サイマル放送
サイマル放送(サイマルほうそう、simulcast、simultaneous broadcasting)とは、同時並行放送のこと。1つの放送局が同じ時間帯に同じ番組を、異なるチャンネル(周波数)、放送方式、放送媒体で放送すること。地上アナログテレビ放送、地上デジタルテレビ放送、衛星放送、ワンセグ放送などの組み合わせがある。インターネットなどのIPネットワーク上で電波による放送と同内容のものを配信する場合はIPサイマル放送と呼ばれる。
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日本
日本放送協会(NHK)
旧来より日本放送協会(NHK)は、放送や番組を需要や状況に応じて、各波を使用してサイマル放送を行なってきた。
放送の事例としては、日本国外に在住・滞在している日本人を対象にした放送サービスであるNHKワールド・ラジオ日本(国際放送)ではラジオ第1放送の大半の番組を短波放送と衛星ラジオによってサイマル放送(電波運用面の都合で放送されない国会中継(総理大臣の演説と党首討論以外)と大相撲中継・プロ野球ナイトゲーム以外のスポーツ中継は除く)をしている。これにより衛星ラジオでは、ラジオ第1放送の大半の番組と国際放送独自制作番組もFM放送と同等の高音質で聴くことができる(本来は放送対象外となっている日本国内でも受信は可能である)。
番組単位の事例として、『NHK紅白歌合戦』はもともとラジオ番組であるが1951年1月3日の番組開始当初からラジオ第1放送、NHKワールド・ラジオ日本(国際放送)で放送し、1953年12月31日の第4回からは総合テレビでも放送。以降ラジオ第1放送、総合テレビ、衛星第2放送(BS2)、衛星ハイビジョン(BShi)、NHKワールド・プレミアム(国際放送)、NHKワールド・ラジオ日本(国際放送)(NHK-FMでは放送されていない)で放送されている。
『NHKのど自慢』は総合テレビとラジオ第1、衛星第2放送、NHKワールド・プレミアム、NHKワールド・ラジオ日本で、といった組み合わせがある。
『日曜討論』は総合テレビとラジオ第1、NHKワールド・プレミアム、NHKワールド・ラジオ日本(時差放送もあり)で放送されている。
テレビ草創期にはテレビのコンテンツが絶対的に不足していたため、従来のラジオ番組をテレビでも中継放送した「ラ・テ番組」であり、当時はこのような形態のサイマル放送が多く存在していた。また、NHKラジオ放送のニュース番組の一部時間帯や、『ひるのいこい』、『昼の散歩道』→『ここはふるさと 旅するラジオ』、『ラジオ深夜便』などの一部番組が、ラジオ第1放送・FM放送・NHKワールド・ラジオ日本(国際放送)でサイマル放送している。
昭和天皇崩御の際、NHKが当時所持していたNHK総合・教育・BS1・BS2・ラジオ第1・ラジオ第2・FM放送の全て(ただしBS1とBS2は試験放送中)が1989年1月7日7時57分から同時放送で情報を伝えた事例がある。
特にNHKの場合は公共放送という立場上、多チャンネルを駆使したサイマル放送番組の供給がその使命の1つとなっている。
災害時などの緊急時には、受信者の手段を選ばず確実な伝達を図る上でも有効なため、NHKなど2系統以上の電波媒体(チャンネル)を持っている放送局において、テレビジョン放送と中波放送などで機動的に行われることもある(「ここからはテレビとラジオ、同時にお伝えします」のアナウンスがされ、成り行きで報道特別番組となる)。NHKにおいては、基本的に「震度6弱以上の地震」が発生した場合、あるいは「大津波警報・津波警報が出された場合」には通常の放送を国内向け放送・国際放送(NHKワールド・プレミアム、NHKワールド・ラジオ日本)とも全て中断し、災害に関する情報を一斉にサイマル放送することになっている(この場合は原則として緊急警報放送扱いとなる)。
これまで、NHKでは大相撲中継や国会中継、『NHKニュース7』などの各種ニュース番組、『NHKのど自慢』などでサイマル放送を行い、総合テレビ・BS2・BShiで放送していたが、NHKのBS放送が標準画質(SD)2波・ハイビジョン画質(HD)1波による3波からハイビジョン画質2波(BS1・BSプレミアム)に変更され、地デジ難視対策衛星放送で難視聴地域対策ができることから、NHKでは2011年3月31日をもってBS2におけるこれらの番組のサイマル放送を全て終了した[1]。また、NHKは『NHK紅白歌合戦』でサイマル放送を行い、BS2・BSハイビジョンで放送していたが、2011年3月31日をもってBS放送が変更となったため、サイマル放送も終了となった。
