エンジンオイル

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エンジンオイル

エンジンオイル (engine oil) とは、エンジンに使用するためのであり、様々な機能の為に使用されるが、主となる潤滑作用を元に潤滑油とも呼び、モーターオイル (motor oil) と呼ぶこともある。

ここでは、主に自動車オートバイ(二輪車)などに使われるエンジン用のエンジンオイルについて述べる。

概要

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一般利用者向けに販売されているエンジンオイル

エンジンの動作に必須であり、エンジン内各部へ行き渡ることで後述するような様々な機能を担っている。

自動車やオートバイで多く採用される4ストロークエンジンでは、エンジンオイルはエンジン内各部を循環している。停止時のエンジンオイルは、ウェットサンプエンジンならエンジン底部に取り付けられているオイルパン(オイル溜り)に、ドライサンプエンジンなら独立したオイルタンクに溜まっているが、エンジンが稼動し始めるとオイルパンやオイルタンクにあるオイルがオイルポンプにより吸い上げられ、オイルフィルターやストレーナーなどを通ってろ過され、(一部車種では)車体の前部に取り付けられた空冷オイルクーラーやエンジン内部の水冷式オイルクーラーを通って冷却され、クランクシャフトシリンダー壁、動弁機構など、エンジン内の各部へ圧送される。その後、オイルパンやオイルタンクへ戻ってくる。エンジン稼動中にはこの循環が繰り返されている。一部の車種ではオイルパンからオイルポンプを通ってフィルターを通り、オイルパンに戻る濾過のみのルートを別に持つ車種もある。また湿式クラッチや変速装置の潤滑などと兼用されているものもある。

4ストロークエンジンオイルは、エンジンの発する高熱に曝されたりエンジン内に発生した汚れを自らの中に取り込んだりして、徐々にその性能は劣化していく。そこで一定期間ごとにオイルを交換したり補充することで、その性能を回復させる必要が生じる。

かつての一部の自動車、現在でも主に小排気量のオートバイ、その他チェーンソー等で使用される2ストロークエンジンでは、エンジンオイルは燃料ガソリン)に少量ずつ混ぜられ、クランクシャフトやシリンダー壁を潤滑した後に燃料と共に燃焼し、排気ガスの一部として排出される。その為、4ストロークエンジンと違ってオイルは循環せずに使い切りである。オイルの量は減少していくので、適時補充する必要がある。

エンジンオイルは、危険物第4類第4石油類(潤滑油)に分類される。

役割

エンジンオイルには、主に以下のような作用がある。

  • 潤滑
  • 冷却
  • 気密保持
  • 清浄分散
  • 防錆防蝕

潤滑

レシプロエンジンでは金属製のシリンダー内をピストンが毎分数千回上下する他、クランクメタルやカムなど、金属同士がこすれ合うことによる摩擦によって、金属の磨耗や発熱を生じる。それらを流体潤滑作用・弾性潤滑作用・境界潤滑作用により、摩擦を軽減し、エンジン内各部を潤滑するのが、エンジンオイルの重要な作用である。ロータリーエンジンも、金属製のハウジング内をローターが高速回転する為に潤滑が必要である。

冷却

エンジンオイルがエンジン内各部を巡る際に、エンジンで発生した熱を奪うことでエンジンを冷却する事も、重要な作用である。オイルに蓄えられた熱は、空冷式や水冷式のオイルクーラー、あるいはオイルパン(オイル溜り)等で冷却され、冷えたオイルはオイルポンプによりまたエンジン各部へ送られる。

エンジンオイルによる冷却作用は、空冷エンジンだけでなく水冷エンジンでも重要である。エンジンの構造上冷却水を循環させられない箇所も多く、そういった箇所の冷却は水冷エンジンでもエンジンオイルの冷却作用に頼るしかないからである。また、オイルの冷却作用を空冷エンジンよりも更に積極的に利用した油冷エンジンというものも存在する。

過給器ターボチャージャー)付きのエンジンの場合、タービンハウジング(タービンを覆う容器)は排気温度(摂氏700度以上)により熱せられ、赤く発光する程であるが、そのタービンシャフトの保持(ボールベアリングなどを使わない油膜によるフローティング軸受け)や冷却もエンジンオイルに頼っていたが、最近ではクーラントによる冷却も併用されている。高回転しているタービンの軸受けへのオイル供給が停止されると、金属同士が直接摩擦することで焼きつきが起こりタービンが破損する。ターボエンジン搭載車には、「高速走行直後はしばらくアイドリングした後にエンジンを止めて下さい」といった内容の注意書きがある。

気密

シリンダーとピストンは完全に密着している訳ではなく、熱膨張に対応する面とピストンが運動できるように隙間(クリアランス)が設けてある。この隙間に入り込んで両者を潤滑するとともに気密性を保持するのも、エンジンオイルの重要な作用である。エンジンオイルはそれらの表面に液体(油膜)を形成する。

もし、この油膜の保持が不十分であればシリンダーに取り込まれた気体が燃焼室から漏れてしまい、正しい燃焼ができなくなる。また、点火した後に膨張した燃焼ガスも同様に漏れてしまい(これがブローバイガスである)、本来の出力を得ることができなくなる。

シリンダーとピストンの間隙は使用するに従い徐々に増加すると共に、工作精度が低いエンジンなどはこの間隔が広いため、古いエンジンにとってこの気密特性はより重要である。一方、工作精度が高くクリアランスが狭い・加工技術によって元々の気密性が高いエンジン(省燃費エンジンなど)にとっては、適度な気密特性が必要となる。

清浄分散

エンジンが稼動すると、その燃料の燃焼過程で主に酸化による化合物やスラッジ等の「汚れ」が発生する。これらの汚れは故障の原因となったり、エンジンの寿命を短くする一因となる。これを防ぐ為に、エンジン内に発生した汚れを取り込み分散させたり、酸性化を中和するのも、エンジンオイルの重要な作用の1つである。大きなスラッジやゴミはエンジンオイルフィルター(もしくはストレーナ)によってろ過されるようになっている。

こういった作用を持つ為に、4ストロークガソリンエンジン用エンジンオイルではオイルが使用経過と共に黒っぽく汚れていくのは、エンジン内の汚れをオイル内に取り込んでいる結果だからである。ただしこの能力には限界がある為に、一定期間ごとに交換する必要がある。なお、ディーゼルエンジンでは交換直後から燃焼によって発生する炭化物により黒く汚れてしまうが、これは必ずしも不調や故障が原因ではない。

また、給気によって燃焼室に入り込んだ粉塵を洗浄する役割もある。エアフィルターを通して吸気しているが、フィルターよりも細かい物質は通り抜ける。粉塵の中には硬質のものもあり、それらを洗い流し、また、粉塵と金属との摩擦を低減させる作用がある。

