イチゴ
一見して種子に見える一粒一粒の痩果(そうか)が付いた花托(花床ともいう)部分が食用として供される。甘みがあるため果物として位置づけられることが多いが、草本性の植物であるので野菜として扱われることもある[1]。
Contents
概説
狭義には、オランダイチゴ属の栽培種オランダイチゴ(学名、Fragaria ×ananassaDuchesne ex Rozier)を意味する。イチゴとして流通しているものは、ほぼ全てオランダイチゴ系である。
広義にはオランダイチゴ属 (Fragaria) 全体を指す。英語圏でのストロベリーはこの範囲である。バラ科オランダイチゴ属の半落葉性草本であり、北半球の温帯に広く分布しているほか、チリ中南部やハワイ諸島にも分布している[2]。
さらに最広義には、同じバラ亜科で似た実をつける、キイチゴ属 (Rubus) やヘビイチゴ属 (Duchesnea) を含める。これらを、ノイチゴ、と総称することもある。オランダイチゴ属の二倍体の種にも、この総称に含まれているものがある。
漢字表記の場合は、現代の中国語では、オランダイチゴ属は「草莓 拼音: ツァオメイ」とされる。明治時代から広く日本国内各地で生産されるようになったオランダイチゴ属は、日本語では「苺」と表記される場合が多い。
系統
オランダイチゴ属の染色体の基本数は7 (n=7) である[3]。
- 2倍体 (n=14)
- 4倍体 (n=28)
- 6倍体 (n=42)
- 6倍体の種はモスカーターの一種が知られており、ヨーロッパ中部からロシアにかけて分布[4]。
- 8倍体 (n=56)
- 近代栽培イチゴは8倍体である[4]。
特徴
好光性種子である。可食部は花托の発達したものであり、表面に分布する粒々がそれぞれ果実である。このような形態をとるものをイチゴ状果(偽果)という。独特の芳香があり、属名の由来にもなっている。属名のFragariaはラテン語で「香る」の意。
ビタミンCが豊富である他、抗酸化物質として知られるポリフェノールの一種であるアントシアニンを含む。生食の他、ジャムに加工されることも多い。受精すると花托の肥大が始まるが、一部受精していない雌しべがあるとその部位の肥大が弱くなる。したがって形の整った果実を作るためには、全ての雌しべが受粉するようにすることが大切である。最近の受粉の作業はビニールハウス内にミツバチを放して行わせる。流通しているイチゴの多くはハウス栽培によるものである。また、粒の大きさを揃えるなどの見た目や収穫時期を考慮しなければ家庭菜園でも比較的に容易に栽培できる。地方によっては、自家用に畦道の脇に栽培していることもある。
語誌
「いちご」の語源ははっきりしない。古くは『本草和名』(918年頃)や『倭名類聚抄』(934年頃)に「以知古」とある。日本書紀には『伊致寐姑(いちびこ)』、新撰字鏡には『一比古(いちびこ)』とあり、これが古形であるらしい。『本草和名』では、蓬虆の和名を「以知古」、覆盆子の和名を「加宇布利以知古」としており、近代にオランダイチゴが舶来するまでは「いちご」は野いちご全般を指していた[5]。
漢字には「苺」と「莓」がある。これらは異字体で「苺」が本字である。辞典によっては「莓」が見出しになっていて「苺」は本字としていることがある。現代日本では「苺」、現代中国では「莓」を普通使う。
英語の strawberry(ストロベリー)は「藁 (straw) のベリー (berry)」と解釈できるが、そう呼ぶ理由ははっきりせず、「麦藁を敷いて育てた」「麦藁に包まれて売られていた」「匍匐枝が麦藁に似ている」という説があり、さらに、straw は藁ではなく、散らかす・一面を覆うを意味する strew の古語だという説もある。
近代栽培イチゴ(オランダイチゴ)
歴史
北半球では古くから各地で野生イチゴの採集と利用が行われていた[6]。スイスのトゥワン遺跡で出土した紀元前3830年~3760年頃の穀物のスープからはイチゴの痩果が発見されている[6]。イチゴの栽培は古代ローマではすでに行われており、14世紀から16世紀にはいくつかの品種が栽培されていた[2]。
