カボチャ
カボチャ(南瓜、英: pumpkin、米: squash)は、ウリ科カボチャ属に属する果菜の総称である。原産は南北アメリカ大陸。主要生産地は中国、インド、ウクライナ、アフリカ。果実を食用とし、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミン類を多く含む緑黄色野菜。
名称
日本語における呼称は、この果菜が国外から渡来したことに関連するものが多い。
一般にはポルトガル語由来であるとされ、通説として「カンボジア」を意味する Camboja (カンボジャ)の転訛であるとされる[1]。方言では「ぼうぶら」「ボーボラ」などの名を用いる地方もあり、これはやはりポルトガル語で、「カボチャ」や「ウリ類」を意味する abóbora (アボボラ)に由来するとされる。ほかに「唐茄子(とうなす)」「南京(なんきん)」などの名もある。 漢字表記「南瓜」は中国語: 南瓜 (ナングァ; nánguā)によるもの。
英名は pumpkin (パンプキン)であると理解されている場合が少なくないが、実際には、少なくとも北米では、果皮がオレンジ色の種類のみが pumpkin であり、その他のカボチャ類は全て squash (スクウォッシュ)と総称される[2]。したがって日本のカボチャは、kabocha squash (カボチャ・スクウォッシュ)などと呼ばれている。
植物学
- 参照: カボチャ属葉は大きく突起を持ち、斑模様や裂片をつける。花は黄色や橙色であり、短命。そのため受粉に人工授粉が施されることが多い。
栽培
栽培されているのは、C. argyrosperma、クロダネカボチャ、セイヨウカボチャ、ニホンカボチャ、ペポカボチャの5種とそれらの雑種である[3]。
- クロダネカボチャ C. ficifolia
- アメリカ大陸原産。強健な性質を利用して、キュウリなどの接ぎ木の台にすることも多い。
- セイヨウカボチャ C. maxima
- アンデス山脈高地の冷涼な土地で栽培化された種で、現在日本で広く栽培されているカボチャである。花梗はスポンジ状で膨れており、畝は無い。果肉は粉質で食感はホクホクとして甘みは強く、栗かぼちゃとも呼ばれる。「えびす」などの品種や打木赤皮甘栗かぼちゃ、宿儺かぼちゃがこれに含まれる。
- ニホンカボチャ C. moschata
- メソアメリカの熱帯地方で栽培化された種。日向や小菊などの品種をはじめ、鹿ケ谷かぼちゃや春日ぼうぶらのような伝統野菜、バターナッツ・スクワッシュや鶴首かぼちゃなどがこれに含まれる。
- 種間雑種カボチャ C. mixta
- セイヨウカボチャとニホンカボチャを交配したカボチャ。強健で病気に強いのが特徴。栗かぼちゃの食味が好まれるようになった現代では廃れていった。ただし、新土佐(別名:鉄兜)は今でも種が販売され、食用や、強健な性質を利用してキュウリなどの接ぎ木の台に利用される。この新土佐とセイヨウカボチャをさらに交配した万次郎かぼちゃというのもある。
- ペポカボチャ C. pepo
- 北米南部の乾燥地帯で栽培化された種で、ドングリカボチャ、金糸瓜(そうめんかぼちゃ)などがこれに含まれる。果実の形や食味に風変わりなものが多い。ハロウィンで使われるオレンジ色のカボチャはこのペポ種である。なお、ズッキーニも同種である。
栽培は日本では春に播種し夏から秋にかけて果実を収穫する。野菜の中でも特に強健で、こぼれ種から発芽することもある。栽培法はいたって簡単で、無農薬栽培も可能。播種・植えつけ後は放置してもよい。ただし、都会などで花粉の媒介を行う昆虫がいない場合は人工授粉しなければならない場合がある。人工授粉は午前9時までに行う。また垣根に這わせたり日よけ代わりに使うこともできる。施肥では窒素過多の場合、つるぼけを起こすことがあり、結実や果実肥大しにくくなる。陽性植物に分類されており、一日6時間以上の直射日光の当たる場所を好み、日陰での栽培ではウドンコ病などが悪化しやすくなる。また、果実にエネルギーを奪われる果実肥大期や成熟期にもウドンコ病などが酷くなりやすい。
歴史
カボチャはメソアメリカで栽培化された。1997年、栽培化が従来の推定よりも数千年早い8,000 - 10,000年前に起きたことを示す新しい証拠が出された[4]。メソアメリカにおける他の主要な食用植物群であるトウモロコシと豆の栽培化よりも4,000年早かったということになる[5]。21世紀の遺伝子解析による考古学的な植物調査では、北米東部の民族がおのおのにカボチャ、ヒマワリ、アカザを栽培化したことが示唆されている[6]。
日本への渡来については諸説あるが、ニホンカボチャは天文年間(1532年-1555年)に豊後国(現在の大分県)にポルトガル人がカンボジアから持ち込み、当時の豊後国の大名であった大友義鎮(宗麟)に献上したという説が有力である[7]。このカボチャは「宗麟かぼちゃ」と名づけられ大分県などで伝統的に栽培されている[8]。ペポ種は中国を経由して来たため唐茄子とも呼ばれる。
