サンショウ
サンショウ(山椒、学名:Zanthoxylum piperitum)はミカン科サンショウ属の落葉低木。別名はハジカミ。日本の北海道から屋久島までと、朝鮮半島の南部に分布する[1][2][† 1]。若葉は食材として木の芽の名称がある。雄株と雌株があり、サンショウの実がなるのは雌株のみである。
Contents
名称
学名のZanthoxylum は「黄色い木」の意味で材が黄色いことから。また、piperitum はコショウのようなという意で実が辛いことからきている[3]。
「椒」の字には芳しいの意があり、山の薫り高い実であることから「山椒」の名が付けられたと考えられる[4]。
別名であるハジカミ(椒)はショウガなどの他の香辛料の別名でもあり、その区別のため古名では「ふさはじかみ」(房椒)、しようが「なるはじかみ」(なりはじかみ、成椒)と呼ばれた。「はじ」は実がはじけることから。「かみ」はニラ(韮)の古名「かみら」の意で辛いことを示す。「ふさ」は房状に実がなることであり、「なる」は実が成るハジカミであることを示(す[5]。
英名は、Japanese pepper, Japanese prickly ash[3]。
特徴
形態
雌雄異株。落葉樹林に自生する落葉低木であり、乾燥や夏季の日差しに弱く、半日陰の湿潤な地勢を好む。樹高は3m程、大きなものは5mになる。枝には鋭い棘が2本ずつ付く。突然変異で棘のない株(実生苗)が稀に発生することがある。棘のない実山椒(雌木)として但馬国の朝倉谷(兵庫県養父市八鹿町朝倉地区)原産の「朝倉山椒」が有名だが、日本各地に棘のない山椒の栽培が見られる[1]。実がなるのは雌株のみである。
葉は互生、奇数羽状複葉。長さ10〜15cmほど。5〜9対の小葉は1〜2cmの楕円形で縁は鋸歯状。裏は表に比べ白っぽい。葉には油点と呼ぶ物があり、潰すと芳香を放つ。油点は細胞の間に油が溜まったもの。太陽に透かして見ると透明に見えるので明点ともいう。花は、4月〜5月頃開花し、直径5mmほどで黄緑色。雄花は「花山椒」として食用にされ、雌花は若い果実、または完熟したものを利用する。果実の直径は5mm程度。初め緑色であるが9月〜10月ごろに赤く熟し、裂開して中の黒い種子が出てくる。雌花には二本の角のような雌しべが突き出す。
なお、実山椒の収穫量は和歌山県が国内生産量の約80%を占めている[6]。和歌山県の有田川町(旧清水町)、紀美野町の特産品として栽培されている「ぶどう山椒」は果実・果穂が大型で葡萄の房のような形でたくさん実るためこのように呼ばれている[7]。
- Zanthoxylum wood.jpg山野の自生個体
- Zanthoxylum piperitum (flower male).jpg
- Zanthoxylum piperitum (seed).jpg果実と種子
- Zanthoxylum piperitum (thorn).jpg葉と棘
系統品種
- アサクラザンショウ(朝倉山椒、Z. piperitum (L.)DC forma inerme (Makino) Makino)
- 棘のない栽培品種をいう[1][8]。江戸時代から珍重されていた[8]。実生では雌雄不定でかつ棘が出てくるので主に雌株を接ぎ木で栽培した物を朝倉山椒として販売している。
- ヤマアサクラザンショウ(山朝倉山椒、Z. piperitum (L.)DC forma brevispinosum Makino)
- 棘が短い。普通の山椒と朝倉山椒の中間に位置する。山野に自生する品種[1][8]。
- リュウジンザンショウ(竜神山椒、Z. piperitum (L.)DC forma ovalifoliolatum (Nakai) Makino)
- 小葉が卵形で3-5枚と少ない。食用とされ、薬用とはされない。和歌山県竜神地方産[1]。
- ブドウザンショウ(葡萄山椒)
- アサクラザンショウから派生した系統とされる。小さいが枝に棘がある。樹高が低く、果実が大粒で葡萄の房のように豊産性であるため栽培に適している[1]。雌株を接ぎ木で栽培している。
同属異種
サンショウの仲間のサンショウ属は世界の熱帯・亜熱帯および温帯地方に広く分布しており、250種余りが知られている[3][11]。代表的な同属異種を以下に列挙する。