防錆防食

燃料は燃焼によって水分を生じる。また、エンジン内外の気温差による結露によって内部に水分が発生することがある。これらの水分がエンジン内部の部品に錆や腐食を発生させる原因となる。また、燃焼ガスやブローバイガス、あるいはエンジンオイルそのものの劣化などから発生する化合物も、エンジン内を腐食させる。錆や腐食はエンジンの寿命を短くする一因であり、これらの発生を予防するのもエンジンオイルの重要な作用である。

オイルの分類

対応するエンジン形式による分類

自動車やオートバイ用のエンジンオイルは、以下の3種類に大別することができる。

4ストロークガソリンエンジン用オイル
ガソリンを燃料とする4ストローク機関に対応したエンジンオイル。エンジンの使用経過により性能が低下する為に、一定期間ごとに全量を交換するのが一般的整備方法となる。後述する2ストロークエンジンが、自動車排出ガス規制等により一般的でなくなってきている現在では、通常「エンジンオイル」といえばこのタイプを指すことが多い。なおこのタイプは基本的にレシプロエンジン用であり、燃焼行程でオイルが燃えて減りやすいロータリーエンジンには専用のものもある。
2ストロークガソリンエンジン用オイル
ガソリンを燃料とする2ストローク機関に対応したエンジンオイル。4ストロークと違い、2ストロークではエンジンオイルは燃料(ガソリン)と混合され燃焼してしまう為に、交換せずに補充するのが一般的整備方法となる。一般的な自動車やオートバイ用の2ストロークエンジンでは、エンジンオイルを溜めておくオイルタンクがあり、エンジン回転数等の条件にあわせた量がオイルポンプで自動的に混合気に混ぜられる。一部ではそういった自動供給機構がなく、あらかじめガソリンに一定の比率で混ぜておく必要があるエンジンもある(一部のオートバイやチェーンソー用エンジン等)。ちなみに、前者の方式を「分離給油」、後者の方式を「混合給油」と呼ぶ。いずれにせよ、2ストローク用エンジンオイルはガソリンに混ぜて使われるので、ガソリンとの混ざりやすさも重要な性能の1つである。なお自動車やオートバイにおいては、2ストロークエンジンを搭載する車種が排出ガス規制により減少の一途を辿っており、一般的でなくなりつつある。
ディーゼルエンジン用オイル
ディーゼルエンジンに対応したエンジンオイル。燃料や燃焼の仕組みの違いから、4ストロークガソリンエンジンとは違う特性が必要とされ、専用のものが用意される。ただし、一定期間ごとに交換する点などは4ストロークガソリンエンジン用と同じである。以前、排出ガス規制など環境関連の規制が緩かった時代には4ストロークガソリンエンジンと共用できるものも存在したが、本来はその性能を表す工業規格も別であり、原則として共用はしない。

ベースオイル(基油)による分類

エンジンオイルはベースオイルの種類や割合などにより次のように分類される。

鉱物油(ミネラル)
石油を精製する過程で得られるもの。分子量などは厳密にそろえることができないが比較的安価に製造でき、一般的にはこれが多用される。原油にはナフテン系とパラフィン系があり、一般的な鉱物油の元となる原油は中近東の混合原油、ベネズエラ・オーストラリア・アメリカのメキシコ湾・ガルフコーストから産出されるナフテン系原油、アメリカ・ペンシルベニア州などから産出されるパラフィン系原油などがある。かつてはペンシルバニア産原油から精製したオイルが粘度指数が100で高品質とされていた。今では出量が非常に少なくあまり販売されていない。また、ペンシルベニア産エンジンオイルだと偽り、他国のオイルを販売しているケースもある。ただ、現在では精製技術が向上し、パラフィン系油田やナフテン系油田といった原油の産地で品質の良し悪しは決まらない。製品となるエンジンオイルは全てパラフィン系オイルになる(ナフテン系のエンジンオイルはない)。パラフィン系原油から精製される潤滑油のみがパラフィン系潤滑油となるわけではない。また、鉱物油を原料として高度水素化分解(ハイドロクラッキング、一般にVHVI油・グループIII基油と呼ばれるもの)した物を合成油とする場合もあるが、本来の合成油とするか論議は分かれている。近年ではシンセティックとして扱うことが多いが国内では化学合成油と表記せず全合成や合成油などと表記するケースが多い。詳細は後述。グループIII基油は部分的な性能はPAOに匹敵もしくは凌駕し、比較的安価である事から利用が増えている(一部の業者がパラフィン系鉱物油が特別高性能であるかのような誤解を与える広告をしている)。
部分合成油・半合成油(セミシンセティック、パートシンセティック、シンセティックブレンド)
鉱物油や高度水素分解油にPAOやエステル(あるいは水素化分解油)を混合し、品質を高めたもの。その配合率や基油は日本では規定がなく(海外においても明確な規定はない)、表示義務もないためその詳細は消費者側は不明である。高品質な性能を安価に提供できるとしている。なお従来、鉱油と合成油をブレンドしたものをグループIII基油に置き換える事もあり、グループIIIベースであっても便宜上は部分合成油や半合成油とするケースもある[1]。グループIIIを合成油とした場合、グループI/IIにグループIIIをブレンドした場合も部分合成油や半合成とする事も可能であり、本来は部分合成油となるグループIIIとPAOのブレンドは後述の全合成になるため消費者からの判断はますます困難となっている。
化学合成油・全合成油・合成油(シンセティック)
PAO(ポリアルファオレフィン)は工業的には石油から分留したナフサ、もしくは天然ガスから得たエチレンを合成することでαオレフィンとし、それを重合することで成分や分子量を一定にしたもので、重合度を調整することで幅広い粘度を比較的自由に作れる。鉱油に比べると低温流動性、せん断安定性などに優れ、鉱油に比べ製造コストは高いものの合成油としては比較的低コストであり、大量生産が可能な点、鉱油と同様に無極性の炭化水素であり、鉱油からの置き換えも行いやすいなどという点からエンジンオイルにおいて(グループIII基油を除き)最も多用される化学合成油となっている。
エステルはポリオールエステル、ジエステル、コンプレックスエステルなどがあり、一般的には動植物の脂肪酸アルコールを化合して生成される。組み合わせ次第で様々なエステルが存在するため性能や特性は千差万別となる。エステル結合部分のカルボニル基極性を持ち、特にその酸素原子にあるδ-(負の極性)は、オイル自身を金属表面に吸着させる効果がある。しかし極性が高い場合は添加剤の働きを阻害する事もあり、鉱油やPAOに比べコストも高く、寿命も短い傾向のためベースとする事は一般的ではなく、部分的な配合が多い。極性が低く、耐久性の高いエステルも存在するがエステルの中でも高価な物となるため利用はさらに限られる。
フィッシャー・トロプシュ法によるワックスを原料とする基油。 原油価格高騰のために単価としては石油よりも安価な天然ガス (GTL) から作られる製品も増えてきている。
エステル系とPAO系はともに化学合成油だが、化学的安定性や粘度抵抗などに大きな違いがあり全く別の性質をもつ。一般的には化学的安定性の非常に高いPAOに粘度抵抗の小さいエステル系を一部混ぜ合わせたものを基油として用いることが多いが、サーキット走行用に100%エステル系を使用したオイルも存在する。
その他化学合成油の基油(ベースオイル)として、アルキルナフタレン、ポリブデンなどがある。また、アメリカの広告審議会 (NAD) の採決により、高温高圧下で水素、触媒を用いてワックスや石油重質分を分解・異性化精製する、ハイドロクラッキングオイル(高度精製油、高粘度指数油、超精製油、グループIIIベース油とも表記される。商品目ではVHVI、MCなど)も化学合成油(シンセティック)として表示される場合が増えているが、厳密には化学合成油ではない。このため国内においてグループIIIベース、またはPAOにグループIIIをブレンドしたものを化学合成油と表記する事は少なく、全合成油合成油とする事が多い。グループIIIを合成油とするのであれば、PAOよりも多用されている合成油という事となる。近年流通している安価な全合成油・合成油は基本的にこのグループIIIベースである。
植物油
ひまし油など。潤滑性はたいへん優れておりレースに用いられるが、酸化しやすいために現在の一般車ではほとんど用いられない。オイルメーカー(ブランド)のカストロール(Castrol)は、エンジンオイルの原料としてこのひまし油(Castor Oil)を用いていたことにその名を由来する。
一般ユース向きの製品としてはFUCHS(フックス)が植物油ベースの生分解性オイルを販売している。フックスは日本では知名度が低いがポルシェカップのサプライヤーをはじめクライスラー BMW VW OPEL ポルシェ等の欧米の自動車メーカーやビルシュタインの新車充填油、承認油(指定油)となっている大手メーカーである(指定油脂が生分解性オイルというわけではない)。
なお上記の分類はあくまで基油におけるものであり、添加剤の溶剤には基本的に鉱油が用いられるため、例えPAOやエステルベースの化学合成油であっても鉱油を全く含まないというケースはエンジンオイルにおいては極めて限られる。

