ちぃばす
ちぃばす(Chii-Bus[1])は、東京都港区が公共事業として運行しているコミュニティバスである。正式名称は、港区コミュニティバス。
開業は2004年(平成16年)10月で、実際の運行は富士急行系列のフジエクスプレスに委託されている。合計8路線が開設されており、料金は小学生以上100円均一。
Contents
概要
2004年(平成16年)より「田町」「赤坂」の2路線で運行を開始、その後5路線を追加して新設、試験期間を経て2012年(平成24年)から追加5路線でも本格運行を開始した[2]。
ちぃばすは都営バス路線の廃止などに伴う「交通過疎地」のカバーなど、地域住民のニーズを満たすことを目的としているため赤字となっており、補助金の投入によって運行が維持されている[2]。実際のところ計7路線のうち収支が確保できるのは「田町」路線のみであり、特に新規5路線に付いては年間経費約4億円に対して約1.8億円の年間赤字[3]となっている[2]。
名称
「ちぃばす」との愛称は、一般公募の15作品から「小さなバス」をそのまま呼びやすくし、地域住民に愛されるバスという意味あいを込めて選定された。実際の読みは「ちいばす」であるが、表記上は「ちぃばす」と拗音になっている。
沿革
運行開始の経緯
港区内では2000年(平成12年)に都営地下鉄大江戸線と営団地下鉄(現・東京地下鉄 = メトロ)南北線が開業、この際、それまで都営バスで運行していたバス路線のうち4路線が廃止された[4]。とりわけ新宿駅と田町駅(港区スポーツセンター)を結ぶ田70系統の廃止では、区内に公共交通のない地区が生じることとなった[4]。
田70系統の沿線だった地区の住民からは、東京都交通局や港区に路線バス復活の要望が多かった[4]ことから、港区でも交通局へ路線再開を打診した[4]ものの、交通局の方針に変化はなかったことから、港区主導によるバス運行が検討されることになった[4]。
運行事業者はプロポーザル方式(企画提案方式)により決定することとなり、選考の結果、運行を担当する事業者は富士急行系列のフジエクスプレスと決定した。港区では車両購入費用や運行の宣伝費用を補助するが、直接運行費用に関しては赤字補填を行なわず[5]、運行事業者であるフジエクスプレスが赤字を負担することとされた[5]。
運行開始、成功
2004年(平成16年)10月より「田町ルート」と「赤坂ルート」の2路線にて運行を開始した。免許上は一般路線であり、富士急行グループとしては初の都区内での一般路線となった。当初は小規模な需要という観点から、小型のマイクロバスを使用することになった[4]。
2004年(平成16年)度の累計利用者数は半年間で30万3千人となっていたが、翌2005年度には83万人を超え、年度を経るごとに利用者数が増加していった結果、2008年(平成20年)度には118万人を輸送した。しかし、これは利用者からは「いつも混雑している」という不満や、「利用者を区民に限定するべき」という意見が生じる結果にもなった[4]。そこで、2008年(平成20年)度には中型バスの導入が行なわれた[4]。
路線網拡大
一方で、運行開始直後より、「田町ルート」「赤坂ルート」沿線以外の地区においても、運行の要望が生じていた。区の運行するバスなら一部の地域に限定せず、他の地域にも運行すべきという理由である[4]。これを受けて港区では、2006年(平成18年)に区内全体の交通政策を考えるべく検討会を発足させ、2007年(平成19年)に実施した区民アンケートの結果を踏まえて、2008年(平成20年)に新規路線について検討することになった[4]。折りしも、2006年(平成18年)からは港区の区役所改革に伴い、5地区の支所を総合支所とすることで、区役所の機能を分担する政策を進めていた[4]。このため、新規路線についてはそれらの総合支所の担当する地区ごとに交通網を構築する方向性となり[4]、公共交通が不便であったり、坂が多い地区、また人口が増加傾向にある芝浦港南地域のアクセス向上などの対策として、5路線の運行について計画が進められた。
しかし、元の2路線については廃止された路線バスの代替手段という一面もあった[4]のに対し、新設する5路線については沿線住民のアクセス向上が主目的である[5]ことから、必ずしも先行2路線並みの利用者数を確保できるかは予測できなかった[5]。