- イヌザンショウ(犬山椒、Zanthoxylum schinifolium)
- サンショウが芳香を持ち、棘が対生するのに対して、イヌザンショウは芳香がなく、棘が互生する[12]。イヌザンショウの果実は「青椒」と呼ばれて精油を持ち、煎じて咳止めの民間薬に用いられる[1]。
- カラスザンショウ(烏山椒、Zanthoxylum ailanthoides)
- サンショウと違ってアルカロイドを含むので、イヌザンショウとともにイヌザンショウ属 (Fagara) に入れる場合がある。アゲハチョウ科のチョウの食草になっている。
- イワザンショウ(岩山椒、Zanthoxylum beecheyanum)
- 丸葉で光沢がある。葉軸は翼を有し、鰭のように見えることからヒレザンショウとも呼ばれる。南西諸島や小笠原の岩場に自生し、サンショウ同様に香辛料や薬用として用いられる。沖縄方言名:センスルギー。
- フユザンショウ (冬山椒、Zanthoxylum armatum var. subtrifoliatum)- 別名(フダンサンショウ 不断山椒)
- 冬でも葉を落とさない常緑低木。葉軸に狭い翼がある。日本では雄株は見られず単為生殖する。接ぎ木の台木として用いられる。
利用
古くから香辛料として使われており、薬用にも使われる。縄文時代の遺跡から出土した土器からサンショウの果実が発見された例もある[14][15]。
日本における利用
食用
- 若芽・若葉(木の芽)
- 木の芽は緑が鮮やかで香りが良いため、焼き物、煮物など料理の彩りとして添えられ、また吸い口として用いられる。使う直前に手の平に載せ、軽く数度叩いて葉の細胞(油点)を潰すと香りが増す。特に筍との相性が良い[16]。また、木の芽を味噌と和えた「木の芽味噌」は、木の芽田楽、木の芽和えや木の芽煮の材料となる[1][3][16]。
- 果皮
- 熟した実の皮の乾燥粉末(粉山椒)は、香味料として鰻の蒲焼の臭味消し、七味唐辛子の材料として用いられる[17]。この果皮が一般的に調味料として知られている部位である。乾燥粉末の状態だと品質の劣化が激しく、一日ほど空気に触れるだけで、色合いも風味も大幅に損なわれる。密封して冷凍保存すると長期間、鮮度が保たれる[18]。菓子類への利用では、五平餅[19][20]に塗る甘辛のたれや、山椒あられ[21][22]、スナック菓子のほか、甘い餅菓子の山椒餅[23][24]、切山椒がある。
その他
日本の東北地方など各地でこれを煮たものを川に流し魚をとる毒もみと呼ばれる漁法があった[4]。
中国での「花椒」の利用
中国では花椒(かしょう、ホアジャオ)と呼ばれる同属別種カホクザンショウ(Zanthoxylum bungeanum, 英名 Sichuan pepper)の果実の果皮のみ用いる。日本のサンショウとは香りがかなり違う。
四川料理で多用される。煮込み料理、炒め物、麻婆豆腐などに果皮を加えて風味をつける。乾燥粉末を料理の仕上げに加えると、四川料理の特徴といわれる舌の痺れるような独特の風味が得られる。また、五香粉の材料としても用いられる。炒った塩と同量の花椒の粉末を混ぜたものを花椒塩(かしょうえん、ホアジャオエン)と呼び、揚げ物につけて食べる。
薬用
樹皮および果皮は薬としても用いられる。漢方で「花椒」は蜀椒とも呼ばれ健胃、鎮痛、駆虫作用がある[25]とされ、大建中湯、烏梅丸などに使われる。
日本薬局方では、本種および同属植物の成熟した果皮で種子をできるだけ除いたものを生薬・山椒(サンショウ)としている。日本薬局方に収載されている苦味チンキや、正月に飲む縁起物の薬用酒の屠蘇の材料でもある。果実の主な辛味成分はサンショオール、サンショアミド、不飽和脂肪酸イソブチルアミド[26]。他にゲラニオールなどの芳香精油、ジペンテン、シトラールなどを含んでいる[25]。
栽培
観葉や香りを楽しむものとして苗木は店舗販売ではポピュラーであるが、家庭で大きく育てるのが比較的難しい類の植物である。水はけのいい土質を選び、排水の悪い粘土質の土では根腐れや害病(白絹病)などを起こしやすい。その一方では豊富な水分を要し、水切れすると枯死しやすい。真夏の直射日光には弱く、生育には半日陰の場所が適し、日の当たりすぎる場所では葉が茶色くなって落葉し、一見枯れたようになる。また移植に弱く、根から土を落として植え替えると枯れてしまう。
