ターボチャージャー
ターボチャージャー(英: turbocharger)は、排気の流れを利用してコンプレッサ(圧縮機)を駆動して内燃機関が吸入する空気の密度を高くする過給機である。
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概要
ターボチャージャーは主に、排気ガスの流れを受けて回転するタービン(英: turbine)と、タービンの回転を伝達するシャフト(英: shaft)、タービンのトルクを利用して空気を取り込んで圧縮するコンプレッサー(英: compressor)、そして、タービンやコンプレッサーの周辺の流れを制御するハウジング(英: housing)で構成される。コンプレッサーには遠心式圧縮機が利用され、タービンとコンプレッサーは1本のシャフトの両端に固定されていて、タービンとコンプレッサーは同じ回転速度で回転する。
エンジンが吸入する空気の密度を高めて、より多くの酸素を燃焼室に送り、より高い燃焼エネルギーを得るのが過給機であるが、コンプレッサーの動力をエンジンの出力軸から得る機械式過給機に比べ、通常は廃棄される排気ガスの運動エネルギーを回収して駆動されるため効率が高い。
タービンの回転速度は自動車用など小型のものの場合、20万rpmを超えるものもあり[1]、高温の排気ガス800 - 900℃)[1]を直接受ける。軸受はエンジンオイルで潤滑される場合が多く、エンジンには高温環境に耐える性能が求められる。また、エンジンを停止するとオイルポンプによる循環が止まるため、高負荷運転によって高温になった状態でエンジンを停止すると軸受の焼きつきや、滞留したオイルがスラッジを発生する原因となる。これを防ぐために自動車の取扱説明書などではエンジンを停止する前に、アイドリングを続けて熱を冷ますことが推奨されている。
歴史
スイスの蒸気タービン技術者であるアルフレッド・ビュッヒによって発明され[2]、1905年に特許が取得された。1912年にドイツのルドルフ・ディーゼルがディーゼル機関車の低回転域のトルクを向上させるために、ビュッヒの在籍していたスルザー社と提携し、ターボチャージャーを導入しようと試みた[3]。ビュッヒのターボディーゼルエンジンは1925年には完成し、船舶を中心に広く普及した[4]。
1942年に大日本帝國で初めて2ストロークディーゼルエンジンにターボチャージャーが導入された[4]。MAN社製ユニフロー掃気式ディーゼルエンジンをベースに三菱重工業が軍用船舶向けに開発したもので、ルーツブロワにターボチャージャーを直列接続された。開発当初はルーツブロワを中心に過給を行っていたが、次第にターボチャージャーに過給の比率を移行させていき、最終的にはターボチャージャーのみでの駆動に成功し、1944年に特許を取得した[4]。しかし、大日本帝國海軍の軍用船舶への導入は終戦までには間に合わず、船舶への初採用は戦後の旅客船「舞子丸」であった[4]。
日本では試作レベルのものが雷電、五式戦闘機に搭載された例があるが、実装に問題があり実用化はできなかった[5]。 市販のガソリン自動車用としては、1962年にアメリカのゼネラルモーターズ(GM)が「オールズモビル・F85」と「シボレー・コルヴェア」にオプションで設定したのが最初であった。欧州車では1973年のBMW・2002 Turboに初採用された。1978年にはB&Wが舶用2ストロークディーゼルエンジンに静圧過給方式のターボチャージャーを導入して熱効率が向上した[3]。日本車では1979年の日産・セドリック / グロリアに初採用された。