近代栽培イチゴであるオランダイチゴは、18世紀にオランダの農園で、北米産のバージニアイチゴ (F. virginiana) とチリ産のチリイチゴ (F. chiloensis) の交雑によって作られた[7][8]。
北米原産のバージニアイチゴは探検家や植民者によって16世紀前半から18世紀半ばにかけて、たびたびヨーロッパに持ち帰られた種で、植物園を通じてヨーロッパ各地に普及した[9]。一方、チリ原産のチリイチゴはマプチェ族などの先住民によって長年栽培されてきた品種である[2]。チリイチゴは18世紀初頭から19世紀半ばにかけてヨーロッパに持ち帰られた種で、こちらも植物園を通じてヨーロッパ各地に普及した[9]。
栽培
イチゴは土地にあった特有の栽培法を用いることで世界各地で栽培が行われている[6]。中国・韓国・日本は多雨湿潤気候に属しており本来はイチゴの栽培に好適な気候ではないがビニール被覆による保温と雨除けを用いた栽培技術が普及している[6]。アジアの熱帯や亜熱帯の地域でもイチゴの栽培が行われている[6]。
イチゴの摘み取り作業は色の判断と実を傷つけない繊細な動きが求められることから機械化が難しく、長らく手作業で摘み取られていた。アメリカでは露地栽培が主流であるため中腰での作業が長時間続く重労働であり外国人労働者の仕事であった。しかし不法移民の取締まり強化や人手不足で賃金が上昇しているため、中腰にならずにすむハウス栽培が増加しているほか、摘み取りからパック詰めまでを単独でこなすロボットの開発が行われている[10]。
利用
生食が定番となっており、コンデンスミルクまたはヨーグルトをかけたもの、イチゴジャム、イチゴジュースなどの材料として利用され、アイスクリームやお菓子に練りこまれることも多い。他には、ショートケーキ、タルトなどの洋菓子の装飾や、いちご大福などの和菓子の材料としても用いられる。凍結乾燥させたものを、チョコレートなどでくるんだ菓子も作られている。なお、かき氷のシロップ、牛乳、キャンディーなどのいちご味のものの多くはイチゴの成分を全く含まず、酢酸アミル、アネトールなどを配合して作ったイチゴ香料と赤い着色料で表現していることが多い。
缶詰などには製造過程において要する熱殺菌時にビタミンの崩壊とともに型崩れを起こすため不向きとされ、この理由から缶詰は造られてはいない。
成分
一般的ないちごの可食部の成分は食品標準成分表によれば約90%が水分であり、糖質が約10%、タンパク質、繊維が約1%であり総カロリーは100gで35kcalである。いちごにはキシリトールが約350mgと豊富に含まれている。また、アスコルビン酸(ビタミンC)にも富む。
日本での栽培
日本には江戸時代にオランダ人によってもたらされた[11]。イチゴが一般市民に普及したのは1800年代であり[11]、本格的に栽培されたのは1872年(明治5年)からである[12]。イチゴ栽培が一つの産業として行われるようになったのはさらに遅く第二次世界大戦後少し経ってからである[11]。イチゴは1963年の農林水産統計表の品目に初めて登載された[11]。
日本での生産量は年間約20万トンであり、そのほとんどは11 - 4月に生産される。5 - 10月の生産量は1万トン以下であって、5%に過ぎない。冬から春に実をつける一季成りイチゴに対し、夏から秋にも実の成る品種は四季成りイチゴと呼ばれ、夏イチゴとも呼ばれている。一季成り性品種と四季成り性品種では、花芽分化に関する特性が異なる。
ハウスによる促成栽培と露地栽培があり収穫時期と期間が異なる。一季成り性品種の露地栽培の場合の収穫期は主に3 - 4月頃。連作障害があり1 - 4年で圃場を移動する。ハウスによる促成栽培の場合の収穫期は10月下旬 - 翌年5月頃。ハウス栽培では水耕栽培も行われる。通常は足下の高さの盛り土(畝)に作付けするが、屈んだ作業となり従事者へ肉体的負担が大きいため、置き台などを利用し苗の高さを腰まで上げ負担を軽減するなどの工夫もみられる。多くの場合、寒冷期に収穫するためハウス栽培は必須であり成長適温の20℃前後までの加温を行う。夏秋取り栽培の場合は、遮光栽培も行われる。
- Strawberry flower.jpg
オランダイチゴの花
