タマネギ
タマネギ(玉葱、葱頭、学名:Allium cepa)は、ネギ属の多年草。
園芸上では一年草もしくは二年草として扱われる。球根(鱗茎)は野菜として食用とされる。色、形状、大きさは様々である。種小名 cepa はラテン語で「タマネギ」の意味だが、さらに「頭」を意味するケルト語に由来するとも言われている。なお、かつて日本では中国語由来の「葱頭(中国語版)」と書いてタマネギと読んでいた。
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種としてのタマネギ
染色体数は 2n=16。生育適温は {{safesubst:#invoke:val|main}} 前後で、寒さには強く氷点下でも凍害はほとんど見られないが、{{safesubst:#invoke:val|main}} 以上の高温では生育障害が起こる。花芽分化に必要な条件は品種や系統によって大きく違うが、一定以上に成長した個体が {{safesubst:#invoke:val|main}} 前後またはそれ以下の低温下に一定の期間以上さらされると花芽が分化する。大きな苗を植えると分球や裂球や抽台しやすく、小さいまま低温に遭うと枯れやすい。
結球には日長条件が大きく関与し、短日・中日・長日それぞれに品種系統で分化している。大まかに、日本で栽培されているものは、春まきが14時間以上の長日条件下、秋まきの早生種で12時間程度の中日条件下で結球する。長日条件・温度上昇で肥大が促進される。玉が成熟すると葉が倒伏し、数ヶ月の休眠に入る。ヨーロッパなどで栽培される品種の中には16時間以上の長日でなければ結球しない品種があり、それらは日本では収穫できない。
ネギの花は花弁が開くが、タマネギとは花弁が開かない点で区別できる。
ヤグラネギや野草のノビルと同じように、花の咲く所から芽が伸びる品種がありヤグラタマネギとよぶ。
栽培種としてのタマネギ
栽培の歴史
原産は中央アジアとされるが、野生種は発見されていない。栽培の歴史は古く、紀元前のエジプト王朝時代には、ニンニク等と共に労働者に配給されていた。ヨーロッパの地中海沿岸に伝わったタマネギは、東ヨーロッパ(バルカン半島諸国やルーマニア)では辛味の強い辛タマネギ群、南ヨーロッパ(イタリア、フランス、スペイン)では辛味の少ない甘タマネギ群が作られた。これらの両系統は16世紀にアメリカに伝えられ、さまざまな品種が作られた。
その一方、原産地から東のアジアには伝わらなかった。日本では江戸時代に長崎に伝わったが、観賞用にとどまった。食用としては、1871年(明治4年)に札幌で試験栽培されたのが最初とされ、1878年(明治11年)、札幌農学校教官のブルックスにより本格的な栽培が始まった。その後の1880年(明治13年)に、札幌の中村磯吉が農家として初めて栽培を行った。
品種の系統としては、アメリカから導入された春まき栽培用の「イエロー・グローブ・ダンバース(Yellow globe danvers)」という品種が「札幌黄」という品種に、秋まき栽培用は1885年(明治18年)、大阪に「イエロー・ダンバース(Yellow danvers)」という品種が導入され「泉州黄」に、フランス系の「ブラン・アチーフ・ド・パリ」が「愛知白」に名を変えて、それぞれ地域に定着化した。さらに農家や農協単位で自家採種・選抜を行い、農家や地域ごとに特徴のある品種が作られた。
現在では、大手種苗会社によるF1品種が殆どを占めている。特に、株式会社七宝による一連の品種は乾腐病に対する抵抗性を持ち、長期貯蔵性などにも優れ、平成16年度民間部門農林水産研究開発功績者表彰の農林水産大臣賞を受賞した。
2005年(平成17年)の世界生産量は約65 000 000トン。
日本における生産と流通
日本での生産量は1 154 000t、作付面積は2万4千haである。そのうち北海道が生産量約660 000t、作付面積12 500haと、全国生産量の約5割強を占める(以上、統計値は農林水産省 平成21年産春野菜、夏秋野菜の作付面積、収穫量及び出荷量(速報)による)。北海道に次いで佐賀県、兵庫県(主に淡路島)、愛知県、長崎県、静岡県、大阪府(主に泉州地区)が主な産地である。北海道は春まき栽培、他府県では秋まき栽培が行われるため、季節ごとに産地の異なるものが小売されている。
