コンブ
項目 | 分量 |
---|---|
食物繊維総量 | 36.5 g |
水溶性食物繊維 | 7.4 g |
不溶性食物繊維 | 29.1 g |
コンブ(昆布)は、不等毛植物門褐藻綱コンブ目コンブ科 (学名:Laminariaceae )に属する数種の海藻の(一般的)名称である。生物学が生まれる以前からの名称であるため、厳密な定義はできないが、葉の長細い食用のものがコンブと呼ばれる傾向がある。コンブ科に属する海藻でも、オオウキモ(ジャイアントケルプ)は通常、コンブとは呼ばれない。
生物学ではカタカナ書きの「コンブ」が使われるが、単なる「コンブ」という種は存在せず、マコンブやリシリコンブ、ミツイシコンブなどのように、コンブ科植物の種の標準和名に用いる。他方、食品など日常的には昆布やこんぶ(こぶ)の表記も使われる。ウェブスター辞典などにもそのままkombuとして記載されている[2]。
Contents
分類と生態
コンブ科Laminariaceae Bory de Saint-Vincentには次の13属があり[3]、マコンブなどが属するカラフトコンブ属、ネコアシコンブなどが属するネコアシコンブ属[4]やカナダからチリに分布するジャイアントケルプの属するMacrocystis 属などがある[5][6]。
- Arthrothamnus Ruprecht ネコアシコンブ属[7]
- Costulariella Petrov & Gussarova
- Cymathere J.Agardh[3] ミスジコンブ属[8]
- Feditia Yu.Petrov & I.Gusarova
- Laminaria J.V.Lamouroux コンブ属[9](ゴヘイコンブ属[10])
- Macrocystis C.Agardh
- Nereocystis Postels & Ruprecht
- Pelagophycus Areschoug
- Phyllariella Y.E.Petrov & Vozzhinskaja
- Postelsia Ruprecht
- Pseudolessonia G.Y.Cho, N.G.Klochkova, T.N.Krupnova & Boo
- Saccharina Stackhouse[3] カラフトコンブ属[11](コンブ属[10])
- Streptophyllopsis Kajimura[3] クロシオメ属[12]
コンブ科の海藻は、日本では北海道沿岸を中心に三陸海岸などにも分布し、寒流の親潮海域を代表する海藻であり、また重要な食用海藻であるだけでなく、大きな藻場を形成し多様な生態系を保つ働きもある。
コンブは胞子によって増殖する。コンブの胞子(大きさは5µm程度)は2本の鞭毛を持ち、海中を泳ぐことができるので特に「遊走子(ゆうそうし)」と呼ばれる。遊走子はコンブの表面から放出され、海中の岩などに着生する。着生した遊走子は発芽して「配偶体」という微小な植物体になる。1個の遊走子から1個体の配偶体ができ、雄と雌の配偶体がある。雌雄の配偶体それぞれに卵と精子が作られる。この卵と精子が受精し、受精卵が生長すると巨視的な「胞子体」、つまりコンブとなる。
近縁種
コンブ科と同じコンブ目に属する近縁なものとしては、ワカメなどが属するアイヌワカメ科[13](チガイソ科[10])や、コンブの原始的な形といわれるツルモ科があり[14][15]、また、アラメ、カジメなどが属するレッソニア科がある[10][16]。
漁業
日本のコンブ生産量は約12万トン(2005年度 生重量)。生産量全体に占める養殖物の割合は約35パーセント(2005年度)。天然物の生産量の95パーセント以上を北海道が占める。また、中国でも80万トン前後が養殖されている。
北海道の函館市沿岸ではマコンブの養殖が盛んに行われている。マコンブは2年生のため、その養殖には2年の時間と手間が必要であり、2年栽培のものに近い質を目指した1年の促成栽培もある。また、産業上重要種であるミツイシコンブ、リシリコンブ、オニコンブに関しても、その養殖法は確立されている。その他の種に関しては天然の現存量が多い、もしくは前述の種より利用価値が低いことから、養殖法が確立されていない。