- Strawberry flower and bee.JPG
ビニールハウス内で受粉するミツバチ
- Greenhouse for strawberry.jpg
イチゴのハウス栽培
受粉
受粉が均一でない場合、果実の成長はいびつで商品価値の劣る実となってしまう。したがって、露地栽培では自然環境中の生物による受粉だけでなく栽培者が育成するミツバチなどによって受粉が行われる。ハウス栽培ではミツバチだけでなく、ミツバチより低温でもより活動するマルハナバチによる授粉も行われる。
苗の生産育成
苗がウイルスに感染すると根の成長が阻害され「果実の大きさが小さくなる」等の障害を及ぼすため、茎頂培養(成長点培養)によるウイルスフリー苗(メリクロン苗)が種苗専門の生産業者により育成され、その苗を果実生産者が収穫用の圃場や培地に定植し実を収穫・出荷する。
一季成り性品種の苗は花芽分化後に低温と日長の休眠期を経ないと成長と開花が行われない。つまり、秋から春に収穫するためには夏に苗を「冷蔵庫に入れる」、「高原などの冷涼地で育てる」などの方法で低温処理(春化処理)と遮光で休眠(強制的に冬を)経験させる。この休眠打破処理により開花時期と収穫時期をずらすことが可能になる。この方法を経ないと一季成り性品種で10月下旬 - 翌年5月頃の収穫は行えない。また、新しい苗を毎年植え替えなければならない。促成栽培に最適な休眠温度条件や日長に対する感受性は品種により異なり、土中の窒素分の条件でも変化する。
四季成り性品種では、人工的な休眠は行われない。
日本の主な商業栽培品種
2009年2月2日の時点では登録品種は157種[13]。2016年11月14日の時点では、登録品種は258種、そのうち登録維持されているのは129種[14]。
品種名 (一般名) |
品種登録年 | 特徴 | 外部リンク |
---|---|---|---|
とよのか | 1984年 | この品種は、野菜試験場久留米支場(福岡県久留米市)において、昭和48年に「ひみこ」に「はるのか」を交配し、以後選抜を重ねて育成したものである。1980年から 3カ年系統適応性検定試験および特性検定試験を行い、1983年5月農林水産省育成農作物新品種として登録された。なお、出願時の名称は「イチゴ久留米42号」であった。酸味が少なく大粒で甘い(粒が大きいほうが甘い)。九州を中心に広く栽培される。1980年代から1990年代後期までは『東の女峰、西のとよのか』と呼ばれるほどで、二大勢力の一つであった。2017年現在では売れ筋こそ後続のより大粒な品種に奪われているが、スーパー等でよく目にできる定番の品種である。 | 農水省 |
女峰 (にょほう) |
1985年 | 栃木県農業試験場によって九州の「とよのか」に対抗して、「麗紅」に変わる品種を育成する目的で「はるのか」「ダナー」「麗紅」を交配。女峰山に因んで名付けられた。糖度が極めて高く酸味も適度にあり、甘酸っぱい味が特徴。さらには色が鮮やかで外観がよいといった見栄えする点から、ショートケーキ等に向けた業務用イチゴとしても使われていた。日光連山の名に因んで名づけられている。うどんこ病の耐性はやや高。主に東日本で栽培されている。 | 農水省 |
章姫 (あきひめ) |
1992年 | 萩原章弘(静岡市)が、「女峰」と「久能早生」を交配。女峰の酸味、病害抵抗性などの問題点を解決するため改良された。品種名は、品種改良者の章の字に因んで命名されている。女峰より大きく、細長い形をしている。糖度は高く(10度以上)、酸度は少ない(0.5-0.6程度)。休眠が浅く、暖地での施設栽培に向く。 | 農水省 |
雷峰 (らいほう) |
1992年 | 円雷と女峰の自殖系。甘みと酸味のバランスがよく、食味良好で果肉が硬く日持ちがよい。洋菓子の加工用に多く用いられる。一年を通して栽培。主な産地は宮城県、北海道、山形県、長野県 など | 農水省 |
レッドパール | 1993年 | 愛媛県の生産者が「とよのか」と「アイベリー」を交配。両者の特徴に加えとちひめ同様中まで赤い。生産量が少ない種。ケーキ、高級菓子用。 | 農水省 |
