オリバー・ストーン
オリバー・ストーン(Oliver Stone, 1946年9月15日 - )は、アメリカ合衆国の映画監督、映画プロデューサー、脚本家。
ベトナム帰還兵である自身の1年間の実体験を活かし、ベトナム戦争とそれが人間に与えた影響を描いた『プラトーン』で一躍有名になった。多くの作品の傾向として、アメリカ合衆国連邦政府やアメリカ政治を強く批判している。
経歴
ニューヨーク州ニューヨーク市出身[1]。父ルイスはユダヤ系の株式仲買人で、母はフランス系のカトリック教徒であった。折衷案として米国聖公会で育つ[2][3](しかし、のちに仏教徒となった)。イェール大学で1年間学ぶが、中退してベトナム共和国に赴き、英語を教えるなどして半年程過ごす。帰国後復学するが、再び中退している。
1967年からアメリカ合衆国陸軍に従軍し、ベトナム戦争を経験。空挺部隊に所属し、LRRPと呼ばれる偵察隊に加わっていた。この任務は特殊部隊的な側面を持ち、死傷率がもっとも高かった部隊のひとつである。
除隊後にニューヨーク大学でマーティン・スコセッシに師事し映画制作を学んだが、しばらくはシナリオが売れないなどスランプの時期が続いた。1974年にホラー映画『邪悪の女王』(日本未公開、原題:Seizure、あるいはQueen of Evil)で長編監督デビュー[4]。脚本を担当した1978年の『ミッドナイト・エクスプレス』で、アカデミー脚色賞を受賞。
『プラトーン』『7月4日に生まれて』の2作品でアカデミー監督賞を2度受賞する。その他代表作には『ウォール街』『JFK』『天と地』『ナチュラル・ボーン・キラーズ』『ニクソン』など。
特に『プラトーン』は、自身のベトナム戦争での体験がベースになっていると言われ、戦争という異常な状況下で人間はいかに醜く残酷になるか、そしていかに戦争が非人道的なものであるかを痛烈に訴えている。これらの作品についてはアメリカ国内では賛否が大きく、特にオリバー・ストーンと同じ世代ではその傾向が顕著である。
最近では、次の時代を担う世代への教育的見地から、ドキュメンタリーを通じて、アメリカ現代史を問い直す作業に取り組み、その成果が2012年の映像作品『The Untold History of The United States』に結実した。これを日本放送協会が放映権を取得して、NHK-BS1のBS世界のドキュメンタリーにより『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』というタイトルで、50分番組を10回に分けて、3週にわたり放送された。このドキュメンタリー番組への反響が大きかったため、2013年8月25日に『オリバー・ストーンと語る “原爆×戦争×アメリカ”』という、ストーン監督に加え、脚本を担当した歴史学者のピーター・カズニックをNHKスタジオに招き、2氏へのインタビューをメインに据えた2時間番組が放送された。来日した際には、オリバー・ストーンは広島市・長崎市・沖縄県を訪れ、原爆資料館や米軍基地反対の沖縄住民の元を訪れた。
人物
現夫人は韓国人のチョン・ソンジョンである。一緒に釜山を訪れて、自身の映画の中で韓国を登場させたことについて問われると「妻が韓国人なので言及したのではない」、「当時はリーマンショックで韓国関連の記録があった」と答えた。さらに、「貯蓄して熱心に働き、賢く行動しなければならないかをアメリカ合衆国に教えてくれる国が韓国だという点を、妻を通じて知った」と韓国は見本になる偉大な国家だと絶賛した[5]。
『JFK』『ニクソン』『ブッシュ』と現職・元アメリカ合衆国大統領をテーマにした映画を3本製作している。
映画監督を志す前は、19歳の時に小説を書いたりもした。
私生活では3度の結婚歴があり、2度目の妻エリザベス(1993年に離婚)は『トーク・レディオ』『ドアーズ』『JFK』および『天と地』で "Naijo no Ko(内助の功)"とクレジットされた。1984年に生まれた息子は、俳優となって父の作品に出演している。
2008年アメリカ合衆国大統領選挙では民主党候補のバラク・オバマ候補を支持していた。2012年アメリカ合衆国大統領選挙の時は共和党から出馬していたリバタリアンのロン・ポール候補を支持していたが、ミット・ロムニーが共和党指名を勝ち取った為、オバマ支持に回った。2016年はバーニー・サンダースとジル・スタインを支持した。
ピーター・カズニックとともに、アメリカ社会で広く知られている「原爆投下によって、戦争を早く終わらせ、100万人のアメリカ兵の生命が救われた」という「原爆神話」に対して、反論をしている。『語られない米国史』のプロジェクトを始めたのは、ストーンの娘の高校教科書の広島・長崎についての記述が原爆投下を正当化するひどいものだったことがきっかけだという[6]。