そのためテレビ放送における国内放送波同士のサイマル放送は全波一斉放送の地震・津波関連の臨時ニュースで見られる程度となった。日本国外向けのNHKワールド・プレミアムでは2011年4月以降もこれらの番組は引き続きサイマル放送が行なわれている(国会中継は内閣総理大臣の演説や党首討論が行なわれるときのみ。ただし、オリンピック期間中はほとんどのニュース番組で、FIFAワールドカップ期間中は一部時間帯・日時のニュース番組で時差放送に変更される。これは放送権上の制約によるものである)。前述に挙げたこれらの番組でも一部番組ではノンスクランブルで視聴できるため、日本国内でNHKワールド・プレミアムのノンスクランブル放送を受信している世帯ではBS2の難視聴対策放送があった時の名残が見られることになる(ノンスクランブル放送番組のほとんどは総合テレビとのサイマル放送となっている)。
民間放送
民放局の場合、番組構成上の理由で行われる場合がある。
複数の地上波テレビ・ラジオ局間
1956年から1989年まで民放テレビ版の『ゆく年くる年』が民間放送各社の共同制作で、国内民放のほぼ全局でサイマル放送されていた。1955年から2001年までの民放AM・短波ラジオ版についても同様。
かつてはテレビ朝日系の番組(『モーニングショー』や『アフタヌーンショー』から『欽ちゃんのどこまで笑うの?!』までの平日正午枠など)でも、地上波2局でサイマル放送を実施していた地域もあった。最後までサイマル放送が残った山陰地方の2局(日本海テレビと山陰放送)は、日本海テレビのNNSマストバイ局化に伴い1989年9月29日を以ってテレビ朝日系番組のサイマル放送が終了し、該当枠は1989年10月2日以降は山陰放送単独放送となった[2]。
民放ラジオ局では、同一地域に対し放送を行う局同士が共同で番組の制作および放送を行うことがある。これは、主に広域にわたって収録を行う必要のある生放送番組において行われる場合が多い。
地震などの災害関連番組では、2005年3月20日福岡県西方沖地震で多大な被害を受けた福岡県において地震以降、約半年に1回のペースで在福ラジオ局(RKB毎日放送・九州朝日放送・FM FUKUOKA・CROSS FM・LOVE FM。後にNHK福岡放送局・北九州放送局(共にラジオ第一放送)も参加)が共同制作した特別番組『ライフサポーター あなたを守る防災ラジオ』がサイマル放送された。また、東京のラジオキー局によってラジオ災害情報交差点のタイトルで年2回放送が行われており、緊急地震速報についての特別番組を東京の民間ラジオキー局(TBSラジオ・文化放送・ニッポン放送・ラジオ日本・TOKYO FM・J-WAVE)が共同でサイマル放送をした。
テレビ局とラジオ局
TBSテレビとTBSラジオでは『輝く!日本レコード大賞』『ニューイヤー駅伝』などについて、サイマル放送を行っている(1999年までは『日本有線大賞』もサイマル放送されていた)。
NHKに限らず、ラジオ・テレビ兼営局ではラジオの制作手法を使ったテレビ番組、といった企画意図でサイマル放送が行われることがある。他にも特定の出演者を追いかける形式で番組が制作されることがあり、そうした場合にも短時間ではあるがサイマル放送が行われることがある。
CBCラジオでは、災害時や重大事件の際、CBCテレビで放送するJNN報道特別番組をサイマル放送される場合がある。
朝日放送(ABC)ラジオでは、2015年より復活した『M-1グランプリ』において、朝日放送(ABC)テレビとのサイマル放送を実施。
2003年12月19日、テレビ朝日が六本木ヒルズへ移転したことを記念し、同日に六本木ヒルズ森タワーへ移転したJ-WAVEと、サイマル放送した(テレビ朝日は『ニュースステーション』、J-WAVEは『Jam the WORLD』枠内で放送)。また2012年5月22日には東京スカイツリー開業を受けて、ニッポン放送とJ-WAVEが記念の特別番組を、特設ブースまで置いてサイマル放送で実施。
地上波とBS・CS
2000年代に入って日本テレビのCSニュースチャンネル・日テレNEWS24(旧・NNN24)の『さきがけ ニュース&スポーツ』枠・『闘論』枠(第3木曜の翌朝3時台)・『Oha!4 NEWS LIVE』(第1部)[3]や、TBSテレビのCSニュースチャンネル・TBSニュースバード(旧・JNNニュースバード)の『ミッドナイトニュース』枠・『さきどりニュース&天気』枠(土日は「さきどりニュース&スポーツ」枠)をフィラーでのサイマル放送を実施している地上波局が多くみられる。