APIによる基油(ベースオイル)の分類

1992年に導入された分類方法。一般ユーザーに直接の関係はないが、業界においては添加剤との組み合わせや処方の変更時などに活用されている。

グループⅠ
粘度指数 (VI) : 80 - 120 
飽和炭化水素分 (Vol.%) : <90
硫黄分 (MASS%) : >0.03
主に溶剤精製された鉱物油(ミネラル 石油系炭化水素)が該当する。このグループに満たない鉱物油は少なくとも現代の規格オイルの基油としては採用できない。生産規模は需要や採算性から後述のグループII/IIIが拡大するのに対し縮小傾向となる。しかしグループIIやIIIでは製造されていない高粘度グレードとブライトストックはギヤ油や工業用、船舶シリンダ油などにおいて需要は変わらず高いため、今後の状況によっては供給のアンバランス化が懸念されている。
グループⅡ
粘度指数 (VI) : 80 - 120
飽和炭化水素分 (Vol.%) : ≧90
硫黄分 (MASS%) : ≦0.03
主に水素化処理精製鉱物油(ミネラル 石油系炭化水素)が該当するが、前述の溶剤抽出をアップグレードする事で製造するケースもある。粘度指数自体はグループIと大きな差はないが水素化精製により不飽和炭化水素が減少し、硫黄分が著しく減少している。このため酸化安定性はグループIと比べ秀でている。
グループⅢ
(ミネラル/シンセティック 石油系炭化水素)
粘度指数 (VI) : ≧120
飽和炭化水素分 (Vol.%) : ≧90
硫黄分 (MASS%) : ≦0.03
高度水素化分解・異性化精製された高粘度指数鉱物油(近年は合成油と表示されることが多い)。初期は重質留分などを水素化分解し燃料やガスを製造する工程で残留するパラフィンリッチなボトム留分を利用したもので副産物といえるようなものであったが、現在では効率的に低コストでグループIII基油を生産するプラントが稼働しており大量生産が行われている。初期の方式は溶剤精製を併用し安定性を高めていたが現在の主流ではない。しかしグループIIと同様に溶剤精製をアップグレードする事で製造する事も可能性である。現在における大量生産は水素化分解のみではなく異性化脱ろうが寄与するところも大きく、場合によってはグループIIの脱ろう工程を異性化脱ろうにアップグレードする事で条件を満たす事も出来る。この異性化脱ろう技術の発展により本格的な水素化分解を行わず高ワックス原油の減圧軽油を異性化脱ろうする事で製造するケースもある。この場合は触媒被毒を考慮すると高ワックスかつ低硫黄な原油が好ましいため資源的・地域的に限られる形となるが、高収率で潤滑油留分が得られる。分類上のグループIIとの違いは粘度指数のみだが、実際のグループIII基油においては不飽和炭化水素、硫黄分ともにグループII基油よりも大きく減少している。
FTワックス(フィッシャー・トロプシュ法により作られたワックス)を水添異性化分解した基油もここに属する。
以上のようにグレードIIIの製法は様々ではあるが、パラフィンの比率を上げ更には好ましいイソパラフィン形状を目指すという方向性は同じである。
グループⅣ
(シンセティック 合成炭化水素)
PAO(ポリアルファオレフィン・オレフィンオリゴマー)
粘度指数 (VI) : 120 - 140前後(低粘度グレードの場合)
製法や特徴は前述の通りで重合の度合いで幅広い粘度を製造でき、粘度指数は粘度によって大きく異なる。また粘度が高いほど粘度指数は高くなり、一部の特殊グレードでは300を超えるものも存在する。ただし高粘度なものはエンジンオイルのベースとして使用するには粘度が高すぎるため、エンジンオイルにおいては粘度調整や添加剤としてブレンドされる程度であり配合量はあまり多くはならず、エンジンオイルのベースに使用される低粘度グレードでは粘度指数は極端に高くならない。他の合成油と異なりPAOに対しグループが割り当てられている事からもわかるように潤滑基油において一定の割合を占める。
グループⅤ
グループⅠ - Ⅳ以外。エステル系(ジエステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル)の他、アルキルナフタレン、動植物油もこのグループに含まれる。グループⅠ - Ⅳ以外の全てが該当し鉱物油であってもグループ1〜3に適合しないもの、例えばナフテン系などもこちらに分類されるするため性質は様々である。エンジンオイルでは主にエステル系が用いられる為、エンジンオイルにおいてグループVと言えばエステルを指す事が多い。エステルは設計の自由度が高く様々な仕様のものが製造出来るため粘度指数などはPAO以上に差が生じ、グループIよりも粘度指数が低いものも存在する。競技用や特殊な例を除けばベースにエステルのみを使用することはあまり多くはない。極性の高いエステルはその他の添加剤の働きを阻害する事があり、また極性の低いエステルは高コストであるため、エステル表記があるオイルでも全体から見た配合量はさほど多く無い事が多い。基油にエステルのみを使用するケースや多量に配合するケースにおいては使用するエステルの特性に合わせた添加剤の処方が求められる。エステルをはじめとするグループV基油は組み合わせによっては基油としての働きの他にオイル全体の安定性や添加剤の働きを向上をさせるなど改質効果が得ることが可能であるため、他のベースオイルとブレンドして使用するなど添加剤に近い使われ方をする事が多い。