日本において、1980年代の後半は普通乗用車(3ナンバー)と小型乗用車(5ナンバー)の自動車税の差が大きく(5ナンバー39,500円、3ナンバー3000cc未満81,500円)、小型乗用車の排気量上限である2,000ccのエンジンにターボチャージャーを搭載する車種が高級車やスポーツカーを中心に増えた。また当時のターボ搭載エンジンにおいては、ノッキング対策のため意図的に混合気に含まれるガソリンの割合を高めており、それも燃費悪化の要因となった(詳細は#短所を参照)。またディーゼルエンジンはノッキング対策が不要なことなどでターボとの相性が良いため、ディーゼル車ではターボ搭載は積極的に続けられている。2005年以降、フォルクスワーゲンはエンジンの小排気量化してターボチャージャーによりトルクや馬力を補うダウンサイジングコンセプトを採用する車種を増やし、他の欧州メーカーも追随している。旧来のターボチャージャ付エンジンではノッキングを低減するために空燃比を濃くしていたため燃費の向上が難しかったが、ダウンサイジングコンセプトを採用する近年の車種では燃料供給装置の直噴化によって空燃比を濃くすることなくノッキングが対策を行っている。2013年以降は、日本のメーカーも欧州の状況に追随して、燃料噴射の直噴化との併用によるターボ搭載がなされるようになった(スバル・レヴォーグ、日産・ジューク、ホンダ・ステップワゴン、トヨタ・オーリス、スズキ・スイフトなど)。また欧州では乗用車へのディーゼルエンジンの採用にも積極的であり、その多くにターボが装備されている。日本市場におけるディーゼルエンジン(+ターボ)搭載の乗用車への販売も、徐々になされるようになってきた(日産・エクストレイル、マツダ・CX-5/アテンザ/アクセラスポーツ/デミオ/CX-3、三菱・デリカD:5/パジェロ、トヨタ・ランドクルーザープラド 等)。
機械式過給機との比較
エンジンの出力軸から機械的機構を介して動力を得るスーパーチャージャーは機械損失(メカニカルロス)が生じるが、ターボチャージャーは排気ガスの熱や運動エネルギーとして廃棄されるエネルギー(排気損失)の一部を利用して駆動するため、エンジン出力軸の機械損失がなく、わずかな排気抵抗が生じるのみである。一般的にシリンダー内の燃焼で得られるエネルギーのうち排気損失となるのは40%とされており、ターボチャージャーは7 - 10%を回収できるとされている[6]。
一方で、吸気の配管と排気の配管の両方がターボチャージャーを経由するため、エンジンルームのレイアウトが複雑化する。また、自動車などのようにエンジンの回転速度が運転中に大きく変動する用途では低速回転から高速回転への過渡運転時に、タービンが充分な過給圧が得られる回転速度に到達するまでに遅れが生じるターボラグと呼ばれる現象が発生しやすい。すなわちスロットル操作に対するエンジンの出力上昇に遅れが生じやすい。ターボチャージャーの軸受は高温となるため耐熱性の高いボールベアリングが用いられる場合や、オイルを循環して冷却・潤滑を行っている場合が多い。自動車などの用途ではエンジンオイルで冷却・潤滑しているためエンジンオイルの劣化が進みやすい。
ターボラグの影響を小さくする方策としてターボチャージャーを小型化するなどの方策は各メーカーで行われている。
自然吸気との比較
過給機は吸入空気を機関に圧送するため、単位排気量あたりの出力が向上する。しかし一方で、出力増加に伴って、燃焼温度が高く、シリンダー内圧が高くなるためヘッドガスケットやシリンダーヘッド、シリンダーブロックの強度やピストンの耐熱性を高くする必要がある。コンプレッサーによる圧縮やタービンからの熱伝導により吸気温度が高くなる。インタークーラーで圧縮後の吸気を冷却し、空気充填率の向上を図っている例も多い。ガソリンエンジンの場合は、過給によりエンジンの圧縮行程で混合気がより高温になるため、デトネーションが発生しやすくなる。この対策として同型式の自然吸気エンジンよりも圧縮比を低く設定したり、空燃比[7]を濃く設定する場合がある。圧縮比を低くした場合は過給効果が得られない回転域で熱効率が低下し、自然吸気エンジンよりも出力が低下する。また空燃比を濃くすることで走行燃費が悪化する。近年ではガソリンをシリンダー内に直接噴射する技術により圧縮行程では空気のみを圧縮するようになったためデトネーションの問題が解消され、2010年以降の乗用車では排気量を小さくして車重を軽量化して過給機によって出力を補い、総合的に走行燃費を低減するダウンサイジングコンセプトを採用する例が増えている。