コンブの収穫は、小舟から箱メガネなどで海中を見ながら昆布の根元に竿を差し入れ巻き付けてねじり取る[17]。コンブ漁に用いられる先が二股になった棒は「マッカ」などと呼ばれる[17]。海岸で押し寄せてきたコンブを拾ったり、鈎でたぐり寄せる方法もある。次に、小石を敷き詰めた干場に運び並べて干す。1〜2回裏返しにし、まんべんなく乾燥させる。乾燥しすぎると折れやすくなるため加減が必要である。乾燥時間は半日程度だが、この間に雨に当たると商品価値はなくなるので、天気予報で雨が確実な日は出漁を見合わせることもある。天日ではなく乾燥機で干す方法もあり、品質は落ちるが、濃霧や日照不足などの理由で乾燥機の使用頻度が多い地域もある。コンブ干しは最適の天候時に、手早く、かつ何度も表裏を返し、適切に干す必要があるため、干し方専門のアルバイトが募集されるほか、コンブ漁場の近くに番屋を張り寝泊まりする地域もある[18]。また、干した後も、専用の蔵にて「寝かせ」(熟成)の過程が1〜3年、上級品では5〜10年ほど必要であり、大変に手間がかかる[19]。
産地と種類
日本におけるコンブ科の有用種はその有用度から見て、水産物として価値が高く重要な種にマコンブ、ホソメコンブ、リシリコンブ、オニコンブ、ミツイシコンブ、ナガコンブ、ガッガラコンブ及びガゴメコンブがあげられ、補助的な種としてはチヂミコンブ、カラフトトロロコンブ、トロロコンブ、アツバスジコンブ及びネコアシコンブがあり、さらに地域的に利用されている種としてエナガコンブがある[20]。
コンブの主な産地は北海道で、特に真昆布、羅臼昆布、利尻昆布、日高昆布(三石昆布)、長昆布が知られ、
- マコンブ Saccharina japonica[21](真昆布)
- 主に津軽海峡〜噴火湾沿岸で獲れる道南産のコンブ。非常に多くの銘柄と格付があり、旧南茅部町周辺(現在は函館市)に産する真昆布が最高級品とされ、「白口浜」という銘柄で呼ばれる。そのほか旧恵山町周辺で産する黒口浜、津軽海峡の本場折、それ以外の海域で取れたものを場違折などの銘柄に分ける。市場価値もおおよそこの順番となるが、銘柄内でも品質により数段階の等級に分けられる。だし汁は上品で透き通っていて、独特の甘味がある。大阪ではこの味が好まれ、だし昆布といえば、大抵この真昆布を用い、取扱量は日本国内の90%に及ぶ。また、他の用途としておぼろ昆布、白髪昆布などの薄く削った加工品や、代表的な大阪寿司であるバッテラに用いる白板昆布がある。現在の分類においては、オニコンブ、リシリコンブ、ホソメコンブは本種の変種とされている。
- オニコンブ Saccharina japonica var. diabolica[21](羅臼昆布)
- 真昆布と並ぶ昆布の最高級品である。濃厚な味のため、関東地方ではだし昆布として、この羅臼昆布が好まれる。関西でも消費量は多いが、使用され始めたのは明治時代と、マコンブなどと比較して歴史は浅い。主な用途はうどんだし、おでん、鍋物の味付け、佃煮などである。また、食用にも適しており、北陸地方、特に富山県は一大消費地である。
- リシリコンブ Saccharina japonica var. ochotensis[21](利尻昆布)
- 真昆布や羅臼昆布に次ぐ高級品で、生産地は利尻島、礼文島及び稚内沿岸であり、礼文島香深のものが最高級品とされる。味は前者より薄いが、澄んでおり、やや塩気のあるだしが採れる。素材の色や味を変えないため、懐石料理や煮物で重宝される。また、京都では最も一般的なだし昆布であり、千枚漬、湯豆腐など用途が広く、料亭などでは、上質なだしを採るために1年以上寝かせた「ひね物」を用いる店もある。また、肉質が硬いため、高級おぼろ昆布やとろろ昆布の材料にもなる。
- ホソメコンブ Saccharina japonica var. religiosa[21](細目昆布)