安価である中国・タイ・韓国・アメリカ・トルコ・オーストラリア・ニュージーランドからの輸入品も多い(輸入量約208 000t/ジェトロ2009年(平成21年)年計)が、国産品は価格面の対策として生産・流通コストの低減化、端境期対策としてマルチング・トンネル栽培による極早生の早期化や貯蔵技術の向上、極早生品種・高貯蔵性品種の開発、品質面の対策として高機能性品種の開発等を行っている。
栽培体系
大きく分けて春まき栽培と秋まき栽培がある。致命的な病気や害虫は少なく栽培の容易な野菜である。
春まき栽培
- 主な産地は北海道。
- 品種は7月以降に収穫できる晩生。本州の秋播きタマネギが品薄になる時期まで保存できる品種。
- 2月末から3月にビニールハウス内で播種し、育苗する。
- 4月下旬から5月にかけて畑に定植する。現在は、「みのる式」と呼ばれる成型苗を自動移植機で定植するのが一般的である。
- 定植後1ヶ月ほどは苗の活着に要する。
- 6月から7月中旬にかけては葉の生育が盛んな時期で、その後7月下旬から鱗茎の肥大が始まる。鱗茎の肥大期以降はボトリティス菌、軟腐病菌、ネギアザミウマによる被害を受けやすいため、定期的に農薬による防除を行う。
- 7月から8月にかけ地上部が倒伏する。倒伏が順調に進まない場合には、人為的に地上部を倒伏させることもある。
- 倒伏がそろった後、収穫の前には株を土から引き抜く作業を行う。これは「根切り」と呼ばれ、着色を促したり貯蔵性を高める効果がある。
- 収穫直前には枯死した葉を切り落とす。収穫後、コンテナに入れ、乾燥させる。
セット栽培
春播き栽培と秋播き栽培の中間的な栽培方法。
- 品種は極早生
- 主な産地は関東より西の地域で、冬に作付できる地域。
- 2月末から3月にビニールハウス内に播種しそのまま結球させ、直径が2cm程度の小タマネギ(種球根)を作る。
- 春に収穫した種球根を秋に植え付けて、本州の秋播き早生タマネギよりも早く収穫する。
秋まき栽培
- 主な産地は関東地方より西の地域で、冬に作付できる地域。
- 品種は極早生から入梅前に収穫できる程度の晩生品種。
- 9月に播種し、育苗する。
- 10月下旬から11月にかけて定植。極早生から早生にかけては、マルチ栽培やトンネル被覆を行うところもある。
- 春一番や温かい雨により細菌が繁殖しやすくなるため、倒伏前までこまめに消毒を行う。
- 倒伏は3月から5月にかけて。50 - 80%程度が倒伏したら天気がよく、乾燥した日に収穫する。早生や極早生では倒伏前に収穫して、葉付きで出荷する事もある。
- 中生や晩生では、風通しのよい日陰で貯蔵する。数個のタマネギを葉のところで紐で縛り、吊るして貯蔵する事もある。
固定種の採種栽培
採種(種の収穫)を目的とした栽培は食用栽培と大きく異なる。おもな工程は母本選抜と開花・採種であり本州での採種栽培の方法は以下の通りである。
- 採種したい品種を食用栽培と同様の方法で大量に栽培し、収穫と同時に最も理想的で優れた性質の個体を厳しく選抜する。9月頃に播種する。
- 選抜した個体(母本と呼ぶ)を9月頃に定植する。ここまでに約1年かかる。
- 日本においては開花・結実時期が梅雨にあたる為、ビニールハウスなどの雨を避けられる環境でなければ安定した収穫が得られないので、このことを考慮して植え付け場所を選定する。
- 秋に定植した株は翌年の7月頃から開花・結実をはじめる。熟した実が弾けて種が落ちてしまうので見回りを行って熟したものから順にネギ坊主の塊ごと刈り取って乾燥する。種まきから始まり母本の選抜などを経て、採種に至るまでおよそ22か月かかる。
交配種(F1品種)の採種栽培
- 母本選抜の方法や注意点などは固定種と同様である。
- タマネギの交配種の採種には、雄性不稔という正常な花粉を作れない突然変異系統を用いる。不稔の性質は母から子へ伝わるので、不稔の個体に正常な個体の花粉を着けてやれば不稔個体の繁殖が行える。
- Aという品種の花粉を不稔個体に交配して採種し、その子世代にAを再度交配する。そこから得た孫世代に再度Aを交配する。同様の交配を繰り返すことでAにソックリな不稔系統「a」がえられる。
- 雄性不稔になったaと、正常な花粉を作れる品種B(花粉親)を並べて開花させればミツバチによってBの花粉がaに交配され結実する。
