コーラングレ
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実音記譜 コーラングレの音域(実音) | ||||||||||
関連楽器 | ||||||||||
コーラングレ(コール・アングレ、フランス語 cor anglais)またはイングリッシュホルン(英語 english horn )、コルノ・イングレーゼ(イタリア語 corno inglese)は、ダブルリードの木管楽器の一種。オーボエと同族のF管楽器で、オーボエよりも低い音を出す。まれにアルトオーボエ(alto oboe)と呼ばれることもある。
概要
コーラングレは、楽器の先端部(ベル)が、しばしば「洋梨」と形容されるように、丸く膨らんでいるのが外観的な特徴である。 オーボエと同じ指使いでオーボエより完全5度低い音が出る(つまり、楽譜上の記音「ド」(ハ、C)の音を出すと、実際にはその下の「ファ」(ヘ、F)音が出る)。このため、オーボエ奏者が演奏しやすいよう、オーボエと同じ指使いの音を同じ音符で書く。従って、記譜された音から完全5度低く鳴るヘ調の移調楽器である。オーケストラではオーボエ奏者が持ち替えて演奏することが多い(ごく稀に、アルト譜表に実音で記譜されることがある)。
音域は2オクターブ半ほどである。ただし、オーボエの最低音変ロ(B♭)音に相当する音(実音で中央ハの下の変ホ(E♭))を持たない楽器も珍しくない。
古典派の交響曲で使われることは少なかったが、ベルリオーズやフランクなどのロマン派時代から多用されるようになった。その独特の牧歌的でエキゾチックな響きから、オーケストラにおいては独奏楽器的な扱い方をされる場面も少なくない。基本的にはオーボエ奏者(性質上、2番奏者)が持ち換えるが、3管以上の編成では単独のパートとして書かれた楽曲も多い。
歴史と語源
「コーラングレ」はフランス語で「イングランドのホルン」という意味だが、この楽器はイングランドとも(フレンチ)ホルンとも関係がない。コーラングレは 1720年ごろにシレジアで、ブレスラウのヴァイゲル家により、オーボエ・ダ・カッチャ(イタリア語で「狩りのオーボエ」の意味)式の曲がった管体にあわせて球根形のベルをつけたことに始まる。2つのキーを持ち、ベルが開いていて、まっすぐなテノール・オーボエ(フランス語で「taille de hautbois」)、および朝顔形のベルをもつオーボエ・ダ・カッチャは、中世の宗教画に出てくる天使が吹くラッパによく似ていた。そのため、中央ヨーロッパのドイツ語圏では、ドイツ語で「engellisches Horn」すなわち「天使の角笛」とよばれるようになった。engellisch という語は「イングランドの」という意味もあったため、「天使の角笛」から「イングランドのホルン」に変化した。ほかによい別な名がなかったため、オーボエ・ダ・カッチャが 1760年ごろ使用されなくなった後になっても、この曲がった球根形ベルをもつテノール・オーボエは同じ名前で呼ばれつづけた[1]。
コーラングレ専用のパートを持つ最古の管弦楽譜は、1749年のニコロ・ヨンメッリのオペラ「Ezio」のウィーン版で[2]、ここではイタリア語で「corno inglese」と呼ばれている[3]。それにつづく1750年代のグルックとハイドンの作品でも同様である[4]。最初のコーラングレ協奏曲は 1770年代に書かれた。「コーラングレ」という名前からは皮肉なことに、フランスでは1800年ごろ、英国では1830年代になるまでコーラングレは使用されなかった[4] 。「イングランドのホルン」に相当する名前は、イタリア語・フランス語・スペイン語などヨーロッパの諸言語でも使われている。
コーラングレの「アングレ」が中世フランス語の「anglé」(角ばった、角で曲がった。現代フランス語のangulaire)がくずれたものだという説が提唱されたこともあるが[5]、この説は19世紀に cor anglais という語が出現する以前に cor anglé という語が使われたという証拠がないことから否定されている[6]。この楽器の名が普通に現れるようになるのは、1741年以降のイタリア・ドイツ・オーストリアのスコアで、通常はイタリア語で「corno inglese」と記されている[7]。
19世紀の最後の4半世紀を通じて、英語では、フランス語名「cor anglais」とイタリア語名「corno inglese」だけが使われた[8]。いまでも英語圏でフランス語名が使われているのは注目に値する。英語の口語では常に「cor」と呼ばれる[9]。
主なメーカー
- フランス
- ロレー F.Lorée
- リグータ Rigoutat
- マリゴ Marigaux
- アメリカ
- ラウビン A. Laubin
コーラングレが活躍する楽曲
独奏曲・協奏曲
- ヨセフ・フィアラ:イングリッシュホルン協奏曲 変ホ長調
- モーツァルト:イングリッシュホルンと弦楽のためのアダージョ K.Anh94 (580a) 断片
- パスクッリ:「ベッリーニへのオマージュ」(イングリッシュホルンとピアノ)
- ドニゼッティ:イングリッシュホルン協奏曲
- パウル・ヒンデミット:イングリッシュホルンソナタ
- スクロヴァチェフスキ:イングリッシュホルン協奏曲
- コープランド:静かな都会(イングリッシュホルン、トランペットと弦楽合奏)
- ペトリス・ヴァスクス:イングリッシュホルン協奏曲
- 小山清茂:イングリッシュホルンと吹奏楽のための音楽
- ローレム:イングリッシュホルン協奏曲
- パーシケッティ:イングリッシュホルン協奏曲、パラブル第15番
- ヴォルフ・フェラーリ:イングリッシュホルン協奏曲
管弦楽曲等
- バッハ:マタイ受難曲 BWV244(オーボエ・ダ・カッチャ)、カンタータ BWV147(オーボエ・ダ・カッチャ)
- ハイドン:交響曲第22番変ホ長調『哲学者』(2本同時に使用した、バロック以外では珍しい例)
- ロッシーニ:オペラ「ウィリアム・テル」序曲(「牧歌」)
- ベルリオーズ:幻想交響曲(第3楽章)、序曲「ローマの謝肉祭」、イタリアのハロルド(第3楽章)
- ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」(第3幕への前奏曲 - 長い無伴奏ソロ)
- フランク:交響曲(第2楽章)
- ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」(第2楽章 - 最も有名な例であろう)、劇的序曲「フス教徒」