アスカウェイブ | 1994年 | 奈良県農業試験場が「久留米促成 3号」「宝交早生」「ダナー」「神戸1号」交配。アスカルビーが開発されるまで、同県での主力品種。赤みが強く、甘みと酸味のバランスがよい。当初は「アスカエース」と呼ばれていた。 | 農水省 |
あかねっ娘 (ももいちご) |
1994年 | 愛知県で「アイベリー」×「宝交早生」の選抜系に「とよのか」を交配し選抜したものを母系とし、別の「アイベリー」×「宝交早生」の選抜系を父系とする。出願時の名称は「愛知 2号」。かつて徳島県佐那河内村の30数軒の農家で主に栽培されていたが今は栽培されていない。奈良県や愛知県、福岡県等で手に入れることができる。ネット通販などで人気である。「ももいちご」の別称は大粒で桃の形に似ていることから名前が付いたとされる。栽培が広がる過程で「愛知2号」の名称だったため、奈良県の生産者達がそう呼び始めたのが最初である。一季成。 | 農水省 ももいちご 目指せベジフルさん |
越後姫 (えちごひめ) |
1996年 | 新潟県園芸研究センターで「ベルルージュ」「女峰」「とよのか」を交配。糖度が高く、種子が果肉に埋もれることから美しい外観を持つ反面、果肉が柔らかいため輸送性に劣り、その大半が県内で消費される。新潟県内で生産される生食向けいちごの大半は越後姫である。 | 農水省 |
とちおとめ | 1996年 | 栃木県農業試験場により「とよのか」と「女峰」を交配し、さらに「栃の峰」を交配。女峰より粒が大きく甘さも強い、日持ちが良い品種。従来の二大勢力であった「とよのか」や「女峰」に代わり、本記事の執筆版現在、日本一の生産量を誇る。 | 農水省 |
アスカルビー | 2000年 | 奈良県農業試験場が「アスカウェイブ」と「女峰」を交配。果実は円錐形で赤く艶があり甘みも強い。宝石のように見えることからこの名が付いた。登録前の名称は「奈良 7号」。奈良県内の他、近年は全国各地での生産も多いが、別のブランド名になっているものが多い。 | 農水省 |
さちのか | 2000年 | 食品産業技術総合研究機構が「とよのか」と「アイベリー」を交配。糖度(平均糖度10度)が高くて、酸度は低い(平均酸度0.59)。果実は硬めで日持ちがよい。 | 農水省 |
さがほのか | 2001年 | 佐賀県で「大錦」と「とよのか」の交配。佐賀県生産の 9割のシェアを持つ。 | 農水省 |
とちひめ | 2001年 | 栃木県で「栃の峰」と「久留米49号」を交配。中まで色が赤く甘さが強い、果実が軟らかいため観光イチゴ狩り用。 | 農水省 |
アマテラス | 2002年 | 福岡県の農家が「とよのか」と「鬼怒甘(女峰の突然変異種)」を交配。果実は円錐形でかなり大きい。大型の施設栽培に向く品種である。ネット通販などで人気である。 | 農水省 |
福岡S6号 (あまおう) |
2003年 | 福岡県農業総合試験場園芸研究所で「久留米53号」に出願者所有の育成系統を交配。「あ」かい、「ま」るい、「お」おきい、「う」まいの頭文字をとって名づけられた品種。福岡県では栽培品種がとよのかから急速にあまおうに置き換わっている。一粒40gにもなる。なお、「あまおう」は全国農業協同組合連合会の登録商標である。 | 農水省 |
紅ほっぺ (べにほっぺ) |
2002年 | 静岡県が「章姫」と「さちのか」を交配。章姫と比較し、果心の色が淡赤・花房当たりの花数が少ない。さちのかと比較して、小葉が大きい・果実が大きい・花柄長が長い。 | 農水省 |
サマープリンセス | 2003年 | 長野県で(「麗紅」×「夏芳」)の選抜系統に「女峰」を交配。色や光沢のよい夏イチゴ(四季成)。しかし、実が柔らかくて輸送に向かない。 | 農水省 |
エッチエス138 (夏実) |
2004年 | 北海三共社の育成品種。実肉が硬く暑さに強い、日持ち性・輸送性に優れる夏イチゴ。四季成り性品種。 | 農水省 |
夏娘 (カレイニャ) |
2004年 | 北海道の生産者による「みよし」と「サマーベリー」の交配種の実生選別種。糖度は高いが、表皮の色が斑で光沢が少なく軟らかい夏イチゴ(四季成)。酸度はやや低い。 | 農水省 |