BSやCSでのスポーツ中継(プロ野球など)では、地上波とのサイマル放送が行われる場合がある(巨人主催ゲームでの日テレ系地上波、もしくはBS日テレと日テレジータスなど)。
TBSテレビ系列とBS-TBSでは、2011年4月3日放送分より『時事放談 〜ワイドショー政治を叱る』が地上波とBSのサイマル放送を行っている[4]。過去には『王様のブランチ』で2002年6月 - 2012年9月までサイマル放送が行われていた。放送内容は同一だが、BS-TBSでは時刻表示が行われず、「この番組内での告知はBS-TBSと異なる場合があります」というテロップが表示されることがあった。また、午前の第1部と午後の第2部との間で放送される番組が異なっていて、TBSテレビでは『JNNニュース』が、BS-TBSでは『BSブランチ』が、それぞれ放送されていた。しかし、BS-TBSの番組に関しては考慮されておらず、女性キャスターは第1部終了直前に「この後はニュースです。TBS・RSK・RKBをご覧の皆様は11:59にお会いしましょう」と話していた。その後BS-TBSでは2012年3月で第2部の放送を、第1部も同年9月で順次打ち切ったため、BS-TBSでの放送は完全に打ち切られた(『BSブランチ』も終了)。
テレビ東京系列(TXN)とBSジャパンにおいては、『ニュースモーニングサテライト』『なないろ日和!』『ワールドビジネスサテライト(WBS)』『ウイニング競馬』等において、サイマル放送が行われている。このうち『なないろ日和!』はテレビ東京系列では9:28から、BSジャパンでは10:01から、それぞれ放送開始となるため、サイマル放送は10:01〜10:57までとなり、『ウイニング競馬』はBSジャパンでは14:30から、テレビ東京系列では15:00から、それぞれ放送開始となるためサイマル放送は15:00〜16:00となる。一方以前の『neo sports』『田勢康弘の週刊ニュース新書』はサイマル放送ではなく、1時間〜2時間遅れで放送される(『週刊ニュース新書』については過去にサイマル放送だった時期がある)。テレビ東京系列の編成上の都合でこれらの番組の放送開始時間が変更された場合、BSジャパンも番組編成が変更され、テレビ東京系列の放送開始時刻の1時間後に放送開始となる。
送信設備の変更
デジタル放送の放送開始に伴い、2000年代中盤からNHKを含む地上アナログテレビジョン放送と地上デジタルテレビジョン放送を行っている放送局で、アナログ電波と同一内容をデジタル電波で同時送信する場合なども、サイマル放送に該当していた。この場合では、視聴者の受信設備が完全にデジタル放送に対応する迄の移行経過処置であり、2012年3月まで実施された。
CS放送では、過去にCSアナログ放送であるCS-BAANが終了し、CSデジタル放送のパーフェクTV!(現・スカパー!)へ移行する際に番組供給事業者が行った例がある。
TOKYO MXでは2012年10月から2013年5月にかけて東京タワー(物理チャンネル20ch)と東京スカイツリー(同16ch)の送信所2ヶ所によるサイマル放送を実施した。これはMXがスカイツリーに移転した場合、放送エリアの拡大で近県の放送局と物理チャンネルが重複し放送に影響が出るため、物理チャンネルを変更することによるもので、東京タワー側の出力を段階的に弱めて全面移行を行った。同様にInterFMの東京局も難聴取に伴いアンテナ高を上げることに合わせて、2015年6月末から同年10月末まで従来の76.1MHzと新しく運用を開始する89.7MHzで、移行期間としてサイマル放送を実施した。
その他
スポーツ関連では、夏季オリンピック(特に野球やサッカー、マラソンなど)の中継放送などで、NHKと民放局、特にラジオでは複数の局で同時刻に同じ内容が放送されることがある(詳細はジャパンコンソーシアム参照)。
地上デジタルラジオでは、実用化試験放送の一環として2008年9月29日よりTBSラジオ・文化放送・ニッポン放送の3社が地上波AMラジオのサイマル放送を行っていたが、2011年3月31日に終了している。
ワンセグ放送
ワンセグ放送では2008年3月末まで、1つの放送局から同一番組を流すサイマル放送が義務付けられており、ワンセグで見られる番組は12のセグメントを使用する地上デジタル放送の主番組と同じであったが、2008年4月1日改正放送法の施行によって、サイマル放送の義務化が解かれ、部分的なワンセグ放送独自番組の放送が始まった[5][6]。現在、定時的に行われているものは、NHK Eテレのワンセグ2などがある。
