ねぶた
ねぶたとは、古来日本で、旧暦7月7日の年中行事として、すなわち七夕行事の一つとして行われてきた[1]夏祭りの一類型である。太陽暦(新暦)の導入以降は元来の七夕との関連性は薄れ、8月1日から一週間ほどかけて行われる夏祭りへと変容した。東北地方から北関東にかけて東日本各地で行なわれてきたが、近世以降の津軽地方(江戸幕藩体制下においては弘前藩領。明治維新以降の青森県西部)においてはとりわけ盛んで、祭りの形態も主にこの地で進化・発展を遂げてきた。今日では、ねぶたという祭りの類型は南関東や北海道にも拡散している。「ねぶた」と呼んで仮名表記するのが、最も広く知られる表現であるが、「ねぷた」と呼ぶ地域(弘前ねぷたなど)も多く[2]、なかには漢字の当て字で「佞武多」と記して「ねぷた」と読みならわす地域(五所川原立佞武多)もある。また、かかる祭事(あるいは催事)は「ねぶた祭/ねぶた祭り(ねぶたまつり)」ともいい、通称ではあるが、当事者もこれを正式に用いる。加えて、ねぶた祭で使われる山車灯籠を指して「ねぶた」「ねぷた」ということもある現状では、混同されることも致し方ない。発音は共通しており、「ねふた」または「ねんふた」が用いられることが多い。
全国的に有名なのは、青森ねぶたと弘前ねぷたである。これらは、1980年に重要無形民俗文化財に指定されている。以下、青森県のねぶたを中心に記載する。
概要
青森県では、8月初旬頃に行われ、大勢の市民が「ラッセ、ラッセ」「ラッセラー」「ヤーヤドー」「ヤーレ、ヤーレヤ」等の掛け声とともに、武者等を模った人型や武者絵の描かれた扇型の山車燈籠を引いて街を練り歩く。昔は最終日の旧暦7月7日の朝に川や海へ行き、山車燈籠や身体を洗ったり、山車燈籠を流したりしていた。
青森市の青森ねぶた、弘前市の弘前ねぷた、五所川原市の五所川原立佞武多などが有名で、次いで黒石市の黒石ねぷた、つがる市の木造ねぶた、平川市の平川ねぷた、むつ市の大湊ネブタなどがある。その他、ねぶた発祥の地のひとつとされる浅虫ねぶた[3]や津軽地方、下北半島の各市町村でも行われている。さらに近年では、全国で地域の祭りとして広がりつつある。特に関東地方(東京周辺)では阿波踊りなどと同様、イベントの1つにねぶたを取り入れている祭りが増加している。
名称
「ねぶた」「ねぷた」の語源には諸説あるが、「眠(ねぶ)たし」[4]、「合歓木(ねむのき、ねぶたのき、ねぶた)」「七夕(たなばた)」「荷札(にふだ)」などに由来する説がある[5]。
青森市や青森市周辺と下北が「ねぶた」なのに対し、弘前市を中心とした津軽地方では「ねぷた」と呼ばれるところが多い。
起源
「ねぶた」の起源にも諸説あるが、禊祓に由来するという説が現在では有力である[5]。さらに、除災行事としての「眠り流し」や星祭りのひとつである「七夕」、仏教行事と習合した民俗行事「お盆」など、様々なものから影響を受けて現在のようになったと考えられている。
各地のねぶた一覧
青森県内
- 青森ねぶた - 青森市(国指定 重要無形民俗文化財)
- 浅虫ねぶた - 青森市
- 浪岡ねぶた - 青森市
- 弘前ねぷた - 弘前市(国指定 重要無形民俗文化財)
- 相馬ねぷた - 弘前市
- 岩木ねぷた - 弘前市
- 五所川原立佞武多 - 五所川原市
- 金木ねぷた - 五所川原市
- 市浦ねぶた - 五所川原市
- 黒石ねぷた - 黒石市(青森県指定 無形民俗文化財)
- 木造馬ねぶた - つがる市[6][7]
- つがる市ネブタまつり(木造ねぷた) - つがる市
- 稲垣ねぶた - つがる市
- 柏ねぷた - つがる市
- 車力ねぶた - つがる市
- 森田ねぷた - つがる市
- 平川ねぷた- 平川市
- 碇ヶ関ねぷた - 平川市
- 尾上ねぷた - 平川市
- 大畑ねぶた - むつ市
- 大湊ネブタ - むつ市
- 川内ねぶた - むつ市
- 田名部ねぶた - むつ市
- 脇野沢ねぶた - むつ市
- 鯵ヶ沢ねぷた - 鯵ヶ沢町
- 板柳ねぶた - 板柳町
- 田舎館ねぷた - 田舎館村
- 今別ねぶた - 今別町
- 岩崎ねぷた - 深浦町
- 深浦ねぶた - 深浦町
- 大間ねぷた - 大間町
- 大鰐ねぷた - 大鰐町
- 風間浦ねぷた - 風間浦村
- 蟹田ねぶた - 外ヶ浜町
- 三厩ねぶた - 外ヶ浜町
- 小泊ねぶた - 中泊町
- 中里ねぶた - 中泊町
- 佐井ねぷた - 佐井村
- 鶴田ねぷた - 鶴田町
- 東通ねぷた - 東通村
- 常盤ねぷた - 藤崎町
- 藤崎ねぷた - 藤崎町
- 平内ねぶた - 平内町
- 横浜ねぷた - 横浜町
関東地方
東北地方の観光キャンペーンイベント等で不定期に行われているものも多々存在するが、本稿では毎年開催されているもののみを記載する。
- まつりつくば - 茨城県つくば市・土浦学園線 「つくば大パレード」の構成要素の1つで、過去の青森ねぶたも運行あり。