逮捕
1967年にベトナム戦争に志願し、翌1968年に除隊した後、メキシコで麻薬におぼれ、ヘロイン所持で逮捕されたが父親に保釈金2500ドルを出してもらって釈放してもらった[7]。
1999年にマリファナ所持で逮捕、2005年にもマリファナ所持と飲酒運転で再び逮捕されている[8][9]。2008年には自身の映画を撮影中に自身のスタッフ三人と俳優二人が喧嘩して逮捕されている[10]。
主な作品
監督
- 邪悪の女王 Seizure (1974) 兼脚本
- キラーハンド The Hand (1981) 兼脚本
- サルバドル/遥かなる日々 Salvador (1986) 兼製作、脚本
- プラトーン Platoon (1986) 兼脚本
- ウォール街 Wall Street (1987) 兼脚本
- トーク・レディオ Talk Radio (1988) 兼脚本
- 7月4日に生まれて Born on the Fourth of July (1989) 兼製作、脚本
- ドアーズ The Doors (1991) 兼脚本
- JFK JFK (1991) 兼脚本
- 天と地 Heaven & Earth (1993) 兼製作、脚本
- ナチュラル・ボーン・キラーズ Natural Born Killers (1994) 兼脚本
- ニクソン Nixon (1995) 兼製作、脚本
- Uターン U Turn (1997)
- エニイ・ギブン・サンデー Any Given Sunday (1999) 兼製作総指揮、脚本
- コマンダンテ Comandante (2003) ドキュメンタリー映画、兼製作、インタビュアーとして出演
- アレキサンダー Alexander (2004) 兼製作、脚本
- ワールド・トレード・センターWorld Trade Center (2006) 兼製作
- ブッシュ W. (2008) 兼製作
- 国境の南 South of Border. (2009) 102分 日本未公開
- ウォール・ストリート Wall Street: Money Never Sleeps (2010)
- 野蛮なやつら/SAVAGES Savages (2012) 兼脚本
- オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 The Untold History of the United States (2012 Showtime) ドキュメンタリー番組、兼製作、脚本
- スノーデン Snowden (2016) 兼脚本(キーラン・フィッツジェラルドと共同脚本)[11]
- オリバー・ストーン オン プーチン The Putin Interviews (2017 Showtime) ドキュメンタリー番組、兼製作、脚本
製作・製作総指揮
- ブルースチール Blue Steel (1990)
- 運命の逆転 Reversal of Fortune (1990)
- アイアン・メイズ/ピッツバーグの幻想 Iron Maze (1991)
- サウス・セントラル South Central (1992)
- ゼブラヘッド Zebrahead (1992) 日本未公開
- ジョイ・ラック・クラブ The Joy Luck Club (1993)
- ワイルド・パームス第1章~第3章 Wild Palms (1993) テレビドラマ
- ニュー・エイジ The New Age (1994)
- KILLER/第一級殺人 Killer: A Journal of Murder (1995)
- 誘導尋問 Indictment: The McMartin Trial (1995) テレビ映画
- 連鎖犯罪/逃げられない女(新DVD邦題:フリーウェイ) Freeway (1996) 日本未公開
- ラリー・フリント The People vs. Larry Flynt (1996)
- コールド・ハート Cold Around The Heart (1997)
- セイヴィア Savior (1998)
- NYPD15分署 The Corruptor (1999)
- レーガン/大統領暗殺未遂事件 The Day Reagan Was Shot (2001) テレビ映画
- すべての政府は嘘をつく All Governments Lie: Truth, Deception, and the Spirit of I.F. Stone (2016)
脚本
- ミッドナイト・エクスプレス Midnight Express (1978)
