「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群
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英名 | Sacred Island of Okinoshima and Associated Sites in the Munakata Region | ||
仏名 | Île sacrée d’Okinoshima et sites associés de la région de Munakata | ||
面積 | 98.93 ha (緩衝地域 79,363.48 ha) | ||
登録区分 | 文化遺産 | ||
文化区分 | 遺跡群 | ||
登録基準 | (2), (3) | ||
登録年 | 2017年(第41回世界遺産委員会) | ||
公式サイト | 世界遺産センター(英語) | ||
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「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群(「かみやどるしま」むなかた・おきのしまとかんれんいさんぐん)は、ユネスコの世界遺産リスト登録物件で、日本の世界遺産の中では21番目に登録された。福岡県の宗像市及び福津市内にある宗像三女神を祀る宗像大社信仰や、大宮司家宗像氏にまつわる史跡・文化財を対象とするものであり、自然崇拝を元とする固有の信仰・祭祀が4世紀以来現代まで継承されている点などが評価されている。世界遺産委員会では、航海と結びつく世界遺産の少なさを補完する物件という観点からも評価された[1]。
世界遺産暫定リスト記載時点では宗像・沖ノ島と関連遺産群だったが、正式推薦とともに改称され、その名称で正式登録された。
Contents
構成資産
宗像市
- 沖ノ島(宗像大社沖津宮)
- 「宗像神社境内」として島全体が御神体で国の史跡に指定、「沖ノ島原始林」が国の天然記念物に指定。また、「福岡県宗像大社沖津宮祭祀遺跡出土品・伝福岡県宗像大社沖津宮祭祀遺跡出土品」として約8万点の出土品が国宝に指定されており、「海の正倉院」とも呼ばれる由縁となっている。正式版の推薦書では、島の手前にある小屋島・御門柱・天狗岩の三つの岩礁が鳥居の役割を果たしているとし、付帯施設として記載された。[2][3]。地図
- 宗像大社中津宮(御嶽山祭祀遺跡を含む)
- 宗像市大島。「宗像神社境内」として国の史跡に指定、本殿は福岡県の有形文化財に指定[2][3]。中津宮背後に聳える御嶽山山頂に鎮座する御嶽神社の裏で確認された御嶽山祭祀遺跡は沖ノ島と同時期の露天祭祀遺構である[4]。御嶽神社に至る登山道は九州オルレにも指定。地図
- 沖津宮遥拝所
- 宗像市大島。「宗像神社境内」として国の史跡に指定[2][3]。地図
- 宗像大社辺津宮
- 宗像市田島。「宗像神社境内」として国の史跡に指定、本殿及び拝殿は国の重要文化財に指定。境内背後にある高宮祭場の地中にある下高宮祭祀遺跡は沖ノ島および御嶽山祭祀遺跡同様の露天祭祀遺構である。[2][3]。地図
- World Heritage Okitsumiya, Okinoshima.jpg
沖津宮の拝殿
- Okinoshima rocks ritual services remains.jpg
沖ノ島の祭祀遺跡がある磐座
- Haiden of Munakata Grand Shrine (Nakatsu Shrine).JPG
中津宮の拝殿
- Mitake-san ritual services remains.jpg
御嶽山祭祀遺跡
- Okutsu Shrine.JPG
沖津宮遥拝所
- Haiden of Munakata Grand Shrine (Hetsu Shrine).JPG
辺津宮の拝殿(*現在、拝殿は正面から見えない。握舎建立以前の画像。)
- Takamiya-Saijo in Munakata Grand Shrine (Hetsu Shrine).JPG
高宮祭場
福津市
- 新原・奴山古墳群34~36号墳.JPG
新原・奴山古墳群
日本から推薦時に候補から外れたもの
推薦範囲の法的保護根拠
世界遺産の推薦にあたっては完全性(インテグリティ)として法的保護根拠が求められる。文化財保護法に基づく構成資産の指定は上記のとおりだが、この他に宗像大社辺津宮から神湊にかけて景観法の景観重点区域、中津宮を含む大島は準景観地区、新原・奴山古墳群周辺は眺望景観重点区域を適用する[5]。加えて宗像市は都市計画法の都市計画区域であり、建築行為の規制が行える。
こうしたことから、以前福津市に持ち上がった海上空港(新福岡空港)計画や洋上石油備蓄計画などの開発を免れることができる反面、今後風力発電や潮力発電の設置は困難になる。