通例的に使用される分類

上記API分類のグループI - IIIでは粘度指数の規定があるが幅が広く同一グループであっても粘度指数にある程度の開きが生じる。ベースオイルにおいて粘度指数は重要な要素の1つである為、各グループの末尾に+を追加表示する事により分類を拡張、細分化したものを使用する事がある。以下の分類での粘度指数の数値はen:Lubricant#Base oil groupsを参考にしたが、この分類はあくまで通例的、慣例的なものであり厳格に定義されたものではない。

グループI+
グループIで粘度指数が103 - 108のもの。
基本はグループIと同様の溶剤抽出であるが、精製の調整もしくは何かしらの処理を追加する事により粘度指数などの性状の向上を図ったものが該当する。グループ1+の本来の目的は粘度指数の向上そのものではなく、低温流動性の向上および蒸発性の低減にある。近年のオイル規格では低蒸発性の規定が厳しく、さらに低温流動性が求められる粘度グレードの需要が高まっており規格や粘度によってはグループ1単独では要求に達しない事がある。その場合一定割合のグループII+/IIIのブレンドが必要となる。グループ1+ではグループ1に比べ低温流動性・蒸発性が改善しているため、ブレンド時のグループII+/IIIの比率を下げられるというのが生産における主な目的となっている。既存の溶剤精製プラントで低コストで導入が可能となるが、あくまで溶剤精製がベースとなるため通常のグループ1と比べて生産コストがかかるとされる。総合的な性能や生産性は水素化精製に劣り、新規にグループ1+製造プラントを建造するメリットは薄い。また既存設備を一定規模でアップグレードする場合は精製度が上がるため結果的にグループII/IIIに分類されるため存在的にも性能的にも際立ったものではなく後述のII+やIII+と比較すると表記される事は極めて少ない。
グループII+
グループIIで粘度指数が113 - 119のもの。
基本は従来のグループIIと同様の水素化精製となるが精製の効率化や前後の工程を改良する事で粘度指数を含む全体的な性能の向上を図ったもの。主に取られる手法としては脱ろう工程を従来の溶剤脱ろうや分解脱ろうから異性化脱ろうとする事で粘度指数を向上させる手法などがある。技術的にはグループIIIと重複する部分も多い。粘度指数こそグループIIIには達しないものの、一般的なグループIIIが水素化分解工程で一定量が低価値な燃料やガスに転化、高価値な潤滑油留分の収率が低くなるのに対し、グループII+はあくまで水素化精製をメインとするため原料から(多少の損失はあるものの)高効率に高性能で高価値な潤滑基油を得ることが出来る。従来ではグループIIにグループIIIブレンドしなければ製造できなかった規格・粘度のオイルをグループII+単独で製造する事も可能であるしグループIIIの比率を下げる事もできる。これらの理由からグループIIIに対しても充分な競争力を持つとしているため、グループ1+とは異なり新規のグループII+製造プラントも作られている。アメリカ本土の石油メジャーのプラントではグループIIIではなくグループII+の生産拡大が進んでいる。
グループIII+
グループIIIで粘度指数が140以上のもの。XHVIやワックス水素化分解・異性化を行ったものなど粘度指数が140を超える基油が該当する。ただし粘度指数を130以上とする場合もあり140に達しないものでもIII+を称する事もある。
大きく分けると低粘度グレードにおいても粘度指数が140を超えるものはワックスを水素化分解・異性化したもの、130を超える程度のものは通常のグループIIIとほぼ同様の精製工程だが高ワックスな原料を用いるのが一般的である(後者においても高粘度グレードは140を超えるものもある)。前者におけるワックスは天然ガス由来のGTLワックスや石油由来のスラックワックス等が用いられる。後者の場合は高ワックス原油を用いるか、水素化分解工程の前にワックスを増量する事でイソパラフィンを増やし粘度指数を向上させている。前者の場合は(品質にもよるが)比較的高価値となるワックスを原料にする上に、異性化において一定の部分が燃料やガスに転化し収率が低下するため製造コストは高くなる傾向があるが粘度指数に限れば同粘度のPAOを凌駕する性能を持つ。
近年では大規模なGTLプラントが稼働しはじめており基油市場において一定の存在感を現し始めている。さらにシェールガスの動向次第ではシェールガス由来のGTL基油も考えられるが、現在では試験プラントレベルであり、商用プラントの計画もあるものの計画の中止が発表されるなど、現時点においては大規模な基油製造には繋がっていない。
API分類ではないグループ
グループVI(現在は無効)
PIO (poly internal olefins) ポリインターナルオレフィン/ポリ内部オレフィン
グループVIは欧州のATIEL (Technical Association of the European Lubricants Industry) における分類であり、欧州でのみ規定されるグループとなる。国内でこの分類が用いられる事は無い。PAOに近い性質を持つが、PAOがC10デセンなどのαオレフィンを原料にするのに対し、PIOはC15およびC16などの内部オレフィンを原料とする。2003年に定義されたものの製造の見込みがないため現行の規定では消去されている。