秋の落葉後、翌年春に芽が出ず枯れ死してしまうことがあり栽培農家では収穫量が増えない悩みの種となっている。自生させれば数メートルに成長し収穫に手間であるため商業栽培では適宜剪定する。兵庫県養父市の朝倉山椒組合では朝倉山椒発祥の地として数年前に(枯れ死しにくい)優良苗の生産に成功し、現在は地元の農家に苗の配布を行って収穫量の増加を目指している[27]。
害虫
アゲハチョウ科のチョウの幼虫の食草でもある。小さな株なら一匹で葉を食べ尽くし、丸裸にされてしまうこともある。
脚注
注釈
出典
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 岡田稔「和漢薬の選品20:山椒の選品」、『月刊漢方療法』第2巻第8号、1998年、 p.p.641-645。
- ↑ 佐竹(1989年)、p.280
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 滝戸道夫「薬草百話20:サンショウ」、『月刊漢方療法』第2巻第8号、1998年、 p.p.638-640。
- ↑ 4.0 4.1 大嶋千代美 『日本のハーブ事典 身近なハーブ活用術』 村上志緒、東京堂出版、2009-09、p.p.142-143。ISBN 4490106122。
- ↑ 小曽戸洋「『日本薬局方』(15改正)収載漢薬の来源」、『生薬学雑誌』第61巻第2号、2007年、 p.73、 ISSN 00374377。
- ↑ 県民の友8月号|和歌山県ホームページ
- ↑ ぶどう山椒 の産地育成と需要拡大への取り組み ∼和歌山県有田川町∼
- ↑ 8.0 8.1 8.2 牧野富太郎「植物研究雑誌」、『第五巻』第十号、1928年、 p.378-380。 (PDF)
- ↑ 飛騨農林事務所:高原山椒 (PDF)
- ↑ サンショウ栽培品種(タカハラサンショウ・アサクラザンショウ・ブドウザンショウ)の成分比較研究 (PDF)
- ↑ 手島茂晴「コモエの森の宝物:第6回Zanthoxylum zanthoxyloides(Rutaceae:ミカン科) (PDF) 」 、『コモエの森からの恋文』第8巻、2010年6月、 p.2、. 2011閲覧.
- ↑ 佐竹(1989年)、p.278
- ↑ 佐竹(1989年)、p.p.278-279
- ↑ “有田の特産品:山椒”. ありだ農業協同組合. . 2011閲覧.
- ↑ “食彩の王国#24:山椒”. テレビ朝日. . 2011閲覧.
- ↑ 16.0 16.1 講談社(2007年)、p42
- ↑ 17.0 17.1 17.2 講談社(2007年)、p46
- ↑ NHKためしてガッテン(2012年10月11日)
- ↑ “五平餅の作り方”. とよた五平餅学会. . 2011閲覧.味噌には「※お好みで、山椒、刻んだくるみやピーナッツなど」と記してある
- ↑ 農文協 『伝承写真館日本の食文化 5 甲信越』 農山漁村文化協会、2006年 。,p.13 「伊那谷の五平もち春はさんしょう味檜 1 秋はゆず味噌をつけて。」
- ↑ “京山椒あられ”. 小倉山荘. . 2011閲覧.
- ↑ “山椒あられ”. 七味家本舗. . 2011閲覧.
- ↑ “実生屋の山椒餅”. NPO法人佐川くろがねの会. . 2011閲覧.
- ↑ “餅類”. 俵屋吉冨. . 2011閲覧.
- ↑ 25.0 25.1 野生植物[民間療法で利用されている種] 奄美群島生物資源Webデータベース
- ↑ 相原傳、鈴木猛、山椒の成分に就いて (第5報) 殺虫及び魚毒成分 YAKUGAKU ZASSHI., Vol.71 (1951) No.11 P.1323-1324, doi:10.1248/yakushi1947.71.11_1323
- ↑ JAたじま「朝倉さんしょの優良苗を部会員へ配布始める」
参考文献
- 佐竹義輔、原寛ら編 『日本の野生植物:木本I』 平凡社、1989年。ISBN 4-582-53504-6。
- 講談社編 『旬の食材別巻 ハーブ&スパイス図鑑』 講談社、2007-04-24。ISBN 4062701391。
- 内藤一夫 『サンショウ』 農山漁村文化協会〈新特産シリーズ〉、2004年、ISBN 4-540-03181-3
関連項目
外部リンク
- 花山椒(はなさんしょう):春の佃煮(永楽屋)