用途
ターボチャージャーは船舶や発電機、建設機械、鉄道車両、自動車などで広く利用されている。特に船舶や発電機など、エンジンの回転速度が大きく変化しない用途ではターボチャージャーの設計をその運転条件に最適化しやすく、ターボチャージャー特有の欠点であるターボラグが発生することがないため適している。また、ディーゼルエンジンは空気のみをシリンダーに吸入して圧縮を行うため、ガソリンエンジンで生じるデトネーションが起こらず、部分負荷域においても吸気経路を絞らないため過給機との相性が特に良い。
自動車など
自動車などではディーゼルエンジンを搭載したトラックのほか、モータースポーツ用車両やスポーツカーなどでも一般的に用いられる。ターボチャージャーを搭載した初の市販車は1973年デビューのBMW・2002ターボである。日本国内では1979年デビューの日産・430型セドリックが初めてターボを搭載したグレードを登場させ、以後ブルーバードやスカイライン等の主力車種にもターボ搭載モデルが誕生、日産自動車は国産ターボ車の先駆けとなった。路線バス用の車種は2005年後半からダウンサイジングによって燃費や排出ガスを低減するためにターボチャージャーを搭載する例が増えてきている。
F1では、かつてターボエンジンが全盛だったが、ホンダがウィリアムズに供給していたエンジン(RA166E)でも1,500cc V型6気筒ツインターボの構成によりレース中で776kW(1055馬力)を発生したと言われ[8]、安全性を理由に1987年からレギュレーションにより過給圧制限が加えられ(1987年は最大4bar、1988年は最大2.5bar)、1988年シーズンを最後に過給機の使用が禁止された。しかし、2014年からは1,600cc V型6気筒エンジンにシングルターボを組み合わせて使用することが可能となった。
2010年代以降、欧州メーカーの乗用車では小排気量のガソリン直噴エンジンを採用してエンジンを小型軽量化しながらターボチャージャーにより出力を補うダウンサイジングコンセプトを採用する車種が増え、ターボチャージャーの搭載車種が増えつつある。ロープレッシャーターボやツインスクロールターボを採用し、低回転から中・高回転までフラットな特性で大きなトルクを発生させている。日本の乗用車では軽自動車にターボチャージャーが採用されるケースが多い。また、かつては自動車税の税額が3ナンバーと5ナンバーで大きく異なっていたため、5ナンバーボディには排気量2,000cc以下のエンジンにターボチャージャーが利用されるケースが多かった。
航空機
航空用エンジンでは1950年代までは多くがレシプロエンジンだったことから、気圧の低い(酸素の少ない)高空での出力維持のために過給器の研究が行われた。当初は機械式のスーパーチャージャーが採用されたが、次第にターボチャージャーに置き換わった。
フルスロットル時に所定のエンジン出力を出せる限界高度である臨界高度(海面高度と同じ出力を発揮できる限界の高さ)までエンジン出力を維持するため、タービンに送る排気を高度に応じて自動的にバイパス流路を開閉するバルブを搭載しており、気圧の低い高高度ではバイパス流路を閉じてタービンに送る排気を増やして吸気圧力を上昇させ、気圧の高い低高度ではバイパス流路を開いてタービンに送る排気を減らして吸気圧力を低下させることにより、地上から臨界高度まで一定のエンジン出力を保つことができるが、臨界高度以上となるとエンジン出力が低下していく[9]。
現代ではジェットエンジンやターボプロップエンジンの高性能化により、レシプロエンジンを採用するのは小型機に限られているが、高空性能よりもエンジンサイズを抑えながらの出力を増強するために搭載している。なおレシプロエンジンにターボチャージャーを搭載しても、免許は自然吸気と変わらず『ピストン』であるため、設計はそのままでエンジンのみターボチャージャー付きに換装した機体を上位モデルとしているメーカーもある。