このため、当面は2年間の実証運行とし、収支率40パーセント以上であれば本格運行に移行[5]、もし収支率が40パーセントに達しなければ実証運行を1年延長した上で対策を検討することとなった[5]。2010年(平成22年)3月24日より5路線の運行を開始したが、これらの5路線については直接運行費用に関しても港区が財政負担を行うことになった[5]が、車内のLCD案内表示器の広告において、区政の案内にとどまらず沿線企業の広告も受け付けることとし、広告収入によって補填額を抑制する方法が採用された[5]。
年表
- 2004年(平成16年)
- 10月1日 - 運行開始。
- 2005年(平成17年)
- 2月14日 - 田町ルートの初発便を2本増発。田町駅東口発六本木ヒルズ行初発が30分繰り上がって7:30発となる。
- 10月1日 - 田町ルートの最終便を2本増発。六本木ヒルズ発田町駅東口行最終が30分繰り下がって21:00発になる。
- 2006年(平成18年)
- 2007年(平成19年)
- 2008年(平成20年)
- 1月9日 - 利用者が累計300万人を突破。
- 2009年(平成21年)
- 8月4日 - 営業運行中に後部エンジン部分から出火する事故が発生。負傷者はなし。
- 2010年(平成22年)
- 2012年(平成24年)
- 2013年(平成25年)
- 2014年(平成26年)
- 2015年(平成27年)
- 2016年(平成28年)
- 4月1日 - 青山ルートを西麻布から日赤通り経由で直接日赤医療センターへ乗り入れる経路に変更し、南青山七丁目が廃止される[19]。
路線
- 以下のルート解説では主要な停留所のみ記載。詳細は外部リンクのサイトを参照の事。
田町ルート (ライトブルー)
- 往路: 田町駅東口 → 浅草線三田駅前 → 赤羽橋駅前 → 麻布十番駅前(一の橋) → 六本木ヒルズ
- 復路: 六本木ヒルズ → 東洋英和女学院前 → 法務局入口 → 赤羽橋駅前 → 三田線三田駅前 → 田町駅東口
六本木ヒルズで乗車したまま田町駅東口方面へ乗り継ぐことができる(早朝の2本を除く)。田町駅東口発が7時台から20時台まで、六本木ヒルズ発が8時台後半から21時頃まで約15分間隔、中型バス4台で運行している。 運行収支率は99パーセントで、ほぼ収支均衡となっている[5]。
2007年(平成19年)4月1日より、従来は回送運転だった田町駅東口⇔芝浦車庫の区間を旅客扱い運転に変更している。車庫への入・出庫を利用した車庫便は、1日14~15本設定されており、田町ルートと継続しての乗車が可能である。
- 田町駅東口 - 八千代橋 - 芝浦四丁目 - 芝浦車庫
赤坂ルート (グリーン)
- 六本木ヒルズ → 六本木駅前 → 六本木七丁目 → 赤坂小前 → 赤坂駅前 → 溜池山王駅 → 赤坂見附駅 → 青山一丁目駅前 → 乃木公園 → 赤坂小前 → 檜町公園 → 六本木駅前 → 六本木ヒルズ
芝ルート (オレンジ)
2012年(平成24年)4月21日の本格運行移行、7時台から21時台まで平日は約20-32分間隔、土日祝祭日は30分間隔、小型バス4台で運行している。
麻布西 (黄土色)・麻布東 (パープル)ルート
- 麻布西ルート: 広尾駅 → 天現寺橋 → 二ノ橋 → 鳥居坂下 → 六本木けやき坂 → 麻布地区総合支所前 → 麻布十番駅前 → 仙台坂上 → 愛育病院 → 広尾駅
- 麻布東ルート: 港区役所 → 法務局前 → 麻布地区総合支所前 → 六本木けやき坂 → 麻布地区総合支所前 → 飯倉片町 → 麻布いーすと通り → 東京タワー入口 → 神谷町駅前 → 港区役所
2013年4月30日までは、麻布ルートとして通しで運行されていたが、複雑なルートや収支改善などのため、東西に分割された。飯倉片町~仙台坂上の区間以外では片方向のみの運行となる[10]。 2012年(平成24年)4月21日の本格運行移行、7時台から21時台まで約20分間隔、小型バス5台で運行している。
青山ルート (ローズピンク)
2012年(平成24年)4月21日の本格運行移行後、7時台から21時台まで約20分間隔、小型バス4台で運行している。