利用
食材
ビタミンAを豊富に含む。皮は硬いが長く煮ることでやわらかくして食べることができる。サツマイモと同様にデンプンを糖に変える酵素を含んでおり、貯蔵によってあるいは低温でゆっくり加熱することによって甘味が増す。従って、収穫直後よりも収穫後、約1か月頃が糖化のピークで食べ頃となる。保存性に優れ、常温で数か月の保存が可能な数少ない野菜であるが、保存がきくのは切っていない場合で、切って果肉が空気に触れると数日で腐ってしまう。
甘みの強い品種は菓子作りにも向いており、パンプキンパイや、南アメリカのフランやタイの「サンカヤー・ファクトン」などのプリンなどに加工される。
フランスではスープの材料として使われることが一般だが、南部ではパイやパンに料理される。アルゼンチンでは中をくりぬいたカボチャにシチューを入れる。
種子(パンプキンシード)も食品として市販されており、ナッツとして扱われる。パンや洋菓子のトッピングとして用いられることが多い。メキシコにはカボチャの種子をすりつぶしたソースで肉や野菜を煮込んだ、ピピアン (pipián) という伝統料理がある。また、種子から食用油(パンプキンシードオイル)が取れる。
米国ではシナモンやクローブなど、パンプキンパイに用いる香辛料とカボチャを使って醸造したビールが生産されている。日本では北海道での生産量が多い。アイヌの人々もカボチャを栽培しており、北海道での栽培の歴史は古い[9]。
同じウリ科のキュウリのように、未熟果を利用する品種もある。
生薬
乾燥した種子は南瓜仁(ナンカニンまたはナンガニン)という生薬で条虫、回虫駆除に用いられる。
飼料
大型で、ハロウィンにくりぬいてお化けの顔を作るのに使われるのも、飼料用である。
生産
- 日本
- 日本国外
- このうちトンガでは、もともとかぼちゃの栽培が行われていなかったが、気候がかぼちゃの生育に最適であることと、日本でカボチャの需要が多いにもかかわらず収穫の出来ない12月ごろに収穫期を迎えることに目をつけた日本の商社が1990年代にカボチャ栽培を持ち込んだ。現在ではカボチャはトンガの主要輸出品目となっている。
日本における収穫量上位10都道府県(2012年)[13]
収穫量順位 | 都道府県 | 収穫量(t) | 作付面積(ha) |
---|---|---|---|
1 | 北海道 | 113,300 | 8,850 |
2 | 鹿児島県 | 12,800 | 983 |
3 | 茨城県 | 9,420 | 532 |
4 | 長崎県 | 8,160 | 537 |
5 | 千葉県 | 5,380 | 265 |
6 | 宮崎県 | 5,170 | 234 |
7 | 神奈川県 | 3,660 | 230 |
8 | 沖縄県 | 3,100 | 478 |
9 | 石川県 | 2,830 | 223 |
10 | 岡山県 | 2,820 | 168 |
― | 全国計 | 227,100 | 17,800 |
世界のカボチャ類(pumpkins, squash and gourds)の収穫量上位10か国(2012年)[14]
収穫量順位 | 国 | 収穫量(t) | 作付面積(ha) |
---|---|---|---|
1 | 中華人民共和国 | 7,000,000 | 380,000 |
2 | インド | 4,900,000 | 510,000 |
3 | ロシア | 1,080,845 | 53,400 |
4 | イラン | 965,000 | 60,000 |
5 | アメリカ合衆国 | 900,880 | 36,980 |
6 | ウクライナ | 587,800 | 26,000 |
7 | メキシコ | 564,986 | 34,001 |
8 | エジプト | 559,606 | 30,906 |
9 | イタリア | 520,000 | 19,000 |
10 | スペイン | 502,600 | 10,000 |
― | 世界計 | 24,616,114.6 | 1,788,773 |
日本の収穫量は23位で212,000t、作付面積は18位で18,200haである[14]。
文化
- アメリカなどではハロウィンが近づくと橙色のカボチャの中身をくり抜いて目鼻などをつけた観賞用のちょうちん(ジャック・オー・ランタン)を作り、中にロウソクを立てて戸口に飾る。昔はハロウィンが終わるとジャック・オー・ランタンでよくパンプキンパイを作っていたが、現在のジャック・オー・ランタン用のパンプキンの品種は観賞用に選抜されているため味があまり良くなく、腐るまで放置されることが多い。