- 渡島半島の松前〜道北の留萌を主体とした日本海沿岸で獲れる昆布。ほかの昆布と異なり寿命が1年であるため、1年目で刈り取られる。切り口がどの昆布よりも白いために、おぼろ昆布、とろろ昆布に加工されることが多い。以上の4種は分布域が連続しており、遺伝的距離も非常に近く種間交雑が可能である。
- ミツイシコンブ Saccharina angustata[21](日高昆布、三石昆布)
- 太平洋岸、日高地方で獲れる。繊維質が多いため、早く煮え、非常に柔らかくなるので、昆布巻き、佃煮、おでん種など、昆布そのものを食べる料理に適している。また、関東での消費量が多く、一般的なだし用昆布として用いられる。
- ナガコンブ Saccharina longissima[21](長昆布、浜中昆布)
- 釧路地方で多く獲れるコンブ。全長15mにも及ぶ。生産量は最も多いが、旨味成分が少ないために一般向けの廉価品。日高昆布同様、柔らかいために一般では昆布巻きなどに用いられる。沖縄県周辺の島嶼群では最も一般的な昆布であり、古くから野菜代わりに重宝され、切り刻んだものをそのままサラダ感覚で食べたりするほか、豚肉との相性が非常に良いため、炒め物にしたりする。ミツイシコンブと遺伝的距離が近く、本種をミツイシコンブの変種とする説もある[22]。
- ガッガラコンブ Saccharina coriacea[21](厚葉昆布)
- 釧路地方で多く獲れるコンブで、がっがらとも呼ぶ。ナガコンブと同じ海域に生息するが、ナガコンブと異なって、波の穏やかな場所を好む。表面は白粉(マンニット)を帯びており、独特の刺激と苦味がある。主な用途は加工用で、佃煮、塩吹昆布、ばってらなどに利用される。
- ネコアシコンブ Arthrothamnus bifidus[21](猫足昆布)
- 分布は釧路沿岸〜千島列島。コンブ科の褐藻だが、他のコンブのようにコンブ属ではなく、ネコアシコンブ属に属する。長さは2-4メートルで、葉の基部両縁に耳型の突起ができる。根の部分が猫の足に似ていることから、猫足と呼ばれるようになった。他の昆布と比較すると粘りと甘味が強いのが特徴で、主にとろろ昆布、おぼろ昆布の材料になる。その他、医薬品、試薬に欠かせない沃化カリウムの原料としても知られていた。養殖法は確立されていない上に、下述のガゴメと同様、フコイダンという粘性多糖類が多く含有されていることから、価格が急騰し、入手が困難になってきている。
- ガゴメコンブ(ガゴメ) Saccharina sculpera[21](籠目昆布、シノニム:Kjellmaniella crassifolia, Saccharina crassifolia[10])
- 葉(正確には葉状部という)の表面に籠の編み目のような龍紋状凹凸紋様があることからこの名を持つ。北海道函館市の津軽海峡沿岸〜亀田半島沿岸(旧南茅部町)〜室蘭市周辺(噴火湾を除く)、青森県三厩〜岩屋、岩手県宮古市重茂、樺太南西部、沿海州、朝鮮半島東北部に生育する。水深10〜25mに多く分布し、浅い側ではマコンブと混じって分布するため、昔は雑海藻とみなされていた。最大で長さ2mほどになり、寿命は3年から5年と考えられている。ダシを取る用途には使われないため、主にとろろ昆布や納豆昆布、松前漬などの加工品などに用いられた。そのため、他の昆布と比較して価格が低かったが、「フコイダン」という粘性多糖類が他のコンブよりも多量に含まれ、それがいわゆる機能性成分として作用するらしいことが分かり、価格が急騰した。これまではもっぱら天然に分布するものが採取されていたが、生産量は一時期の10分の1まで落ち込んだ。しかし、現在では栽培方法も確立されており、ガゴメの栽培に従事する漁業者が増え、生産量も安定してきている。
主な陸揚げ漁港
利用
食材としての利用
古くから日本各地で食べられており、たとえば昆布締めは富山県の郷土料理となっている。昆布巻き鰊は山形県、松前漬けは北海道の郷土料理である、