表参道駅 - 南青山三丁目交差点の区間は、本路線と同じくフジエクスプレスが受託している渋谷区のコミュニティバス「ハチ公バス」の神宮の杜ルート(こちらが先に開設)と重複しているため乗り継ぎが可能である(停留所ポールもほぼ同様のデザインの「ハチ公バス」「ちぃばす」の2つが設置されている)。
高輪ルート (レッド)
- 品川駅港南口 - 港南二丁目 - 品川駅高輪口 - 高輪警察署前 - 高輪地区総合支所前 - 三田四丁目 - 浅草線三田駅前
浅草線三田駅前で乗車したまま品川駅港南口方面へ乗り継ぐことができる。2012年(平成24年)4月21日の本格運行移行、7時台から21時台まで約20分間隔、中型バス4台で運行している。
芝浦港南ルート (濃青色)
- 田町駅東口 - 芝浦アイランド - 芝浦ふ頭駅 - 埠頭公園入口 - 芝浦アイランド - 高浜橋 - 港南三丁目 - 港南いきいきプラザ - 港南一丁目 - 品川駅港南口
2012年(平成24年)4月21日の本格運行移行、7時台から21時台まで約20分間隔、小型・中型バス4台で運行している。
運行概況
車内の停留所案内では、日本語・英語の他に中国語・朝鮮語でもアナウンス・表示されている。
運賃は大人・小児共100円均一(未就学児童は無料)であり、現金と専用定期券(1路線につき1ヶ月4,200円・3ヶ月11,970円)及びICカード乗車券(PASMO・Suica・TOICA等)が利用できる(バス利用特典サービスは対象外)。なお、東京都シルバーパスは使用できない。ただし、下記の区民は港区コミュニティバス無料乗車証の発行を申請できる。
この他に、2005年(平成17年)9月3日からは土曜・休日・旧盆・年末年始限定で一日乗車券(各ルート300円・全線500円)の車内販売を行っている。
車両
一貫して日野自動車製の車両が導入されており、2004年の運行開始時にはCNG(圧縮天然ガス)エンジン化改造およびステップリフトを搭載したリエッセが導入された。車体には沿線の小・中学校(芝浦小・赤坂小・南山小・赤羽小・東洋英和女学院中等部)に依頼したデザインが塗装されている。
2007年(平成19年)から田町地区契約送迎輸送用車両(ヨコソーレインボービルなど)との共通予備車としてレインボーII(いすゞ・エルガミオのOEM供給車)ワンステップ車が、慢性的に発生している混雑緩和対策から導入された。そのため、リエッセで採用された車体のデザイン塗装ではなく、白の無地または富士急グループの観光バスに準じたカラーリングに「ちぃばす」のロゴステッカーによる対応となる。(2673号車など)
2009年(平成21年)には輸送力増強のため、2代目専用車としてCNG化改造されたレインボーII(いすゞ・エルガミオとの統合モデル車)ノンステップ車が順次導入された。大型化された車体により混雑時には一定の効果を上げている。リエッセ同様沿線の学校に依嘱したデザインが塗装されている。
しかし、港区では清掃車も全てCNG車両としていることから、CNG充填施設の供給容量に制約が生じており[5]、単純にCNGバスを増備すると充填所の対応が困難になると判断された。このため、2010年開業の新路線用に導入されたレインボーIIとポンチョでは、通常のディーゼル車が導入されることになった[5]。
2013年からは環境省の「平成24年度地球温暖化対策技術開発・実証研究事業」の実証事業の一環として、東芝製リチウムイオン二次電池「SCiB」を搭載した電気バスの実証運行を芝ルートで実施[20]、2015年からは芝ルートで2台が運行され、3年間で6台の導入を計画している[21]。
専用車は液晶ディスプレイを用いた車内案内表示装置を装備している。日本語・英語・中国語・韓国語の字幕表示による停留所案内の他、JCNみなと新宿を窓口とした沿線企業・団体や富士急グループの映像広告を放映している。
- Fujikyu-T2477.jpg
2004年導入のリエッセ(T2477)
- Chiibus ergamio.jpg
予備車のレインボーII(T2673)
- Fuji-Express T2963 chii-bus Rainbow-II CNG.jpg
2009年導入のレインボーII・CNG車(T2963)
- Fuji-Express T1074 Chii-Bus.jpg