SAE粘度

エンジンオイルは粘度によってその用途や使用環境が異なり、基本的にはメーカー推奨の粘度に従って選定する必要がある。

マルチグレード

  • 一般車(自動車・オートバイ)に使用されているエンジンオイルの多くで、○○w-●●(例 : 10w-30)のような表記がある。
  • ○○wは低い数字になるほど低温時の始動性が向上する。下記はあくまでも一般的な目安である。
    • 5w : -35℃程度まで
    • 10w : -25℃程度まで
    • 20w : -10℃程度まで
  • 粘度表示は●●の部分で、数字が大きいほど動粘度が高いという意味であって、必ずしも耐熱性が高い訳ではない。耐熱性は、基油の性能に大きく依存する。
  • 粘度が高いことだけがエンジンの保護性能を高めている訳ではなく、ベースオイルの基本性能は大きな要素である。
  • 一般的に、マルチグレードの下限(○○wの数値)と上限(●●の数値)との差が少ないほど、ベースオイル(基油)に対して添加剤の割合が少なく、添加剤の消耗・せん断(走行による)による粘度変化が少ないとされる。
  • エンジンが必要とする粘度は、クリアランスの大きさで決定する場合が多い。
  • 発熱量の多いエンジンや、フリクションロスを減らす為にクリアランスが大きく取ってあるレース用車両等は、気密性や潤滑性能を維持するため、高粘度(50番以上)ものを使用する場合が多い。また、総走行距離が多いなどエンジンが摩耗し、クリアランスが大きくなったエンジンには高粘度のエンジンオイルを使用する事によって圧縮を維持することが出来る。逆に、現在の省燃費車はクリアランスが小さく、極低粘度の20番等を使用する。
  • 粘度が小さい方がオイルの粘性による抵抗が少なくなるので吹け上がりは良くなり、燃費の向上が見込まれる。しかし、タペット音等の雑音の増加、指定以下の粘度のオイルではエンジンへの悪影響もある。
  • 粘度が大きいものは、高温下でも気密性や潤滑性を維持できる。緩衝性が大きいのでエンジンの静粛性が向上する。オイルの粘性による抵抗が大きくなるので、アクセルレスポンスがやや緩慢になったり、エンジンの発熱が大きくなる場合もある。
  • 近年の低燃費車では、燃費向上を目的にオイル粘性による抵抗を下げるため、低粘度のオイルが使われる。2002年以降に発売された車種によっては、粘度の低い0w-20などが推奨されている。2009年には、本田技研工業がさらに規格外に低粘度のエンジンオイルを自社のハイブリッドカー用に開発、発売した[2](当初はハイブリッド用となっていたが現在ではHV以外の車両でも指定されている)ほか、トヨタでも0W-16という規格外に低粘度のエンジンオイルを開発し、一部車種に指定している。このような近年の低燃費エンジン自体、低粘度オイル(0W-20等)を使用することを前提に設計開発されており、それ以外のエンジンに低粘度オイルをいれるとエンジンに悪影響を与える。
  • 基本的にメーカーが指定する粘度を大きく変えないことが必要である。特に、指定よりも低い粘度(特に高温側)の使用は避けるべきである。高温側粘度を多少上げる(5W-30→5W-40にする等)ことは燃費の悪化及び加速の鈍化にはつながるが問題は少ない。しかし、指定よりも低い粘度のオイルでは、潤滑性や気密性を維持することが出来ず、騒音の増加やエンジンの性能を損なわせたりするばかりか、ギアやピストンなどエンジン内部の摩耗を促進したり、高負荷時には潤滑膜が保持できず金属接触が発生し焼き付きを起こすなど、故障につながる危険性がある。

シングルグレード

主にシングルグレードと呼ばれるが、モノグレードと呼ばれる場合もある。マルチグレードが普及する前は外気温(季節)に合わせシングルグレードを使い分けていた。

  • 単一の粘度(例:SAE30、10Wなど)を持つエンジンオイル。
  • 気温の変化が殆ど無い地域やドラッグレース、工業用など、ごく限られた条件下で使用されるエンジンに使われる。
  • 温度に対する粘度変化がマルチグレードより大きい。
  • せん断による粘度低下は殆どない。
  • シングルグレード指定の車両(主に旧車)にマルチグレードのオイルを使用すると、オイル漏れを起こしたり、オイル上がりやオイル下がりなどの不具合が発生することがある。これは当時、マルチグレードのエンジンオイルが無かったため、シングルグレードのエンジンオイル専用のエンジン設計になっているからである。

規格による分類

※APIに正式に申請、パスしたオイルにはドーナツマークが表示され、ILSAC規格をパスしたオイルにはスターバーストマークも表示される。これらはEolcs (Engine Oil Licensing and Certification System) により管理されている。

廉価価格帯のオイルの中には規格による認証を取得していないオイルもある(「SN相当」のような表記である場合)。

粘度による分類

オイル管理

エンジンオイルは、機械的圧力による分子の剪断(せんだん)、外気による酸化・ニトロ化、熱による重合、燃料やブローバイガスなどの混入・希釈により徐々に劣化する。劣化すると粘度が低下し、エンジン内部の油膜形成が出来なくなり保護性能が失われ、エンジンの故障につながる。そのため、劣化の度合いによりオイルの交換が必要となる。

添加剤配合量にもよるが、鉱物油では約70℃ - 90℃以上、化学合成油でも110 - 130℃程度で熱による化学変化などのオイル劣化が始まり、一度劣化したオイルは油膜保持性能や緩衝作用などの性能が低下し回復しない。

オイルの劣化度合いは、目で見る・触る等の簡単な方法で判断できるものではない。乗用車の場合、使用期間や走行距離(後述)によって交換が行われるのが一般的かつ合理性を持っている。発電や産業用エンジンの場合、稼働時間で規定される場合が多い。

また、劣化だけでは無く、オイル量のチェックも必要である。エンジンに不具合が無くともオイル量は徐々に減少するため、規定量より下回らないように適時補充する必要がある。ただし、一般的には減少量はわずかで、オイル交換時期までに補充を必要とする場合は少ない。大きく減少するようならばオイル漏れやオイル上がり、逆にオイル量が増えた場合は燃料や冷却水等の混入といったトラブルが予想される。

自動車

オイル交換は、車両保証の観点で言えば、メーカーが規定しているエンジン使用期間や使用走行距離基準に応じて行うことが必要である。交換や点検管理をしていないと、エンジンオイルはタイミングベルトのような脆弱なものを含むエンジン内の全ての部位に関わるものであることから、エンジンにどんな不具合が生じた場合でも整備不十分によるものと見なされ本来の保証が受けられなくなることが想定される。

しかし、オイルに含まれる基油や添加剤の性状劣化特性から言えば、メーカーの指定交換時期は絶対的なものではなく、あくまで一般的使用条件を想定したものであり、規定より劣化が早い・遅い使用条件も存在する。

メーカーは、劣化が早い使用条件としてエンジンオイル以外の消耗品も含めてシビアコンディション(後述)という参考基準を提示しており、概ね一般的な使用の半分の期間・距離での交換を推奨している。

逆に、平坦地を法定速度付近の一定速度で淡々と長距離を走ることが多いような使用条件の場合、オイルの劣化は一般的使用条件よりも遅くなる。こうした場合は(あくまでメーカー保証対象外での自己責任ではあるが)メーカー指定より長期まで不交換で使用することも可能である。

