アマゾン熱帯雨林
アマゾン熱帯雨林(アマゾンねったいうりん、英: Amazon Rainforest、西: Selva Amazónica、葡: Floresta Amazônica)とは、南アメリカ大陸アマゾン川流域に大きく広がる、世界最大面積を誇る熱帯雨林である。
Contents
概説
面積は約550万平方kmとアマゾン盆地(約700万平方km)の大部分を占め、地球上の熱帯雨林の半分に相当する。省略してアマゾンとも呼ばれる。7カ国が含まれ、60%はブラジルにある。
生物多様性に富み、ブラジル政府は専門の研究機関である国立アマゾン研究所(INPA)を設置している[1][2]。
植物はエネルギーを得るために二酸化炭素を利用して光合成を行い、炭素を固定するとともに酸素を放出しているが、アマゾンは二酸化炭素を吸収する量が多いため「地球の肺」[3]、「地球の酸素の1/3を供給する」と思われている。しかしこれは間違いであり、実際にはアマゾンの熱帯雨林は極相状態にあり、酸素や二酸化炭素の消費と放出が均衡しているため、大気成分に影響を与えない。この「アマゾン地球の肺」説は、アマゾン研究の第一人者にインタビューを行ったジャーナリストの勝手な誤解が広まったと言われる[4]。
近年、主に牛の放牧地を作るために急速に森林が焼き払われ破壊されている[3]。
生物
アマゾン熱帯雨林はまっすぐに伸びた豊富な樹種が林立しているにもかかわらず、林床部が貧弱である特異な特色を持つ。 哺乳類としてはオポッサム、ナマケモノ、アルマジロ、ホエザル、クモザル、マーモセット、タマリン、カピバラ、パカ、アグーチ、キノボリネズミ、キンカジュー、オリンゴ、チスイコウモリ、シロコウモリ、マナティー、カワイルカ、ジャガー、オセロット、バク、ペッカリー、マザマジカなど変化に富んだ多数の種類が生息している。ただし、他地域に比べると大型哺乳類の種類も個体数も少ないという特色がある[5]。
鳥類はさらに多く、オウム、ハチドリ、オオハシ、ホウカンチョウなどを代表として鮮やかな色彩の羽毛を持つ種が多数見られる[5]。爬虫類はカイマンやアナコンダが一般に知られているが、個体数としてはカワガメが最も多い[5]。魚類はピラニア、デンキウナギ、ピラルクなどが良く知られているほか、500種を超えるナマズ目が生息している[5]。
昆虫は現在でも新種が次々と発見される状況にあるほど豊富である[6]。
環境破壊
熱帯雨林は1967年頃に比べて20%消失した[7]。 2006年の国際連合食糧農業機関(FAO)の報告では、伐採された森林の70%が放牧地へと転換されている[8]。また中国での中流階級の台頭と、ヨーロッパで発生した狂牛病への対策として畜産飼料が大豆餌に切り替えられたことによる需要の増大によって、大豆畑も増加している[9]。このため、2006年には環境保護団体のグリーンピース (NGO)とマクドナルドなどの食品業者が、カーギル社などの穀物の主要取引会社に対し、アマゾンの転換畑で生産された大豆を2年間買わないようにとの交渉を行い、合意された[10]。
世界自然保護基金(WWF)は、2030年までに、最大でアマゾン熱帯雨林の60%が破壊され、この影響で二酸化炭素の排出量が555億トンから969億トンに増える可能性があることを報告した[3]。
アマゾンの森林伐採
1996年に、1992年時と比較して森林伐採が34%増加していることが報告された[11]。2000年から2005年にかけての5年間(毎年22,392 km²)でそれまでの5年間(毎年19,018 km²)と比較して18%以上伐採量が増えた[12]。ブラジルではInstituto Nacional de Pesquisas Espaciais (INPE, or National Institute of Space Research)によって伐採が調査された。伐採された土地は乾季に撮影されたランドサットの100〜200枚の画像から調べられた。自然の平原やサバンナは雨季の森の損失には含まれない。 INPEによると、元々、ブラジルに於けるアマゾンの熱帯雨林は4,100,000 km²だったが2005年には3,403,000 km²まで減少した。17.1%が失われた[13]
年 | 森林面積 (km2) | 年あたりの |
1970年に対する |
1970年からの |
---|---|---|---|---|
pre - 1970 |
4,100,000 | 0 | 100.00% | - |
1977 | 3,955,870 | 21,130 | 96.50% | 144,130 |
1978 - 1987 |
3,744,570 | 21,130 | 91.30% | 355,430 |
1988 | 3,723,520 | 21,050 | 90.80% | 376,480 |
1989 | 3,705,750 | 17,770 | 90.40% | 394,250 |
1990 | 3,692,020 | 13,730 | 90.00% | 407,980 |
1991 | 3,680,990 | 11,030 | 89.80% | 419,010 |
1992 | 3,667,204 | 13,786 | 89.40% | 432,796 |
1993 | 3,652,308 | 14,896 | 89.10% | 447,692 |
1994 | 3,637,412 | 14,896 | 88.70% | 462,588 |
1995 | 3,608,353 | 29,059 | 88.00% | 491,647 |
1996 | 3,590,192 | 18,161 | 87.60% | 509,808 |
1997 | 3,576,965 | 13,227 | 87.20% | 523,035 |
1998 | 3,559,582 | 17,383 | 86.80% | 540,418 |
1999 | 3,542,323 | 17,259 | 86.40% | 557,677 |
2000 | 3,524,097 | 18,226 | 86.00% | 575,903 |
2001 | 3,505,932 | 18,165 | 85.50% | 594,068 |
2002 | 3,484,727 | 21,205 | 85.00% | 615,273 |
2003 | 3,459,576 | 25,151 | 84.40% | 640,424 |
2004 | 3,432,147 | 27,429 | 83.70% | 667,853 |