2010年導入のポンチョ(T1074)
- Fuji Express T1585 Chii Bus Poncho EV.jpg
ポンチョ電気バス(T1585)
脚注
- ↑ Introduction of a community bus "Chii-Bus" 港区のウェブサイト(英語) 平成24年7月16日閲覧
- ↑ 2.0 2.1 2.2 都心の交通過疎地を救え・23区にコミュニティーバス続々・採算合わず慎重な区も 『日本経済新聞』 平成24年7月13日 東京・首都圏経済面
- ↑ 2012年(平成24年)度見込み
- ↑ 4.00 4.01 4.02 4.03 4.04 4.05 4.06 4.07 4.08 4.09 4.10 4.11 4.12 ぽると出版『バスラマ・インターナショナル』通巻119号 p14
- ↑ 5.00 5.01 5.02 5.03 5.04 5.05 5.06 5.07 5.08 5.09 5.10 ぽると出版『バスラマ・インターナショナル』通巻119号 p15
- ↑ 『広報みなと』平成18年6月1日号(No.1620) p6
- ↑ “「ちぃばす」車庫発着便の運行を開始します” (PDF). 広報みなと (港区): p. 7. (2007年3月21日号) . 2016.4.8閲覧.
- ↑ “コミュニティバス特集号” (PDF). 広報みなと (港区): p. 5. (2010年2月21日号) . 2016.4.8閲覧.
- ↑ “「ちぃばす」本格運行へ” (PDF)『広報みなと』平成24年(2012年)4月11日号(No.1831) p1
- ↑ 10.0 10.1 “アーカイブされたコピー”. 2013年6月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2014年7月19日閲覧.『広報みなと』平成25年(2013年)4月21日号(No.1868) p.4、発行:港区
- ↑ 11.0 11.1 11.2 11.3 “アーカイブされたコピー”. 2014年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2014年7月19日閲覧.『広報みなと』平成26年(2014年)3月21日号(No.1901) p.4、発行:港区
- ↑ “港区議会”. 平成26年交通・環境等対策特別委員会. (2014-04-19) . "次に、図3の「ちぃばす」青山ルートをごらんください。"
- ↑ “港区議会”. 平成27年度予算特別委員会(第7日目). (2015-03-09) . "次に、「ちぃばす」の日赤病院への乗り入れの問題です。"
- ↑ “港区議会”. 平成27年度予算特別委員会(第7日目). (2015-03-09) . "4点目でございます。「ちぃばす」の日赤医療センターへの路線変更につきましては、"
- ↑ “「ちぃばす」青山ルートの運行経路変更について” (PDF). 広報みなと (港区): p. 7. (2015年6月1日号) . 2016.4.8閲覧.
- ↑ “港区議会”. 平成27年度予算特別委員会(第7日目). (2015-03-09) . "次に、「ちぃばす」の日赤病院への乗り入れの問題です。"
- ↑ “港区議会”. 平成27年度第3回定例会(第12号). (2015-09-10) . "日赤医療センターに行く経路を六本木ルヒルズから赤坂見附駅だけでなく、赤坂見附駅から六本木ヒルズにも導入したため、"
- ↑ “ちぃばすの芝ルートでEVバスを運行”. 港区. . 2018閲覧.
- ↑ “「ちぃばす」青山ルートの運行経路変更について” (PDF). 広報みなと (港区): p. 5. (2016年3月21日号) . 2016.4.8閲覧.
- ↑ “コミュニティバスの路線を活用したEVバスの実証運行を開始”. 株式会社東芝 (2014年2月5日). . 2016閲覧.
- ↑ “港区、EVバスを本格導入 来月から芝ルートに 3年間で6台”. 産経新聞. (2015年10月2日) . 2018閲覧.
参考文献
- ぽると出版『バスラマ・インターナショナル』通巻119号(2010年4月発行)ISBN 9784899801191