キャンプ (日本プロ野球)
日本プロ野球におけるキャンプ (Camp) とは、各球団が公式戦の期間外などに、ある地域に宿営して全体練習や個人練習、自主練習などを行うことである。
メジャーリーグベースボール(MLB)ではレギュラーシーズン開始前の一連の練習とオープン戦がスプリングトレーニング、練習を行う場所がキャンプと呼ばれて区別される。
時期によって、ペナントレース開始前の2月1日から約1ヶ月間行われる春季キャンプ(しゅんきキャンプ)と、終了後の10月下旬頃から行われる秋季練習 → 秋季キャンプ(しゅうきキャンプ)に分けられ、これらは主に本拠地以外の地域に宿営して2週間から1か月程度という長期間にわたって実施される。また、春季非公式試合(オープン戦)や公式戦の期間中もしくは日本選手権シリーズの開催前などにチーム全体で、あるいは個人の選手がチームを離脱して調整を行う際などにはミニキャンプと称し、数日から1週間程度、本拠地もしくはそれ以外の地域で短期間のキャンプを実施することもある。
球団あるいは監督・コーチが主導する形でチーム単位もしくは個人単位で行うものは「キャンプ」と呼ばれるが、選手だけで自主的に集合し、球団や監督・コーチが関わることなしに行われるものは「自主トレーニング」と呼ばれる。複数の選手が集まって行う「合同自主トレ」については、キャンプに類するものとしてこの項で述べる。
日本プロ野球のキャンプとは
日本のプロ野球のキャンプは、1934年に翌年の大リーグ選抜チームとの対戦に備えて編成された全日本チーム(読売ジャイアンツの前身)が10月15日より千葉県習志野市の谷津球場で行った合同練習が最初とされる。
春季キャンプは、1946年に読売ジャイアンツが愛媛県松山市にあった旧制松山高校(現・愛媛大学教育学部附属中学校)で、ペナントレースに向けて練習を行ったのが最初。
現在では、毎年2月1日に開始して2月下旬、ないしは3月初め頃まで行われるのが一般的である。以前は、日本国外でキャンプを張るチームについては特例的に1月下旬からキャンプを張ることも出来たが、現在はアグリーメント(野球協約)の【第17章 試合】「第173条 ポスト・シーズン」に基づき、チーム練習や対外試合などは1月31日まで禁止されているため、チーム練習が解禁になるのが2月1日となる。なお、必ずしも足並みを揃えて開始しなければならない事はないのだが、同日から12球団が一斉スタートするのが慣習になっている。但し、北海道日本ハムファイターズは2016年よりアメリカアリゾナ州で一次キャンプを張るが、時差の関係上、日本時間の2月1日より前にスタートする事になる。アメリカメジャーリーグでは、spring training と呼ばれる練習にあたる。
春季キャンプでは、概ね4 - 5日を1クール(3勤1休、4勤1休など。休養日で区切られる練習期間の単位を"クール"と称する)としてスケジュールを組む。2月初旬は主に基礎体力作りとしてランニングやストレッチ体操、キャッチボール、ノックなどを中心に行い、体をほぐす。中旬から下旬にかけていよいよ長距離のランニング、守備、投球、打撃のそれぞれでの実践カリキュラムを行い、シートバッティングや紅白戦や他チームとの練習試合[1]などもこの時期に行われる。そして下旬からのオープン戦で最終的にその成果を披露して3月下旬の開幕戦に向けて、出場枠を争う形になっている。メジャーリーグの場合は日本とは異なり、2月中旬までの自主トレーニングの段階で体作りを完全に仕上げた上で、2月下旬前後に早速実践的な練習を始める。ただキャンプ地への集合は日本のようにチーム一斉に行うのではなく、投手陣と野手陣に分けて行われる。
秋季キャンプでは、主に若手選手を中心に各球団が来シーズンへ備えた基礎トレーニングを行うが、他球団を自由契約となった選手の入団テストを行うこともある。シーズンで活躍したベテラン選手は秋季キャンプの時期を休養に充てる事も多い。その走りは1979年の地獄の伊東キャンプと言われている。
キャンプに類するものとして、選手同士が集まって行う「合同自主トレ」がある。選手の出身地や、球団の拠点近くの施設を使用する場合が多い。その他、1月に入り、ルーキーのみで行う「新人合同自主トレ」や各球団の選手会が主導する形で行われる「選手会合同自主トレ」、同じ高校・大学の先輩後輩という関係の選手が球団の垣根を超えて、母校のグラウンド等で一緒に行うケースもある。年明け後、三が日が終わった頃に「新人合同自主トレ」が始まり、各地での自主トレを終えた主力選手が集結して行われる「選手会合同自主トレ」にて、ルーキーと主力選手が初対面となる。自主トレには大きく分けて、球団の主力選手が若手を誘って行うケースと、仲の良い選手や出身地が同じ選手が集まって行うケースとがある。特に後者では複数球団の選手が集まることがあり、球団を超えた選手同士の技術交流の場ともなっている。
