カブ
カブ(蕪)はアブラナ科アブラナ属の越年草。代表的な野菜(根菜類)の一つで、別名はカブラ、カブナ、カブラナ、スズナ(鈴菜、菘)、ホウサイ(豊菜)、ダイトウナ(大頭菜)[1]、など数多い。
「カブ」の語源は諸説あり、頭を意味する「かぶり」、根を意味する「株」、またはカブラの女房言葉である「オカブ」からとされている。
江戸時代は漢語で蕪菁(ブセイ、wujing)、蔓菁(マンセイ、manjing)、扁蘿蔔(ヘンラフク、bianluobo)などと呼ばれていた。
概要
カブは世界中で栽培されているが、分類上はアフガニスタン原産のアジア系と、中近東から地中海沿岸原産のヨーロッパ系との2変種に分かれる。原産地についてはヨーロッパもしくは中央アジア起源の一元説や二元説がある[2]。
歴史は古く、中国では詩経に記載され、ヨーロッパ系も古代ギリシャの史料にみられる。ただし、ヨーロッパで広く普及したのは16世紀からで、飼料用途が多かった。 東ヨーロッパなど寒冷な地では冬場の貴重な食料源や救荒植物として活用された[2]。
日本では、古事記の「吉備の菘菜(あおな)」がカブのことと見られるほか、日本書紀に持統天皇が栽培を推奨したと記されている。京野菜など西日本で見られる中国伝来のアジア系とともに、東日本でヨーロッパ系(野沢菜など関連する変種も含む)が在来種として確認され、シベリア経由と見られている。
肥大した球形の根を可食部として利用するが、この部分は発生学上胚軸と呼ばれる部位で、本当の根はその下に伸びたひげ状の部位に相当し、通常は食用とせずに切り捨てる人が多いが、毒があるわけではない。漬物用(日野菜)や薬味用(遠野蕪)などではこの胚軸が大根のように長く伸びる。一方で野沢菜はここがほとんど肥大しない。 胚軸及び根は多くの場合白色だが、赤色で赤蕪と呼ばれるものもあり、東日本に多いとされる一方、「黄河紅丸」など、最近中国から導入された品種もある。
根の部分の栄養素はダイコンとほぼ同じである。葉にはカロテン、ビタミンC、食物繊維が豊富に含まれている。アブラナ科に共通する苦味や辛味はあるが、カブはなかでも甘味が強く、寒い時期ほど甘味は強まる[3]。
別種
根が太る特徴的な姿から、同様または類似の形態をもつ野菜などが「カブ」の名を冠することがある。
- ハツカダイコン(赤カブ):ダイコンの変種
- 食用ビート(血カブ):アカザ科でテンサイの変種
- コールラビ(カブカンラン、カブタマナ):よく似ているが茎が太り、ヤセイカンランの変種(キャベツに近縁)
- ルタバガ(スウェーデンカブ、カブハボタン、仙台カブ、スウィード):セイヨウアブラナの変種
- 野沢菜(カブナ):別変種であるほか、アジア系の天王寺カブの子孫と言い伝えられていたが、実際にはヨーロッパ系カブに近い
生産
主要産地は千葉県で3割を占める。これに次ぐ埼玉県、青森県で全国生産量の約半分を占め、ほぼ全てが小カブである。
利用
特徴的な、大きな球形となる根を食用とするほか、茎や葉などの地上部も青菜類と同様に利用される。 固いため、生食より煮物や味噌汁・シチューの具材として利用が多いが一部では蕎麦の薬味として大根おろしの様に利用される。加熱すると一転して非常に柔らかくなるため、ダイコンのようにじっくり煮込む料理には向かない。 日本料理では風呂吹きにも利用される[4][5]。 また、浅漬け、糠漬け、千枚漬け(聖護院かぶら)、酸茎などの漬物に加工される。
- 麹漬:かぶら寿し
- 酢漬け:大かぶの千枚漬け
日本のカブは味がよく、明治期に西洋から導入された品種は不評で、根付かなかった。また、そもそも飼料用が中心で食用ではなかったとされる。
種子は油分を豊富に含み、かつてはアブラナと並ぶ油用植物だったが、現代では利用されていない。
文化
かぶな、すずなはともに冬の季語で、その白さを降雪に関連づけた詩歌が見られる。 カブの葉はスズナ(鈴菜、または菘。根の形を鈴に見立てた)として、春の七草にも数えられていて、現代でも葉が付いた状態で販売されている事が多い。
古代中国でも、春には苗、夏には心、秋には茎、冬には根をそれぞれ食する蔬菜として重要だった。 また、中国の軍師として知られる諸葛亮が行軍の先々でカブをつくらせて兵糧の一助とした逸話にちなみ、カブのことを「諸葛菜(しょかつさい)」と呼称することがある。地味に乏しい土地でもよくとれるため、貧しい農民たちは随分助けられ、感謝の意を込めたものだという。
ロシアでは『おおきなかぶ』のように民話の題材になるほど馴染みのある野菜である[2]。 一方、カブがあまり好まれないフランスでは、大根役者に相当する「カブ役者」という言い回しがある。