- シベリウス:「トゥオネラの白鳥」、「カレリア」組曲(第2曲「バラード」)
- ボロディン:「中央アジアの草原にて」「ダッタン人の踊り」
- カリンニコフ:交響曲第2番
- ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調(第2楽章)、スペイン狂詩曲
- グラズノフ:交響曲第4番(第1楽章)
- レスピーギ:交響詩「ローマの松」(「アッピア街道の松」)
- リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲
- エネスコ:ルーマニア狂詩曲第2番
- ブライアン:交響曲第32番
- ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」
- グローフェ:組曲「グランド・キャニオン」(第1曲 日の出)
- ロドリーゴ:アランフエス協奏曲(第2楽章)
- 伊福部昭:交響譚詩
- 芥川也寸志:交響管弦楽のための音楽
- 大澤壽人:交響曲第2番(第2楽章(a) - コーラングレとオーケストラのアリア)
- ジョン・ウィリアムズ:「スター・ウォーズ」組曲(「小人のジャワ族」)
吹奏楽曲
- スパーク:「オリエント急行」「ドラゴンの年」
- ロバート・W・スミス:「インチョン」
- チェザリーニ:「ビザンティンのモザイク画」
- ヨハン・デ・メイ:交響曲第2番「ビッグ・アップル」
- アルフレッド・リード:「春の猟犬」「ロシアのクリスマス音楽」「アルメニアン・ダンス」
- ヴァン・デル・ロースト:「スパルタクス」「カンタベリー・コラール」
- メリロ:「ゴッドスピード!」
- バーンズ:「交響的序曲」「交響曲第3番」
- 大栗裕:「大阪俗謡による幻想曲」
- 樽屋雅徳:「マリアの七つの悲しみ」
- フェレール・フェラン:交響組曲「ピノキオ」(第3楽章)
- 真島俊夫:「三日月に架かるヤコブのはしご」「三つのジャポニスム」
その他
脚注
- ↑ Michael Finkelman, "Oboe: III. Larger and Smaller European Oboes, 4. Tenor Oboes, (iv) English Horn", ニューグローヴ世界音楽大事典, 第2版, Stanley Sadie, John Tyrrell 編(London: Macmillan Publishers, 2001); Grove Music Online でも見られる(要登録)
- ↑ History of the English horn/cor anglais at the Vienna Symphonic Library
- ↑ Adam Carse, Musical Wind Instruments: A History of the Wind Instruments Used in European Orchestras and Wind-Bands from the Later Middle Ages Up to the Present Time (London: Macmillan and Co., 1939): 144.
- ↑ 4.0 4.1 Michael Finkelman, "Die Oboeinstrumente in tieferer Stimmlage – Teil 5: Das Englischhorn in der Klassik", in Tibia 99 (1999): 618–24. (ドイツ語)
- ↑ Michael Kennedy, "Cor anglais", The Oxford Dictionary of Music, second edition, revised, Joyce Bourne, associate editor (Oxford and New York: Oxford University Press, 2006); A. J. Greimas, Dictionnaire de l'ancien français jusqu'au milieu du XIV siècle, second edition (Paris: Librarie Larousse, 1968): 31. ISBN 2033402061.
- ↑ Adam Carse, Musical Wind Instruments: A History of the Wind Instruments Used in European Orchestras and Wind-Bands from the Later Middle Ages Up to the Present Time (London: Macmillan and Co., 1939): 143; Sybil Marcuse, "Cor anglais", in Musical Instruments: A Comprehensive Dictionary, revised edition, The Norton Library (New York: W. W. Norton, 1975). ISBN 0-393-00758-8.
- ↑ Willi Apel, "English Horn", The Harvard Dictionary of Music, second edition (Cambridge: Harvard University Press, 1969). ISBN 0674375017.
- ↑ William Alexander Barrett, 1879. An Introduction to Form and Instrumentation for the Use of Beginners in Composition (London, Oxford, and Cambridge: Rivingtons, 1879): 55.
- ↑ Norman Del Mar, Anatomy of the Orchestra (Berkeley: University of California Press, 1981): 143. ISBN 0520045009 (cloth); ISBN 0520050622
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