- ハロウィンの夜に「トリック・オア・トリート」(いたずらかお菓子か)に繰り出したティーンエイジャーが他人の家のジャック・オー・ランタンを持ち去って打ち壊すのは割りとよくあるいたずらである。オルタナティブ・ロックのバンド「スマッシング・パンプキンズ」のバンド名はここから来ている。
- ブラジルでは、頭の大きい人をカボチャと呼ぶことがある。
脚注
- ↑ なお、“ポルトガル語 Cambodia abóbora に由来する”といった説が少なくともネット上においては相当広まっているが、この表現はポルトガル語としては何重にもおかしく、何かの勘違いが事故的に広まってしまったものと思われる。「カンボジアの瓜」をポルトガル語で言うなら、abóbora de Camboja / abóbora da Camboja か、もしくは abóbora cambojana であろう。
- ↑ オーストラリアなど他の英語圏ではこの限りではない。
- ↑ (英語)Nee, Michael (1990). “The Domestication of Cucurbita (Cucurbitaceae)”. Economic Botany (New York: New York Botanical Gardens Press) 44 (3, Supplement: New Perspectives on the Origin and Evolution of New World Domesticated Plants): 56–68. JSTOR 4255271.
- ↑ (英語)Roush, Wade (9 May 1997). “Archaeobiology: Squash Seeds Yield New View of Early American Farming”. Science (American Association For the Advancement of Science) 276 (5314): 894–895. doi:10.1126/science.276.5314.894 .
- ↑ (英語)Smith, Bruce D. (9 May 1997). “The Initial Domestication of Cucurbita pepo in the Americas 10,000 Years Ago”. Science (Washington, DC) 276 (5314): 932-934. doi:10.1126/science.276.5314.932 .
- ↑ (英語)Bruce D. Smith, "Eastern North America as an independent center of plant domestication", Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), Published online before print 7 August 2006, doi: 10.1073/pnas.0604335103 PNAS August 15, 2006; vol. 103, no. 33, pp. 12223-12228
- ↑ 大友宗麟とカボチャ渡来について。 大分県立図書館
- ↑ “いわき昔野菜図譜 其の参 かぼちゃ (PDF)”. いわき市. . 2015閲覧.
- ↑ アイヌ民族の「食」 (PDF) - アイヌ民族博物館
- ↑ “和寒町 産業振興課 » 和寒町の農業について”. 和寒町産業振興課. . 2014閲覧.
- ↑
- ↑ 里川カボチャ [常陸太田市]
- ↑ “作物統計調査>作況調査(野菜)>確報>平成24年産野菜生産出荷統計>年次>2012年”. e-Stat. 総務省統計局. . 2014閲覧.
- ↑ 14.0 14.1 “FAOSTAT>DOWNLOAD DATA” (英語). FAOSTAT. FAO. . 2014閲覧.
- ↑ 落合敏監修 『食べ物と健康おもしろ雑学』 p.88 梧桐書院 1991年
- ↑ 16.0 16.1 新谷尚紀著『日本の「行事」と「食」のしきたり』青春出版社 p.74 2004年
- ↑ 武光誠編著『日本のしきたり-開運の手引き』講談社 p.195 1994年
参考文献
- バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント編『世界の食用植物文化図鑑』(柊風舎) 196-197ページ, ISBN 978-4903530352
関連項目
- パンプキン - 曖昧さ回避のためのページ
- ハロウィン - ジャックランタン
- 冬至
- 日本一どでカボチャ大会
- 唐茄子屋政談
- シンデレラ - カボチャの馬車
- アトランティックジャイアント