また点検等でエンジンに不具合が発見され、原因を解決した後や、競技走行等でオイルが高温にさらされた後(後述)の場合にも、オイル交換が必要となる。

一般

自動車の場合、一般的にオイル交換時期は、オイルの性能低下や量の減少を考慮し、自動車メーカーによって走行距離や使用期間が指定されている。オイルの劣化を直接判断することは難しく、この基準は自動車においてほぼ共通したものとなっている。また、センサーによりオイルの状況を感知、またはエンジンの稼働時間などによってオイル交換の時期を指示する車両もある。なおトヨタ自動車ではオイル交換の目安について、ガソリン車(ターボ車除く)の標準交換時期を15,000km、または1年としている[3]

  • 【自然吸気エンジン】(直噴エンジン・ロータリーエンジンを除く)
    • 交換後走行距離10,000から15,000km
    • 交換後1年
      • (上記の内、どちらかに達した時点で交換)
  • 過給機(ターボ・スーパーチャージャーなど)付きエンジン】
    • 交換後走行距離5,000km
    • 交換後半年
      • (上記の内、どちらかに達した時点で交換)

シビアコンディションで使われた車の場合は概ねこの半分の期間での交換が指定されている。シビアコンディションの定義は、自動車メーカーにより多少の差異は有るが概ね、以下の様に定義している。

  • 一回の走行距離が、7.0km以下の繰り返しの場合(いわゆる、チョイノリ)。
  • 登坂路等の高回転・高トルクを必要とする走行。
  • 未舗装路等の粉塵の多い道路の走行。

環境保護を目的として、20,000から30,000kmと長い交換サイクルを指定する自動車もある。酸化等の劣化が進みにくい特性を持つエンジンオイルを指定し、オイル容量を多くすることで、長期間使用できるようにしている。ただし、交換の距離は増えても、期間は大幅には増えていないことに注意が必要である。また、輸入車メーカーでも、天候や使用環境の厳しい日本仕様では、交換距離を短くしている車種も多い。

これらの指定は保証期間内でエンジンに支障をきたさないために自動車メーカーとして定めた最低限の要求であり、オイル自体の劣化は徐々に進んでいる。そのため、メーカー指示値を最大として使用条件により早めに交換した方が良いという意見がある。しかし、現在は製造物責任法により取扱説明書の記述に欠陥がある場合は製造物の欠陥と同格に扱われることが規定されており、不具合に繋がる危険性を十分に排除した記載が製造者側に求められていることから、指定交換時期は余裕を持って設定されているとの見解もある。

上記のように自動車メーカーが交換時期を定める一方、一部のオイルメーカーやガソリンスタンドカー用品店自動車整備工場等では3,000から5,000kmごとの交換を推奨している。その根拠として、3,000から5,000km程度走行するとエンジンの機械的な騒音が多少高くなることやオイルが汚れて黒くなること、更には特に日本において一般的な自動車ユーザの使用状態が低速・短距離側のシビアコンディションに該当する、などを挙げている。この騒音は機構上問題が無い程度のオイル粘度の低下が主であり、多少大きくなってもエンジンが故障するものではない。また、オイルが黒くなるのは清浄作用が働いているためであり、早くて1,000kmほどで黒くなる場合もある(ディーゼルエンジンの場合黒くなるのが早い場合がある)が、黒くなったからといっても直ちに性能が劣化しているとは言えない。これら言説では劣化状況の説明として不十分である。他に交換推奨距離を短くする理由として、摩耗防止性能が新油の7 - 8割程度に劣化する距離で設定している場合もある[4]

これらの業者により、オイルの特性による正常な現象を故障に結び付く要因として消費者の不安を煽るような表現を用いた交換推奨が行われるのは、頻繁なオイル交換によるオイルそのものの拡販、来店頻度を増やすことによる整備用品拡販・整備業務受注の拡大を狙ったものという批判がある。オイルメーカーは、環境問題への配慮から交換時期を長期化したロングドレインオイルの開発が求められている。学術的研究としては長寿命化に取り組んでいながら、広報上は一般的取扱説明書記載時期よりかなり短期での交換を推奨をするオイルメーカーもあり、そうした不誠実な対応もこの疑惑を強めている。

使用者としては、車種毎に決められたオイル交換時期やシビアコンディションの定義を参考に、油量などの適切な点検を行った上でオイル交換の頻度を決めることになる。

  • すすの出易いガソリン直噴エンジンロータリーエンジン、は、一般的なガソリンエンジンよりもエンジンオイルにとって厳しい条件となるため、短期間での交換が推奨されている場合が多い。また、専用純正オイルが用意されている場合もある[5]。また、ロータリーエンジンでは、アペックスシールの化学合成油による侵食劣化が原因での気密漏れ事例も報告されており、ロータリーエンジン(特にFC3S型RX-7以前の搭載エンジン等)には高粘度で攻撃性の低い鉱物油が良いとされている。
  • 一般的な鉱物油の基油で粘度指数が100未満、PAOやVHVIで130程度であるが、このままではまだ要求する粘度指数に満たないため、粘度指数向上剤(ポリマー)を配合し粘度指数を上げているが、配合されている添加剤は変質しやすいので時間の経過と共に粘度が失われていく。また、エステル系の化学合成油は水分が加わると分解(加水分解)しやすい性質があるため、加水分解防止剤が添加されているが、長期間の多湿地域での走行などでは短い期間で交換を要する場合がある。
    • 一方でPAO系の化学合成油はPAOの化学的安定性が非常に高く、また耐熱性も高いために長期間の放置、長距離、長時間の使用に耐えうるロングドレイン油として使用される。鉱物オイルにおいても、配合される添加剤によって熱安定性が増場合もある。一般に売られている化学合成油の殆どはPAOをベースにしているために交換推奨距離、期間が長いものが多い。
    •  このように化学合成油といっても、ベースオイルや添加剤によって耐久性が異なり、全てが長期間、長距離使用できる訳ではない。また、化学合成油はオイルシールに対する攻撃性(分子の細かさから来る浸透性)が、鉱物油より高く(PAO系=収縮性・エステル系=膨張性)、化学合成油の使用を前提としないオイルシールを使用した旧車等では、オイル漏れが発生する可能性がある。
  • エンジンオイル交換の際に上限を超えた量を注入すると、エンジン内部(クランク等)にオイルが干渉して内部抵抗が増え、燃費が悪化したりオイル中に気泡が発生したりし、エンジンオイルの寿命が極端に縮まる事がある。その為、オイルは適正な量を充填しなければならない。
  • 2000年頃から販売されている低燃費車で採用されている0W-20等の低粘度オイルであるが、これにはメーカーによっては工場充填の際二硫化モリブデンなどのエンジン保護添加剤が高濃度で添加されているものもある。


大型車

大型車の場合、非常に長い距離をオイル交換せず補充のみで乗り切ることもある。これは、乗用車に比べてオイルの使用量が多く(数十リットル)、交換に多額の費用がかかることと、相対的にエンジンが低回転域で運用されることから、結果的に負荷が少ないためである。もちろん、より長距離あるいは長期間エンジンを好調に保ちたければ定期的にオイルを交換したほうがよいことに変わりはない。