昆布は、主に乾燥させて出汁をとるために日本料理では幅広く使われる。ロシアでは「海のキャベツ(морская капуста)」と呼ばれるが、食べ物としてはそれほどよく知られていない。細長く刻んで刻み昆布(そうめん昆布)にも加工され昆布の佃煮が作られる。また、表面を薄く削ってとろろ昆布やおぼろ昆布(こちらは糸状ではなく薄く帯状に 削ったもの)にするほか、酢昆布やおしゃぶり昆布としてお茶請け・おやつにも用いられる。北海道では、湯通しした若い昆布を刺身昆布として食べる習慣がある。結び昆布や昆布巻きなどに用いられる棹前昆布は「早煮昆布」とも呼ばれ、漁期前に採取された未成熟で薄い昆布をボイルして干したものである。
統計局の家計調査によると、青森市、盛岡市、富山市[23]が昆布消費量の多い都市(2003〜2005年平均:1世帯あたり)で、全国平均の1.4〜1.8倍を消費している。沖縄県那覇市は7位(全国平均の1.1倍)である。沖縄県はかつて日本産昆布を中国に輸出するための中継地点であったことから、昆布を利用する食文化が生まれ昆布消費量が多かったが、近年は若者の伝統食離れで消費が減少している。昆布つくだ煮の消費量が多い市は福井市、大津市、富山市で、これに京都、奈良など近畿地方の都市が続く。近畿地方では古くから北前船によって昆布が多く流通し、独特の昆布消費文化と加工技術が存在するため、つくだ煮消費量が多い。
昆布は特に豊富な食物繊維や鉄分、カルシウムなどが含まれており健康食品として人気が高い。池田菊苗が1908年古来から使われる昆布の旨み成分がグルタミン酸であることを発見し、これがうま味調味料の味の素となった。他にも、昆布には人にとって必須元素であるヨウ素を多量に含有している。
食品 | 含有量 (μg/g) |
---|---|
昆布(素干し) | 2100-2400 |
昆布(刻み昆布) | 2300 |
昆布(佃煮) | 110 |
カットわかめ | 85 |
昆布だし(液体) | 19-82 [24][25] |
厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取基準(2010年版)」によると、ヨウ素の推奨量は成人で約130 µg/日、ヨウ素の耐容上限量は約2.2 mg/日としている[26]。コンブは大量にヨウ素を含み、素干しコンブわずか1gでヨウ素の耐容上限量約2.2 mg/日に達する。北海道での海岸性甲状腺腫はヨウ素の過剰摂取が原因であると考えられている。半面、ヨウ素の抗腫瘍作用を利用するため少なくとも3 mg/日を摂取すべきとの説も存在する[27]。
コンブの表面に付着している白い粉は味の源となっているグルタミン酸とマンニトールで、調理前に水洗いをすると流されてしまう。
調理の際、だし汁に色が付くことがあるが、緑色はクロロフィルの色素で、茶褐色はカロテンの色である。青紫色への変色は、水道水に含まれる塩素イオンによりコンブのヨウ素が溶け出し、ボウルや鍋に付着したデンプンとが適度な温度でヨウ素デンプン反応を起こしたものであり、この色は加熱することにより消える。昆布からのグルタミン酸の抽出には水に含まれるミネラルが悪影響を及ぼすので軟水の使用が望ましい[28][29][30]。
2004年、こうはら本店と大阪府立大学が提携し発酵食品の発酵塩昆布が発売された[31]。もともと、昆布には硫酸基をもつ物質が含まれており、菌の繁殖を妨げていたのであるが、この硫酸基に影響を受けずに昆布を発酵させる菌が海底生物から見つかったことで、発酵塩昆布の開発に拍車がかかった。昆布を発酵させる技術は、宝酒造、協和発酵キリン、がそれぞれ独創的な技術を持つ。
医療での利用
乾燥したコンブは水分を吸収すると膨張するという性質をもつ。この性質を利用して、医療用拡張器の原材料としてコンブ科の海藻が利用される。子宮頸管等の拡張に用いられるラミナリアがそれである。原材料は主に Laminaria digitata の茎根である[32][33]。
工業製品としての利用
コンブに含まれるアルギン酸を繊維化したものが、スピーカーの音響装置に利用されている[34][35]。
語源