2005 | 3,413,354 | 18,793 | 83.30% | 686,646 |
2006 | 3,400,254 | 13,100 | 82.90% | 699,746 |
気候変動に対する反応
最終氷期最寒冷期(LGM)以降の21000年間の気候変動による証拠がある。LGMでは現在よりも降雨量が少なかった事がわかっている。それにより森林も少なかった[15]。この事には議論の余地がある。降雨量の減少は少なかった森と草原に分かれていたと主張している科学者も存在する[16]。他の科学者はもっと北よりにあり、今日の様に南と東には広がっていなかったと主張する[17]。この議論に決着をつけることは困難である。
二酸化炭素放出源の可能性
2010年2月3日、イギリスリーズ大学、シェフィールド大学、ブラジル国立アマゾン環境研究所は、共同研究を通じて、ブラジル一帯に及んだ旱魃がアマゾン一帯の熱帯雨林を二酸化炭素排出源に変えている可能性に言及した。これは2005年に発生した100年に一度とされた旱魃の結果、約190万平方kmの森林がダメージを受け、膨大な量の枯死木が二酸化炭素の吸収量を相殺してしまう量を排出するという内容である。旱魃は2010年にも2005年を上回る規模で発生しており、今後の気候変動により旱魃が増加すれば更なる影響が生じることを示唆している[18]。
アマゾン熱帯雨林に住む生き物の画像
- Hoatzins in Brazil.jpg
- Avicularia-geroldi-subadult.jpg
- Purus Red Howler Monkey.jpg
- Heliconia aemygdiana (14551077262).jpg
- Manuel Antonio (43).JPG
- Emperor Tamarin (EXPLORE) (9714001143).jpg
- Dendrobates azureus (Dendrobates tinctorius) Edit.jpg
- Junior-Jaguar-Belize-Zoo.jpg
- Uakari male.jpg
- Isulas (8583611782).jpg
脚注
- ↑ INPA - National Institute of Amazon Researches(2018年5月16日閲覧)
- ↑ アマゾン研究の拠点開設:京都大とブラジル国立アマゾン研究所『毎日新聞』2018年5月15日(2018年5月16日閲覧)
- ↑ 3.0 3.1 3.2 アマゾン熱帯雨林の60%、2030年までに減少の危機 (AFPBB News、2007年12月6日 23:22)
- ↑ 西沢・小池、p.76-89 熱帯雨林の生態
- ↑ 5.0 5.1 5.2 5.3 伊沢p.33
- ↑ 実松p.32
- ↑ 『ナショナルジオグラフィック2007年1月号』49頁。
- ↑ Livestock a major threat to environment (国際連合食糧農業機関:FAO, 29 November 2006)
- ↑ Relentless Foe of the Amazon Jungle: Soybeans (New York Times, September 17, 2003)
- ↑ ついに アマゾンの森林破壊が2年間停止に!-グリーンピースとマクドナルドがカーギル社など大豆取引業者を説得 (グリーンピース・ジャパン、2006年7月26日)
- ↑ Beef exports fuel loss of Amazonian Forest. CIFOR News Online, Number 36
- ↑ Barreto, P.; Souza Jr. C.; Noguerón, R.; Anderson, A. & Salomão, R. 2006. Human Pressure on the Brazilian Amazon Forests. Imazon. Retrieved September 28, 2006. (The Imazon web site contains many resources relating to the Brazilian Amazonia.)
- ↑ 。National Institute for Space Research (INPE) (2005). The INPE deforestation figures for Brazil were cited on the WWF Websitein April 2006.
- ↑ From article by Rhett A. Butler, which is taken from INPE and FAO figures.
- ↑ Colinvaux, P.A., De Oliveira, P.E. 2000. Palaeoecology and climate of the Amazon basin during the last glacial cycle. Wiley InterScience. (abstract)
- ↑ Van der Hammen, T., Hooghiemstra, H.. 2002. Neogene and Quaternary history of vegetation, climate, and plant diversity in Amazonia. Elsevier Science Ltd. (abstract)
- ↑ Colinvaux, P.A., De Oliveira, P.E., Bush, M.B. 2002. Amazonian and neotropical plant communities on glacial time-scales: The failure of the aridity and refuge hypotheses. Elsevier Science, Ltd. (abstract)
- ↑ アマゾン雨林地帯、干ばつで二酸化炭素吸収どころか放出。アメリカ合衆国の排出量以上(ロイター2011年2月4日)
参考文献
- 実松克義 『アマゾン文明の研究』 現代書館、2010年。ISBN 978-4-7684-5621-7。
- 大貫良夫、落合一泰、国本伊代、恒川恵市、福嶋正徳、松下洋 『ラテン・アメリカを知る事典 - アマゾニア(伊沢紘生)』 平凡社、1987年。ISBN 4582126251。
- 西沢利栄、小池洋一 『アマゾン 生態と開発』 岩波書店〈岩波新書〉、1992年。ISBN 4-00-430229-3。