また新入団選手については、各球団の施設(本拠地球場、2軍用練習場他)で合同自主トレを行うことが恒例になっており、埼玉西武ライオンズでは新人選手が近接する西武園競輪場にて自転車トレーニングを行うのが恒例であるほか、日本競輪学校で新人研修(「競輪トレ」とも)を受けさせる球団もある。
なお、1月下旬には選手たちが続々とキャンプ地入りし、2月1日の春季キャンプインに備えて、現地で再び「選手会合同自主トレ」を行う。外国人選手も、1月下旬に来日し数日かけて軽めに調整して時差ぼけを解消した上で、日本人選手と同様2月1日にキャンプインを迎えており、現在は余程の事情などがない限りキャンプ中盤に途中から合流するケースは少ない。
近年ではキャンプ地で前年の日本一チームが挨拶と報告を兼ねて優勝パレードを行う球団もある。2012年現在では過去にロッテが石垣市で、日本ハムが名護市で、それぞれパレードを行った[2]。
キャンプ地
日本のプロ野球の春季キャンプ地は、かつては高知県や宮崎県などが多かったが、現在は殆どのチームが沖縄県もしくは宮崎県に集中する傾向となっている。キャンプ地選びでは冬の気象条件は特に重要であり、平均気温が15度以上で国内で一番温暖な沖縄県か、沖縄ほど温暖ではないが、晴天日の多い宮崎県の2県に集中している。2004年度には福岡ダイエーホークスと西武ライオンズがそれぞれ高知県で開催していたキャンプを、宮崎県に移している。また阪神の1軍キャンプもこれまで行ってきた高知県安芸市での開催から沖縄県宜野座村で2012年から全期間実施することになるなど、近年は特に沖縄一極集中の傾向にあり、2011年は国内12球団のうち10球団が沖縄でキャンプを実施している。2010年まで宮崎のみでキャンプを実施していた読売ジャイアンツも、2011年からは2次キャンプ地を球場の大幅改修工事が完成した那覇に移した。1990年代までは、2月中旬頃までの1次キャンプを海外で行う球団も幾つか見られたが、景気悪化によるコスト削減などもあり、現在は恒常的に海外キャンプを行っている球団はなく、2016年から米国アリゾナで海外キャンプを行っている日本ハムも従来から使用している名護市営球場が改修工事で使用できないためのもので2019年までの暫定的なものである。
このほか、キャンプ期間中には練習だけでなく、移動中に即席サイン会を実施したり、キャンプ地の自治体に在住する市民との交流会や少年野球教室などを開催したり、休養日になると選手たちがリフレッシュのために市内観光やゴルフに出かけるなど様々な行動を取るため、日頃はなかなか出来ない貴重なふれあいの場ともされている。
人気球団のキャンプ地は、関係者、マスコミ、ファンの宿泊や飲食、関連施設の修築などにより数十億円に上る経済効果をもたらすと計算されている。琉球銀行傘下研究所の試算による2007年度の沖縄県における経済効果が前年と比べて2.96億円上回る53.37億円となる[3]など、その経済効果は拡大傾向にあり、地方の自治体にとってキャンプの経済効果は魅力的なものと捉えられている。このため、キャンプを誘致する自治体は多く、各種施設の整備を約束して自治体間で誘致・引き抜き合戦が繰り広げられている。なお2011年の沖縄県におけるプロ野球キャンプによる経済効果は過去最高の101億円に達すると込まれている[4]。
しかし、プロ野球キャンプ地に求められる施設の規模は地方都市の公共施設としてはオーバースペックとなる場合が多く、また他のキャンプ誘致地との競争に勝つため豪華な施設の建設を条件提示する(または球団側が自治体を天秤にかけ好条件を引き出す)場合が多く見受けられ、「税金の無駄遣い」との批判もある。
参考資料
2月の高知、宮崎、那覇の平年値(1971年~2000年の平均)[5]
高知 | 宮崎 | 那覇 | |
---|---|---|---|
平均気温(℃) | 6.9 | 8.3 | 16.6 |
最高気温(℃) | 12.4 | 13.5 | 19.2 |
最低気温(℃) | 2.1 | 3.4 | 14.3 |
降水量(mm) | 102.4 | 89.5 | 125.2 |
日照時間(h) | 171.4 | 160.8 | 84.6 |
日本の12球団のキャンプ地一覧(2018年春季)
一軍(球団によってはA組、A班とも)
- 高知県
- 埼玉西武ライオンズ(第2次:高知市・高知県立春野運動公園野球場)
- 宮崎県
- 読売ジャイアンツ(第1次:宮崎市・サンマリンスタジアム宮崎)
- 広島東洋カープ(第1次:日南市油津・日南市天福球場)
- 埼玉西武ライオンズ(第1次:日南市南郷町・南郷スタジアム)
