また、ボリビアなどのアンデス地方で行なわれるカルナバル(カーニバル)では、インカ帝国時代の記憶やスペイン統治時代の記憶などに基づく伝統的なダンスがグループにより演じられる。(オルロのカーニバルの項を参照。)
ブラジルのカルナヴァル(カーニバル)でも、曲としては上記のサンバが用いられるが、伝統や歴史を表す装飾や構成になっている。
北米地域
北米のダンスはヨーロッパのダンスやアフリカのダンスの影響を受けつつも、アメリカで生まれた独自のポピュラー音楽とともに踊られる形で、独自のスタイルをつくりあげていった。
近代ダンス
代表的なダンス関係者
- アンナ・パヴロワ(ロシア)
- マーゴ・フォンテイン(イギリス)
- ヴァーツラフ・ニジンスキー(ロシア)
- イサドラ・ダンカン(アメリカ)
- ルクミニ・デヴィ(Rukmini Devi Arundale)
- キャサリン・ダンハム(Katherine Dunham)
- フレッド・アステア(アメリカ)
- マーサ・グレアム(アメリカ)
- ルドルフ・ヌレエフ(ソ連)
- ジョルジュ・ドン(アルゼンチン)
- シルヴィ・ギエム(フランス)
- 石井漠(モダンダンス)
- 崔承喜(朝鮮舞踊)
- 江口隆哉(モダンダンス)
- 土方巽(暗黒舞踏)
- 大野一雄(暗黒舞踏)
- 森下洋子(バレエ)
- 熊川哲也(バレエ)
- 伊藤ミカ(前衛舞踊)
- 田中泯(前衛舞踊)
- 浅井信好(現代舞踊)
- カレイナニ早川(ハワイアン)
- 小松原庸子(フラメンコ)
- 小島章司(フラメンコ)
- アレハンドロ・ザッコ(タンゴ)
- ダンス評論家
動物
動物全般の非言語コミュニケーションの他にも、なんらかの規則性を持って行われているように見える無生物の動きをダンスと呼ぶこともある。
脚注
参考文献
- Grau, Andrée 『舞踊』 宮尾慈良訳、株式会社 同朋舎〈ビジュアル博物館〉、1999年。ISBN 9784810425314。