- コナン・ザ・グレート Conan the Barbarian (1982)
- スカーフェイス Scarface (1983)
- イヤー・オブ・ザ・ドラゴン Year of the Dragon (1985)
- 800万の死にざま 8 Million Ways to Die (1986)
- エビータ Evita (1996)
自作への出演
- 『キラーハンド』 バム役
- 『プラトーン』 爆死する司令官役
- 『ウォール街』 トレーダー役
- 『7月4日に生まれて』 レポーター役
- 『ドアーズ』 UCLAの教授
- 『ニクソン』 ナレーター
- 『エニイ・ギブン・サンデー』 タグ
他にも俳優としての出演作が有る。『JFK』以降「政府の陰謀」というと引き合いに出されるようになり、『メン・イン・ブラック2』でも陰謀に関連付けられビデオ店の等身大パネルで顔を見せている。また『デーヴ』では自らオリバー・ストーンを演じ、陰謀説を唱えてラリー・キングに窘められるというパロディもこなした。
著作
- 『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下』 2013年、早川書房、ISBN 4152093676
- 『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史: 2 ケネディと世界存亡の危機』 2013年、早川書房、ISBN 4152093722
- 『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史: 3 帝国の緩やかな黄昏』 2013年、早川書房、ISBN 415209379X
脚注
- ↑ アメリカ/ニューヨーク州ニューヨーク出身 Yahoo!映画
- ↑ The religion of director Oliver Stone
- ↑ http://www.washingtonpost.com/wp-srv/style/longterm/movies/review97/foliverstone.htm
- ↑ 74年にカナダで「邪悪の女王」というホラー映画で監督デビューを果たした Yahoo!映画
- ↑ > コリアムービーナウ > オリバー・ストーン監督韓国人の夫人と来韓、「韓国は驚くべき国」
- ↑ 「インタビュー 核といのちを考える:米国で原爆神話に挑む ピーター・カズニックさん」、『朝日新聞』2015年06月02日(火)付。
- ↑ http://soe006.tm.land.to/cinema/stone01.html
- ↑ http://eiga.com/news/20050531/14/
- ↑ http://gqjapan.jp/culture/movie/20110506/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B3%E7%9B%A3%E7%9D%A3%E3%80%81%E6%96%B0%E4%BD%9C%E3%81%AF%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%8A%E3%82%92%E3%82%81
- ↑ http://www.mtvjapan.com/news/cinema/10534
- ↑ “スノーデンはなぜ告発を決めたのか?オリヴァー・ストーン最新作が公開決定”. 映画ナタリー. (2016年9月15日) . 2016閲覧.
関連文献
- The first chapter of A Child's Night Dream by Oliver Stone at the New York Times site.
- オリバー・ストーンが中南米の政治変動に取り組んだ新作『国境の南』 動画 日本語字幕付 (デモクラシーナウ!ジャパン 2010.06.21)
- オリバー・ストーンの「語られざる米国史」前篇 動画 日本語字幕付 (デモクラシーナウ!ジャパン 2012.11.16)
- オリバー・ストーンの「語られざる米国史」後篇 動画 日本語字幕付 (デモクラシーナウ!ジャパン 2012.11.26)
外部リンク
テンプレート:オリヴァー・ストーン監督作品 テンプレート:アカデミー賞監督賞 1981-2000 テンプレート:アカデミー賞脚色賞 1961-1980 テンプレート:英国アカデミー賞監督賞 テンプレート:ゴールデングローブ賞 監督賞 テンプレート:ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞) 1980-1999