- 尾島ねぷた - 群馬県太田市(旧尾島町) 太田市尾島地域(旧尾島町)は、弘前市の友好都市であるため開催。
- 北本まつり「宵まつり」 - 埼玉県北本市(ねぶた・ねぷたの両方を開催)
- 柏ねぶた - 千葉県柏市 柏まつりの構成要素の1つ。柏市は、つがる市(旧柏村)の友好都市であるため開催。
- 臼井ふるさとにぎわい祭 - 千葉県佐倉市・京成臼井駅周辺 上記の柏ねぶたと、佐倉市ゆかりの長嶋茂雄と雷電爲右エ門のねぶたを運行。臼井駅前のレイクピアウスイ(イオンレイクピア店)は、青森市内のしんまち商店街と交流があるため開催[8][9]。
- 渋谷センター街ねぶた祭り - 東京都渋谷区・渋谷センター街
- 桜新町ねぶた祭り - 東京都世田谷区桜新町・サザエさん通り
- 羽衣ねぶた祭 - 東京都立川市羽衣町
- みたままつり - 東京都千代田区・靖国神社
- 中延ねぶた祭り - 東京都品川区中延・中延スキップロード
- 湘南ねぶた - 神奈川県藤沢市・六会日大前駅東口周辺[10]
- 秦野たばこ祭 - 神奈川県秦野市 通常はねぷたの運行だが、2007年にはねぶたが特別出演した。
- 川東ひかり祭り - 神奈川県小田原市
その他
- 寒川神社 - 2001年から神門に展示している。点灯期間は、1月1日から2月3日(前年12月20日頃から展示している)。
- 能代役七夕 - 能代ねぶながしとも言う。元禄時代からの伝統がある。
- 小坂七夕祭 - 各町内会が、青森ねぶたの流れをくむと言われる山車を繰り出す。
- 花輪ねぷた - 8月7日から8日に行われる七夕行事。藩政時代からの歴史がある。将棋の駒の型をした10台の高さ5m余りある王将灯篭を繰り出し、最終日には橋の上で燃やす。
- しれとこ斜里ねぷた - 北海道斜里町(弘前市の友好都市)
- くっちゃんじゃが祭 - 北海道倶知安町じゃがねぶた
- 海上うんづら - 宮城県気仙沼市(「気仙沼みなとまつり」の構成要素の1つ。七夕、海上ねぶたなど)
- YOSAKOI&ねぷたinとよさと - 宮城県登米市豊里町
- 長沼まつり - 福島県須賀川市
- 四倉夏祭り[11] - 福島県いわき市(「四倉ねぶたといわきおどりの夕べ」として開催)
- 真田幸村公出陣ねぷた - 長野県上田市
- 滑川のネブタ流し - 富山県滑川市(日本海側最南端のネブタ流しとして、国の重要無形民俗文化財に指定)
- 中陣のニブ流し - 富山県黒部市(青森のねぶたと同系統のものとされている)国の記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財(選択無形民俗文化財)・富山県指定 無形民俗文化財。
- たてもん祭り - 富山県魚津市(ねぶた文化と諏訪の御柱文化が融合した儀式)ユネスコの無形文化遺産登録及び、国の重要無形民俗文化財に指定。
- 八幡東ねぶた祭[12] - 福岡県北九州市八幡東区(2000年より)
- 福江祭 - 長崎県・五島列島
- 青森県平賀町ねぷた祭in知覧[13] - 鹿児島県南九州市・知覧まち商店街(旧知覧町。1996年より。現在は知覧ねぷた祭り)
脚注
- ↑ 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』
- ↑ 青森を中心とした東津軽や下北の広範な地域では「ねぶた」、弘前を中心にした中南西北津軽方面では「ねぷた」という。
- ↑ 青い森鉄道発行「駅周辺散策マップ 浅虫温泉駅」
- ↑ 国文学者の池田彌三郎の「日本故事物語」(河出書房、後に河出文庫)によれば、「眠い」を「ねぶたい」ともいうように「ねぶた」も元は「睡魔」を指し、これを追い払うのは神の災禍を受けぬ用心であったという。神の来臨するお盆の夜に眠ってはいけないと古人は信じ、「ねぶた流れよ 豆(まめ=健康)の葉よ とまれ」と歌って家内の息災を祈った。
- ↑ 5.0 5.1 「年中行事事典」p606 1958年5月23日初版発行 西角井正慶編 東京堂出版
- ↑ 厳密にはねぶた祭りではなく、市町村地区の祭り行事「つがる市馬市まつり」の出し物である
- ↑ “つがる市馬市まつり”. 青森県観光サイト アプティネット. . 2016閲覧.
- ↑ “第22回臼井ふるさとにぎわい祭”. 臼井ふるさとにぎわい祭実行委員会. . 2017閲覧.
- ↑ “佐倉の2雄、ねぶたに 長嶋茂雄さんと史上最強力士 雷電為右衛門 地元の祭り盛り上げへ”. 千葉日報. (2016年12月7日) . 2017閲覧.
- ↑ 湘南ねぶたホームページ
- ↑ いわき市観光情報サイト
- ↑ 八幡東ねぶた振興会
- ↑ ねぷた祭りin知覧(南九州市)
参考文献
- 成田敏「ねぶた・ねぷた祭り」『Consulant Vol.232 <特集>青森〜雪と共に生きる人の知恵〜』 建設コンサルタンツ協会(2007年3月22日)、閲覧日 2017年9月1日。