クヌギ
クヌギ (Quercus acutissima) は、ブナ科コナラ属の落葉高木。古名はつるばみ[1]。漢字では苗字などを含め、櫟、椚、橡、栩、功刀などと表記する。
クヌギの語源は国木(くにき)または食之木(くのき)からという説がある[2]。
特徴
樹高は15-20mになる。樹皮は暗い灰褐色で厚いコルク状で縦に割れ目が出来る。
近縁のアベマキ (Quercus variabilis) と交雑したものはアベクヌギと呼ばれ、両親の中間的な特徴をもつ。
葉は互生、長楕円形で周囲には鋭い鋸歯が並ぶ。葉は薄いが硬く、表面にはつやがある。新緑・紅葉が美しい。紅葉後に完全な枯葉になっても離層が形成されないため枝からなかなか落ちず、2月くらいまで枝についていることがある。これは同属のカシワと同様である。
花は雌雄別の風媒花で4-5月頃に咲く。雄花は黄色い10cmほどの房状に小さな花をつける。雌花は葉の付根に非常に小さい赤っぽい花をつける。雌花は受粉すると実を付け翌年の秋に成熟する。
実は他のブナ科の樹木の実とともにドングリと呼ばれる。ドングリの中では直径が約2cmと大きく、ほぼ球形で、半分は椀型の殻斗につつまれている。殻斗の回りにはたくさんの鱗片がつく。この鱗片は細く尖って反り返った棘状であり、この種の特徴でもある。実は渋味が強いため、そのままでは食用にならない。
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表皮
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葉と実
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雄花序
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実(ドングリ)
虫の集まる木
クヌギは幹の一部から樹液がしみ出ていることがある。カブトムシやクワガタなどの甲虫類やチョウ、オオスズメバチなどの昆虫が樹液を求めて集まる。樹液は以前はシロスジカミキリが産卵のために傷つけた所から沁み出すことが多いとされ、現在もほとんどの一般向け書籍でそう書かれていることが多いが、近年の研究で主としてボクトウガの幼虫が材に穿孔した孔の出入り口周辺を常に加工し続けることで永続的に樹液を滲出させ、集まるアブやガのような軟弱な昆虫、ダニなどを捕食していることが明らかになった。
ウラナミアカシジミという蝶の幼虫はクヌギの若葉を食べて成長する。またクヌギは、ヤママユガ、クスサン、オオミズアオのような、ヤママユガ科の幼虫の食樹の一つである。そのため昆虫採集家は採集する種にもよるがこの木を見ると立ち止まって幹、枝、葉、さらには根元まで一通り確認して昆虫を探すことが多い。また、オオクワガタなどクヌギを主な活動拠点とする昆虫を探すために、それらの名産地においてマニアが何時間もクヌギを見張っている光景が見られることも珍しくない。
利用
クヌギは成長が早く植林から10年ほどで木材として利用できるようになる。伐採しても切り株から萌芽更新が発生し、再び数年後には樹勢を回復する。持続的な利用が可能な里山の樹木の一つで、農村に住む人々に利用されてきた。里山は下草刈りや枝打ち、定期的な伐採など人の手が入ることによって維持されていたが、近代化とともに農業や生活様式が変化し放置されることも多くなった。
材質は硬く、建築材や器具材、車両、船舶に使われるほか、薪や椎茸栽培の榾木(ほだぎ)として用いられる。
実は爪楊枝を刺して独楽にするなど子供の玩具として利用される。また、縄文時代の遺跡からクヌギの実が土器などともに発掘されたことから、灰汁抜きをして食べたと考えられている。
樹皮やドングリの殻は、つるばみ染め(橡染め)の染料として用いられる。つるばみ染めは媒染剤として鉄を加え、染め上がりは黒から紺色になる。
養蚕では、屋内で蚕を飼育する家蚕(かさん)が行われる以前から、野外でクヌギの葉にヤママユガ(天蚕)を付けて飼育する方法が行われていた。
樹皮は樸樕(ボクソク)という生薬であり[3]、十味敗毒湯[4]、治打撲一方(ヂダボクイッポウ)[5]といった漢方薬に配合される。
分布等
日本では岩手県・山形県以南の各地に広く分布する。低山地や平地で照葉樹林に混成して生える。また、薪炭目的の伐採によって、この種などの落葉樹が優先する森林が成立する場合があり、往々にして里山と呼ぶのはこのような林であることが多い。また、これを薪炭用材として人為的に植えられた物も多い。
また、このようにいわゆる里山の代表的な構成と認められて来たために、近年の広葉樹の植樹の際に選ばれることが多い。しかし、元来その分布は日本の中ではやや北に位置するものである。
文学
市町村の木
出典
- ↑ 小林文子、金成俊ほか「樸樕と土骨皮の来歴」、『漢方の臨床』第52巻第4号、2005年、 p.p.613-626。
- ↑ 木村陽二郎監修 『図説草木辞苑』 柏書房、1988年。ISBN 4-7601-0351-1。
- ↑ 治療学編集部編、大塚恭男監修「和漢生薬事典」『治療学』1983年、10巻、Suppl.、p162(なお、近縁植物のナラ、カシの樹皮も樸樕という)
- ↑ ツムラ十味敗毒湯 第二類医薬品(2016年6月29日閲覧)
- ↑ 「ツムラ治打撲一方エキス顆粒(医療用)」添付文書(PDF) 2013年3月改訂第5版、日本医薬情報センター(2016年6月29日閲覧)