一方、緩衝地帯(バッファーゾーン)は海洋(海神)信仰の場として神湊-大島-沖ノ島を結ぶ玄界灘も設定している。特に沖ノ島周辺海域は地先公有水面となる(沖ノ島の地先権は大島にある)[6]。また、辺津宮と神湊の中間に位置する玄海地区の農村田園風景が古来からの稲作文化を伝承し、大島の漁村風景も海洋信仰を継承してきた海人の文化を残すとして、文化的景観も視野に入れる。
この他に宗像大社の鎮守の森や新原・奴山古墳群から玄界灘・大島を望む海浜部は玄海国定公園の指定地域となっている[7]。
登録への経緯
2000年代初頭、宗像大社の氏子を中心とする地域住民が世界遺産を目指す市民運動を起こした。この時点では沖ノ島のみを対象とし、仮称として「沖ノ島祭祀遺跡」を用いていた[8]。
2006年度と2007年度に、文化庁は各地方自治体から世界遺産暫定リストに加える候補の提案を受け付けた。この物件は、2006年度に寄せられた24件の提案の一つであり、「沖ノ島と関連遺産群」という名称だった[9]。この24件からはまず4件が2007年1月に暫定リスト入りし、残る候補と2007年度の候補の計32件のうち、2008年12月15日、文化庁が北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群(北海道など)、九州・山口の近代化産業遺産群(福岡県など九州6県)とともに追加申請を決めた。そして、この物件を含む5件が2009年に暫定リストに加えられた[10]。当初の記載名称は「宗像・沖ノ島と関連遺産群」であった[11]。
2016年1月に「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(Sacred Island of Okinoshima and Associated Sites in the Munakata Region) の名称で文化庁から正式推薦された[12]。その後2017年5月に世界遺産委員会の諮問機関である国際記念物遺跡会議 (ICOMOS) は、沖ノ島および周辺の3岩礁のみに、古代祭祀に関する考古学的観点からの顕著な普遍的価値を認める一方、宗像大社の信仰上の価値などは日本国内レベルでの価値にとどまるとして、沖ノ島と3岩礁以外の構成資産の除外を条件に「登録」を勧告し、あわせて名称を「『神宿る島』沖ノ島」(Sacred Island of Okinoshima)とすることなども勧告した[13][14]。
ICOMOSの勧告[15]
・自然崇拝に基づく古代の沖ノ島信仰と現在の宗像大社信仰に、継続性は確認できない。
・なぜ、どう信仰が変容したのか、説明が不十分。
・女人禁制など沖ノ島の禁忌の由来は、17世紀までしか記録をさかのぼれない。
ICOMOSの勧告に対しては、福岡県知事小川洋が8件全てでの登録を目指して努力する旨を表明し[16]、宗像市長谷井博美も同様のコメントを発表した[17]。他方で、8資産を結びつける「信仰」の価値が認められなかったため、文化庁からは逆転登録に向けた前途の厳しさを指摘する意見も出ていたが[14]、地元の意向にも配慮し、政府は8件全てでの逆転登録を目指すことになった[18]。
世界遺産委員会での状況
世界遺産委員会の審議では、韓国の発言によって始まり「ICOMOSの勧告通り沖ノ島と三つの周辺岩礁のみの登録にすべき」と主張したが[19]、続くインドネシアが「沖ノ島(沖津宮)と中津宮および本土の辺津宮(宗像本社)は全体的に融合しており不可欠だ」、ベトナムが「資産一つひとつが価値を高める」など委員国から8件全ての価値について好意的な意見が示され、日本の発言も認められ佐藤地ユネスコ大使が「沖ノ島の祭祀遺跡が守られてきたのは宗像信仰という神道形態に発展し神域になったからこそで、その信仰は自然崇拝の時代から連綿と続いており、神道としても海神・海洋信仰が継承されており切り離すことはできない(意訳)」という見解(文化庁による)を表明。これをうけ韓国は「沖ノ島の考古遺物の多くが古代の中国や朝鮮半島で作られたものであり、その分析を進めなければ価値は完全には証明できない」と共同研究の条件を付けて了承[20][21]。その結果、逆転で8件全ての登録が認められた[22][23]。
「神宿る」をキリスト教的な「God dwell」ではなく「Sacred」としたのは民俗学的な慣用句であり、現地視察したイコモス調査員も用いていたことに配慮したもので、推薦書や委員会での発言では単に「Shintorism(神道)」や「Shinto shrine(神社)」といった単純な言葉ではなく、「find their origins in ancient nature worship faith(古来の自然崇拝に由来する信仰)」のように丁寧な解釈に努めユネスコが重視する「自然の聖地」であることを強調、その上で「アニミズム」や「スピリチュアル」などの身近で馴染みのある単語を織り交ぜて説明した[21]。