和語では古くは、食用の海草一般(特にワカメを指して)を「め」と呼んでいた。漢字では、古くは「軍布」(万葉集、藤原京木簡)、「海布」(古事記)、「海藻」(平城京木簡、風土記、正倉院文書)、「和布」(色葉字類抄)などと当てられていた。『本草和名』(9世紀初頭)には「昆布、一名綸布。和名比呂女、一名衣比須女」とあるように、とりわけ昆布を指しては「ひろめ」とか「えびすめ」と呼んでいた。「ひろめ」は幅の広いことに(すなわち広布)、「えびすめ」は蝦夷の地から来たことに(すなわち夷布)由来すると考えられる。「コンブ」に近い名称はやや時代を下り、『色葉字類抄』(1177-81年)に「コンフ」、『伊呂波字類抄』に「コフ」という訓が確認できる。
「コンブ」の語源には諸説あるが、特に次の二説が有力である。
一つは、漢名「昆布」の音読みであるとする説である(和訓栞他)。この漢名自体は、日本ではすでに正倉院文書や『続日本紀』(797年)に確認でき、さらに古くは中国の本草書『呉普本草』(3世紀前半)にまで遡ることができる。李時珍の『本草綱目』(1596年)には次のようにある。
ただし、中国でいう「昆布」は、文献によってさまざまに記述されており、実際にはどの海藻を指していたのか同定が難しい。たとえば陳藏器は「昆布は南海で産出し、その葉は手のようで、大きさは薄(ススキ)や葦ほど、赤紫色をしている。その葉の細いものが海藻である」[36]と記しており、アラメ、カジメ、ワカメ、クロメといったものを想起させる。昆布は、少なくとも当時は、東海(東シナ海)でも南海(南シナ海)でも採れるものではなかった。また、李時珍も掌禹錫(11世紀)に倣い、「昆布」と「海帯」(後者は、現代中国語で昆布を指す)を別種のものとして記述している[36]。
もう一つは、アイヌ語で昆布を指す kompu の音訳とする説である(大言海他)。このアイヌ語は、先の中国語「綸布 (gūanbù)」または「昆布 (kūnbù)」と酷似しており、一方が他方の借用語である可能性がある。
歴史
『爾雅』(紀元前3世紀〜2世紀ころ)には、『綸似綸,組似組,東海有之。』「綸(という発音で呼ばれているもの)は綸に似ている。組(という発音で呼ばれているもの)は組に似ている。これは東海にある」[37]と書かれており、『呉普本草』(3世紀前半〜中葉)には綸布の別名が昆布であるとする。また、陶弘景(456-536年)は、「昆布」が食べられることを記している[36]。ただし、前述のように、この「昆布」が日本で言う昆布と同じものなのかは定かでない。
日本では、古くから昆布が食べられてきた。縄文時代の遺跡からは、ワカメなどの海藻の植物遺存体が見つかっており[38]、コンブもまた、この時代から食されていたかもしれない。文字資料で残っているものとしては、前述の「軍布(め)」は、音から推測して、コンブであった可能性がある。続日本紀(797年)の霊亀元年(715年)十月丁丑条には、蝦夷(大和朝廷に属さない東北人一般とする説と、アイヌ人説がある)の須賀古麻比留が「先祖代々、朝廷に献上している昆布はこの地で取れるもので、毎年欠かしたことがない」と言った、とある。平安時代の延喜式(927年)にも、陸奥から貢納されていたことが記されている。また、三管領の一家に数えられた細川氏は、元海賊であった水軍の舟で京都に持ち込んだとされる。安土桃山時代には城建築の際に石を滑らせるための材料として使用していた。安土城や大阪城でもこの工法が使われている。
戦国時代には、陣中食として昆布が使用されていた[39]。江戸中期には、敦賀が昆布の唯一中継地となり、弘化に入ってから江戸や大坂や各地に広がっていく。特に大坂においては問屋が発展した。蝦夷地(北海道)の開発が盛んになると、北前船などの航路の整備、出荷量の増加などにより全国に広まっていく事になる。とりわけ琉球王朝時代に昆布を中国への朝貢品の主要産物としていて、朝貢には適さない半端モノや下等級品をやむなく工夫して自家消費したことから、のちに伝統料理化する沖縄料理にはよく用いられる。
上方食文化における昆布
乾燥させた昆布を湿気の多い大阪で倉庫に寝かせておくと、熟成することで昆布の渋みが無くなり甘みがでてくる。大阪に昆布が広まったのは商用船が日本海航路(北前船)を通って下関経由で大阪に運ばれるようになってからである。安土桃山時代に農・乾物の一大集積地であった大阪は多湿な気候が乾物や昆布の旨味を熟成させ、江戸時代にはこれらは大阪の味ともされた。