- オリックス・バファローズ(宮崎市・宮崎市清武総合運動公園〈SOKKENスタジアムなど〉)
- 福岡ソフトバンクホークス(宮崎市・生目の杜運動公園〈アイビースタジアムなど〉)
- 沖縄県
- 読売ジャイアンツ(第2次:那覇市・沖縄セルラースタジアム那覇)
- 東京ヤクルトスワローズ(浦添市・浦添市民球場)
- 横浜DeNAベイスターズ(宜野湾市・宜野湾市立野球場)
- 中日ドラゴンズ(北谷町・北谷公園野球場)
- 阪神タイガース(宜野座村・宜野座村営野球場)
- 広島東洋カープ(第2次:沖縄市・コザしんきんスタジアム)
- 北海道日本ハムファイターズ(第2次:名護市・21世紀の森公園(あけみおSKYドームおよびブルペン)、国頭村・かいぎんスタジアム国頭)
- 東北楽天ゴールデンイーグルス(第1次:久米島町・久米島野球場、第2次:金武町・金武町ベースボールスタジアム)
- 千葉ロッテマリーンズ(石垣市・石垣市営球場)
- 米国本土
- 北海道日本ハムファイターズ(第1次:アリゾナ州スコッツデール・ソルト・リバー・フィールズ・アット・トーキング・スティック)
二軍・三軍(球団によってはファーム、B組、B班とも)
- 一軍と異なる球団のみ
- 高知県
- 宮崎県
- 読売ジャイアンツ(宮崎市・ひむかスタジアム)
- 東京ヤクルトスワローズ(西都市・西都原運動公園野球場)
- 広島東洋カープ(第1次:日南市・東光寺球場)
- 鹿児島県
- 千葉ロッテマリーンズ(第2次:薩摩川内市・薩摩川内市総合運動公園野球場)
- 沖縄県
- 横浜DeNAベイスターズ(嘉手納町・嘉手納町営球場)
- 中日ドラゴンズ(読谷村・読谷平和の森球場)
- 東北楽天ゴールデンイーグルス(第1次:久米島町・久米島町営仲里野球場)
過去に行われた主なキャンプ使用会場
カッコ内の球団名は、実施当時のもの。春季キャンプだけでなく、秋季キャンプ等も含む。
日本国内
神奈川県
- 小田原小峰球場(東京セネタース)
静岡県
- 伊東スタジアム(巨人、大洋)
- 静岡県草薙総合運動場硬式野球場(大洋)
- 浜松市営球場(中日)
三重県
- ともやま公園(近鉄、オリックス、中日、ダイエー)
兵庫県
- 兵庫県立明石公園第一野球場(巨人、大洋、中日)
和歌山県
- 田辺グリーン球場 (南海)
岡山県
- 岡山県野球場(高橋ユニオンズ)
- 岡山県倉敷スポーツ公園野球場(中日、阪神)いずれも秋季
広島県
- 呉市営二河野球場(広島:1960年代、南海)
愛媛県
- 旧制松山高校(巨人)
高知県
- 高知市野球場(阪急: - 1989年、ダイエー:1991年 - 2003年、オリックス:2005年 - )
- 高知市東部総合運動場野球場(ダイエー:1991年 - 2003年)
- 高知県立春野運動公園野球場(西武:1979年 - 2003年、ただし2軍は現在も使用)
- 宿毛市野球場(近鉄)
福岡県
- 大牟田(名古屋(中日)1940年)
長崎県
- 島原市営球場(西鉄 → 太平洋クラブ → クラウンライター:1954年 - 1978年)
宮崎県
- 串間市営球場(中日)
- 日向市お倉ヶ浜総合公園野球場(近鉄:1983年 - 2004年、楽天:2005年)
鹿児島県
- 鹿児島県立鴨池野球場 (ロッテ:1971年 - 2007年)
- 名瀬運動公園野球場(横浜:2010年 - 秋季)
沖縄県
- 読谷平和の森球場(ダイエー:1990年)
- うるま市営具志川球場(中日)
- うるま市営石川球場(中日)
- 糸満市西崎球場(阪急、オリックス)
- 久米島町営仲里野球場(楽天:2005年、2軍は現在も使用)
- 宮古島市民球場(オリックス:1993年 - 2014年、2軍は2015年まで使用)
日本国外
米国本土
- アメリカ合衆国・アリゾナ州ユマ(ヤクルト)
- アメリカ合衆国・フロリダ州ベロビーチ(巨人、中日、日本ハム)
- アメリカ合衆国・アリゾナ州スコッツデール(ロッテ)
- アメリカ合衆国・アリゾナ州ピオリア(ロッテ、中日、日本ハム)
- アメリカ合衆国・アリゾナ州メサ(大洋)
- アメリカ合衆国・アリゾナ州テンピ(阪神)
- アメリカ合衆国・フロリダ州ブレイデントン(西武)
太平洋諸島
豪州
脚注
- ↑ オープン戦ではないので、入場は無料。また、予め対戦チーム同士の取り決めがあれば、後攻チームが9回表終了時点でリードしていても試合を続行し9回裏の攻撃も行うなど、特別ルールで試合が行われることもある。
- ↑ 1/30 春季キャンプ地の石垣島で優勝・歓迎パレード開催!!
- ↑ 沖縄県内における2007年プロ野球春季キャンプの経済効果 (PDF) (りゅうぎん研究所)
- ↑ 沖縄県内における2011年プロ野球春季キャンプ経済効果の予想 (PDF) (りゅうぎん研究所)
- ↑ 参照