ウエットサンプ

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ファイル:Wet sump systeemBMW 1938 R7.jpg
ウエットサンプを採用している1938年式BMW R7。

ウエットサンプ英語: wet sump)とは、4ストロークピストン内燃機関において、機関内に内蔵された油槽(オイルパン)を用いる潤滑油管理構造を指すものであり、機関外部のオイルタンクを用いるドライサンプと対を成すものである。

概要

4ストロークエンジンは、オイルポンプで圧送されたエンジンオイルが内部のベアリングの潤滑を行った後、重力によってエンジンの最下層へ落ちていく。この原則自体はドライサンプでも変わることは無いが、ほとんどの自動車オートバイでは主にコスト面での要求からウエットサンプが採用されている。ウエットサンプのエンジン最下部には3から10リットル程度の容量を持つオイルサンプもしくはオイルパンと呼ばれる油槽が設けられ、エンジン内部の潤滑を終えてここに集められたエンジンオイルはオイルポンプに接続されたストレーナーによって再び各部のベアリングに送られる。 エンジンオイルの残量を知る為に、オイルパンにはオイルレベルゲージが設けられ、時にはクランクケースブリーザー経路に接続されたオイルセパレーターによって、分離されたブローバイ由来のエンジンオイルが、レベルゲージの経路を通じてオイルパンに返送されてくる場合もある。

利点

ウエットサンプは、一つのオイルポンプのみを使用し、他のいかなる外部タンクも用いないために、構造が単純な事が利点である。オイルポンプや油圧配管、ストレーナー等から成るサンプ構造もエンジン内部に全て収められているため、空冷式オイルクーラーや移動式フィルターベースなどを装備した事例を除いては、外部にオイルが流出する恐れのあるホースやチューブをエンジンに接続する必要が全くない。内部のオイルポンプは交換作業および大容量ポンプへの交換がドライサンプと比べて難しくなる傾向があるが、作業の難易度自体はエンジンの基本設計に完全に左右される。

欠点

ウエットサンプ構造は、特にレーシングカーにおいて問題になる場合がある。ドライバーが高速でコーナリングを行う際コーナーを通過させる際、強い横Gによってオイルパンの中のエンジンオイルは揺り動かされ、コーナーの外側へ引き寄せられることでストレーナーがエンジンオイルを一時的に吸い上げられなくなり、エンジンに時にはエンジンブローに直結しかねないダメージを与える場合がある。

しかし、オートバイの場合にはこのような問題は起こらないとされている。なぜならば、バイクはコーナーリングをする際には車体のバンクを行うため、横Gの相乗作用により、かえって油面の傾きがエンジンの中心軸に対して水平になる方向に是正されるからである。

それにも関わらず、通常モータースポーツ用オートバイはドライサンプが用いられている。これはオイルの偏り対策ではなく、エンジンレイアウトの自由度を高める意味合いで採用される場合が多い。ドライサンプの採用によってエンジンをフレームに対して出来るだけ低くする事ができ、外部オイルタンクによってより良いエンジンオイル冷却が可能となるからである。

競技用自動車エンジンの場合にも競技用オートバイと同じ理由によりドライサンプを採用する場合が多い。ウエットサンプの場合にはオイル容量を増やせば増やすほど、エンジンの全高に悪影響を与えてしまうが、ドライサンプの場合には大容量の外部オイルタンクの採用によりこうした制約から解放されるためでもある。

据置型エンジンでの事例

初期の据置型エンジン (en:stationary engine) においては、クランクシャフトコネクティングロッドの先端に設けられた小型のスコップが、エンジンオイルをスプラッシュさせて(オイルを油面から直接掻き上げて)シリンダーの潤滑を行っていた。草刈機等で使用される近代的な小型エンジンでは、クランクシャフト外縁に設けられたスリンガー (slinger) と呼ばれる部品(外輪に似ている)が同じような動作を行っている。

このような潤滑方法は、エンジンが高速化すると撹拌抵抗による発熱作用 (en:Windage) でオイルを急速に劣化させてしまう欠点があり、技術の進歩でオイルポンプの圧送量が増加し、クランクシャフト・コンロッド内部の油圧経路製造技術も発達した事により、今日の自動車・オートバイ用エンジンではこのような構造が用いられることは無くなった。上記と同様の理由で、ウエットサンプ式エンジンに規定量を大きく超えるエンジンオイルの注入は禁忌とされている。ただし、ピストンの冷却強化やシリンダーの潤滑強化の目的で、シリンダー周辺に直接エンジンオイルを吹き付ける行為自体は、オイルジェットという噴出孔の形で現在も残り続けている。