セントラルドグマ
セントラルドグマ(英: central dogma[1])とは、遺伝情報は「DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達される、という、分子生物学の概念である[2]。フランシス・クリックが1958年に提唱した[3][4]。この概念は細菌からヒトまで、原核生物・真核生物の両方に共通する基本原理だとされた[2]。中心教義、中心命題、中心ドグマとも[5]。
セントラルとは中心、ドグマとは宗教における教義のことであり、セントラルドグマは、「分子生物学の中心原理」または「生物学の中心教義」と呼ばれることがある。
遺伝情報の発現
セントラルドグマの過程は次のとおりである。まず、RNAポリメラーゼⅡの働きにより、DNAの遺伝情報はmRNAに転写される[6]。次に、mRNAが核膜の孔を通って核から細胞質に出ると、細胞質中のリボソームに結合する[6]。リボソームにおいては、アミノ酸を運んできたtRNAが、mRNAの3つずつの塩基配列(コドン)に対応して結合し、運ばれてきたアミノ酸が繋がってペプチドを作る[6]。RNAからタンパク質を作ることを翻訳と呼ぶ[7]。この、DNAからタンパク質が出来る流れの概念がセントラルドグマである[6]。
通常遺伝情報はこのようにDNAからタンパク質に一方的に伝達され、発現するのであるが、例外がある。RNAを遺伝子としているウイルスの一部(レトロウイルス)は、宿主細胞内でRNAをDNAに変換するセントラルドグマの逆反応を行う。その後に、セントラルドグマに従ってDNAからRNAの転写を経てタンパク質へ翻訳され、ウイルスが作成される。
遺伝情報の複製
生物の遺伝情報はゲノムDNAに保存されている。生物の基本単位である細胞が同じ遺伝情報を持った二つの細胞に分裂するためには、細胞が分裂する前に親細胞と同じ遺伝情報をもう一揃え合成する必要がある。この遺伝情報の複製はDNA複製によって行われる。また親から子への遺伝もDNA複製によって行なわれるが、有性生殖を行う生物は減数分裂によって染色体の選択が行われた接合子が接合する事で両親の遺伝情報の半分ずつを受け継ぐ。
複製は 極めて高い精度で行われるが、それでも10-9程度の割合で合成ミスが起こる。また紫外線や化学物質によってDNAが傷つき、突然変異が生じることもある。
脚注
- ↑ 文部省・日本遺伝学会 『学術用語集 遺伝学編』 丸善、1993年、増訂版。ISBN 4-621-03805-2。
- ↑ 2.0 2.1 東京大学生命科学教科書編集委員会 『理系総合のための生命科学』 羊土社、2013年、第3版。ISBN 978-4-7581-2039-5。
- ↑ 嶋田正和ほか・数研出版編集部 『高等学校理科用 生物』 数研出版、2012年。ISBN 978-4-410-81147-0。
- ↑ Crick, F.H.C. (1958): On Protein Synthesis. Symp. Soc. Exp. Biol. XII, 139-163. (pdf, early draft of original article)
- ↑ 「セントラルドグマ」 - 大辞林 第三版
- ↑ 6.0 6.1 6.2 6.3 国立遺伝学研究所. “微生物の遺伝学 ~ DNAからのタンパク質合成”. . 2014閲覧.
- ↑ Elic J. Simon, Jane B. Reece, Jean L. Dickey 『エッセンシャル キャンベル生物学』 池内昌彦, 伊藤元己, 箸本春樹訳、丸善、2011年。ISBN 978-4-621-08399-4。