- 十分に交配が済んだら、交配用の品種Bは不要なので刈取り、または抜き取って処分させる。
- 市販されている交配種は不稔であるが正常な花粉を交配してやれば交配種からの自家採種も可能である。しかし交配に用いた花粉親に近いものとなってしまう。また、その子・孫世代も不稔であるため採種の度に花粉親に近づいていく。
- 他の野菜を含む、全ての交配種で雄性不稔を利用した採種が行われていとは限らない。また他の野菜などでは、雄性不稔という性質が必ず母親から伝わるとは限らないし不稔という性質も解除される場合がある。
重要病虫害
- 乾腐病 病原菌:Fusarium oxysporum f. sp. cepae
- 軟腐病 病原菌:Erwinia carotovora subsp. carotovora
- ボトリティス菌による葉枯れ(白斑葉枯病):Botrytis squamosa、B. cinerea、ほか
- ボトリティス貯蔵腐敗:Botrytis allii、B. byssoidea、ほか
- ネギアザミウマ Thrips tabaci
- タマネギバエ Delia antiqua
- タネバエ Delia platura
- べと病[1]
栽培上の注意点
- タマネギは高温に弱く、しかも日長(長日)に対して非常に厳密に反応するため栽培目的にあった品種を選ぶ必要がある。
- 品種や栽培する地域ごとの播種適期がかなり限られている。極端な早播きや晩播きでは十分な収穫が得られない。
- 秋播き栽培では大苗を植えると抽台率が極端に上がるので、茎の太さが {{safesubst:#invoke:val|main}}(およそ鉛筆の太さ)程度の苗を利用するのが良い。大苗は薬味ネギの代用に使えばよい。
- 元肥えが効き過ぎると冬が来る前に大きく育ち抽台の原因となる。
- 晩生品種は入梅前に収穫を終えないと腐敗が多くなる。
- 栽培の終盤まで窒素肥料が効くと貯蔵性が悪くなる。貯蔵目的であれば春以降は肥料を与えない。
食材としてのタマネギ
タマネギは収穫後、表皮を乾燥させておけば長期保存が可能であり、常温でも数ヶ月は保存が可能な食材とされる。酵素欠損による不耐症でなければ、ほとんどのヒトには無害である。アレルギー物質を含む食品にも指定(2013年現在の省令および通知)されていない[2]。主に鱗葉を食用とするが、強い辛味・香味がある。生のタマネギはイチゴ位の甘みを持っているが、これはタマネギが光合成産物をデンプンではなく、主にスクロース、グルコース、フルクトース等の低分子の糖として貯蔵するためである。従ってタマネギの鱗茎からはデンプンが検出されない。糖度は高いが辛さが強いため辛く感じる。辛味は加熱すると無くなり、甘みが出る。一般的に食べられているタマネギは『イエローオニオン (yellow onion)』とも呼ばれる。日本ではエシャロットの代用[3]とされる場合もある。
辛みの強さは、品種によって違いがある。一般に早生の方が辛みが少なく、晩生になるにつれ辛みが強くなる。しかしそれは、日本で栽培される品種を開発する過程で早生品種の親に甘い品種を使い、晩生品種の親に辛い品種を利用したためである。つまり早晩性と辛味には直接の関係は無い。また保存状態によっては辛味が強くなるため、晩生の貯蔵用品種であっても葉が青いうちに収穫してすぐに利用すれば比較的辛味が少ない。
多様の料理に使われる。サラダであればマリネなど、煮込み料理ではカレー、シチュー、肉じゃがなど、卵と共に料理するオムレツや親子丼に用いるほか、ソースなどとしてデミグラスソース、トマトソース、タルタルソース、サルサなどの素材としても欠かせない。ネギと同様に鍋料理や味噌汁の具としても用いられる。日持ちがするため、大航海時代にはニンジンやジャガイモと共によく食べられていた。新たまと呼ばれる極早生のタマネギは、生で薄切りにしても美味しく食べられる。