FM補完放送
1991年以降、中波ラジオ局で、地域によってFM波を使って中継している例があり、2014年12月以降、本局の放送を本局と同じ放送エリアを対象にFM波でもサイマル放送するFM補完放送が行われている。
→FM補完中継局を参照。
放送大学学園
放送大学学園ではテレビ放送は地上デジタル(121チャンネル)・BSデジタル(231チャンネル)・スカパー!SD(205チャンネル、2012年3月まで)で、ラジオ放送はFM・BSデジタル(531チャンネル)・スカパー!SD(500チャンネル、2012年3月まで)でそれぞれ放送開始・終了時コールサインのアナウンス(JOUD-DTV、JOUD-FM)がある部分(BS・CS放送はその間、放送休止扱い)以外は完全サイマル放送となっている。スカパー!SD(205チャンネル)のテレビ放送は2009年3月までは地上波アナログ放送のサイマル放送であったが、2009年4月から2011年3月まではアナログ放送と同じサイズながらも画面右上の「アナログ」のウォーターマークがないことや放送開始15分前のテストパターン・大学学歌・イメージソングがステレオ放送となっていることから地上波デジタル放送(121チャンネル)の映像を4:3にサイドカットしたサイマル放送であった。2011年4月からCS放送終了の2012年3月までは地上波デジタル放送(121チャンネル)の送出映像をそのまま16:9レターボックス化して放送していた。
2011年10月開始のBSデジタル放送では、テレビ放送が地上デジタル放送のサイマル放送(マルチ編成、字幕放送も実施)、ラジオ放送はFM放送のサイマル放送となる。BSデジタル放送では地上波で放送開始・終了時のコールサイン(JOUD-DTV、JOUD-FM)のアナウンスをBSデジタル放送向けに独自制作した局名告知のアナウンスに差し替えられるものと見られるが、現在のところBS放送向け独自の終了アナウンスはなく、CS放送と同様に通常番組終了後は放送休止中のメッセージ画面が表示されている。
なお、2018年9月限りで地上波(地デジテレビ、FMラジオ)による放送を取り止め、2018年10月以降はBSデジタルに一本化される予定のため、サイマル放送の範疇から外れることになる。
韓国
総論
大韓民国では、その国情故近隣諸国から中波の妨害電波が入り易い状況にあった。対抗策として主にKBS(韓国放送公社)の電波を超高出力にするという策を取っているが、地域放送がやり辛くなるというデメリットがあった。
そこで、日本よりも一足早く、超短波FM(周波数変調放送)で中波の放送を同時放送する「標準FM放送」が国策として進められていった。呼出符号は中波のものの後に「-SFM」を付け、音楽FM放送とは区別している。ただ、近年は新規のラジオ局は原則として全部FM放送にするという方針のため、既存波の難聴対策として行われている。
主な事例
- KBS第1ラジオ放送→KBS第1標準FM放送
- KBS第2ラジオ放送→KBS第2標準FM放送“Happy FM”
- MBCラジオ→MBC標準FM
- SBSラジオ→SBS LOVE FM
- CBSラジオ→CBS標準FM
アメリカ
FOXは2016年7月11日からアメリカの放送局としては初めてゴールデンタイムの番組を同時にインターネットで配信するサイマル放送を開始した[7]
サイマル放送の録画・録音
1980年代に発売されたHi-Fiビデオデッキの一部には「サイマルキャスト」機能と称して、テレビ放送とFM放送が同時記録できるビデオデッキが存在していた。日本国内では対応番組が非常に限られていたが(『N響アワー』など)、ヨーロッパでは当時テレビ放送が音声多重(ステレオ)になっていない地域が多く、FMラジオとサイマル放送する番組が多かったといわれている。
脚注
- ↑ BShiでのサイマル放送は、2010年12月までにすべて終了した。
- ↑ 山陰放送ではその後2009年3月27日にテレビ朝日系帯番組のネットから完全撤退している。
- ↑ 日本テレビではフィラーではなく、正規ネットで定時放送している。
- ↑ BS-TBSでは、2011年3月27日放送分までは時差放送だった。
- ↑ 5時間独立スペシャル (PDF) 、テレビ朝日:PDFファイル
- ↑ ワンセグ専用番組放送(ワンセグ独立放送)、山陽放送
- ↑ FOX、インターネットでサイマル放送を開始。米放送局で初 pronews、2016年7月13日。