やよいひめ | 2005年 | 群馬県農業技術センターによって育成された品種。特長としては、果実が大果でかつ果肉がしっかりして日持ちが良いことが挙げられる。食味は酸味まろやかで、糖度は高くジューシーである。果色は明るく、高温期に黒ずむことがない。 | 農水省 |
ペチカ (ペチカプライム) |
2007年品種登録出願 | 株式会社ホーブ(北海道)が「大石四季成2号」と「サマーベリー」を交配。甘みが控えめで見栄えのよい四季成りイチゴ。夏場の端境期に出荷され、香りが多くケーキ用として輸入品に対抗。 | 農水省 |
かおり野 | 2010年 | 三重県農業研究所が開発したイチゴ新品種。果実が大きく、酸味が低めで爽やかな甘さが特徴。イチゴの最重要病害「炭疽病」に対して抵抗性を持つという、全国のイチゴにない長所を持つ。 | 農水省 |
和田初こい (初恋の香り) |
2009年 | 果皮の色は淡紅。熟しても赤くならないイチゴ。品種改良時に偶然発見された。実は大きく、香り高いのが特徴。同じく白いイチゴであるパインベリーと混同されやすいが、異なる。 | 農水省 初恋の香り |
桜桃壱号 (桜桃苺) |
2015年 | 福岡県の生産者による「アマテラス」と「紅ほっぺ」の交配種の実生選別種。果実の大きさは極大。果実の縦横比は同等、果実の形は円錐形。ネット通販などで人気である。 | 農水省 |
千葉S4号 (チーバベリー) |
2015年 | 千葉県農林総合研究センターで1996年に「みつる」と「章姫」を交配後、2012年までに「栃の峰」「とちおとめ」と交配、選別を繰り返して出来た種。大粒で果汁が多く、うどんこ病に強い。「チーバベリー」という愛称は公募。 | 農水省 |
ダイアモンドベリー | 2002年品種登録出願 | 福岡の生産者による、「さがほのか」と「久留米54号」の交配により育成。実は大きめで促成栽培に向いている。 | 農水省 |
咲姫 (サキヒメ) |
2014年品種登録出願中 | 佐賀県のイチゴ農家が、「やよいひめ」と「さがほのか」の交配により育成。果実は大果で、糖度が高く酸味が少ないため、クランベリーのようなジューシーな味わいが特徴。「さがほのか」に代わる新たなブランド品種として期待されている。 | 農水省 咲姫.com |
過去の商業栽培品種 | |||
宝交早生 | 不明 | 「八雲(幸玉)」と「タホー」を交配したものを、兵庫県農業試験場が1960年に発表。宝塚で生れたため「宝交」と命名された。新品種が登場する1980年代まで、イチゴを全国に普及させた代表的品種であった。寒冷地の露地栽培に向く。甘みが強く、果実が柔らかい。 | 宝交早生 |
アイベリー | 不明 | 交配データ不明。愛知県の愛三種苗が作出。普通のイチゴの2、3倍の大きさがある。愛知県で育成されたことから、この名前が付いた。 | |
ダナー種 | 関東地方を中心に広く栽培された。2017年現在、主流の品種に比較すると酸味があり甘みは弱く、小粒。終戦後アメリカより導入され、昭和50年代頃まで栽培されていたが新種に淘汰された。 |
日本の主な産地
- 北海道
- 豊浦町、比布町
- 青森県
- 八戸市
- 宮城県
- 亘理町、山元町
- 福島県
- 伊達市(旧霊山町、旧保原町、旧梁川町)、いわき市など
- 茨城県
- 鉾田市(旧鉾田町、旧旭村)、行方市(旧玉造町、麻生町)、筑西市(旧下館市)、石岡市(旧八郷町)、小美玉市(旧小川町)
- 栃木県 - 収穫量1位。
- 真岡市(旧二宮町、旧真岡市)、鹿沼市、壬生町、小山市、栃木市(旧西方町、旧都賀町)、佐野市、足利市、上三川町、宇都宮市、芳賀町など
- 群馬県
- 藤岡市、前橋市、富岡市、館林市など
- 埼玉県
- 久喜市(旧菖蒲町)、川島町、吉見町、加須市(旧大利根町)
- 千葉県
- 旭市(旧旭市、旧飯岡町)、銚子市、山武市(旧成東町)など
- 神奈川県
- 海老名市
- 長野県
- 喬木村
- 岐阜県
- 本巣市(旧糸貫町)、岐阜市
- 静岡県
- 静岡市(駿河区、清水区)、伊豆の国市(旧韮山町)、御前崎市(旧浜岡町)、掛川市(旧掛川市、旧大東町)、富士市、藤枝市
- 愛知県
- 愛西市(旧立田村)、豊橋市、西尾市(旧吉良町)、豊川市(旧御津町)、幸田町、岡崎市、津島市、西尾市(旧幡豆町)、蒲郡市
