エコノミスト
『エコノミスト』(The Economist)は、イギリスの週刊新聞で、ロンドンに所在するエコノミスト・グループから発行されている。新聞ではあるが、外見は雑誌の体裁をとっている。日本の読売新聞と提携している。
なお、毎日新聞社出版局が発行している経済専門の週刊誌「エコノミスト」とは資本・人材・提携の関係は一切ない。
概要
発行部数は約160万部(2009年)。その約半分を北米が占める。
主に国際政治と経済を中心に扱い、科学技術、書評、芸術も毎号取り上げる。政治・社会は地域ごとに記事を組んでおり、中国以外のアジア、中国、中東およびアフリカ、米国、米国以外のアメリカ大陸、英国以外のヨーロッパ、英国に分けている。ビジネスと金融については地域を問わずに広く取材しており、日本の企業が取り上げられることも多い。また隔週ごとに、経済のある分野に関して詳細な調査分析を載せる。この雑誌は社会的地位の高い層をターゲットにしており、その中に官僚や大企業で経営に携わる人なども含まれる。発刊の歴史と、鋭い分析からなる記事が情勢に与える影響が大きく、世界でもっとも重要な政治経済紙の一つと見なされている。
購買力平価の目安としてビッグマック指数と呼ばれる、世界のマクドナルドでのビッグマックの価格指標を載せている。さらに2004年1月からスターバックスのトールサイズのラテを基準にした「トール・ラテ指数」も加わった。
本紙はジェームズ・ウィルソンによって1843年9月に創刊された。そこには明らかに穀物法の廃止を扇動する目的があった。ロバート・ピールのトーリー党は、1846年5月に破滅的な穀物法廃止案を押し通した。創刊当時「エコノミズム」という言葉は財政保守主義と受け取られていた。現在でも保守系紙として言及されることも多い。ただし、これは古典的自由主義(経済自由主義)を標榜しているため、経済面においては左派の嫌悪する市場原理主義、自由貿易やグローバリゼーションの擁護や労働組合の政治活動やアファーマティブアクションに対する批判を行う一方で、社会・人権面では人種や性差別に明確に反対するだけでなく、同性婚賛成、犯罪に対する厳罰化反対、移民自由化賛成、麻薬の合法化賛成、死刑制度廃止を支持するだけでなく、最低限の生活水準を保証する社会保障には賛成を表明している。 本誌のサイトにおいて、その論調は左でも右でもなく「極中」であると述べている(The extreme centre is the paper's historical position.)。例えば労働の政策としては、解雇権の制限は雇用コストを上げ、逆に全体の失業率が上げると主張する一方で、解雇された失業者の生活を国が福祉で保証するべき主張する。この点では、政府の一切の介入に反対する新自由主義やリバタリアニズムとも一線を期する。
『日はまた沈む』[1]『日はまた昇る』[2]など日本経済の浮沈に関する洞察力ある著作で知られる国際ジャーナリストのビル・エモットは、1993年から2006年3月の引退までの13年間本紙の編集長を務めていた。
2009年4月1日のエイプリルフールに、新しいテーマパーク、Magical Monetary World of Econolandを立ち上げると発表した。
2017年のイギリス議会総選挙では自由民主党を支持している[3]。
批判
中道を謳っていながら極端な市場原理主義・自由市場万能論・レッセフェールを「エコノミズム」として正当化していることは長年批判されている。アイルランドのジャガイモ飢饉の際は、一切の食糧援助に反対し、百万人の餓死者を生み出す結果になった。カール・マルクスは著書『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』(1852年)において「ヨーロッパにおける金融貴族 (Finanzaristokratie) の機関紙」としてエコノミストを批判している。近年では2003年のイラク戦争の開戦を支持したが、情勢が悪化するとドナルド・ラムズフェルド国防長官の辞任を求め、2004年のアメリカ大統領選挙では民主党のジョン・ケリーを支持するなど、日和見主義的なスタンスの一貫性のなさが批判されている。
また、実名記者のコラムや論説記事が中心の英米高級紙の中では異例の完全匿名スタンスを貫いており、記事の中でも自らの主張を述べる際にも"this reviewer"(本誌は)といった特殊な一人称を用いる。しかし、他国の特定の政治家や経済政策などを公然と批判するにもかかわらず、社説や記事の執筆者が全て匿名であることは、長年批判され続けており、ジャーナリストのマイケル・ルイスは、偉そうな記事を書いているのが実は何の経験もない無名の若造編集者ばかりだとばれるからである、と揶揄している。カナダ人作家で国際ペンクラブ会長のジョン・ラルストン・ソウルは著書『論駁的な哲学辞典』(The Doubter's Companion)において以下のように『エコノミスト』を痛烈に批判する。
誌が記事を書くジャーナリストの名前を隠すのは、それがあたかも私見ではなく、公平な立場からの真実を伝えているかのような幻想を生み出すために過ぎません。このような宗教改革前のカトリック教会を思い起こさせる商法は、出鱈目な憶測や妄想的事実を、不可避性と正確性に装った社会科学の名をその雑誌名としているのだから、驚きはしません。こんなものが企業の重役のバイブルであるというのでは、今日の経営陣の教養の糧つまり通念的知恵なるものの程度が知れるというものであります。A magazine which hides the names of the journalists who write its articles in order to create the illusion that they dispense disinterested truth rather than opinion. This sales technique, reminiscent of pre-Reformation Catholicism, is not surprising in a publication named after the social science most given to wild guesses and imaginary facts presented in the guise of inevitability and exactitude. That it is the Bible of the corporate executive indicates to what extent received wisdom is the daily bread of a managerial civilization.
また「見えざる手」や「比較優位」といった現代の読者に誤解されやすい古典派経済学の用語を解説なく使用し、しばしば記事の執筆者自身も意味を勘違いして使用している場合がある。
その他
まれに、同一の記事が二つ存在する。iTunesのFrom the paper(2009年2月14日)、Economist.com上のAudio section(2009年2月14日)、High-tech dentistry St Elmo's frier(2009年6月12日)、 Improving scientific publishing Huddled maths(2009年7月12日)がこれに該当する。
脚注
- ↑ 『日はまた沈む』:ビル・エモット(日本語版:草思社、1990年3月、ISBN 4794203721)
- ↑ 『日はまた昇る 日本のこれからの15年』:ビル・エモット(日本語版:草思社、2006年1月、ISBN 4794214731)
- ↑ https://news.yahoo.co.jp/byline/kobayashiginko/20170608-00071878/
関連項目
- エコノミスト・グループ
- フィナンシャル・タイムズ
- エコノミスト・インテリジェンス・ユニット - 傘下の調査部門。
外部リンク
- The Economist(英語)
- 英国エコノミスト誌日本語オンラインサービス(日本語)
- The Economist: Historical Archive 1843-2003(英語)
- The Economist(JBpressによる記事邦訳)