イーカリオス
イーカリオス(古希: Ἰκάριος, Īkarios)は、ギリシア神話の人物である。長母音を省略してイカリオスとも表記される。主に、
の2人が知られている。以下に説明する。
アッティカの人物
このイーカリオスは、アッティカの神話的人物である。ケクロプスの子パンディーオーンがアテーナイの王だったころの人で、ディオニューソスが初めてアッティカにやって来たときに歓迎したといわれる。エーリゴネーという娘がおり、またマイラという愛犬を飼っていた。
アポロドーロスによると、イーカリオスに歓迎されたディオニューソスは返礼として、ブドウの苗木と、ブドウ酒の醸造法を授けたといわれる。そこでイーカリオスはブドウ酒を広めようと考え、羊飼いのところにやって来てブドウ酒をふるまった。ところが羊飼いたちは初めて体験した酔いに驚き、毒を飲まされたと勘違いをしてイーカリオスを殺してしまった。エーリゴネーはマイラとともにイーカリオスを探し歩き、イーカリオスの墓を見つけたときに首をつって自殺した[1]。
ヒュギーヌスによると、イーカリオスとエーリゴネーの死に怒ったディオニューソスはアテーナイの女たちを狂気させた。アテーナイ人は神託によって2人の死が原因であることを知り、イーカリオスを殺した羊飼いたちを罰し、エーリゴネーの死を悼んで振り子人形の祭礼を定め、イーカリオスとエーリゴネーにブドウの初穂を供えた。また神々はイーカリオス、エーリゴネー、マイラを天に上げ、それぞれうしかい座、おとめ座、シリウスに変えた[2][3]。
ペーネロペーの父
このイーカリオスは、アイオロスの子のペリエーレースとペルセウスの娘ゴルゴポネーの子[4]、あるいはキュノルテースの子ペリエーレースとゴルゴポネーの子で、アパレウス、レウキッポス、テュンダレオースと兄弟[5]。あるいはキュノルテースの子ペリエーレースの子のオイバロスと水のニュムペーのバテイアの子で、テュンダレオース、ヒッポコオーンと兄弟[6]。
水のニュムペーのペリボイアとの間にトアース、ダマシッポス、イメウシモス、アレーテース、ペリレオースと、ペーネロペー[7]、イプティーメーをもうけた[8]。しかし一説にはイーカリオスの妻はリュガイオスの娘ポリュカステーといわれる[9]。
テンプレート:ラケダイモーンの系図 テンプレート:オデュッセウスの系図
亡命
アポロドーロスによるとイーカリオスとテュンダレオースはヒッポコオーンとその子供たちによってラコーニアから追放され、アイトーリアのプレウローンの王テスティオスのところに亡命して、テスティオスの戦争を助け、ヘーラクレースがヒッポコオーンを滅ぼした後にラコーニアに帰還した[10]。ストラボンによればテスティオスが戦っていたのはアケローオス河を挟んだ隣の地方アカルナーニアで、亡命したイーカリオスとテュンダレオースはテスティオスを助けて戦ったので、戦争に勝利した後にアカルナーニアに領地を得た。その後ヘーラクレースがヒッポコオーンを滅ぼしたときにテュンダレオースのみラコーニアに帰還し、イーカリオスはアカルナーニアに残ってリュガイオスの娘ポリュカステーと結婚したと述べている[9]。しかしパウサニアスによれば、イーカリオスはヒッポコオーンの味方をしてテュンダレオースを追放したとされる[11]。
ペーネロペーの結婚
娘のペーネロペーはイタケー島の王オデュッセウスと結婚したが、これはテュンダレオースが娘のヘレネーに多くの求婚者が殺到して困っていたときに、オデュッセウスがペーネロペーとの結婚をイーカリオスに取りなしてくれるのと引き換えに、テュンダレオースが求婚者たちの中から誰をヘレネーの夫に選んでも怒らない妙案を授けたためであり、このためイーカリオスはテュンダレオースに頼まれて、ペーネロペーをオデュッセウスに与えたといわれる[12]。イーカリオスは2人が結婚すると、オデュッセウスをラコーニアに住まわせようとしたが、オデュッセウスにその意思はなかったので、イーカリオスは2人がイタケー島に向かう馬車を追いかけて、ペーネロペーにラコーニアに残ってくれと懇願し続けた。オデュッセウスはたまりかねて、ペーネロペーにイタケー島に来るかラコーニアに残るかを自分で決めろと言うと、ペーネロペーは何も言わずに恥らって顔を隠したので、イーカリオスはペーネロペーの気持ちを悟って2人を送り出したという[13]。
一方、イプティーメーはペライの王エウメーロスの妻となったといわれている[8]。
『オデュッセイア』
その後、トロイア戦争が終結しても、10年間もオデュッセウスが帰国しなかったとき、ペーネロペーに新たな求婚者たちが現れたが、求婚者の1人エウリュマコスは他の求婚者よりも結納金を釣り上げ、またペーネロペーへの贈物も熱心であったため、イーカリオスはペーネロペーにエウリュマコスとの結婚を強く勧めたとホメーロスは語っている[14]。
脚注
- ↑ アポロドーロス、3巻14・7。
- ↑ ヒュギーヌス、130。
- ↑ シリウスではなくこいぬ座とする説もある。Ridpath, Ian. “Star Tales - Canis Minor”. . 2013閲覧.
- ↑ アポロドーロス、1巻9・5。
- ↑ ステーシコロス(アポロドーロス、3巻10・3 の引用)。
- ↑ アポロドーロス、3巻10・4。
- ↑ アポロドーロス、3巻10・6。
- ↑ 8.0 8.1 『オデュッセイア』4巻。
- ↑ 9.0 9.1 ストラボン、10巻2・24。
- ↑ アポロドーロス、3巻10・5。
- ↑ パウサニアス、3巻1・4。
- ↑ アポロドーロス、3巻10・9。
- ↑ パウサニアス、3巻20・10~20・11。
- ↑ 『オデュッセイア』15巻。
参考文献
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌』飯尾都人訳、龍渓書舎(1994年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ホメロス『オデュッセイア(上・下)』松平千秋訳、岩波文庫(1994年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店(1960年)
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