- 三重県
- 松阪市、伊勢市(旧小俣町)
- 奈良県
- 天理市、大和郡山市、奈良市
- 和歌山県
- 紀の川市(旧打田町)
- 岡山県
- 岡山市
- 徳島県
- 徳島市、阿南市
- 香川県
- 観音寺市、三木町
- 愛媛県
- 西条市(旧東予町)
- 福岡県 - 収穫量国内2位。
- 八女市(旧黒木町、旧八女市、旧立花町)、大川市、広川町、久留米市、筑後市、大木町、糸島市(旧前原市)、福岡市
- 佐賀県
- 唐津市(旧唐津市、旧肥前町、旧浜玉町)、白石町(旧白石町、旧有明町、旧福富町)、鹿島市、玄海町、神埼市ほか
- 長崎県
- 雲仙町(国見町)、大村市、長崎市、雲仙市(旧瑞穂町)、南島原市(西有家町、北有馬町、有家町)、島原市(旧有家町)ほか
- 熊本県
- 玉名市(旧横島町、旧天水町、旧玉名市)、氷川町(旧竜北町)、八代市、山鹿市(旧鹿本町、旧山鹿市)、宇城市(旧三角町)
- 大分県
- 杵築市
- 宮崎県
- 宮崎市、川南町
- 鹿児島県
- 志布志市(旧有明町)、日置市(旧伊集院町)
日本での流通
本来は初夏(5 - 6月)が露地栽培品の旬であるが、1990年代以降はクリスマスケーキの材料としての需要が高まる12月から年末年始にかけて出荷量が最も多くなる傾向がある。逆に、5月を過ぎると流通量と生産量は減る。秋口は露地栽培品とハウス栽培品は端境期であるため、生食用のイチゴはほぼ全量を輸入に頼っている。
日本の生鮮イチゴの主な輸入元はアメリカで、ついで韓国、ニュージーランド、オーストラリアである。冷凍イチゴの主な輸入元は中国で、ついで韓国、その他タイ、メキシコ、オランダ、チリなどから輸入されている。ちなみに生鮮イチゴ、冷凍イチゴの輸出国世界1位はポーランドであり、生鮮イチゴの1年の輸出量は20万トン、冷凍イチゴの輸出高は8400万ドルに及ぶ。
日本製イチゴ新品種の無断栽培問題
2008年現在、韓国でのイチゴ生産の多くは、日本で開発されたレッドパール、章姫などといった品種である[15]。これらの品種は植物新品種保護国際同盟 (UPOV) により知的財産の概念が導入されており、栽培を行う際には品種を開発した者に対して栽培料を支払うこととなっている。しかし韓国の生産者は日本に対する栽培料の支払いを行わず、知的財産を侵害した上で日本に逆輸入させた[16]。いずれも韓国の一部の生産者に許諾が与えられたものが、無断で増殖されたものである[16]。日本政府のロイヤリティー問題に対する強い姿勢もあり、2006年の日本の韓国産イチゴの輸入量は2001年に比較して12%まで減少した[15]。その後、事件の余波もあり2016年現在は1%程度にまで落ちている。
2009年10月、韓国の聯合ニュースは「韓国で開発したイチゴ新品種の国内栽培比が日本品種を追い越した」とし、韓国は「ソルヒャンなど国内品種の栽培率が高まったのは、日本品種に比べておいしい上に収穫量が多く、病害虫に強くて栽培技術も安定化されたため」と主張している[17]。なお、記事中の韓国産品種(Seol-hyang(雪香)・Mae-hyang(苺香)・Keum-hyang(錦香))はそれぞれ「章姫(アキヒメ)」×「レッドパール」「栃の峰(トチノミネ)」×「章姫(アキヒメ)」「章姫(アキヒメ)」×「とちおとめ」という、日本産品種同士の交配品種である[15]。
日本の農水省によると、韓国産イチゴの9割以上は日本の品種を交配して生産されたものである。それが安価にアジア市場に流れたことにより、日本のイチゴ業界は5年間で最大220億円分の輸出機会を失ったと推計している[18]。
参考画像
- Fragaria ,Strawberry イチゴ とよのか 4115995.JPG
日本でのイチゴの代表的品種「とよのか」
- Sachinoka Strawberry 17490011 org.v1369282207.jpg
福岡県産さちのか
- Hatsuga.jpg
花托表面の痩果が個々に発芽した様子
脚注
- ↑ 田中敬一. “キッズQ:イチゴは果物?野菜?” (日本語). くだもの・科学・健康ジャーナル. . 2012閲覧.