ディーゼル車

ディーゼルエンジンのオイルは、燃料の軽油硫黄分が多く含まれることから、ガソリンエンジンと比べて過酷な環境下で使用されることとなる。ただし軽油の硫黄分に関しては国内流通では既にサルファーフリー(10ppm以下)となっているため過酷の度合いは低下している。燃焼時に生じる黒煙の影響のため、オイルの色は交換後でもすぐに黒くなる。透明度や色で交換時期を判断しにくいため走行距離(稼働時間)で管理することが望ましい。実際国産メーカーのディーゼル車のオイル交換推奨距離は5,000km程度(トヨタ車)でガソリン車より短く設定されている。ガソリン車用の化学合成油配合油にはディーゼル車共用のオイルも存在するが、これはディーゼル車用エンジンオイルに必須となるすすをオイル中に分散させる清浄分散剤の配合量と軽油に含まれる硫黄からのSOx分、燃焼時のNOxなどの酸化物質を中和する中和剤、オイルの酸化を防止する酸化防止剤などが鉱物油より化学合成油系には多く含まれているためである。しかし、ディーゼル専用として作られたオイルと比べるとそれでも添加量は不足しており、結果として価格の低いディーゼル車専用鉱物油が、価格の高い共用100%化学合成油よりもディーゼルエンジンオイルとしては規格が上であることが多い。また、DPF装着車は排気ガス中に含まれるオイル粒子を触媒内に蓄積してしまうため、これが排気熱により過熱することによって触媒劣化が異常進行し触媒寿命を縮めてしまう。従ってDPF装着車の場合はこの問題に対策をとったオイルに与えられる日本技術会の規格であるDH-2規格のオイルを使用することが望ましい。API規格のCF-4規格だと対応しているものと対応していないものがある。さらに新しい規格であるDL-1が存在し、既存のCF系規格 (CF/CF-4) やDH規格 (DH-1/DH-2) との互換性は無い(各々の規格が併記されていれば共用可・例:DL-1/DH-2/CF-4)。DL-1規格が指定されている車両にそれ以外のオイルを使用し続けると、格段にDPFの寿命を縮める結果を招く。これらDPF対策を行った規格オイルは金属系清浄剤などを削減し灰分を低減したもの仕様となり清浄性・中和性は従来のものより抑えられる形となる。この為これらの規格は低硫黄軽油の使用が前提となっており高硫黄軽油の使用は厳禁である。車両に付属している取扱説明書をよく確認する必要がある。日常的なメンテナンスの一部であるエンジンオイルの交換については、ある程度ユーザー側の責任が求められる部分もある。

ディーゼル車が走行距離の多い長距離トラックなど営業車等に使われる場合が多く、オイルの交換頻度は車両の維持費、多忙な運転時間を割いての交換作業、台数が多ければ会社の経営にすら影響を与える問題となる。このため、化学合成油をベースオイルにし、ススの分散性、耐磨耗性を強力な添加剤で補ったロングドレンオイルも造られている。これらの中では、高速道路での走行を主体とした路線トラックに使うことを前提に10万kmの走行を可能と謳う商品も現れている。

欧州では交換サイクルがガソリンよりディーゼルの方が長いというケースもあり、乗用車においても必ずしもディーゼルの方が交換サイクルが短いとは言えなくなってきている。フォルクスワーゲンの場合ガソリン車(VW504規格)30,000km/2年に対しディーゼル車(VW507規格)では最大で50,000km/2年となっている。

オートバイ(自動二輪車)

オートバイでは、4ストロークガソリンエンジン2ストロークガソリンエンジンを搭載するものの2種類が一般的である。ロータリーエンジンやディーゼル燃料を使用するディーゼルエンジンを搭載するものも存在するが、特に日本では非常に稀である。ここでは一般的なガソリンエンジンについてのみ述べる。

4ストロークエンジンを搭載するオートバイでは、スクーター等の無段変速機装着車や、レース用車両等の乾式クラッチ装着車などを除き、エンジンオイルがトランスミッションクラッチの潤滑や冷却を兼ねていることが多い。こういったエンジンでは、トランスミッションを構成するギアの噛み合いや回転によりエンジンオイルのせん断が起きやすく、湿式クラッチから生じるスラッジがエンジンオイルを汚しやすく、クラッチやトランスミッションがエンジンと別体式が一般的な自動車用エンジンよりもエンジンオイルの劣化を早める。またオートバイ用エンジンは一般的な自動車用エンジンと比べて上限回転数が数倍に達する車種も多く小型高出力のため、せん断が頻繁におき、それがエンジンオイルの劣化を早める一因となっている。これらの理由から、オートバイでは一般的な自動車よりも早い交換時期(1/2程度かそれ以上)で交換を実施するよう指定されていることが多い。また、トランスミッションの潤滑を兼ねているエンジンではオイルに微細な金属片(金属粉)が混じりやすく、慣らし運転中あるいは初回オイル交換は更に早めの交換が推奨される場合が多い。

なお湿式クラッチを採用することの多いオートバイ用エンジンでは、自動車用では一般的な減摩剤が入っているエンジンオイルを使用すると、クラッチの滑りが生じる場合がある。そういったトラブルを防ぐ為に、そのエンジンオイルがオートバイ用としてどんな特性を持つかを表すものとして、自動車技術会の定めたMA,MA1,MA2,MBという4種類のJASO(日本自動車規格)と呼ばれる規格がある[6]

2ストロークエンジンを搭載するオートバイでは、エンジンオイルをガソリンに混ぜて共に燃焼させる構造で排気ガスの成分に影響する為に、環境性能を含めたオイルの性能を表すものとして、2ストロークエンジンオイルにも専用のFB、FC、FDという3種類のJASO規格がある[7]。また2ストロークエンジンでは、エンジンオイルの他に、トランスミッションやクラッチを潤滑する為に別のオイル(ミッションオイルやギアオイルと呼ばれる)が別途エンジンに注入されており、これを定期的に交換する必要がある。ミッションオイルは4ストロークエンジンオイルより負荷が少なく、劣化する要因も少ない為に、その交換時期は長めに設定されていることも多い。なお、ミッションオイルには4ストローク用エンジンオイルを流用することも多いが、これに自動車用エンジンオイルを使うと湿式クラッチでは滑りが発生する可能性があるのは、4ストロークエンジンと同じである。

ただし、スクーターにおけるファイナルリダクション(最終減速段)ギアのオイル(多くの場合エンジンのオイルとは別に充填される)については自動車用エンジンオイルを用いても滑ることはない。