主要メーカー
- ギャレット・システムズ(ハネウェル)
- 三菱重工業
- 日立製作所(ボルグワーナーとの合弁を経て事業から撤退)
- ボルグワーナー(旧 独KKK社(Kühnle Kopp und Kausch)+ 米Schwitzer社)
- ターボネティクス(Turbonetics)
- IHI(旧「石川島播磨重工業」)
- Bosch Mahle Turbo Systems
- コンチネンタル
種類 (主に自動車用語)
- ロープレッシャーターボ(ライトプレッシャーターボ/低圧ターボ)
- ツインスクロールターボ
- 可変ノズル(VG)ターボ
- 電動アシストターボ[10][11][12]
- 2011年5月に、IHIから電動アシストターボの製品化が発表された。タービンの過給効果が発現する回転数など詳細な性能は公表されていない。(吸気タービンが回転すれば過給圧が発生するものの、エンジン単体でのターボ過給開始回転数よりも低速から回転させなければターボラグなどのトルク変動の原因となる)
- スリーホイールターボ(TWT:Three Wheel Turbochager)
- 吸・排気に加えて低速で回転をアシストする部位(ホイール)を追加しスリーホイールとしたもの。広義には前述の電動アシストなども含まれるが、用語としては油圧を介してオイルタービンを回しアシストを行うものに使われる事が多い。油圧式は主に商用ディーゼル車向けに研究開発が行われていたが極めて高い油圧が要求されるなどの課題があり普及には至っていない。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 中野 弘二、和田 裕介、城野 実考、成廣 繁「新型直列4気筒ガソリン直噴過給ダウンサイジングエンジン」『Honda R&D Technical Review』 Vol.28 No.1、2016年、133-139頁。
- ↑ これは今日で言うターボコンパウンドエンジンでもあった。
- ↑ 3.0 3.1 鈴木孝 2001.
- ↑ 4.0 4.1 4.2 4.3 今給黎孝一郎「排気ガスタービン過給機の技術系統化調査」『技術の系統化調査報告』第16集、国立科学博物館、2011年。
- ↑ 前間孝則著『マン・マシンの昭和伝説』
- ↑ “日本財団図書館(電子図書館) 3S級舶用機関整備士指導書”. 公益財団法人 日本財団. . 2015閲覧.
- ↑ 濃い方が火炎伝播速度が遅いためデトネーションが抑えられる
- ↑ 第19回ガスタービン定期講演会講演論文集(’91-5)
- ↑ 石田満三郎、1989、『航空機用ピストン・エンジン』、日本航空技術協会〈航空工学講座 10〉 ISBN 4930858100
- ↑ 「電動アシストターボ!! (PDF) 」 、『IHI 技報』第51巻第1号、2011年。
- ↑ “燃費が1割改善~IHIの電動アシストターボ”. 日刊自動車新聞. (2010年10月14日)
- ↑ 茨木誠一、山下幸生、住田邦夫、荻田浩司「[http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/433/433036.pdf 電動アシストターボチャージャ "ハイブリッドターボ"の開発] (PDF) 」 、『三菱重工技報』第43巻第3号、2006年。
参考文献
- 鈴木孝、2001、『20世紀のエンジン史 : スリーブバルブと航空ディーゼルの興亡』、三樹書房 ISBN 4895222837
- 前間孝則、1993、『マン・マシンの昭和伝説 : 航空機から自動車へ』上、 講談社 ISBN 4062059983 NCID BN09468958
- 前間孝則、1993a、『マン・マシンの昭和伝説 : 航空機から自動車へ』下、 講談社 ISBN 4062065819 NCID BN09468958