一方、宮田亮平文化庁長官は、沖ノ島と各資産を一枚にまとめた水墨画風の絵図を自身で描き、その一体性を解説するロビー活動を展開した。なお、これとは別に、日本は委員会開催前の6月に委員国の内11ヶ国のユネスコ大使を招聘し、宗像大社や同神宝館蔵の沖ノ島出土遺物(国宝)を案内したり、葦津敬之宮司の「神道は自然を神様とするエコロジカルな宗教で環境破壊は神殺しとなるため、現代社会に求められる自然保護を必然としてきた。一神教は対立軸による軋轢をもたらしているが、多神教やアニミズムに基づく民族信仰はその地域の外へ出ること(布教)を想定しておらず、性善説に基づき安寧(平和)を祈願している」という主張などを紹介した[24]。
登録基準
この世界遺産は世界遺産登録基準における以下の基準を満たしたと見なされ、登録がなされた(以下の基準は世界遺産センター公表の登録基準からの翻訳、引用である)。
- (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
- (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
出典
- ↑ 「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の世界遺産一覧表への記載決定について(第二報)(文化庁報道発表、2017年7月9日)(2017年7月10日閲覧)
- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 「資産の紹介」、「宗像・沖ノ島と関連遺産群」世界遺産推進会議、2015年7月30日閲覧
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7 「パンフレット 宗像・沖ノ島と関連遺産群 世界文化遺産国内暫定一覧表への追加提案書 (PDF) 」、「宗像・沖ノ島と関連遺産群」世界遺産推進会議、2015年7月30日閲覧
- ↑ 遺跡は発掘調査後に埋め戻され、現在では下草や木々に覆われている。今後は保護のため柵で囲う予定もある
- ↑ 福津市景観計画
- ↑ 第5回宗像市・大島村合併協議会概要
- ↑ 玄海国定公園区域図 (PDF) 福岡県
- ↑ 『日本の世界遺産歩ける地図帳』(『別冊山と渓谷』507号)山と渓谷社、2007年
- ↑ 日本ユネスコ協会連盟『世界遺産年報2008』日経ナショナルジオグラフィック社、p.36
- ↑ 日本ユネスコ協会連盟『世界遺産年報2009』日経ナショナルジオグラフィック社、p.37
- ↑ 日本ユネスコ協会連盟『世界遺産年報2010』東京書籍、p.32
- ↑ 「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の世界文化遺産推薦に係る推薦書(正式版)のユネスコへの提出について(文化庁、2016年1月)(2017年5月7日閲覧)
- ↑ 我が国の推薦資産に係る世界遺産委員会諮問機関による評価結果及び勧告について(文化庁、2017年5月6日)(同日閲覧)
- ↑ 14.0 14.1 「沖ノ島」信仰の価値、認められず 世界遺産勧告で除外4資産(西日本新聞、2017年5月6日)(同日閲覧)
- ↑ ユネスコ諮問機関 信仰の継続性に疑義 世界遺産へ大きな壁 半数除外の理由(産経新聞、2017年5月25日)
- ↑ 「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群に係るイコモス勧告に対する知事コメント(福岡県庁、2016年5月6日)
- ↑ 「8資産で一つ」訴え=一部除外勧告で宗像市長(時事ドットコム、2017年5月6日)(同日閲覧)
- ↑ <世界遺産>宗像・沖ノ島一括で 政府、4資産登録目指す(毎日新聞、2017年5月25日)(2017年5月28日閲覧)
- ↑ 韓国委員は冒頭に平成29年7月九州北部豪雨への見舞いを表明
- ↑ 祭りに繰り出す漁船の大漁旗が旭日旗と誤解されないようにすべきとの意見を申し添えた
- ↑ 21.0 21.1 41st World Heritage Committee 9 July 2017 AM PM 2017年7月9日 UNESCOライブ配信録画(Youtube)
- ↑ 「沖ノ島」世界遺産に=除外勧告資産も逆転登録-国内21件目・ユネスコ(時事ドットコム、2017年7月6日)
- ↑ 「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の世界遺産一覧表への記載決定について(速報)(文化庁報道発表、2017年7月9日)
- ↑ 読売新聞 2017年7月19日
外部リンク
- 「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群を世界遺産に - 「宗像・沖ノ島と関連遺産群」世界遺産推進会議
- 宗像市公式ホームページ -教育・文化・スポーツ-世界遺産登録活動-
- 世界遺産-自然と歴史-観光・ブランド-福津市公式ホームページ
- 世界遺産への道「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」シリーズ NHK福岡制作ミニ番組 4分×4本公開中