航空機

一般航空機

レシプロエンジン推進の航空機においては、オイル交換の時期は、各機体のメンテナンスマニュアルを参照する。

  • ジェットエンジン規格
    • 〈MIL-L-7808〉 ジエステル TYPE I
      • (商品名)
        • ESSO Turbo Oil 2389/2391
        • Mobil RM 201A/248A
        • Aeroshell Tubine Oil 308
        • Stuffer E-6825
        • Royal Lubricant co. Royco 808H
    • 〈MIL-L-23699〉 ポリオールエステル TYPE II
      • (商品名)
        • Mobil Jet Oil II
        • ESSO Turbo Oil 2380
        • Castrol 205
        • Texaco 7388
        • Sinclair Turbo S II
        • Aeroshell Turbine Oil 500/550
        • Stauffer Jet II

オイルフィルター

オイルフィルターとは、別名オイルエレメントとも呼ばれ、4ストロークガソリンエンジンやディーゼルエンジンに備えられたオイルのろ過装置である。

エンジンオイルにはエンジン内部を清浄に保つ為にオイル中に汚れやゴミを取り込む役割(清浄分散作用)があるが、そのオイルを浄化するためのろ過装置としてオイルの循環経路にオイルフィルターが設けられている。現在ではほとんどの自動車やオートバイのエンジンにオイルフィルターが装備されているのが一般的だが、設計年代の古いエンジンや簡素な設計のエンジンではオイルフィルターがなく、より簡単な金網状のオイルストレーナーが付いているだけというものもある。

オイルフィルターがあると、エンジンオイルがそこを通過することにより、オイル内に取り込まれていた金属粉やスラッジ(ホコリや燃焼カスなどの不純物)が濾し取られる。特に金属粉は、放置すると研磨剤と同様の効果をエンジン内に及ぼしてエンジン損傷の原因になる為、その除去は重要である。だが、オイルフィルターのろ過能力は上げ過ぎると油圧上昇や目詰まりなどの不具合を引き起こす可能性がある為にその性能はある程度のところで抑えられており、オイルフィルターで全ての金属粉やスラッジ等が除去できる訳ではない。

多くのエンジンでは、オイルフィルターのろ過能力が低下し目詰まりを起こした場合やオイルの粘度の高い始動時を想定してバイパス機構(バイパスバルブ)をフィルター内部もしくはエンジン側に備えている。フィルターが目詰まりしてエンジン内各所にオイルが供給できなくなると、エンジンが焼き付く原因となるからである。これを防止する為に、フィルターが目詰まり等を起こし流量を確保出来ない場合にはフィルターをバイパスし流量を確保する。また始動時はオイルの粘度が高く抵抗が大きいため同じようにバイパスバルブが開き流量を確保するようになっている。この機構はフィルターにかかる油圧そのもので動作するわけではなくフィルター前後の圧力差で作動する。つまり濾紙部分の圧損が一定の値より大きくなるとバイパスバルブが開き圧を逃がすようになっている。そのためバイパスバルブの作動圧は油圧に比べ低く設定されている。この機構はあくまで一時的なものでありフィルターが目詰まりする前に定期的に交換するのが原則である。

オイルフィルターの交換

オイルフィルターの働きは主に100ミクロン以下の異物を除去する働きがある。新品のオイルフィルターは目が粗く、50ミクロン以上の異物を通す傾向がある。使用を続けると目が詰まって50ミクロン以下の異物を濾過するようになる。

ただしそのまま長くつかったり、あるいはエンジン故障で異物が大量に発生すると目が詰まり濾過作用を失うので、バイパスバルブが働きフィルターをバイパスするようになっている。従って、有る程度目がつまった状態でかつバイパスバルブが開かない範囲での使用が推奨される。

このため、自動車の場合通常はオイル交換2回の内1回のオイルフィルター交換が推奨されているが、目の詰まり方から判断するとオイル交換4回に一回程度の交換が望ましい。フィルターを交換した場合は、フィルター内部に含まれていた分のオイル量が不足するため、フィルターのサイズに応じてオイル交換のみの場合より余分(0.2から0.5リットル程度)にオイルを充填する必要がある。なお、自動車の取扱説明書に記載されているオイル充填量は、フィルターとオイルを共に交換する時の量を示している場合が多い。

近年、フィルターユニット全体を交換するカートリッジ式に対して、環境負荷低減のために外殻を再利用しフィルターのみを交換するフィルター交換式エンジンが増えている。現在では欧州車では交換式が主流となっており、国産車でもトヨタ、日産の新開発のエンジンに関してはこの方式を採用する例が増えている。

油量・油温・油圧

自動車

一般的な乗用車(排気量2,000ccクラス)のエンジン内部に必要なエンジンオイルは4リットル弱である。最近の乗用車では、特に小排気量エンジンを搭載している車種を中心に3リットル程度で済むものも多い。特にガソリン電気ハイブリッド自動車の場合は、車体が1,800ccクラス - 1,600ccクラスに見えてもガソリンエンジン自体は1,300cc相当であることもあり、エンジンオイルの規定量はせいぜい3リットルである。

一方でオイル量が増える場合は以下である。まず、3,000ccを超える大排気量車はオイル量が5リットルを超えやすい。次に、過給器搭載車や直噴エンジン搭載車は、最新のエンジンにて意図的にオイル量を増やす傾向がある。また、欧州車は一般にオイルの量が日本車より多い。例えば、ベンツは小排気量の一部車種を除き5.5 - 9リットルが標準であり、BMWも2,000cc以上ならば6.5リットル程度が標準である。ディーゼルエンジンの場合も、先述したようにオイル汚れや油量減少が激しいため、旧型の一部車種を除きオイル量はガソリン車に比べてかなり多くなる。5リットル - 9リットル程度が標準である。大型トラックやバスは、エンジン自体が大きく、オイル量は数十リットルにもなりうる。


主なエンジンオイル製造メーカー (またはブランド)

ファイル:Motor oil refill with funnel.JPG
エンジンオイルの注入

脚注

  1. 日興産業株式会社:潤滑油の基礎知識 > 自動車用潤滑油について > エンジンオイルの種類を参照
  2. Honda | 交換部品 | エンジンオイル 現在は、ウルトラNEXTおよびウルトラGreenが該当する。
  3. http://toyota.jp/after_service/tenken/about/maintenance/oilfilter/
  4. カストロールなどのオイルパンフレットにおけるオイル性能曲線などを参照。
  5. 例えば、三菱自動車は、かつてGDIエンジン専用オイルを用意していたが、汎用の純正オイルの品質を改善したため、現在はGDIも通常の三菱純正オイルが使用される。
  6. 詳細はJASOエンジン油規格普及促進協議会の「JASO 二輪車用4サイクル油」ページを参照のこと。
  7. 詳細はJASOエンジン油規格普及促進協議会の「JASO 2サイクル油」ページを参照のこと。

関連項目