ダイダロス
ダイダロス(古希: Δαίδαλος, Daidalos, ラテン語: Daedalus,「聡明な働き手」の意)は、ギリシア神話に登場する有名な大工、工匠、職人、発明家である。名前は「巧みな工人」を意味する。斧、錘、水準器、神像などを発明したとされる。メーティオーンの子エウパラモスとアルキッペーの息子、ペルディクスの兄弟[1]。クレータ島の王ミーノースの女奴隷ナウクラテーとの間にイーカロスをもうけた[2]。
生涯
アテーナイで人気を集めていたが、ペルディクスの息子で弟子のタロースが鋸を発明すると、その才能を恐れて彼を殺したためにアテーナイを追放された。別の説によると、タロースの親であるペルディックスがコンパスを発明したため、それを嫉んでペルディックスをアクロポリスから突き落として殺した。そのペルディックスはアテーナーによってヤマウズラへと変身した。ダイダロスはその罰で、アテーナーによって右肩にヤマウズラの姿に似た傷跡を付けられ、アテーナイを追放された[3]。
その後クレータ島に逃げてミーノース王の保護の下、様々な発明品を作った。ミノス王の海軍に必要不可欠な軍船のマストと帆を考案したとされる。ホメーロスによれば、王女アリアドネーのために舞踏場も建造した。また、王妃パーシパエーのための牝牛の模型や、その子ミーノータウロスを封じるための迷宮(ラビリュントス)を造った。
王女アリアドネーが糸玉を用いて英雄テーセウスに迷宮を脱出する方法を教えたことからミーノース王の怒りを買い、もうラビリュントスの秘密を漏らすことのないように、息子イーカロスと共に塔に幽閉される。ダイダロスとイーカロスは人工の翼をつくりそこから逃亡を図るが、その途中でイーカロスは太陽に接近しすぎて、翼の蝋が溶け墜落死してしまう。人工の翼は、太陽に近付きすぎると溶け、海面に近付きすぎると湿気にやられてしまうのであった。その後、ダイダロスはシチリアまで飛翔し、カミコスの王コカロスの元に身を寄せたとされる。
ミノス王は逃げたダイダロスを捕まえるため、各国を放浪した。彼は「糸を巻き貝の中に通したいんだが、どうすればよいか」と訊ねて回った。遂にカミコスまで辿り着いた時、ミノス王はコカロスに同じ質問をした。コカロスはダイダロスなら良い方法を思い付くのではないかと、ダイダロスを連れてきた。ダイダロスは蟻に糸をくくりつけ、蜂蜜で誘導し、見事巻き貝の中に糸を通すことに成功した。これで、ミノス王はコカロスの連れてきた男がダイダロスであることを知り、引き渡しを要求した。しかし、ダイダロスを渡したくなかったコカロスは、ミノス王に先に風呂に入ることを勧めた。ミノス王が風呂に入っている間、コカロスの娘たちが彼を殺した。異説では、ダイダロスが熱湯をかけて殺したとされる。
語源
ダイダロスはホメーロスの『イーリアス』にその名が出ており、その隠喩的な登場の仕方から、当時既に聴衆はダイダロスの神話を知っていたものだと思われる。つまり、ダイダロス神話は極めて古いものであると想定される。また、青銅器時代におけるクレタ島やギリシア本土の初期アルカイック的彫刻作品(主に鎧やボウル、家具など)は、ホメーロス時代にはダイダラと呼ばれていた。
彼の出自はミノア文明に遡る。とりわけ青銅器時代後期のクノッソスと関係が古く、その周辺で発掘された碑文"da-da-re-jo-de"(英:into the Daidaleion)はクノッソスと関連のあるものとされるが、そこにダイダロスの語源を見出すことができる。the Daidaleionの意味は不明だが、ダイダロスという名前はDaidaleionから二次的に名付けられたものである[4]。
ダイダロスは元々クレタ島の発明家だったが、アテーナイの隆盛に伴い、出身をアテーナイに変更した神話(祖父をエレクテウスとする説)が流布したとされる[5]。