タマネギを切ると涙が出るのは、タマネギの細胞がスライスされた時に発生するsyn-プロパンチアール-S-オキシドが気化し、目・鼻の粘膜を刺激するためである[4]。これを防ぐにはゴーグル等で目を覆ったり鼻をつまむ。ほとんどにおいては鼻から侵入してくるため、目を洗い流すだけでは痛みを緩和することは難しい。換気扇を回した状態でコンロの火を着け、そのすぐ横で調理すると刺激成分が上昇気流に乗って換気扇から排出される。また、水につけながら切ると刺激成分が水に溶けて気化しなくなる。あらかじめ冷蔵庫で数時間冷やしておくのも良い。反対に、電子レンジで加熱することでも刺激成分の効果を弱められる。ただし、これらの方法では多少味が落ちてしまう。涙の出ないタマネギも開発されてはいるが、遺伝子組み換え作物のため市場には出ていない。
生のタマネギの匂いは、主にジプロピルジスルフィドによるものである[5]。
タマネギの種は黒ごまに姿が似ており、インドやヨーロッパにおいてスパイスの一種としてそのまま、あるいは他のスパイスと合わせて料理の香り付けなどに用いられる。
タマネギを加熱し、黄色、あめ色、茶色と褐変が進行するに従ってDPPHラジカル消去能が上昇する、との報告がある[6]。タマネギを炒めることによってメイラード反応が起こり、褐色物質のメラノイジンが生成する。メラノイジンは、in vitroでは抗酸化作用、活性酸素消去活性、ヘテロ環アミノ化合物(発癌物質)に対する脱変異原活性などを有する可能性があるとして研究が続けられている[7]。
かつて、デザイナーフーズ計画のピラミッドで2群に属しており、チャやターメリックと共に、2群の最上位に属する高い癌予防効果のある食材であると位置づけられていた[8]。
注) サルは好んで食べることもあるが、ウサギ、イヌやネコなどの動物が食べた場合、成分に含まれる有機硫黄化合物が血液中の赤血球を破壊するタマネギ中毒の原因ともなる。
(人でも大量に食べるとタマネギ中毒になる。)
慣用句
- 玉ねぎの皮を剥くように - 日本語や英語などで用いられる修辞技法、慣用表現。薄い皮を一枚一枚剥いていき、中心に近づいていく様子に似ている事から、徐々に物事が分かっていく、これで終わりかと思ったらまだ次があった、などの文を述べる前に、「玉ねぎの皮を剥くように」などと使われる慣用表現がある。
- 例:玉ねぎを剥くように、その問題の答えが分かってきた。
- I've solved the problem like peeling an onion.
その他
- 北海道北見市では、町おこしとして街を挙げての玉葱を多く使用する食品や料理の考案や試作に努めている。
- 栄養的に優れ、多産で、常温で保存可能であり、どんな国の料理にも利用できることから、軍隊や長期間の航海に出る船舶での利用があり、それによって各地に利用が広がった。
脚注
- ↑ 三澤知央、ネギ葉枯病の発生生態と防除に関する研究 北海道立総合研究機構農業試験場報告 = Report of Hokkaido Research Organization Agricultural Experiment Station (132), 1-90, 2012-10, NAID 120005332243
- ↑ アレルギー物質を含む食品に関する表示Q&A 別表 [1] 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課
- ↑ 十時亨『フランス料理の基本』新星出版社 2005年
- ↑ Eric Block (2009). “Chapter 4. Chemistry in a sallad bowl: Allium chemistry and biochemistry”, Garlic and Other Alliums: The Lore and the Science. Cambridge: Royal Society of Chemistry. ISBN 978-0854041909. Google ブックス
- ↑ 長谷川香料株式会社 『香料の科学』 講談社、2013年。ISBN 978-4-06-154379-9。
- ↑ 下橋淳子「褐変物質のDPPHラジカル消去能」『駒沢女子大学研究紀要』 37,pp17-22,2004-03-03. NAID 110004678454
- ↑ 明治大学農学部農芸化学科食品機能科学研究室 研究の概要
- ↑ がん予防と食品 - (大澤俊彦、日本食生活学会誌、Vol.20 (2009) No.1)
関連項目
- 野菜の一覧
- 涙の出ないタマネギ
- タマネギ中毒
- クリスティアン・ロドリゲス(愛称がセボーリャ(スペイン語でタマネギ))