ガラン (化合物)

提供: miniwiki
移動先:案内検索

ガラン(gallane)あるいは水素化ガリウムは、ガリウム水素化物で、化学式GaH3で表される物質である。ジボランと同様に二量体のジガラン(digallane、Ga2H6)として存在する。

1989年に報告された純粋なジガランの最終的な調製は[1][2]、「tour de force(力作)」と称賛された[3]。ジガランは1941年にはWibergによって報告されていた[4]。しかしながら、この結果はGreenwoodらによって後に確認することができなかった[5]

調製

純粋なジガランの合成の成功には2段階の方法が鍵となった。初めに二量体モノクロロガラン (H2GaCl)2(架橋塩素原子を含む、ゆえに(H2Ga(μ-Cl))2と現わされる)が、Me3SiHを用いた三塩化ガリウムGaCl3の水素化によって調製される。この段階に続いて、無溶媒、−23 °CでLiGaH4を用いて還元を行い、ジガランGa2H6が低収率で得られる。

<ce>Ga2Cl6\ + 4 Me3SiH -> (H2GaCl)2\ + 4 Me3SiCl</ce>
<ce>\frac{1}{2}(H2GaCl)2\ + LiGaH4 -> Ga2H6\ + LiCl</ce>

ジガランは揮発性であり、−50 °Cで白色固体に凝結する。

構造および結合

255 Kにおけるジガラン蒸気の電子回折測定によって、ジガランが2つの架橋水素原子[2](いわゆる三中心二電子結合)を持つジボランと構造的に似ていることが証明された。末端Ga—H結合長は152 pm、Ga—H架橋は171 pm、Ga—H—Ga角は98°である。Ga—Ga距離は258 pmである。ジガランのトルエン溶液の1H NMRスペクトルは末端と架橋水素結合に帰属される2つのピークを示す[2]

固体状態では、ジガランはポリマーあるいはオリゴマー構造をとっているように見える。振動スペクトルは四量体(すなわち (GaH3)4)と一致する[2]。振動データは末端ヒドリド配位子の存在を示している。対照的に、α-アラン(高融点で相対的に安定なポリマー型水素化アルミニウム。アルミニウム中心は6配位型)中の水素原子は全て架橋している。

反応

ジガランは常温で分解する。

<ce>Ga2H6 -> 2Ga\ + 3 H2</ce>

ルイス塩基との反応はジボランの場合と似ているが、ガリウムはより大きいため2:1の付加体を形成することができる。ゆえに、トリメチルアミンとは1:1および2:1の付加体(すなわちMe3N·GaH3ならびに (Me3N)2·GaH3)を形成する[6][7]ホスフィンとは1:1の付加体H3P·GaH3を形成する。

脚注

  1. Anthony J. Downs, Michael J. Goode, and Colin R. Pulham (1989). “Gallane at last!”. J. Am. Chem. Soc. 111 (5): 1936–1937. doi:10.1021/ja00187a090. 
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 Pulham C.R., Downs A.J., Goode M.J, Rankin D.W.H. Roberson H.E. (1991). “Gallane: Synthesis, Physical and Chemical Properties, and Structure of the Gaseous Molecule Ga2H6 As Determined by Electron Diffraction”. J. Am. Chem. Soc. 113 (14): 5149–5162. doi:10.1021/ja00014a003. 
  3. N.N. Greenwood (2001). “Main group element chemistry at the millennium”. J. Chem. Soc., Dalton Trans. (14): 2055–2066. doi:10.1039/b103917m. 
  4. Wiberg E.; Johannsen T. (1941). “Über einen flüchtigen Galliumwasserstoff der Formel Ga2H6 und sein Tetramethylderivat”. Naturwissenschaften 29 (21): 320. doi:10.1007/BF01479551. 
  5. Shriver, D. F.; Parry, R. W.; Greenwood, N. N.; Storr, A,; Wallbridge, M. G. H. (1963). “Some Observations Relative to Digallane”. Inorg. Chem. 2 (4): 867–868. doi:10.1021/ic50008a053. 
  6. N. N. Greenwood, A. Storr, and M. G. H. Wallbridge (1963). “Trimethylamine Adducts of Gallane and Trideuteriogallane Gallane, (CH3)3NGaH3”. Inorg. Chem. 2 (5): 1036–1039. doi:10.1021/ic50009a036. 
  7. D. F. Shriver, C. E. Nordman (1963). “The Crystal Structure of Trimethylamine Gallane, (CH3N)2GaH3”. Inorg. Chem. 2 (6): 1298–1300. doi:10.1021/ic50010a047. 

関連項目