大阪の農産物と交換に蝦夷から運ばれた乾物は、昆布のほか、帆立貝、棒だら、身欠きにしんなどがある。主に商用船は太平洋側を避けて日本海航路で運ばれるようになったことから、大阪より敦賀や小浜で昆布の消費が多くなっている。
また刃物の街である堺の職人により、乾燥昆布を甘酢に浸し表面を削った「おぼろ昆布」が生まれた。昆布表面の黒い部分は甘酢がよく染みていることから、酸味が多い黒い「おぼろ昆布」(黒おぼろ)になる。中でも表面を薄く削ってゆくと、内側の白い部分が出てくる。ここは酢に浸っておらず、昆布本来の甘みがある。この昆布は「太白おぼろ」と呼ばれる。最後に残った昆布の芯の部分はばってら寿司や押しすしに使われるばってら昆布(白板昆布)になる。薄く削るには職人による高等技術が必要とされる。
上記の堺でも「おぼろ昆布」が発達し、また北前船の集積地でもある敦賀でも「おぼろ昆布」技術が発達した。おぼろを削ったヘタの部分は爪昆布と呼ばれ、お菓子として食べられることがある。また、爪昆布は煮込むとコンブ特有の粘りが強く出ることから、煮物などの調理の際に煮汁とともに入れ、その粘りを利用して表面に浮いた灰汁取りを容易にするといった使い方もなされる。その他昆布の加工品といえば、塩昆布(日高昆布)が連想されるが、戦国時代の出陣の際、勝ち栗や喜ぶなどの縁起を担いだ出陣式に醤油で炊かれた塩昆布は細目昆布を醤油で煮込んだものと思われる。
醤油で炊かれた塩昆布を火鉢の網の上に並べて乾燥させては醤油につけ、網の上で3回乾燥させたものを「汐吹き昆布」と言い昭和20年代に初めて作り出され商品化された。粉が表面に吹いているように見えるが、これは昆布のうまみ成分が結晶化したものである。現在では、イノシン酸や昆布のグルタミン成分などの調味料をまぶす場合もある。
江戸における昆布
北前船で蝦夷地から運ばれた昆布は上方でその多くが消費され、上質なものは上方で消費されたので江戸へ回った分はその残りで、量が多かった日高昆布がほとんどであった[40]。また、江戸の水質は上方より硬水寄りで、昆布のダシが出にくいものであったために、ダシの材料として「鰹節」が多く使われていた[41]。
江戸時代に江戸佃島では、昆布などの海藻などを醤油などで煮しめた料理が多く作られ「佃煮」と呼ばれるようになり、郷土料理となっている。
シーボルトの『江戸参府紀行』によると、最上徳内がサガレン(樺太)に滞在した時に105人中53人が寒冷の影響で死亡したが、徳内は大量の昆布を食べることで、すこぶる健康であったと記載されている[42]。
脚注
- ↑ 海藻の食物繊維に関する食品栄養学的研究、吉江由美子、日本水産学会誌、Vol.67 (2001) No.4
- ↑ 米原万里『旅行者の朝食』にはソ連で深刻な食料品不足のときでも誰にも買われず商品棚を満たしていた缶詰に「昆布のトマト煮」というものがあったと書いてある。
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2013年). “Family:Laminariaceae”. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. 2013年6月6日閲覧。
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- ↑ 武則要秘録
- ↑ 奥井隆『昆布と日本人』日本経済新聞出版社〈日経プレミアシリーズ〉、2012年、初版、ISBN 978-4-532-26177-1、p.71
- ↑ 奥井隆『昆布と日本人』日本経済新聞出版社〈日経プレミアシリーズ〉、2012年、初版、ISBN 978-4-532-26177-1、p.72
- ↑ 宮本義己『歴史をつくった人びとの健康法』(中央労働災害防止協会、2002年、129-130頁)
関連項目
外部リンク
- こんぶネット 一般社団法人 日本昆布協会
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