- ↑ 2.0 2.1 2.2 農山漁村文化協会 編 『イチゴ大事典』 農山漁村文化協会、2016年。
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 農山漁村文化協会 編 『イチゴ大事典』 農山漁村文化協会、2016年。
- ↑ 4.0 4.1 農山漁村文化協会 編 『イチゴ大事典』 農山漁村文化協会、2016年。
- ↑ 嶋田英誠編 跡見群芳譜
- ↑ 6.0 6.1 6.2 6.3 6.4 農山漁村文化協会 編 『イチゴ大事典』 農山漁村文化協会、2016年。
- ↑ George McMillan Darrow (1966). “chapter 5: Duchesne and His Work”, The Strawberry: History, breeding and physiology. New York: Holt, Rinehart and Winston.
- ↑ 農山漁村文化協会 編 『イチゴ大事典』 農山漁村文化協会、2016年。
- ↑ 9.0 9.1 農山漁村文化協会 編 『イチゴ大事典』 農山漁村文化協会、2016年。
- ↑ 移民かロボットか~アメリカ いちご生産の現場で - NHK
- ↑ 11.0 11.1 11.2 11.3 農山漁村文化協会 編 『イチゴ大事典』 農山漁村文化協会、2016年。
- ↑ 戦前のいちご狩のポスター(大津市歴史博物館所蔵)
- ↑ “品種登録一覧 【写真画像付き一覧】” (日本語). 農林水産省 (2009年2月2日). 2009年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2012閲覧.
- ↑ 品種登録データ検索 農林水産省、品種登録データ検索での検索結果。2016年11月14日時点。
- ↑ 15.0 15.1 15.2 松本和浩、李忠峴、千種弼、金泰日、田村文男、田辺賢二、黄龍洙「韓国産イチゴ新品種の特性と貯蔵性の品種間差異 (PDF) 」 、『園芸学研究』第7巻第2号、園芸学会、2008年、 293-297頁、 NAID 110006649720、. 2015閲覧.
- ↑ 16.0 16.1 日本国 農林水産省 第2回 農林水産省・経済産業省知的財産連携推進連絡会議 配布資料3 農林水産省における平成20年度知的財産関連施策の概要(平成20年3月) (PDF)
- ↑ 이은파 (2009年10月20日). “국산딸기 재배율 56.4%‥일본품종 추월” (韓国語). 聯合ニュース (Yonhapnews) . 2012閲覧.
- ↑ 「とちおとめ」韓国に海賊版…勝手に交配し輸出『読売新聞』朝刊2017年12月18日
関連項目
外部リンク
- 茎頂培養技術を用いたウイルスフリー苗の増殖 (日本語) / イチゴの病害 (日本語) - 奈良県農業技術センター
- イチゴの基本的な栽培方法 (日本語) - 農業豆知識
- 沖縄に適したイチゴ品種及び苗の特性解明(2003/11) (日本語) - 九州沖縄農業研究センター
- オランダイチゴの標本(長野県北佐久郡軽井沢町で1983年5月27日に採集) (日本語) - (千葉大学附属図書館)